日本酒の次のターゲットはインドになるのか ~ 見えてきた巨大市場の可能性

日本酒の海外展開というと、これまではアメリカ、中国、香港、台湾、そしてヨーロッパなどが中心でした。ところが今、次なる市場として存在感を高めつつあるのがインドです。

その動きを象徴するニュースが入ってきました。2026年8月5日、ニューデリーの在インド日本国大使館で、日本酒・焼酎のプロモーションイベントが開催されました。今回のイベントには、日本各地から9つの酒蔵が参加。インドの政府関係者をはじめ、ホテル、レストラン、輸入事業者、メディアなどが集まり、それぞれの酒蔵が酒造りやブランドの背景、味わいの違いを紹介しました。

しかも、この催しは単独の試飲会ではありません。日本とインドの交流を促進する「ジャパンマンス」のオープニングイベントとして開催されたものです。つまり日本酒を、単なるアルコール商品としてではなく、日本文化そのものを伝える入口として位置付けているわけです。

ここで注目したいのが、インド料理との相性です。2025年にも在インド日本国大使館では、日本産酒類とインドカレーのペアリングディナーが開催されています。その際には、辛味のあるフィッシュカレーやパラク・コフタ、ダル・マカニなどと日本酒を合わせ、日本酒のキレや旨味がインド料理とどのように調和するかが紹介されました。

これは、日本酒の海外戦略を考えるうえで非常に重要なポイントです。日本酒は長い間、「日本料理に合わせる酒」として海外へ紹介されてきました。しかし、それでは日本食レストランという限られた市場から抜け出すことが難しくなります。

インドの場合は逆です。世界的に知られたインド料理という巨大な食文化があります。そこに日本酒を合わせることができれば、「日本酒=和食の酒」という従来の枠組みを越えられる可能性があります。実際、今回のイベントでも来場者から、日本酒とインド料理との親和性や、プレミアムアルコールとしての可能性に関心が寄せられたとされています。

さらに興味深いのは、今回の取り組みが「売って終わり」ではないことです。イベントを支援した株式会社日本酒にしようは、現地での市場調査、輸出、輸入事業者とのマッチング、ホテルやレストランへの営業、試飲会、ブランドPR、現地スタッフ教育などを一貫して支援しています。つまり、インド市場への挑戦は、単に日本酒を輸出する段階から、「現地で日本酒を売る仕組みそのものをつくる段階」へ進もうとしているのです。

もちろん、インド市場には課題もあります。酒類販売に関する制度や税制は複雑で、州によっても事情が異なります。過去には日本酒の輸入手続きにも変更が生じており、海外展開には現地制度への対応が欠かせません。それでも、インドを無視することはできません。

日本酒の海外市場を考えるとき、これから重要になるのは「現在どれだけ売れているか」だけではありません。これから酒文化が育つ余地がどれだけあるかです。インドでは、すでに日本食や日本文化への関心が存在し、現地のホテルや飲食業界を対象とした日本酒普及活動も継続されています。在インド日本国大使館自身も、インドにおける日本食・日本酒の認知度向上を目的として、毎年普及イベントを開催しているとしています。

考えてみれば、日本酒にとってインドは「完成した市場」ではありません。むしろ、これから市場をつくっていく場所です。だからこそ可能性があります。

アメリカで日本酒が「Sake」という独自のカテゴリーとして認知されつつあるように、インドでも日本酒が新しいプレミアムアルコールとして定着する可能性は十分にあります。そしてその鍵を握るのは、日本酒を日本料理の添え物として売るのではなく、インド料理、ホテル、富裕層、食文化、そして日本文化そのものと結びつけていくことではないでしょうか。

日本酒の次のターゲットは、本当にインドになるのか。今回の大使館主催イベントは、その答えが「まだ市場になっていないからこそ、今から育てる価値がある」という方向へ動き始めていることを示しているように思います。日本酒の海外戦略は、「どこへ輸出するか」から「どこで酒文化を育てるか」へ。インドは、その転換を試す最初の大きな舞台になるかもしれません。

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