「県の酒」を入口に、蔵を巡る ~ 滋賀の11年から考える地域ブレンド酒の次の役割

本日、国分首都圏が「千葉の酒蔵」を発売したというニュースが入っています。「東京の酒蔵」「神奈川の酒蔵」に続く第3弾で、「千葉の魅力再発見、手軽にちょこっと千葉地酒」をコンセプトに、飯沼本家の「甲子」と滝沢本店の「長命泉」を使った商品を展開します。

日本酒は、基本的には酒蔵ごとに語られる酒です。銘柄を見れば、どこの蔵が造ったのかが分かり、その蔵が持つ技術や個性が味わいとして表現されます。そうした日本酒の世界では近年、都道府県単位で語られる機会が増えています。そのような中で、複数の酒蔵の酒を一つにする先駆的な取り組みを続けてきたのが滋賀県です。

滋賀県では2015年から「滋賀酒乾杯プロジェクト」が始まり、県内の酒蔵が共同で一つの酒を造る取り組みが行われてきました。2025年には、県内30蔵の純米酒をブレンドした「ALL SHIGA 30酒蔵コラボ純米酒」が発売されています。

ただ、この商品は「FINAL」と位置づけられました。取り組みが失敗したからではありません。もともとの目的の一つに、県内の酒蔵同士の交流と技術研鑽がありました。普段はそれぞれの銘柄を造る酒蔵が、同じ酒を造るために酒を持ち寄り、味わいを確認し、意見を交わす。そうした活動を11年間続けたことで、当初の目的に一定の区切りがついたということです。

この取り組みを振り返ると、地域ブレンド酒には二つの側面があることが分かります。一つは、酒蔵同士をつなぐこと。そしてもう一つは、地域を一つの酒として表現することです。

前者については、滋賀の11年間が一つの成果を示しました。では、今後の地域ブレンド酒では、後者をどのように生かしていくのかが、一つのテーマになりそうです。例えば、ブレンドした酒を「県内○蔵の酒を使った商品」として紹介するだけではなく、それぞれの酒が全体の味わいのどの部分に影響しているのかを示す方法があります。

ある蔵の酒は香りの印象に、別の蔵は酸味に、また別の蔵は米の旨味や余韻に寄与している。そうした情報が分かれば、飲み手は一つのブレンド酒を味わいながら、その背景にある個々の酒蔵にも目を向けることができます。「この味わいはどの蔵の酒から生まれているのだろう」と興味を持つことが、その蔵の酒を単独で飲んでみるきっかけになる可能性もあります。その意味では、地域ブレンド酒は、地域の酒を一つにまとめるだけの商品ではなく、個々の酒蔵へ関心を広げる窓口にもなります。その先に、各酒蔵の銘柄や所在地、酒蔵を訪ねるための情報などがあれば、一本の酒から個々の蔵へ、さらに地域そのものへと関心が広がっていくことも考えられます。

これは、酒蔵側にとっても意味があることだと思われます。地域ブレンド酒では、一つひとつの蔵の銘柄が前面に出るわけではありません。しかし、その代わりに「この地域には、これだけの酒蔵がある」という存在そのものを伝えることができます。そして、地域の酒蔵に興味を持った人が、それぞれの蔵の酒を飲み比べるようになれば、ブレンド酒と個別銘柄は競合するものではなく、むしろ相互に行き来する関係になります。

滋賀の「ALL SHIGA」が11年間にわたって果たしてきたのは、まず酒蔵同士を結び、技術交流を促す役割でした。その取り組みが一区切りを迎えた今、同じような地域ブレンド酒を考えるのであれば、地域振興をより大きな目的として位置づける時期に来ているのかもしれません。

一つの酒に地域を集約し、その酒を飲んだ人が、そこに含まれている一つひとつの酒蔵を知っていく——地域ブレンド酒の価値は、何蔵もの酒を一つにすることだけではありません。その一杯の向こう側に、個々の酒蔵と、その酒が生まれた土地が見えてくるところにもあるのではないでしょうか。

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帰ってきた「パ酒ポート」

滋賀県内31の酒蔵を巡るスタンプラリー企画「パ酒ポート2026 近江の地酒版」が、7月17日から12月31日まで開催されます。2017年、2018年に実施されて以来、およそ10年ぶりの復活となる企画で、滋賀県とびわこビジターズビューローが実施する観光キャンペーン「戦国ディスカバリー 滋賀・びわ湖」の特別企画として展開されます。

参加方法はシンプルです。500円で販売される「パ酒ポート」を購入し、県内31酒蔵(スタンプ設置は27蔵)を巡ってスタンプを集めます。酒蔵ではパ酒ポートを提示することで、お猪口やコースターなど各蔵オリジナルの特典が受けられるほか、スタンプ数に応じて限定日本酒やオリジナルグッズなどが当たる抽選にも応募できます。また、各酒蔵の歴史や代表銘柄、蔵人の思い、酒蔵見学のマナー、近江の郷土料理まで掲載されており、ガイドブックとしても十分に楽しめる内容となっています。

今回のニュースで興味深いのは、「なぜ今、この企画が復活したのか」という点です。もちろん直接的な理由としては、今年から始まった「戦国ディスカバリー 滋賀・びわ湖」や、今後予定されている「滋賀デスティネーションキャンペーン」のプレイベントとして観光を盛り上げる狙いがあります。しかし、それだけでは約10年ぶりに企画を復活させる理由としては弱いように感じます。むしろ背景には、日本酒を取り巻く環境そのものの変化があるのではないでしょうか。

ここ数年、日本酒業界では「酒を飲む」だけではなく、「酒蔵へ行く」「造り手に会う」「地域を歩く」という体験価値が急速に重視されるようになりました。酒蔵ツーリズムや地域限定酒、酒蔵カフェ、宿泊施設との連携など、各地で「旅」と「日本酒」を組み合わせる取り組みが増えています。

日本酒は、ワインのように土地の風土や文化と切り離して語ることができない酒です。その土地の水、米、気候、人の営みが一本の酒に凝縮されています。だからこそ、酒蔵を訪れること自体が、日本酒をより深く理解する体験になるのです。

また、近年は日本酒ファンの層も変わりました。若い世代を中心に「御朱印帳」や「道の駅スタンプラリー」のような収集型コンテンツが人気を集めています。パ酒ポートは、こうした「集める楽しさ」と「旅の達成感」を日本酒に取り入れた先駆的な企画だったとも言えます。

さらに、SNS時代になったことも復活を後押ししたでしょう。酒蔵巡りの写真や限定特典、お気に入りの一本との出会いは、投稿したくなる魅力にあふれています。一人ひとりの旅の記録が、そのまま滋賀の酒蔵の魅力を発信する広告にもなります。

今回のパ酒ポートには31酒蔵が参加しています。これは単なるスタンプラリーではなく、「滋賀県全体を一つの酒蔵テーマパークにする」という発想にも近いものです。一つの蔵だけではなく、県全体で来訪者を迎え入れる仕組みが構築されている点に、この企画の価値があります。

日本酒業界は今、海外輸出やプレミアム化が注目されています。しかし、その一方で国内市場を支えるのは、実際に酒蔵へ足を運び、地域を好きになってくれるファンです。そうしたファンを育てる仕組みとして、「パ酒ポート」のような企画は非常に理にかなっています。

約10年ぶりの復活は、単なる懐かしさからではありません。「日本酒は飲むだけではなく、訪ねて楽しむ時代になった」という業界の変化を象徴する出来事なのです。そして、この成功は、滋賀県だけでなく、全国の酒蔵周遊企画にも新たな可能性を示すことになるでしょう。

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