神戸産メルローから生まれる新しいSAKE

白鶴酒造は、マイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」で醸造した「No.22 ワインぶどうⅡ」を、2026年10月10日から白鶴酒造資料館で286本限定発売します。使用するのは、神戸で収穫された赤ワイン用ブドウ品種のメルローです。米と米こうじに加えてブドウを原料とし、価格は720mlで7,700円。精米歩合50%の「白鶴錦」を使用し、アルコール分11%に仕上げています。完熟したメルロー由来の紫がかった赤色と、フレッシュなブドウの甘味や酸味が特徴です。

この商品は、厳密には一般的な日本酒ではなく、酒税法上の「その他の醸造酒」に分類されます。しかし、米を中心とする日本酒造りの技術を基盤に、異なる原料を組み合わせて新しい味わいを生み出す試みとして注目されます。

背景には、白鶴酒造が2024年12月に神戸市から神戸ワイン事業を引き継いだことがあります。酒造会社がワイナリーを運営することで、これまで入手が難しかった地元産ワイン用ブドウを、独自の商品開発に活用できるようになりました。

今回の取り組みで興味深いのは、単に日本酒とワインを混ぜた商品ではないという点です。米を原料とする酒造りを出発点に、ブドウという別の農産物の個性を引き出し、新たな酒類を設計しています。

白鶴酒造が2024年に開設した「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、約37平方メートルの小規模な醸造施設です。洗米から製麹、発酵、搾り、瓶詰めまでを一貫して行える設備を備え、少量生産による実験的な商品づくりを進めています。同施設では、同じ酒質を繰り返すのではなく、毎回異なる味わいとの出会いを重視しています。

実際、前年にはカベルネ・ソーヴィニヨンを使用した商品を製造しており、今回のメルローはその経験を踏まえた展開です。原料となるブドウの品種が変われば、香りや酸味、口当たりも変わります。日本酒造りで培ってきた発酵管理や米の扱いに関する知見を生かしながら、原料の違いをどのように酒質へ反映させるか。そこに、新たな醸造技術を探る意味があります。

もちろん、こうした商品をそのまま日本酒の枠内で評価することはできません。むしろ、既存の分類に収まらない酒を生み出すことによって、日本酒の技術がどのような価値を持つのかを、改めて考える機会になるのではないでしょうか。

もう一つ見逃せないのは、地域資源を生かすという視点です。神戸ワインは、神戸産ブドウを100%使用する地域ブランドとして育まれてきました。白鶴酒造がワイン事業を引き継いだことにより、酒造りとブドウ栽培、ワイン醸造を一つの事業基盤の中で結びつける可能性が生まれています。

これは、地域の農産物に新たな用途を与えるだけではありません。酒米の生産者と酒蔵の関係に加え、ブドウ農家やワイナリーとの連携が広がれば、地域の農業を支える仕組みそのものにも変化が生まれます。また、酒蔵を訪れる人にとっても、日本酒だけでなく、ワインや新しい醸造酒を通じて地域の魅力を知る機会が増えます。

ただし、限定商品として話題になることと、継続的な市場を形成することは別の問題です。新しい酒が一時的な珍しさにとどまらず、どのような料理に合うのか、誰に楽しんでもらいたいのか、どのような場面で飲まれるのかまで提案できるかが重要になります。

日本酒の未来を考える時、伝統的な製法や品質を守ることは欠かせません。しかし、伝統を守ることと、新しい可能性を探ることは対立しません。むしろ、長年培ってきた技術があるからこそ、異なる原料や発酵方法に挑戦できるともいえます。

白鶴酒造と神戸ワインのコラボレーションは、日本酒そのものの定義を変えるというより、日本酒造りの技術や発想を、より広い酒類の世界へ展開する試みです。これから重要になるのは、何を日本酒と呼ぶかという議論だけではなく、日本酒の技術がどのような新しい味わいや地域の価値を生み出せるかという問いでしょう。米から始まった酒造りの知恵がブドウと出会ったとき、そこに生まれるのは単なる変わり種ではなく、酒造会社の新たな役割を示す可能性なのです。

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酔わない日本酒

山形県米沢市の小嶋総本店が、10月15日にノンアルコールSAKE「囃子 -HAYASHI-」を発売します。最大の特徴は、その製造方法です。

「囃子」は、米と米麹から実際に純米酒を醸した後、独自の脱アルコール製法によってアルコールを取り除きます。つまり、最初から日本酒らしい味を調合してつくるのではなく、いったん日本酒を完成させ、その後にアルコールだけを取り除くという発想です。アルコール分は0%で、10月15日から当面は飲食店向けを中心に展開されます。また、IWSC 2026のノンアルコール部門ではブロンズメダルを受賞しています。ここに、この商品の大きな意味があります。

