「ゼブラ飲み」に効果なし? 科学が問い直すこれからの日本酒の飲み方

「酒を一杯飲んだら、水を一杯飲む」。日本酒を楽しむ人にとっては、決して珍しくない飲み方です。日本酒の世界では「和らぎ水」と呼ばれ、酒と水を交互に飲むことは、長く飲酒の知恵として語られてきました。

ところが、この飲み方を「ゼブラ飲み」と呼び、二日酔い防止効果を科学的に検証した大分大学などの研究が話題になっています。研究では、健康な日本人男性13人を対象に、清酒だけを飲む場合と、清酒と水を同時に摂取する場合を比較しました。その結果、呼気中のエタノールやアセトアルデヒドの変化、さらに主観的な酔いの症状に明確な差は認められませんでした。つまり、「水を交互に飲めば二日酔いを防げる」という意味での効果は確認できなかったのです。

このニュースに対するSNSの反応は、なかなか興味深いものでした。「ゼブラ飲みって初めて聞いた」という声がある一方、「水を飲むことで飲酒量が減ったり、飲むペースが遅くなったりするなら、それで十分ではないか」という意見も目立ちます。また、「水は飲んでおいたほうがいい」「実際に水を挟むようにしたら頭痛が起きなくなった」と、自分自身の経験から従来の飲み方を支持する声もあります。

ここで重要なのは、今回の研究が「酒と一緒に水を飲むことは意味がない」と証明したわけではないことです。あくまで、同じ量のアルコールを摂取した場合、水を加えることでアルコール代謝そのものや二日酔い症状に明確な違いが生じるかを検証したものです。むしろ今回のニュースが日本酒に投げかけているのは、「二日酔いを防ぐ飲み方」ではなく、「そもそも、どのように酒を楽しむのか」という問題ではないでしょうか。

これまでの日本酒文化では、「どれだけ飲めるか」が酒豪の一つの尺度になっていました。しかし、これからは「どれだけ長く、心地よく楽しめるか」が重要になっていくはずです。その意味では、和らぎ水には依然として大きな価値があります。水を飲めばアルコールそのものが消えるわけではありません。しかし、酒と水を交互に飲めば、自然と一杯あたりの時間が伸びます。酒を飲むスピードを落とし、結果として総飲酒量を抑えるきっかけにもなります。研究を紹介した記事でも、水によって飲酒量や飲酒ペースが抑えられる可能性が指摘されています。

そして、日本酒にはこの考え方と非常に相性の良い文化があります。それが「食とともに飲む」というスタイルです。

一杯の日本酒を一気に飲み干すのではなく、料理を一口食べ、酒を少し飲み、水を口にする。次の料理へ進み、酒の温度や香りの変化を楽しむ。こうした飲み方なら、酒は単なるアルコール飲料ではなく、食事の時間そのものを豊かにする存在になります。

今後、日本酒業界が考えるべきなのは、「もっと飲んでもらう方法」だけではないでしょう。「もっとゆっくり飲んでもらう方法」「少ない量でも満足してもらう方法」を考えることも、同じくらい重要になってくるはずです。例えば、小容量ボトル、低アルコール日本酒、食中酒としての提案、酒器による香りの演出、そして和らぎ水を組み込んだ飲食店での提供方法。これらはすべて、「量」から「体験」へと日本酒の価値を移していく可能性を持っています。

今回の「ゼブラ飲み」のニュースは、一見すると「水を飲んでも二日酔いは防げない」という少し残念な話に見えます。しかし、日本酒にとってはむしろ逆かもしれません。科学によって「これさえすれば大丈夫」という都合のよい飲み方が否定されたからこそ、これからは酒そのものと向き合う飲み方が求められるのです。

二日酔いを防ぐ魔法の飲み方はありません。だからこそ、酒の量を知り、自分のペースを知り、水を取り、料理を楽しみ、最後まで気持ちよく終える。これからの日本酒は、「酔うための酒」から「楽しむ時間をつくる酒」へ。そんな方向へ進んでいくのではないでしょうか。

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