月桂冠が「プレミアム純米料理清酒」を発表しました。国産米を100%使用した無塩タイプの料理清酒で、純米酒由来のうま味に加え、同社が研究してきた「デフェリフェリクリシン(Dfcy)」という成分の働きを生かしているのが特徴です。Dfcyには抗酸化作用があり、肉や魚の臭いを抑え、素材のうま味を引き出すことなどが期待されています。月桂冠は、この成分について2003年から研究を続けてきたとしています。
日本酒は「飲むだけのもの」ではなかった
料理に酒を使う歴史は古く、奈良時代には料理用だった可能性がある「厨酒」が登場し、平安時代の『延喜式』にも料理に使われた酒の記録があります。室町時代になると、煮物や焼物など幅広い料理に酒が使われるようになり、江戸時代の日本料理の発展にもつながっていきました。つまり、日本酒を料理に使うことは、最近始まった工夫ではありません。
酒には、食材の臭みを抑える、味を染み込ませる、肉や魚を柔らかくする、うま味や香りを加えるなど、さまざまな働きがあります。アルコールは水にも油にもなじみやすいため、食材の内部へ成分を運ぶ役割も果たします。
「飲む酒」と「料理に使う酒」の距離
料理用として販売される酒には、塩分を加えたものなどもあります。一方、現在では無塩タイプの商品も増えています。月桂冠自身も、国産米を100%使用した無塩の料理清酒を展開しており、酒そのものの発酵成分とアルコールの働きを料理に生かす考え方を打ち出しています。
ここには、料理酒に対する価値観の変化があります。「料理酒だから安い酒でいい」という考え方から、「料理をおいしくするためなら、酒そのものの品質にも意味がある」という考え方への変化です。今回の「プレミアム純米料理清酒」は、その流れをさらに一歩進めた商品といえるでしょう。
「酒を加える」から「酒で料理を設計する」へ
今回特に興味深いのは、Dfcyという、もともとは日本酒の変色に関係するため、減らす対象だった成分を、逆に料理の価値へ転換していることです。これは日本酒そのものの可能性を考えるうえでも重要です。
日本酒には、米、麹、酵母、発酵によって生まれるさまざまな成分があります。これまでは、それらを「飲んだときの味や香り」として評価してきました。しかし見方を変えれば、それらは食材に働きかける機能でもあります。そう考えると、料理酒は単なる「調味料」ではありません。肉には肉の、魚には魚の、野菜には野菜の良さがあります。それを別の味で覆い隠すのではなく、素材の持っているものを引き出す。そのための日本酒という考え方が、これから広がる可能性があります。
日本酒の新しい市場は「飲まない場所」にも
日本酒業界では、飲酒人口の変化や食生活の変化が課題となっています。しかし、日本酒を「飲む人」だけに届けようとすると、市場はどうしても限られます。料理に使う日本酒なら、飲酒習慣のない家庭にも入り込むことができます。さらに、家庭料理だけではありません。外食、中食、加工食品、冷凍食品など、日本酒を使える場所は数多くあります。
これからは「どんな日本酒が売れるか」だけではなく、「日本酒をどんな場面で使えるか」を考えることが重要になるでしょう。
今回の月桂冠の商品が示しているのは、料理酒の高級化だけではありません。日本酒は、飲むためのものから、食をつくるためのものへ——その可能性を掘り下げていけば、日本酒は「酒類」という枠を越えて、料理そのものを支える存在になれるのかもしれません。日本酒の未来は、酒器の中だけにあるとは限らないのです。