日本酒を飲む理由を考えてみると、もちろん「酔うこと」もその一つでしょう。しかし、それだけではありません。米から生まれる甘み、麹の旨味、吟醸香、酸味、料理との相性。そして、盃を交わすことで生まれる場の雰囲気も、日本酒の魅力です。

小嶋総本店は「囃子」について、吟醸香や麹由来の甘み、旨味を残し、和食に寄り添う飲み物を目指したとしています。実際に発表資料では、ホタテと和出汁のジュレやサーモンの麹漬けなどとのペアリングも紹介されています。つまり、「酒からアルコールを抜いたもの」というより、日本酒を構成している要素のうち、アルコール以外を残そうとした商品と考えたほうが近いでしょう。この考え方は、これからの日本酒を考えるうえで重要です。

今回の商品開発の背景には、ノンアルコール飲料市場の拡大があります。小嶋総本店は、現在のノンアルコール市場では「飲めないから仕方なく選ぶ」のではなく、「今日は酔わない」という意思を持ってノンアルコールを選ぶ人が増えていると説明しています。これは、日本酒業界にとって大きな変化です。

これまで「日本酒を飲む人」と「飲まない人」は、比較的はっきり分けられていました。しかし、「今日は日本酒を飲むけれど、次の一杯はノンアルコール」という選択ができれば、その境界は変わります。例えばコース料理を楽しみながら、途中でアルコールを控える。車を運転する予定がある。健康上の理由で飲酒を避ける。それでも周囲と同じように香りや料理との組み合わせを楽しみたい。「囃子」は、こうした人に「水かお茶」以外の選択肢を提示します。これは日本酒市場を縮小させる商品ではなく、むしろ日本酒のある場所に参加できる人を増やす商品になる可能性があります。

小嶋総本店は1597年創業という長い歴史を持つ酒蔵です。その蔵が、純米酒を造った後にアルコールを抜くという、従来の日本酒の常識からすれば大胆な商品に挑戦したことにも意味があります。

実は同社は以前から、低アルコールでありながら味わいを薄くしない酒造りにも取り組んできました。2018年には、仕込み水の代わりに日本酒を使う低アルコール酒にも挑戦しています。今回の「囃子」は、その延長線上にあるとも考えられます。

日本酒を「アルコール度数の高い飲み物」と考えるのではなく、米と麹から生まれる香味や食との関係、さらには人と人をつなぐ文化として捉え直す。その先に、アルコールゼロという選択肢が出てきたのでしょう。「日本酒なのにアルコールがない」という矛盾こそが、この商品の面白さなのです。

もちろん、「囃子」がすぐに日本酒市場を大きく変えるとは限りません。日本酒にアルコールによる酔いを求める人も多く、ノンアルコール商品が本物の日本酒と同じように受け入れられるかは、これからの評価を待つ必要があります。しかし、この商品が投げかけた問いは残ります。

日本酒にとって、本当に欠かせないものは何なのか。アルコールなのか。香りなのか。旨味なのか。料理との相性なのか。それとも、人が集まり、杯を交わす時間そのものなのでしょうか——「囃子」は、その答えを一つに決める商品ではありません。むしろ、これまで当然だと思っていた日本酒の姿を、一度分解して見せてくれる商品です。

これから日本酒は、「飲むもの」だけではなく、「味わうもの」「料理と楽しむもの」「場をつくるもの」へと広がっていくのかもしれません。酔わなくても、日本酒の時間を楽しめる——「囃子」が示しているのは、ノンアルコール日本酒という新商品だけではなく、日本酒の未来に新しい席を用意するという発想なのではないでしょうか。

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料理から逆算する日本酒

和歌山県の九重雜賀と味香り戦略研究所が、「マグロのすしに合う日本酒」2種類を共同開発し、10月8日に発表することが明らかになりました。「雜賀孫市 純米大吟醸 生酛造り」と「雜賀 純米 生酛造り」です。

今回の特徴は、単に「マグロと相性が良い酒」を経験則で探したことではありません。味香り戦略研究所が味覚データを用いてマグロのすしとの相性を分析し、さらに官能評価によって、どのような味わいなら相性が成立するのかを整理。その結果を九重雜賀が醸造技術によって酒に仕上げました。つまり、出発点が「こんな酒を造りたい」ではなく、「マグロのすしをもっとおいしくするには、どんな酒が必要なのか」なのです。これは日本酒の商品開発にとって、意外に大きな発想転換ではないでしょうか。

