東京国税局の酒類鑑評会に「最優等賞」新設 ~ 評価の頂点を設ける意味とは

2026年10月28日、東京国税局で、管内の酒蔵などが製造した日本酒や焼酎の品質を評価する「令和8年酒類鑑評会」の表彰式が開かれました。今年の大きな変更点は、従来の優等賞に加えて、新たに「最優等賞」が設けられたことです。各部門の最高評価に当たる賞として、初代受賞銘柄が発表されました。

今回の鑑評会には、東京、神奈川、千葉、山梨の1都3県から、日本酒や本格焼酎など114点が出品されました。審査対象は、吟醸、純米吟醸、燗酒、純米燗酒、本格焼酎の5部門です。外部審査員と国税局の鑑定官が、香りや味わい、酒質のバランスなどを評価しました。表彰式では受賞した酒蔵の代表者らが喜びを分かち合い、酒造りの成果が披露されました。

初代の最優等賞に選ばれたのは、次の5銘柄です。

  • 吟醸部門:「曽我の誉」石井醸造(神奈川県)
  • 純米吟醸部門:「澤乃井」小澤酒造(東京都)
  • 燗酒部門:「春鶯囀 本醸造」萬屋醸造店(山梨県)
  • 純米燗酒部門:「愛山 寿萬亀 純米大吟醸原酒」亀田酒造(千葉県)
  • 本格焼酎部門:「嶋自慢」宮原(東京都)

このほか、延べ38酒蔵が優等賞に選ばれました。原料米の価格高騰など、酒造りを取り巻く環境が厳しいなかでも、多くの酒蔵が品質向上に取り組んでいることがうかがえます。

「最優等賞」は何を変えるのか

そもそも酒類鑑評会は、単純に優れた酒を順位付けするためだけのものではありません。酒類の品質や製造技術の向上を促し、造り手の意欲を高めるとともに、地域の酒類の認知度を向上させる役割を担っています。東京国税局も、こうした目的のもとで毎年鑑評会を開催してきました。

そのなかで最優等賞を新設した意味は、優等賞に選ばれた酒のなかから、さらに各部門の最高評価を明確に示せるようになったことにあります。これまでも優れた酒を選ぶ仕組みはありましたが、最高評価を独立した賞として示すことで、受賞結果に新たな分かりやすさが生まれます。

造り手にとっては、同じ部門のなかで自社の酒がどのように評価されたのかを知る手掛かりとなり、今後の酒造りに向けた目標にもなります。また、受賞を販売促進や情報発信に活用すれば、地域の酒蔵や銘柄を知ってもらう機会も広がるでしょう。

ただし、最優等賞は、あらゆる日本酒のなかで一つの銘柄が絶対的な頂点に立ったことを意味するわけではありません。評価は部門ごとに行われており、酒質の違いや飲み手の好みまで一律に順位付けするものではないからです。

香りだけではない日本酒の多様な価値を示す

今回の部門構成にも注目したいところです。吟醸や純米吟醸だけでなく、燗酒と純米燗酒が独立した部門として設けられています。これは、冷やして楽しむ華やかな香りの酒だけでなく、温めることで引き出される旨味や味わいの調和も、重要な評価対象であることを示しています。

実際、今回、燗酒部門で最優等賞を受賞した萬屋醸造店は、ほかの部門でも優等賞を獲得しました。同社の深沢透社長は、日本酒の全部門で受賞できたことへの喜びを語り、これからの季節に鍋やおでんと楽しんでほしいと話しています。酒の評価を、実際の食卓での楽しみ方につなげる姿勢が印象的です。

最優等賞の新設が今後の業界に与える影響は、賞の数や名称だけでは判断できません。重要なのは、受賞をきっかけに造り手が技術を磨き、消費者が地域の酒に関心を持ち、飲食店などで新たな出会いが生まれることです。

鑑評会は、優れた酒を選ぶ場であると同時に、酒造りの目標を共有する場でもあります。最優等賞という新たな目標が、酒蔵同士の競争を促すだけでなく、それぞれの地域や造り手が持つ個性を磨く方向に働けば、日本酒全体の魅力を高めることにもつながるでしょう。

