2026年の日本酒は何を目指しているのか

東京国税局の酒類鑑評会が9月10日に開かれました。東京、神奈川、千葉、山梨の32製造場から日本酒や焼酎合わせて95点が出品され、香りや味、香味のバランスなどが審査されています。今年からは新たに「最優等賞」も設けられ、10月28日の表彰式で結果が発表されます。

このニュースで特に目を引くのが、東京国税局の鑑定官室長による「今年の日本酒は味わいがあり、飲みごたえがある」という評価です。では、この「味わいあり」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。

単純に「濃い酒」ではない味わい

日本酒の「味わい」は、甘い、辛い、濃い、薄いといった一つの尺度だけで決まるものではありません。米から生まれる甘味やうま味、発酵によって生まれる酸味、香り、アルコール感などが重なり、それらが一つの酒としてまとまったときに感じられるものです。特に「飲みごたえがある」とう表現には、口に含んだときに味が広がり、飲み込んだ後にも余韻が残るような存在感が含まれます。

だから「味わいあり」とは、単純に味を強くしたということではありません。香りだけを突出させるのではなく、味とのバランスを取ることが重要になります。実際、今回の鑑評会でも「香りと味のバランスなど、わずかな差」を正確に評価するとされています。

暑さが日本酒の造りを変えてきた

今回の発言でもう一つ重要なのが、「近年、夏場の暑さが続く中ですっきりとした味わいの日本酒が続いていた」という部分です。

日本酒造りは気候の影響を受けます。特に酒造りの現場では、温度を適切に管理しながら発酵を進める必要があります。気温が高くなれば、それだけ管理の難しさも増します。その結果として、近年は軽快で、すっきりと飲める酒が目立ってきました。

ところが今年については、造り手が暑さへの対応を重ね、製造技術も向上したことで、単に「すっきりさせる」だけではなく、味の厚みを残した酒が造れるようになってきたというわけです。これは日本酒のトレンドを見るうえで、とても興味深い変化です。

「香り」から「味わい」へ戻るのか

これまでの日本酒では、華やかな香りを持つ吟醸系の酒が大きな存在感を持ってきました。果物を思わせる香りや、軽快で透明感のある味わいは、日本酒をこれまで飲まなかった人にも魅力として伝わりやすいものでした。しかし、日本酒が広く飲まれるようになるほど、「香りが華やか」という一つの価値だけでは差別化が難しくなります。そこで改めて重要になるのが、米のうま味、酸、甘味、苦味、余韻といった「味そのもの」です。

今回の「味わいあり」という評価は、その変化を象徴しているようにも見えます。もちろん、これによって「これからは濃い日本酒が主流になる」ということではありません。むしろ、軽快さを維持しながら、味わいをどこまで残せるかという、より高度な造りが求められているのではないでしょうか。

日本酒は「軽いか濃いか」ではなくなる

日本酒のトレンドは、時代によって大きく動いてきました。淡麗、辛口、吟醸香、低アルコール、甘口、酸味など、さまざまな価値が注目されてきました。しかし消費者の好みが多様化した現在、一つの方向だけが市場を支配するとは考えにくくなっています。だからこそ、これからの日本酒に求められるのは「軽い酒」か「濃い酒」かという二択ではなく、その酒にしかない味わいをどうつくるかなのだと思います。

暑さという厳しい環境への対応が、結果として日本酒の「味わい」をもう一度見直すきっかけになっているのだとすれば、これは気候変化による単なる苦労ではありません。造り手が環境に合わせて技術を変え、その技術によって新しい酒質が生まれる——今年の「味わいあり」という言葉は、日本酒がまた一つ次の段階へ進もうとしていることを示す言葉なのかもしれません。

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