もちろん、「料理に合わせて日本酒を考える」という発想自体が新しいわけではありません。たとえば石川県の数馬酒造では、能登牛、イカ、牡蠣、ジビエなど、地域食材に特化した「竹葉の食材特化シリーズ」を展開してきました。「竹葉 とり純米」も鶏料理との相性を考え、肉の旨味や皮の脂を受け止めるために甘みと酸味を引き出して醸した商品です。
また、長野県では「ご当地グルメに合う信州の地酒品評会」が開催されています。2026年にも第3回が行われ、県内の日本酒と地域の食との組み合わせを評価する場となっています。
愛媛でも、県産米や水に加えて、県オリジナル品種「さくらひめ」から分離した酒造用花酵母を使い、食材や料理とのペアリングを重視した「えひめ香る地酒プロジェクト」が進められています。現在23蔵が参加する取り組みとなっています。
さらに、北信地域では酒の味を科学的に分析して可視化し、「この酒ならこの料理」というペアリング情報を販促コンテンツにする取り組みも行われています。

こうして見ると、料理と日本酒の関係は、すでに「相性の良い組み合わせを紹介する」段階から、「料理を意識して酒を設計する」段階へ少しずつ進んでいることが分かります。

今回の九重雜賀の取り組みが興味深いのは、そこに「地域」という視点も重なっていることです。

九重雜賀は1908年に赤酢の製造元として創業し、1934年から日本酒造りを始めました。赤酢と日本酒を同じ蔵で造るという特徴を持ち、「おすしに合う日本酒」を酒造りのテーマの一つとしてきました。今回はそこへ、和歌山のマグロやすし文化、そして味覚データという要素が加わりました。これは「和歌山で造った酒だから和歌山の料理に合う」という単純な話ではありません。地域の食文化を起点にして、その土地ならではの日本酒の価値を再設計するという考え方です。

日本酒はこれまで、米、水、酵母、杜氏、製法など、「酒そのもの」の個性を語ることが多くありました。しかしこれからは、「何を食べる場所で飲まれるのか」「どんな料理を引き立てるのか」まで含めて商品になるのかもしれません。

今回の開発では、日本酒とマグロのすしだけでなく、ワインとマグロのすしも比較されています。その結果、日本酒ではマグロのうま味を伸ばす方向、ワインではコクや厚み、余韻を楽しむ方向が見いだされ、その特徴を日本酒の中に表現し直しています。ここに、今後の日本酒の可能性があるように思います。

「辛口だから刺身」「甘口だからデザート」というような従来型の説明だけではなく、「この料理の、この味をどう変化させるのか」というところまで踏み込むことです。そうなれば、酒蔵は単に日本酒を製造する場所ではなく、地域の料理人、漁業者、農家、飲食店、さらにはデータや科学の専門家と一緒に「食体験」を設計する場所になっていきます。

日本酒の未来は、酒瓶の中だけにあるのではないのかもしれません。目の前にある一皿を、もう一口おいしくする。その一口のために酒を造る。今回の「マグロのすしに合う日本酒」は、そんな料理から逆算する酒造りが、これからの日本酒の商品開発における一つの方向になり得ることを示しているのではないでしょうか。

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「だし割り」は日本酒の新しい入口になるか ~ ちいかわが描いた一杯の意味

日本酒におでんなどのだしを合わせて飲む「だし割り」が、思わぬところから注目を集めています。玉乃光酒造が10月5日、『ちいかわ』に登場する「くりまんじゅう」をモチーフにした「ちいかわ 日本酒とお出汁のだし割りセット」の予約を開始しました。11月10日の発売予定で、純米吟醸酒、濃縮つゆ、専用カップ、レシピをセットにした商品です。このニュースで興味深いのは、「日本酒」そのものではなく、日本酒を飲む場面と飲み方が商品になっていることです。

くりまんじゅうが見せる「だし割り」の時間

『ちいかわ』のくりまんじゅうは、作品の中でも特に酒好きとして描かれているキャラクターです。日本酒を手にして一息つく姿や、おでんとともに酒を楽しむ姿が印象的で、その流れの中で登場するのが「だし割り」です。2020年11月4日に公開された原作でも、おでんのだしと日本酒を合わせる場面が確認できます。

ここで重要なのは、だし割りが「特別な日に飲む高級日本酒」として描かれていないことです。おでんを食べる。酒を飲む。温かいだしを味わう。そして「ハーッ」と一息つく——そこにあるのは、仕事や日常の疲れから少し離れて、自分の時間を楽しむ姿です。しかも、くりまんじゅうという愛嬌のあるキャラクターがそれを行うことで、従来の日本酒に付きまといがちだった「大人」「難しい」「通好み」といったイメージが薄れ、温かい、気軽、ちょっと真似してみたい飲み方として受け止められています。

今回の商品も、そのイメージをそのまま家庭に持ち込もうとしています。専用カップにはお湯とだしの目盛りがあり、順番に注んで最後に日本酒を加えるだけです。つまり「だし割りを知っている人向け」ではなく、「くりまんじゅうと同じものを飲んでみたい人」が自然に入っていける設計になっています。

