「高価格日本酒」はどこへ向かうのか ~ 白鶴「天空」に見るプレミアム化の現在

日本酒の価格帯が、少しずつ変わってきています。かつて日本酒は、「毎日の晩酌で飲む酒」というイメージが強く、四合瓶で数千円を超える商品には、どこか特別な存在感がありました。しかし近年は、1万円前後、さらに1万円を超える商品も珍しくなくなり、高価格帯そのものが一つの市場として形成されつつあります。実際、近年の市場分析でも、10,000円以上の日本酒が増えていることが指摘されています。

そんな流れの中で、8月28日に発表されたのが、白鶴酒造の「白鶴 天空」の最上位商品です。「超特撰 白鶴 天空 袋吊り 純米大吟醸」は9月4日から全国発売されます。山田錦と白鶴錦を使用し、白鶴として初めて精米歩合29%を採用。さらに、醪を酒袋に入れて吊るし、圧力をかけずに自然に滴り落ちる雫だけを集める「袋吊り」を用いています。原料米の選定から製法、パッケージまで、同社の技術を集約した「天空」の最上位商品という位置付けです。

ここで注目したいのは、白鶴が単純に「高価な商品」を投入したわけではないことです。価格を上げるためには、「なぜ高いのか」を説明できなければなりません。今回でいえば、29%という精米、特定産地の山田錦、自社開発の白鶴錦、そして袋吊りという製法があります。それぞれが商品の価格を説明する物語になっています。

これは近年の高価格日本酒に共通する特徴でもあります。例えば「獺祭」は、磨き二割三分という明確な技術的特徴をブランドの中心に据え、さらに「磨き その先へ」といった最上位の商品まで展開しています。

一方、SAKE HUNDREDのように、日本酒をラグジュアリー商品として位置付ける動きも生まれました。代表商品「百光」は38,500円という価格で販売され、2024年醸造分には1万本に対して7万人が応募したとされています。ここでは、酒質だけではなく、ブランド、デザイン、希少性、購入体験などを含めて「高級日本酒」というカテゴリーを形成しています。つまり、現在の高価格化には、大きく二つの方向が見えてきます。

一つは、「酒そのものを極限まで磨き上げる」方向です。精米歩合を下げる、特殊な上槽方法を採用する、原料米を厳選する。技術や手間を積み重ね、その違いを価格に反映させます。

もう一つは、「日本酒を取り巻く価値を高める」方向です。ボトル、ブランドストーリー、希少性、飲む場所、料理との組み合わせ、贈答品としての意味など、液体そのもの以外の価値を含めて商品を設計します。

そして今後、この二つはさらに近づいていくのではないでしょうか。高価格商品だからといって、必ずしもすべての消費者が「高ければ高いほどおいしい」と考えるわけではありません。むしろ重要になるのは、「この価格だからこそ、これを飲みたい」と思わせられるかどうかです。

その意味で、「天空」の今回の商品は興味深い存在です。白鶴という大手メーカーが、従来の大量流通型の商品とは異なる最上位ラインを明確に打ち出しているからです。

日本酒市場の高価格化は、単なる値上げではありません。日常酒としての日本酒を残しながら、その一方で「人生の特別な日に飲む酒」「誰かに贈りたい酒」「一度は体験してみたい酒」という新しい領域を広げようとしているのです。

これからの日本酒にとって重要なのは、1,000円の酒と3万円の酒のどちらが優れているかではないでしょう。日本酒の価値を、いくらまで多様化できるのか。「天空」の最上位商品は、その問いを大手酒蔵から改めて投げかける商品なのかもしれません。

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