リジェネラティブという視点から考える日本酒のこれから

近年、食品や農業の分野で「リジェネラティブ(再生型)」という考え方が注目を集めています。サステナブル(持続可能)を一歩進め、環境や地域社会を「守る」だけでなく、「より良い状態へ再生させていく」ことを目的とする思想です。このリジェネラティブという視点は、日本酒づくりとも決して無縁ではありません。むしろ、日本酒は古くから地域と自然の循環の中で成り立ってきた、極めてリジェネラティブ的な産業であるとも言えます。

リジェネラティブ農業の特徴は、土壌の健全性を回復させ、生物多様性を高め、水資源や炭素循環にも配慮する点にあります。化学肥料や農薬への依存を減らし、自然の力を引き出すことで、農地そのものを次世代により良い形で引き継ぐことを目指します。日本酒に欠かせない酒米づくりも、まさにこの考え方と重なります。良い酒米は、一年だけの収穫ではなく、長期的に安定した田んぼの力があってこそ生まれるからです。

実際、各地の酒蔵では、契約農家とともに土づくりから取り組む動きが広がっています。減農薬や有機栽培への挑戦、レンゲや稲わらを活用した土壌改良、冬期湛水による生態系の保全など、その取り組みは多様です。こうした活動は、単に「環境に優しい」という評価にとどまらず、結果として米の個性を引き出し、日本酒の味わいに奥行きをもたらします。リジェネラティブな農業は、品質向上と環境再生を同時に実現する手段として、日本酒づくりと高い親和性を持っているのです。

さらに、日本酒のリジェネラティブ性は農業だけにとどまりません。酒粕や米ぬかといった副産物は、飼料や肥料、食品原料として再利用され、地域内で循環しています。蔵の仕込み水が地域の水系と密接につながっている点も、日本酒が自然環境と不可分であることを示しています。日本酒づくりは、原料を使い切り、地域に還元する循環型の産業構造を、長い歴史の中で自然に築いてきたのです。

一方で、現代の日本酒業界は、気候変動や酒米価格の高騰、担い手不足といった課題にも直面しています。こうした状況において、リジェネラティブという考え方は、単なる理想論ではなく、現実的な指針になり得ます。短期的な効率だけを追うのではなく、田んぼ、蔵、人、地域を含めた全体を再生させる視点を持つことで、結果として酒づくりの持続性が高まるからです。

また、消費者側の意識も変わりつつあります。どの蔵が、どの土地で、どのような考え方で酒を醸しているのか。その背景にあるストーリーや価値観に共感して日本酒を選ぶ人が増えています。リジェネラティブな取り組みは、味わいだけでなく、日本酒の「語る力」を強め、ブランド価値を高める要素にもなっています。

日本酒は本来、地域の自然と人の営みを映し出す存在です。リジェネラティブという言葉は新しくとも、その精神は日本酒の歴史そのものに宿っていると言えるでしょう。これからの日本酒が、環境を再生し、地域を元気にし、人と人をつなぐ存在として、改めて注目されていく。その未来を考えるうえで、リジェネラティブという視点は、大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。

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雪国から生まれる循環の酒──津南醸造が描くサステナブルな日本酒の未来

新潟県津南町に蔵を構える津南醸造は、2025年10月23日から25日にかけて開催されたフードテックカンファレンス「SKS JAPAN 2025」の街中展示企画「食のみらい横丁」に出展しました。同蔵が紹介したのは、純米大吟醸「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」です。雪国のテロワールを象徴する一本として注目を集めましたが、今回の展示で特に焦点となったのは、その味わいだけでなく「サステナビリティ(持続可能性)」というテーマでした。

雪国の気候を生かす「自然冷蔵庫」

津南町は日本有数の豪雪地帯として知られています。冬には積雪が3メートルを超えることもあり、その雪は厳しい自然環境であると同時に、津南醸造にとっては貴重な資源でもあります。蔵では雪室を利用した貯蔵や温度管理を行っており、電力使用量を大幅に抑えています。つまり、雪の冷気がゆるやかに温度を安定させることで、機械による制御を最小限にし、エネルギーコストを削減しながら酒質の安定を実現しているのです。

この「雪の冷蔵庫」は、自然エネルギーを活かした地域ならではの持続可能な仕組みといえます。雪を敵ではなく味方にする発想が、雪国テロワールの根幹にあります。

米・水・人がつなぐ地域循環

「郷(GO)」シリーズの大きな特徴は、原料米に魚沼産コシヒカリを使用している点です。一般的には食用米として知られるコシヒカリですが、津南醸造はその香味の豊かさに注目し、酒造好適米ではなく地元農家と連携して栽培した食用米を用いています。これにより、農家の販路拡大につながり、地域経済の循環を促しています。