「だし割り」はどこから来たのか

では、そもそもだし割りはどのような飲み方なのでしょうか。現在知られている形のルーツとしてよく挙げられるのが、東京・赤羽のおでん店「丸健水産」です。おでんとカップ酒を注文し、日本酒を少し残したところにおでんのだしを注いでもらい、七味を加えて飲むスタイルです。温かいおでんのだしと日本酒を組み合わせることで、体も温まり、酒の味わいもまた違った表情を見せます。

だし割りの面白さは、単なる「薄める」という発想ではありません。日本酒が持つ甘味、酸味、苦味、旨味に、だしの塩味や旨味が加わることで、味わいに厚みが生まれます。カツオだしならイノシン酸、昆布ならグルタミン酸など、異なる旨味成分が重なることも、魅力の一つです。つまり、だし割りは日本酒を別の飲み物に変えてしまうのではなく、日本酒と料理の間に新しい接点をつくる飲み方なのです。

「日本酒を飲む」から「日本酒でくつろぐ」へ

これからのだし割りを考えると、単なる一時的なブームで終わらない可能性があります。これまで日本酒の商品は、米、精米歩合、酵母、産地など「酒そのもの」を語ることが多くありました。一方、だし割りには「何を食べながら、どんな時間に飲むのか」という物語があります。冬のおでん、鍋料理、焼き鳥、家庭の夕食。そして仕事を終えた夜に、温かい一杯をゆっくり飲む。こうした場面まで含めて商品を提案できるのです。

今回の玉乃光酒造と『ちいかわ』の組み合わせは、その可能性をよく示しています。日本酒を難しい知識から解放し、「あのキャラクターが飲んでいたから、自分も試してみよう」という入口を作ったからです。

今後は、だしの種類に合わせた日本酒の提案や、地域の郷土料理との組み合わせ、居酒屋での「ご当地だし割り」などにも広がるかもしれません。

日本酒の未来は、必ずしも「日本酒そのものをもっと知ってもらう」ことだけではありません。日本酒があると、いつもの食事や夜の時間が少し豊かになる――そんな体験を伝えることも、日本酒の裾野を広げる一つの方法です。

「ハーッ」と一息つく、あの一杯。

『ちいかわ』が見せた「だし割り」は、実は日本酒がこれから目指すべき飲み方の一つを、かなり分かりやすく示しているのかもしれません。

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月桂冠「Gekkeikan Studio no.8」が示す新しい祝いのかたち

月桂冠が10月2日、実験的プロジェクト「Gekkeikan Studio」の第8弾となる「Gekkeikan Studio no.8」を発表しました。10月5日から数量限定で発売されます。今回の商品で興味深いのは、「新しい日本酒を造った」というだけではありません。発想の出発点にあるのが、日本の伝統的な祝い酒である「お屠蘇」だからです。

お屠蘇は正月に一年の無病息災を願って飲むものですが、「no.8」では、その文化的な意味を残しながら、生薬の代わりに陳皮、山椒、シナモン、ジンジャー、クローブといったスパイスを使用しています。さらに、単純にスパイスを酒に漬け込んだわけではありません。陳皮と山椒はもろみと一緒に発酵させ、酵母によって香り成分が変化する「バイオトランスフォーメーション」に着目。一方、シナモンやジンジャー、クローブは搾る直前に加え、それぞれ本来の香りを生かしています。

つまり、伝統をそのまま再現するのではなく、「祝い酒とは何か」という部分を残して、味わいと飲み方を現代に合わせて再構築した酒なのです。

祝い酒というと、正月、結婚、成人、長寿など、人生の節目を思い浮かべます。しかし現在では、「おめでとう」の意味はもっと細分化されています。誕生日、昇進、合格、開店、記念日、あるいは仕事が一段落した日。さらには「今日はよいことがあった」というだけでも、人は乾杯します。「no.8」が提案するのは、まさにそこです。月桂冠は正月だけでなく、誕生日や記念日など、日常の中で良いことがあったときにも楽しめる一杯として提案しています。これは、日本酒にとって大きな可能性があります。

日本酒には「特別な日に飲む」というイメージがある一方で、その特別さが飲用機会を限定してしまう面もあります。そこで「祝い」の定義そのものを広げれば、日本酒を飲む理由も増やせます。

「Gekkeikan Studio」は2021年に始まり、試作段階の商品を消費者に届け、その反応を次の商品開発につなげる仕組みとして展開されてきました。これまでにも果実感やスパイス感など、従来の日本酒の枠にとらわれない商品を生み出しています。今回の「no.8」を見ていると、これからの祝い酒は、単に「おいしい酒」だけを目指すのではなく、飲む理由そのものをデザインする酒になっていく可能性があります。

例えば、春には「新しい門出を祝う酒」、夏には「出会いを祝う酒」、秋には「実りを祝う酒」、冬には「一年を締めくくる酒」。あるいは「ありがとうを伝える酒」「再会を祝う酒」「挑戦の成功を祝う酒」といった具合です。重要なのは、酒の中身だけを変えることではありません。その酒に「なぜ今日、この酒を飲むのか」という物語を持たせることです。