今回の表彰式は、単に新しい賞が誕生したというだけではありません。何をもって優れた酒とするのかを、改めて考える機会でもあります。最高評価を設けたことが、順位を競うためだけでなく、多様な日本酒の価値を発見し、伝えていく仕組みとして根付くかどうか。今後の鑑評会の展開に注目したいところです。

日本酒好き注目!おいしい地酒が飲める全国のおすすめ旅館一覧(温泉宿からビジネスホテルまで)

2026年の日本酒は何を目指しているのか

東京国税局の酒類鑑評会が9月10日に開かれました。東京、神奈川、千葉、山梨の32製造場から日本酒や焼酎合わせて95点が出品され、香りや味、香味のバランスなどが審査されています。今年からは新たに「最優等賞」も設けられ、10月28日の表彰式で結果が発表されます。

このニュースで特に目を引くのが、東京国税局の鑑定官室長による「今年の日本酒は味わいがあり、飲みごたえがある」という評価です。では、この「味わいあり」とは、具体的に何を意味するのでしょうか。

単純に「濃い酒」ではない味わい

日本酒の「味わい」は、甘い、辛い、濃い、薄いといった一つの尺度だけで決まるものではありません。米から生まれる甘味やうま味、発酵によって生まれる酸味、香り、アルコール感などが重なり、それらが一つの酒としてまとまったときに感じられるものです。特に「飲みごたえがある」とう表現には、口に含んだときに味が広がり、飲み込んだ後にも余韻が残るような存在感が含まれます。

だから「味わいあり」とは、単純に味を強くしたということではありません。香りだけを突出させるのではなく、味とのバランスを取ることが重要になります。実際、今回の鑑評会でも「香りと味のバランスなど、わずかな差」を正確に評価するとされています。

暑さが日本酒の造りを変えてきた

今回の発言でもう一つ重要なのが、「近年、夏場の暑さが続く中ですっきりとした味わいの日本酒が続いていた」という部分です。

日本酒造りは気候の影響を受けます。特に酒造りの現場では、温度を適切に管理しながら発酵を進める必要があります。気温が高くなれば、それだけ管理の難しさも増します。その結果として、近年は軽快で、すっきりと飲める酒が目立ってきました。

ところが今年については、造り手が暑さへの対応を重ね、製造技術も向上したことで、単に「すっきりさせる」だけではなく、味の厚みを残した酒が造れるようになってきたというわけです。これは日本酒のトレンドを見るうえで、とても興味深い変化です。

「香り」から「味わい」へ戻るのか

これまでの日本酒では、華やかな香りを持つ吟醸系の酒が大きな存在感を持ってきました。果物を思わせる香りや、軽快で透明感のある味わいは、日本酒をこれまで飲まなかった人にも魅力として伝わりやすいものでした。しかし、日本酒が広く飲まれるようになるほど、「香りが華やか」という一つの価値だけでは差別化が難しくなります。そこで改めて重要になるのが、米のうま味、酸、甘味、苦味、余韻といった「味そのもの」です。

今回の「味わいあり」という評価は、その変化を象徴しているようにも見えます。もちろん、これによって「これからは濃い日本酒が主流になる」ということではありません。むしろ、軽快さを維持しながら、味わいをどこまで残せるかという、より高度な造りが求められているのではないでしょうか。

日本酒は「軽いか濃いか」ではなくなる

日本酒のトレンドは、時代によって大きく動いてきました。淡麗、辛口、吟醸香、低アルコール、甘口、酸味など、さまざまな価値が注目されてきました。しかし消費者の好みが多様化した現在、一つの方向だけが市場を支配するとは考えにくくなっています。だからこそ、これからの日本酒に求められるのは「軽い酒」か「濃い酒」かという二択ではなく、その酒にしかない味わいをどうつくるかなのだと思います。

暑さという厳しい環境への対応が、結果として日本酒の「味わい」をもう一度見直すきっかけになっているのだとすれば、これは気候変化による単なる苦労ではありません。造り手が環境に合わせて技術を変え、その技術によって新しい酒質が生まれる——今年の「味わいあり」という言葉は、日本酒がまた一つ次の段階へ進もうとしていることを示す言葉なのかもしれません。

日本酒好き注目!おいしい地酒が飲める全国のおすすめ旅館一覧(温泉宿からビジネスホテルまで)