また、仕込み水には信濃川源流域の伏流水を使用しています。この清冽な水は雪解けとともに山々から流れ込み、町の水田を潤します。その水が再び酒となって人々の手に戻るという循環こそ、津南醸造が掲げる「雪国サステナビリティ」の象徴です。

フードテックと伝統の融合

今回のSKS JAPANでは、「未来の食」をテーマにテクノロジーと環境への配慮を取り入れた食品が多く出展されました。その中で津南醸造は、伝統的な日本酒という枠組みを超え、自然環境との共生を軸に据えた「地域循環型のフードシステム」としての酒造りを提示しました。

蔵では再生可能エネルギーの導入や廃棄物削減の取り組みも進めています。酒粕は堆肥化され、再び米作りへと還元されます。さらに、瓶や包装資材にもリサイクル素材を積極的に活用し、輸送過程でも二酸化炭素の排出を抑える努力を続けています。

雪国から世界へ──持続可能な味わい

津南醸造の挑戦は、単に環境に優しい酒造りというだけではありません。地域の自然と人の営みを一体化し、未来に継承できる「酒文化の生態系」をつくることを目指しています。

雪国が抱える厳しい気候を逆に資源として捉え、地域全体で支え合う循環のモデルは、世界のサステナブルフードの潮流にも通じます。「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」は、雪国の恵みを凝縮した一本であり、環境と共存する新しい日本酒の在り方を示す『未来の郷土酒』といえるでしょう。

▶ 食卓に寄り添う魚沼の新風:津南醸造「郷(GO)TERRACE」始動

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サステナブル日本酒「環」、日本酒として初のSalmon-Safe認証を取得――SDGsを牽引する存在へ

神戸新聞社が推進する「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから誕生した日本酒「環(めぐる)」が、この度、米国発の環境認証「Salmon-Safe」を、日本の酒として初めて取得しました。これは、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った日本酒造りの新たな一歩であり、日本酒がSDGs推進の先導者になりうることを示す大きな成果となりました。

「環」が誕生した背景と2021年の発売

「環」は、神戸新聞社が2019年に立ち上げた「地エネと環境の地域デザイン協議会」を母体とする「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから、生まれた日本酒です。2020年度に農家、蔵元、新聞社が連携して取り組みを開始し、2021年9月22日に初めて「地エネの酒 環」として販売が開始されました。

このプロジェクトの特徴は、食品残さや家畜のふん尿を原料とする「バイオガス」をエネルギー源に変え、副産物である「消化液」を有機肥料として酒米「山田錦」の栽培に活用した点にあります。化学肥料や除草剤の使用を抑えた脱炭素農法によって、地域資源を循環させる持続可能な酒造りを実現しました。さらに、環境に配慮したエコロジーボトルなどを導入した上で販売されております。

「Salmon-Safe」認証取得、その意義

このような背景の延長線上で、2025年8月26日、Super Normal社の支援を受けながら「環」がSalmon-Safe認証を取得しました。米国オレゴン州発祥のSalmon-Safeは、水質保全や生物多様性、水源流域の環境保護を重視する厳格な第三者認証です。

日本では日本酒として初の取得となり、Salmon-Safeが求める「川岸の復元」「水資源の保全」「生態系保護」「有害な投入物の段階的廃止」といった基準をクリアした点が高く評価されました。

日本酒とSDGsの親和性

日本酒は、その成り立ちからしてSDGsと親和性が高い存在です。第一に、原料となる米は地域の農業と直結しており、生産者との協働が不可欠です。環境に配慮した米作りを推進することは、食の安全や地域農業の持続に直結します。第二に、水の質が酒質を左右するため、水環境の保全は日本酒造りの根幹であり、自然資源の保護に必然的に取り組むことになります。さらに、酒蔵は地域文化や伝統を継承する役割を担っており、持続可能な社会の中で地域の誇りを守る文化的側面をも担っています。

「環」が示したように、日本酒は国際的な基準を満たすサステナブルな酒造りを牽引できる存在です。地域資源の循環利用、環境保全、文化の継承を同時に体現できる日本酒は、SDGsの理念を実際の形に落とし込む力を持っています。今回の「Salmon-Safe」認証は、世界市場に向けても日本酒が環境先進的な飲料として発信できる契機となるでしょう。

「環」の誕生は、日本酒が単なる嗜好品を超え、社会課題の解決に貢献できることを強く印象づけました。これからも地域と自然を結び、未来世代に受け継がれる酒造りが広がっていくことが期待されます。

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