「no.8」は冷酒だけでなく、常温やぬる燗、さらにオレンジジュース割りや炭酸水割りも提案しています。 祝い方が多様になるなら、飲み方も一つである必要はありません。

日本酒は、長い歴史を持つからこそ「伝統を守るもの」と考えられがちです。しかし、お屠蘇という伝統そのものを現代の感覚で再構築した「no.8」が示すように、伝統とは昔の形を保存することだけではないでしょう。昔から続いてきた「祝う」という文化を、今の生活の中でどう楽しむか——そこに新しい祝い酒の可能性があります。

日本酒の未来は、特別な日に酒を用意することだけではなく、何気ない一日にも「今日は祝っていい」と思わせてくれる酒を増やすことにあるのかもしれません。

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日本酒と珈琲は出会えるのか ~「SAKE珈琲」が示す新しい日本酒の楽しみ方

10月1日の「日本酒の日」と「コーヒーの日」に合わせ、群馬県高崎市の大和屋珈琲と中之条町の酒蔵・貴娘酒造が、新商品「SAKE珈琲 貴娘」を数量限定で発売しました。

この商品は、日本酒をそのままコーヒーに加えたものではありません。コーヒーの生豆を群馬の地酒にじっくり浸漬し、その後に焙煎する独自製法によって、日本酒の香味をコーヒーにまとわせています。アルコールを飲むのではなく、日本酒の持つ香りをコーヒーという別の嗜好品で楽しむ商品です。大和屋珈琲と群馬の酒蔵による地域共創コラボレーションの第3弾でもあります。

ところで、日本酒とコーヒーの組み合わせには、これまでもいくつかの先例があります。大和屋珈琲自身、2023年に浅間酒造の「秘幻」などを使った「SAKE珈琲」を発売。2024年には牧野酒造の「大盃」を使った第2弾を発売しており、今回の商品はその流れを受けたものです。2024年の商品では、「大盃特別純米酒」にエチオピアとケニアのコーヒーを組み合わせ、日本酒の香りとコーヒーのコクの調和を狙っています。

また、2023年には神奈川県のMuu COFFEEが泉橋酒造と共同で、日本酒に生豆を漬けて焙煎する「酒珈琲」を商品化しました。Muu COFFEEはそれ以前からウイスキー、ワイン、ラムなどを使った「酒珈琲」を展開しており、日本酒もそのラインアップに加わった形です。

さらに2022年には、朝日酒造の「久保田」と丸山珈琲が、日本酒とコーヒーを組み合わせたカクテルを伊勢丹新宿店で期間限定提供しました。「久保田 萬寿」とコーヒーを合わせたアイリッシュコーヒー風や、「久保田 純米大吟醸」とエチオピア産コーヒーを組み合わせた一杯です。実際の試飲記事では、組み合わせによって苦味が強くなり、それぞれの良さを打ち消すこともあったため、試行錯誤を重ねたと紹介されています。一方、完成したカクテルについては、日本酒とコーヒーそれぞれの香りや甘味を楽しめる新しい味わいとして紹介されました。

こうした商品について注意したいのは、話題になったことと、市場に定着したことは同じではないという点です。一方で、日本政策金融公庫の2024年の事例紹介では、酒珈琲について「すぐに人気商品になった」とされ、リピーターや手土産需要が生まれ、日本酒を使った商品では酒蔵との共同開発をきっかけに国内外から注文が入るようになった事例も紹介されています。

大和屋珈琲についても、2023年の第1弾から2024年の第2弾、そして2026年の第3弾へと商品が続いています。少なくとも一過性の話題だけで終わらず、異業種コラボとして継続していることは注目できます。

日本酒とコーヒーは、一見すると正反対の飲み物です。しかし、どちらも味覚だけではなく、香りを楽しむ嗜好品という共通点があります。日本酒には吟醸香、果実のような香り、熟成による香りなどがあります。一方、コーヒーにも果実、花、チョコレート、ナッツなどを思わせる複雑な香りがあります。だからこそ、両者を「混ぜる」のではなく、香りの一部を移すという発想が成立します。

これは日本酒にとって意外に重要な方向性ではないでしょうか。日本酒を飲まない人に「日本酒を飲んでください」と勧めるのではなく、日本酒が持っている香り、地域性、物語を、コーヒーや菓子、料理など別の商品を通して体験してもらう。そう考えれば、日本酒の市場は「日本酒を飲む人」だけに限定されません。

今回の「SAKE珈琲 貴娘」は、日本酒をコーヒーに変えた商品ではありません。むしろ、日本酒の魅力の一部を別の形で届ける商品です。日本酒の未来は、日本酒そのものを増やすことだけではなく、日本酒の香りや文化を、どれだけ別の世界へ持ち出せるかにもあるのかもしれません。珈琲との出会いは、その可能性を考える小さな実験の一つと言えそうです。

