「だし割り」は日本酒の新しい入口になるか ~ ちいかわが描いた一杯の意味

日本酒におでんなどのだしを合わせて飲む「だし割り」が、思わぬところから注目を集めています。玉乃光酒造が10月5日、『ちいかわ』に登場する「くりまんじゅう」をモチーフにした「ちいかわ 日本酒とお出汁のだし割りセット」の予約を開始しました。11月10日の発売予定で、純米吟醸酒、濃縮つゆ、専用カップ、レシピをセットにした商品です。このニュースで興味深いのは、「日本酒」そのものではなく、日本酒を飲む場面と飲み方が商品になっていることです。

くりまんじゅうが見せる「だし割り」の時間

『ちいかわ』のくりまんじゅうは、作品の中でも特に酒好きとして描かれているキャラクターです。日本酒を手にして一息つく姿や、おでんとともに酒を楽しむ姿が印象的で、その流れの中で登場するのが「だし割り」です。2020年11月4日に公開された原作でも、おでんのだしと日本酒を合わせる場面が確認できます。

ここで重要なのは、だし割りが「特別な日に飲む高級日本酒」として描かれていないことです。おでんを食べる。酒を飲む。温かいだしを味わう。そして「ハーッ」と一息つく——そこにあるのは、仕事や日常の疲れから少し離れて、自分の時間を楽しむ姿です。しかも、くりまんじゅうという愛嬌のあるキャラクターがそれを行うことで、従来の日本酒に付きまといがちだった「大人」「難しい」「通好み」といったイメージが薄れ、温かい、気軽、ちょっと真似してみたい飲み方として受け止められています。

今回の商品も、そのイメージをそのまま家庭に持ち込もうとしています。専用カップにはお湯とだしの目盛りがあり、順番に注んで最後に日本酒を加えるだけです。つまり「だし割りを知っている人向け」ではなく、「くりまんじゅうと同じものを飲んでみたい人」が自然に入っていける設計になっています。

「だし割り」はどこから来たのか

では、そもそもだし割りはどのような飲み方なのでしょうか。現在知られている形のルーツとしてよく挙げられるのが、東京・赤羽のおでん店「丸健水産」です。おでんとカップ酒を注文し、日本酒を少し残したところにおでんのだしを注いでもらい、七味を加えて飲むスタイルです。温かいおでんのだしと日本酒を組み合わせることで、体も温まり、酒の味わいもまた違った表情を見せます。

だし割りの面白さは、単なる「薄める」という発想ではありません。日本酒が持つ甘味、酸味、苦味、旨味に、だしの塩味や旨味が加わることで、味わいに厚みが生まれます。カツオだしならイノシン酸、昆布ならグルタミン酸など、異なる旨味成分が重なることも、魅力の一つです。つまり、だし割りは日本酒を別の飲み物に変えてしまうのではなく、日本酒と料理の間に新しい接点をつくる飲み方なのです。

「日本酒を飲む」から「日本酒でくつろぐ」へ

これからのだし割りを考えると、単なる一時的なブームで終わらない可能性があります。これまで日本酒の商品は、米、精米歩合、酵母、産地など「酒そのもの」を語ることが多くありました。一方、だし割りには「何を食べながら、どんな時間に飲むのか」という物語があります。冬のおでん、鍋料理、焼き鳥、家庭の夕食。そして仕事を終えた夜に、温かい一杯をゆっくり飲む。こうした場面まで含めて商品を提案できるのです。

今回の玉乃光酒造と『ちいかわ』の組み合わせは、その可能性をよく示しています。日本酒を難しい知識から解放し、「あのキャラクターが飲んでいたから、自分も試してみよう」という入口を作ったからです。

今後は、だしの種類に合わせた日本酒の提案や、地域の郷土料理との組み合わせ、居酒屋での「ご当地だし割り」などにも広がるかもしれません。

日本酒の未来は、必ずしも「日本酒そのものをもっと知ってもらう」ことだけではありません。日本酒があると、いつもの食事や夜の時間が少し豊かになる――そんな体験を伝えることも、日本酒の裾野を広げる一つの方法です。

「ハーッ」と一息つく、あの一杯。

『ちいかわ』が見せた「だし割り」は、実は日本酒がこれから目指すべき飲み方の一つを、かなり分かりやすく示しているのかもしれません。

日本酒好き注目!おいしい地酒が飲める全国のおすすめ旅館一覧(温泉宿からビジネスホテルまで)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA