日本酒は「飲むもの」から「場をつくるもの」へ ~「はしご酒」の新しい世界

日本酒の楽しみ方が、少しずつ変わり始めています。一本の銘柄をじっくり味わうだけではありません。日本酒をきっかけに人が集まり、会話が生まれ、地域と地域、人と人がつながっていく。いま日本酒は、「飲むもの」から「場をつくるもの」へと、その役割を広げつつあります。

その動きを象徴するのが、8月20日に発表された「YORIMICHI SAKE KAIDO in 赤坂」です。森トラストが9月10、11日に東京ワールドゲート赤坂で開催するもので、福島県と九州地方から、東京では入手しにくい銘酒を含む20種類以上の日本酒が集まります。入場は無料で、17時から21時30分まで、仕事帰りに気軽に立ち寄れる設計です。

興味深いのは、このイベントが「日本酒を集めた場所」というだけではないことです。東京ワールドゲート赤坂内の飲食店との連携企画に加え、神谷町、赤坂、御殿山、丸の内という4エリアをつなぐデジタルスタンプラリーも実施されるのです。つまり、一つの会場で完結するのではなく、「次の場所へ行く」ことそのものが体験として組み込まれています。

日本酒はもともと、人が集まる場所と非常に相性のいい酒でした。祭り、宴会、祝い事、地域の寄り合いなど、日本酒には「誰かと一緒に飲む」という文化が深く根付いています。しかし現代では、家庭で日本酒を飲む機会が減り、若い世代にとっては「日本酒を飲む場所」そのものが見つけにくくなっています。だからこそ、これから重要になるのは、酒そのものを売ることだけではなく、日本酒を飲む理由と場所をつくることではないでしょうか。

そこで注目したいのが「はしご酒」です。一軒目で福島の酒を飲み、二軒目で九州の酒を飲む。さらに料理を変え、店を変え、そこで出会った人と話をする。そうすると日本酒は、一杯ごとの商品ではなく、「次の場所へ人を動かすもの」になります。

「YORIMICHI SAKE KAIDO」という名称そのものが、実はこの可能性を示しています。「目的地」ではなく「寄り道」です。仕事から自宅へ帰る途中に少し寄り道する。その寄り道が一軒で終わらず、二軒、三軒と続いていく。日本酒が街を歩くきっかけになれば、飲食店にも、商業施設にも、そして地域にも新しい人の流れが生まれます。

さらに面白いのは、これを「日本酒イベント」の枠から外して考えられることです。たとえば赤坂で福島の酒を飲んだ人が、次は実際に福島へ行ってみる。九州の酒に興味を持った人が、今度は酒蔵を訪ねる。東京での「はしご酒」が、地方への「はしご旅」へと変わる可能性があります。つまり、日本酒がつくる「場」は、飲食店のテーブルだけではありません。街から街へ、東京から地方へ、人から人へと広がっていくのです。

日本酒の未来を考えるとき、「どんな酒を造るか」はもちろん重要です。しかし、それと同じくらい「その酒を、誰と、どこで、次にどこへ行きながら飲むのか」が重要になってくるでしょう。日本酒が人を一つの場所に集めるだけでなく、人を次の場所へ送り出す酒になる——「はしご酒」は、単なる酔い方ではありません。日本酒を起点に街を歩き、人と出会い、最後にはその酒が生まれた土地まで訪ねていく――そんな新しい日本酒文化の入口になり得るのです。

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