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「脇役」から「料理を変える酒」へ ~ 調理用日本酒の歩みと可能性

月桂冠が「プレミアム純米料理清酒」を発表しました。国産米を100%使用した無塩タイプの料理清酒で、純米酒由来のうま味に加え、同社が研究してきた「デフェリフェリクリシン(Dfcy)」という成分の働きを生かしているのが特徴です。Dfcyには抗酸化作用があり、肉や魚の臭いを抑え、素材のうま味を引き出すことなどが期待されています。月桂冠は、この成分について2003年から研究を続けてきたとしています。

日本酒は「飲むだけのもの」ではなかった

料理に酒を使う歴史は古く、奈良時代には料理用だった可能性がある「厨酒」が登場し、平安時代の『延喜式』にも料理に使われた酒の記録があります。室町時代になると、煮物や焼物など幅広い料理に酒が使われるようになり、江戸時代の日本料理の発展にもつながっていきました。つまり、日本酒を料理に使うことは、最近始まった工夫ではありません。

酒には、食材の臭みを抑える、味を染み込ませる、肉や魚を柔らかくする、うま味や香りを加えるなど、さまざまな働きがあります。アルコールは水にも油にもなじみやすいため、食材の内部へ成分を運ぶ役割も果たします。

「飲む酒」と「料理に使う酒」の距離

料理用として販売される酒には、塩分を加えたものなどもあります。一方、現在では無塩タイプの商品も増えています。月桂冠自身も、国産米を100%使用した無塩の料理清酒を展開しており、酒そのものの発酵成分とアルコールの働きを料理に生かす考え方を打ち出しています。

ここには、料理酒に対する価値観の変化があります。「料理酒だから安い酒でいい」という考え方から、「料理をおいしくするためなら、酒そのものの品質にも意味がある」という考え方への変化です。今回の「プレミアム純米料理清酒」は、その流れをさらに一歩進めた商品といえるでしょう。

「酒を加える」から「酒で料理を設計する」へ

今回特に興味深いのは、Dfcyという、もともとは日本酒の変色に関係するため、減らす対象だった成分を、逆に料理の価値へ転換していることです。これは日本酒そのものの可能性を考えるうえでも重要です。

日本酒には、米、麹、酵母、発酵によって生まれるさまざまな成分があります。これまでは、それらを「飲んだときの味や香り」として評価してきました。しかし見方を変えれば、それらは食材に働きかける機能でもあります。そう考えると、料理酒は単なる「調味料」ではありません。肉には肉の、魚には魚の、野菜には野菜の良さがあります。それを別の味で覆い隠すのではなく、素材の持っているものを引き出す。そのための日本酒という考え方が、これから広がる可能性があります。

日本酒の新しい市場は「飲まない場所」にも

日本酒業界では、飲酒人口の変化や食生活の変化が課題となっています。しかし、日本酒を「飲む人」だけに届けようとすると、市場はどうしても限られます。料理に使う日本酒なら、飲酒習慣のない家庭にも入り込むことができます。さらに、家庭料理だけではありません。外食、中食、加工食品、冷凍食品など、日本酒を使える場所は数多くあります。

これからは「どんな日本酒が売れるか」だけではなく、「日本酒をどんな場面で使えるか」を考えることが重要になるでしょう。

今回の月桂冠の商品が示しているのは、料理酒の高級化だけではありません。日本酒は、飲むためのものから、食をつくるためのものへ——その可能性を掘り下げていけば、日本酒は「酒類」という枠を越えて、料理そのものを支える存在になれるのかもしれません。日本酒の未来は、酒器の中だけにあるとは限らないのです。

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「辛口」はどこまで進むのか ~ 日本盛「超辛口」から考える

日本盛が9月16日から「日本盛 超辛口」をリニューアル発売します。今回の最大の変更点は、日本酒度を従来の+8.0から+12.0へ引き上げたことです。日本盛は、よりシャープなキレ、きりっとした口当たり、すっきりしたのどごしを実現するために酒質を刷新したと説明しています。

しかし、ここで興味深いのは「なぜ、いま、さらに辛口なのか」という点です。日本盛によれば、今回の開発では単純に辛さだけを追求したわけではありません。辛さを強めすぎると味わいが薄くなってしまうため、酸味やアミノ酸などの旨味とのバランスを細かく調整し、「突き抜けた辛さ」と「旨さ」の両立を目指したとしています。つまり+8から+12への変更は、単なる数字競争ではなく、辛口でありながら飲み応えを失わない酒質を狙った変更と見ることができます。

