『西条酒造学校』復活へ

広島県東広島市の酒どころ西条で、「西条酒造学校」が今秋、復活に向けて動き始めます。中心となるのは、日本酒造杜氏組合連合会会長で広島杜氏組合長も務める石川達也氏です。石川氏はこの春、地元の西条に戻り、福美人酒造の酒蔵を舞台に、杜氏など将来の酒造りの担い手を育成する取り組みを始めようとしています。半年間の泊まり込みで酒造りを学ぶ構想も示されています。

そもそも「西条酒造学校」とは何なのでしょうか。実は、この名称には西条の酒造りの歴史そのものが重なっています。現在の福美人酒造は1917年に設立され、優れた酒造技術を持っていたことから、全国から杜氏や酒造技術者が学びに訪れ、「西條酒造学校」と呼ばれるようになりました。つまり、現在のような学校法人としての教育機関というより、酒蔵そのものが酒造りを学ぶ場になっていたという意味合いが強いのです。これは、かつての日本酒業界における技術伝承の姿を象徴しています。

酒造りは、教科書を読むだけでは身につきません。蒸米の状態、麹の香り、もろみの変化、温度の推移など、数字だけでは捉えきれないものを、実際の現場で見て、触れて、経験する必要があります。杜氏制度もまた、こうした経験を人から人へ伝える仕組みとして機能してきました。

しかし現在、その仕組みが大きな転換期を迎えています。日本酒の国内出荷量は1973年をピークに長期的な減少が続き、現在ではピーク時の4分の1以下になっています。さらに、酒造りを担ってきた杜氏や蔵人の高齢化も進んでいます。伝統的な酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録された一方で、その技術を実際に使える人が減っているという、ある意味で皮肉な状況なのです。だからこそ、今回の「復活」には大きな意味があります。

石川氏が目指しているのは、単に酒造会社の社員を育てることではありません。「人を育てることに特化した蔵」を目指し、酒造りを学びたい人に対して、実際の現場で学べる環境を提供しようとしています。ここには、これからの日本酒業界に必要な発想があるのではないでしょうか。

これまで酒蔵は、基本的には「酒を造る場所」でした。しかし、これからは同時に「人を育てる場所」であることが求められるのかもしれません。設備を近代化し、製造工程を合理化することはもちろん重要です。一方で、機械化やマニュアル化だけでは伝えにくいものもあります。発酵という生き物を相手にする日本酒では、現場でしか身につかない感覚が依然として存在します。そして、それこそが日本酒を「伝統文化」として残すための核心なのではないでしょうか。

西条酒造学校の復活は、昔の制度をそのまま復元する話ではありません。むしろ、かつて酒蔵が担っていた「技術を次の世代へ渡す」という役割を、現代の環境の中でもう一度取り戻そうとする試みと見るべきでしょう。

日本酒の未来を考えるとき、新しい設備や海外市場ばかりが注目されます。しかし、その酒を造る「人」がいなければ、どれほど市場が広がっても意味がありません。西条で始まる酒造学校の復活は、日本酒業界がいま直面している「最大の課題は、米でも設備でもなく、人なのではないか」と問いかけているように思います。

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