神戸産メルローから生まれる新しいSAKE

白鶴酒造は、マイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」で醸造した「No.22 ワインぶどうⅡ」を、2026年10月10日から白鶴酒造資料館で286本限定発売します。使用するのは、神戸で収穫された赤ワイン用ブドウ品種のメルローです。米と米こうじに加えてブドウを原料とし、価格は720mlで7,700円。精米歩合50%の「白鶴錦」を使用し、アルコール分11%に仕上げています。完熟したメルロー由来の紫がかった赤色と、フレッシュなブドウの甘味や酸味が特徴です。

この商品は、厳密には一般的な日本酒ではなく、酒税法上の「その他の醸造酒」に分類されます。しかし、米を中心とする日本酒造りの技術を基盤に、異なる原料を組み合わせて新しい味わいを生み出す試みとして注目されます。

背景には、白鶴酒造が2024年12月に神戸市から神戸ワイン事業を引き継いだことがあります。酒造会社がワイナリーを運営することで、これまで入手が難しかった地元産ワイン用ブドウを、独自の商品開発に活用できるようになりました。

今回の取り組みで興味深いのは、単に日本酒とワインを混ぜた商品ではないという点です。米を原料とする酒造りを出発点に、ブドウという別の農産物の個性を引き出し、新たな酒類を設計しています。

白鶴酒造が2024年に開設した「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、約37平方メートルの小規模な醸造施設です。洗米から製麹、発酵、搾り、瓶詰めまでを一貫して行える設備を備え、少量生産による実験的な商品づくりを進めています。同施設では、同じ酒質を繰り返すのではなく、毎回異なる味わいとの出会いを重視しています。

実際、前年にはカベルネ・ソーヴィニヨンを使用した商品を製造しており、今回のメルローはその経験を踏まえた展開です。原料となるブドウの品種が変われば、香りや酸味、口当たりも変わります。日本酒造りで培ってきた発酵管理や米の扱いに関する知見を生かしながら、原料の違いをどのように酒質へ反映させるか。そこに、新たな醸造技術を探る意味があります。

もちろん、こうした商品をそのまま日本酒の枠内で評価することはできません。むしろ、既存の分類に収まらない酒を生み出すことによって、日本酒の技術がどのような価値を持つのかを、改めて考える機会になるのではないでしょうか。

もう一つ見逃せないのは、地域資源を生かすという視点です。神戸ワインは、神戸産ブドウを100%使用する地域ブランドとして育まれてきました。白鶴酒造がワイン事業を引き継いだことにより、酒造りとブドウ栽培、ワイン醸造を一つの事業基盤の中で結びつける可能性が生まれています。

これは、地域の農産物に新たな用途を与えるだけではありません。酒米の生産者と酒蔵の関係に加え、ブドウ農家やワイナリーとの連携が広がれば、地域の農業を支える仕組みそのものにも変化が生まれます。また、酒蔵を訪れる人にとっても、日本酒だけでなく、ワインや新しい醸造酒を通じて地域の魅力を知る機会が増えます。

ただし、限定商品として話題になることと、継続的な市場を形成することは別の問題です。新しい酒が一時的な珍しさにとどまらず、どのような料理に合うのか、誰に楽しんでもらいたいのか、どのような場面で飲まれるのかまで提案できるかが重要になります。

日本酒の未来を考える時、伝統的な製法や品質を守ることは欠かせません。しかし、伝統を守ることと、新しい可能性を探ることは対立しません。むしろ、長年培ってきた技術があるからこそ、異なる原料や発酵方法に挑戦できるともいえます。

白鶴酒造と神戸ワインのコラボレーションは、日本酒そのものの定義を変えるというより、日本酒造りの技術や発想を、より広い酒類の世界へ展開する試みです。これから重要になるのは、何を日本酒と呼ぶかという議論だけではなく、日本酒の技術がどのような新しい味わいや地域の価値を生み出せるかという問いでしょう。米から始まった酒造りの知恵がブドウと出会ったとき、そこに生まれるのは単なる変わり種ではなく、酒造会社の新たな役割を示す可能性なのです。

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マロラクティック発酵を用いた日本酒の新境地~酸の再設計がもたらす味わいと市場の可能性

ワイン造りでは一般的な工程である「マロラクティック発酵」を、日本酒に応用する動きが静かに広がっています。リンゴ酸を乳酸へと変えるこの発酵は、酸味をやわらかく整える役割を担い、日本酒の味わいにこれまでにない表情を与えます。伝統的な清酒製法の枠を超えたこの挑戦は、日本酒の将来像を考えるうえで重要なヒントを含んでいます。

まろやかな酸が生む新しい酒質

マロラクティック発酵を用いた日本酒の最大の特徴は、酸味の質の変化です。通常の日本酒に見られるシャープなリンゴ酸主体の酸味が、乳酸由来のやさしい酸味へと変わり、口当たりはより丸く、ふくよかになります。ヨーグルトやバターを思わせる乳製品的なニュアンスが感じられることもあり、従来の日本酒像とは一線を画します。

味わいは総じて、「酸が柔らかく角がない」「旨味とコクが前に出る」「余韻が穏やかに続く」という印象を持たれやすく、「日本酒が苦手だった層」にも受け入れられやすい酒質だと言えるでしょう。

温度帯で変わる表情

温度帯による変化も、このタイプの日本酒の魅力です。

冷酒(8~12℃)では、乳酸由来の爽やかさと果実感が際立ち、白ワインに近い印象を与えます。
常温(18~20℃)では、コクと旨味が調和し、丸みのある味わいが最も感じられます。
ぬる燗(40℃前後)にすると、酸味はさらに穏やかになり、ミルキーで包み込むような余韻が広がります。

この温度耐性の高さは、飲用シーンの幅を大きく広げる要素となっています。

料理との相性

料理とのペアリングでも、新たな可能性が見えてきます。

・クリーム系パスタ
・グラタン、ドリア
・チーズ料理
・鶏肉のクリーム煮
・白身魚のムニエル

といった洋食との相性は非常に良好です。また、和食でも湯豆腐や白和え、粕漬けなど、やさしい旨味を持つ料理と調和します。日本酒でありながら、ワインの代替ではなく「第三の選択肢」として食卓に並ぶ存在になり得ます。

日本酒市場への示唆

現在、日本酒市場は若年層や海外市場の開拓という課題を抱えています。マロラクティック発酵を用いた日本酒は、「ワイン愛好層への橋渡し」「食中酒としての汎用性向上」「日本酒の味覚的多様性の提示」という点で、大きな役割を果たす可能性があり、「日本酒にはこういう表現も可能である」という選択肢を市場に提示することができるでしょう。

マロラクティック発酵を用いた日本酒は、単なる技術的挑戦ではありません。それは、日本酒がワインや他の醸造酒と対話しながら、自らの可能性を拡張しようとする試みでもあります。

酸を再設計することで、日本酒は「よりやさしく、より広く」人々に寄り添う酒へと姿を変えつつあります。この流れはまだ小さな潮流に過ぎませんが、やがて日本酒の未来を語るうえで欠かせない一章となるかもしれません。マロラクティック発酵は、日本酒に新しい言葉と居場所を与える技術として、今後も静かに注目を集めていくことでしょう。

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