そもそも日本酒度とは、酒の比重を基準にした数値で、一般的にはプラスになるほど「辛口」、マイナスになるほど「甘口」の目安として使われます。ただし、日本酒度だけで実際の味覚が決まるわけではありません。酸度やアミノ酸度、アルコール、香りなどによって、同じ日本酒度でも飲んだときの印象は大きく変わります。それでも「+10」「+12」「+15」といった数字が商品説明の中で目を引くのは、消費者にとって非常に分かりやすい指標だからでしょう。実際、現在でも日本名門酒会の商品には日本酒度+12~+13程度の「超辛口」が存在します。

一方で、最近の日本酒市場全体を見ると、「日本酒度の高い酒だけが求められている」と考えるのは少し違います。華やかな香り、甘味、酸味、低アルコール、発泡感など、従来の「甘い・辛い」という二軸では説明しにくい酒が増えています。日本酒度-10以下の甘口酒も珍しくなくなり、甘さを酸で引き締めることで、従来とは違う「飲みやすさ」を作る商品もあります。

だからこそ今回の「+12」は、単純な「昔ながらの辛口への回帰」と見るより、日本酒度という古くからある尺度を、現代の消費者に向けてもう一度分かりやすく提示する動きと捉えた方が面白いのではないでしょうか。

特に注目したいのは、今回の日本盛が「+12」という数字そのものをパッケージ上でも強く打ち出していることです。「超辛口」という言葉と数字を組み合わせることで、売り場で一瞬にして商品の個性を伝えようとしています。つまり、日本酒度は「味を正確に表現する数字」から、「商品を選ぶための記号」へと役割を変えつつあるのかもしれません。これは日本酒業界にとって重要な変化です。消費者が「+12だから辛い」と理解して購入し、実際に飲んで「思ったほど辛くない」「意外に旨味がある」と感じれば、そこから酸度やアミノ酸度、製法などへの関心も生まれます。

数字は味そのものではありません。しかし、数字が入口になることで、日本酒の奥深さに入っていくことはできます。「日本酒度+12」という今回の数字は、単に「もっと辛い酒を造りました」という意味ではありません。むしろ、甘口・辛口という分かりやすい入口を使いながら、その先にある「辛口とは何なのか」を問い直す商品なのではないでしょうか。

これからの日本酒では、「日本酒度が高い=おいしい」でも「低い=甘くて飲みやすい」でもありません。重要なのは、その数字をどのような酸味、旨味、香り、余韻と組み合わせるかです。日本酒度+12という一見シンプルな数字の裏側には、実は「数字だけでは味を語れない」という、現代の日本酒造りの難しさが隠れているのです。

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「高価格日本酒」はどこへ向かうのか ~ 白鶴「天空」に見るプレミアム化の現在

日本酒の価格帯が、少しずつ変わってきています。かつて日本酒は、「毎日の晩酌で飲む酒」というイメージが強く、四合瓶で数千円を超える商品には、どこか特別な存在感がありました。しかし近年は、1万円前後、さらに1万円を超える商品も珍しくなくなり、高価格帯そのものが一つの市場として形成されつつあります。実際、近年の市場分析でも、10,000円以上の日本酒が増えていることが指摘されています。

そんな流れの中で、8月28日に発表されたのが、白鶴酒造の「白鶴 天空」の最上位商品です。「超特撰 白鶴 天空 袋吊り 純米大吟醸」は9月4日から全国発売されます。山田錦と白鶴錦を使用し、白鶴として初めて精米歩合29%を採用。さらに、醪を酒袋に入れて吊るし、圧力をかけずに自然に滴り落ちる雫だけを集める「袋吊り」を用いています。原料米の選定から製法、パッケージまで、同社の技術を集約した「天空」の最上位商品という位置付けです。

ここで注目したいのは、白鶴が単純に「高価な商品」を投入したわけではないことです。価格を上げるためには、「なぜ高いのか」を説明できなければなりません。今回でいえば、29%という精米、特定産地の山田錦、自社開発の白鶴錦、そして袋吊りという製法があります。それぞれが商品の価格を説明する物語になっています。

これは近年の高価格日本酒に共通する特徴でもあります。例えば「獺祭」は、磨き二割三分という明確な技術的特徴をブランドの中心に据え、さらに「磨き その先へ」といった最上位の商品まで展開しています。

一方、SAKE HUNDREDのように、日本酒をラグジュアリー商品として位置付ける動きも生まれました。代表商品「百光」は38,500円という価格で販売され、2024年醸造分には1万本に対して7万人が応募したとされています。ここでは、酒質だけではなく、ブランド、デザイン、希少性、購入体験などを含めて「高級日本酒」というカテゴリーを形成しています。つまり、現在の高価格化には、大きく二つの方向が見えてきます。

一つは、「酒そのものを極限まで磨き上げる」方向です。精米歩合を下げる、特殊な上槽方法を採用する、原料米を厳選する。技術や手間を積み重ね、その違いを価格に反映させます。

