10月1日の「日本酒の日」と「コーヒーの日」に合わせ、群馬県高崎市の大和屋珈琲と中之条町の酒蔵・貴娘酒造が、新商品「SAKE珈琲 貴娘」を数量限定で発売しました。
この商品は、日本酒をそのままコーヒーに加えたものではありません。コーヒーの生豆を群馬の地酒にじっくり浸漬し、その後に焙煎する独自製法によって、日本酒の香味をコーヒーにまとわせています。アルコールを飲むのではなく、日本酒の持つ香りをコーヒーという別の嗜好品で楽しむ商品です。大和屋珈琲と群馬の酒蔵による地域共創コラボレーションの第3弾でもあります。
ところで、日本酒とコーヒーの組み合わせには、これまでもいくつかの先例があります。大和屋珈琲自身、2023年に浅間酒造の「秘幻」などを使った「SAKE珈琲」を発売。2024年には牧野酒造の「大盃」を使った第2弾を発売しており、今回の商品はその流れを受けたものです。2024年の商品では、「大盃特別純米酒」にエチオピアとケニアのコーヒーを組み合わせ、日本酒の香りとコーヒーのコクの調和を狙っています。
また、2023年には神奈川県のMuu COFFEEが泉橋酒造と共同で、日本酒に生豆を漬けて焙煎する「酒珈琲」を商品化しました。Muu COFFEEはそれ以前からウイスキー、ワイン、ラムなどを使った「酒珈琲」を展開しており、日本酒もそのラインアップに加わった形です。
さらに2022年には、朝日酒造の「久保田」と丸山珈琲が、日本酒とコーヒーを組み合わせたカクテルを伊勢丹新宿店で期間限定提供しました。「久保田 萬寿」とコーヒーを合わせたアイリッシュコーヒー風や、「久保田 純米大吟醸」とエチオピア産コーヒーを組み合わせた一杯です。実際の試飲記事では、組み合わせによって苦味が強くなり、それぞれの良さを打ち消すこともあったため、試行錯誤を重ねたと紹介されています。一方、完成したカクテルについては、日本酒とコーヒーそれぞれの香りや甘味を楽しめる新しい味わいとして紹介されました。
こうした商品について注意したいのは、話題になったことと、市場に定着したことは同じではないという点です。一方で、日本政策金融公庫の2024年の事例紹介では、酒珈琲について「すぐに人気商品になった」とされ、リピーターや手土産需要が生まれ、日本酒を使った商品では酒蔵との共同開発をきっかけに国内外から注文が入るようになった事例も紹介されています。
大和屋珈琲についても、2023年の第1弾から2024年の第2弾、そして2026年の第3弾へと商品が続いています。少なくとも一過性の話題だけで終わらず、異業種コラボとして継続していることは注目できます。
日本酒とコーヒーは、一見すると正反対の飲み物です。しかし、どちらも味覚だけではなく、香りを楽しむ嗜好品という共通点があります。日本酒には吟醸香、果実のような香り、熟成による香りなどがあります。一方、コーヒーにも果実、花、チョコレート、ナッツなどを思わせる複雑な香りがあります。だからこそ、両者を「混ぜる」のではなく、香りの一部を移すという発想が成立します。
これは日本酒にとって意外に重要な方向性ではないでしょうか。日本酒を飲まない人に「日本酒を飲んでください」と勧めるのではなく、日本酒が持っている香り、地域性、物語を、コーヒーや菓子、料理など別の商品を通して体験してもらう。そう考えれば、日本酒の市場は「日本酒を飲む人」だけに限定されません。
今回の「SAKE珈琲 貴娘」は、日本酒をコーヒーに変えた商品ではありません。むしろ、日本酒の魅力の一部を別の形で届ける商品です。日本酒の未来は、日本酒そのものを増やすことだけではなく、日本酒の香りや文化を、どれだけ別の世界へ持ち出せるかにもあるのかもしれません。珈琲との出会いは、その可能性を考える小さな実験の一つと言えそうです。