もう一つは、「日本酒を取り巻く価値を高める」方向です。ボトル、ブランドストーリー、希少性、飲む場所、料理との組み合わせ、贈答品としての意味など、液体そのもの以外の価値を含めて商品を設計します。

そして今後、この二つはさらに近づいていくのではないでしょうか。高価格商品だからといって、必ずしもすべての消費者が「高ければ高いほどおいしい」と考えるわけではありません。むしろ重要になるのは、「この価格だからこそ、これを飲みたい」と思わせられるかどうかです。

その意味で、「天空」の今回の商品は興味深い存在です。白鶴という大手メーカーが、従来の大量流通型の商品とは異なる最上位ラインを明確に打ち出しているからです。

日本酒市場の高価格化は、単なる値上げではありません。日常酒としての日本酒を残しながら、その一方で「人生の特別な日に飲む酒」「誰かに贈りたい酒」「一度は体験してみたい酒」という新しい領域を広げようとしているのです。

これからの日本酒にとって重要なのは、1,000円の酒と3万円の酒のどちらが優れているかではないでしょう。日本酒の価値を、いくらまで多様化できるのか。「天空」の最上位商品は、その問いを大手酒蔵から改めて投げかける商品なのかもしれません。

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「食米大吟醸」は日本酒の常識を変えるのか ~ 酒米と食用米その境界線

日本酒造りでは、「酒米を使う」ということが長く一つの常識になってきました。特に吟醸酒や大吟醸酒では、山田錦をはじめとする酒造好適米が重視されます。農林水産省も、酒造り専用の品種である酒造好適米を「酒米」として紹介しており、山田錦、五百万石、美山錦などが代表的な品種です。

その常識に対して、少し興味深い動きが出てきました。弥栄酒造が、食用米「にこまる」を使った純米大吟醸「弥栄の酒 寿」を、9月2日から販売します。もともとは非売品として発表されていた酒で、食用米を40%まで精米して仕込んだものです。今回、いよいよ市場に出ることになりました。

面白いのは、単に「食用米でも日本酒が造れます」という話ではないことです。弥栄酒造は今冬、酒米の山田錦と食用米のにこまるを、ともに精米歩合35%まで磨き、「異なる米から、どこまで同じ酒質を造れるか」という新たな挑戦を予定しています。つまり食用米を酒米の代用品として使うのではなく、米の違いそのものを比較する酒造りへ進もうとしているのです。

実は、食用米を使った日本酒そのものは、今回が初めてではありません。たとえば新潟県の津南醸造では、魚沼産コシヒカリを100%使った純米大吟醸を展開しています。2024年には「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」を発売し、現在は「GO TERRACE」などにも展開しています。食用米を酒米の代替品としてではなく、「食べる米だからこその価値」を持つ原料として位置付けている点が特徴です。

また、長野県でも食用米「風さやか」を使った日本酒造りが紹介されています。食用米には酒米に特徴的な心白がないなど、醸造上の違いがあります。そのため、食用米を使うことは単純に酒米を置き換えることではありません。では、なぜ今こうした酒が増えているのでしょうか。

一つには、酒米を取り巻く環境があります。日本酒の需要や生産の変化、米をめぐる環境の変化を考えれば、酒造りに使える米を酒米だけに限定することには、一定のリスクがあります。食用米を使えるようになれば、酒蔵にとって原料調達の選択肢が増えます。農家にとっても、酒造り専用の米だけではなく、普段から食べられている米を酒蔵と結び付ける可能性が生まれます。

ただし、「食米大吟醸」が酒米に取って代わるとは考えられません。むしろ重要なのは、日本酒の原料米を選ぶ基準が一つではなくなることだと思います。これまでは「山田錦だから高級」「酒造好適米だから良い酒」という説明が比較的分かりやすいものでした。しかし、食用米で大吟醸を造る動きが広がれば、「どの米を使ったか」「その米をどのように生かしたか」「食用米だからどんな味になったのか」という別の評価軸が生まれます。

そして今回の「にこまる」と山田錦の比較は、まさにそこへ踏み込もうとしています。同じ蔵、同じ造り手、同じような精米条件で米だけを変えれば、原料米の違いが酒質にどう表れるのかを、消費者自身が飲み比べられるからです。これは「酒米か、食用米か」という二者択一ではありません。酒米という伝統を残しながら、食用米という新しい選択肢も加える。さらに、それぞれの米の個性を酒の価値として伝えていく。その先には、日本酒を「酒米で造るもの」から、「米の個性を酒として表現するもの」へ広げていく可能性があります。

「食米大吟醸」は、まだ大きな潮流と呼ぶには早いでしょう。しかし、いくつもの酒蔵が異なるアプローチで食用米に挑戦し始めている現在、それは単なる変わり種ではなく、日本酒が次の時代に向かう一つの小さな実験になっているのではないでしょうか。

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