日本酒の「本物」をどう証明するか ~ 白鶴が導入したトレーサビリティの意味

日本酒の価値を決めるものは、米や水、造り手の技術だけではありません。特に高価格帯の商品になると、「その商品が本当に蔵元から出荷されたものなのか」「誰の手を経て、どこで販売されたのか」といった、製品そのもの以外の情報も重要になってきます。

そんな中、8月31日、白鶴酒造が高級日本酒ブランドに、SBIトレーサビリティ株式会社のトレーサビリティ・サービス「SHIMENAWA(しめなわ)」を導入したと発表しました。対象となるのは、「超特撰 白鶴 天空 袋吊り 純米大吟醸」の山田錦と白鶴錦です。

SHIMENAWAとは、ICタグであるRFIDやNFCと、ブロックチェーン技術を組み合わせたサービスです。商品一つひとつに固有のIDを持たせ、その商品に関する情報をデジタル上で紐付けて管理します。真正性の確認だけでなく、利用・配布履歴、入出荷や在庫管理、デジタルコンテンツの提供などにも利用できます。

今回の白鶴の取り組みでは、封緘紙に開封検知機能付きのNFCタグを組み込みました。消費者は専用アプリを用意する必要がなく、スマートフォンをタグにかざすだけで、その商品が正規品であることや、開封されたかどうかを確認できます。さらにタグへのアクセス情報はブロックチェーン上で記録・管理されます。

ここで重要なのは、これが単なる「偽物対策」にとどまらないことです。日本酒の海外市場が広がる一方で、高価格帯の商品ほど、偽造や不正流通によってブランド価値を損なう可能性が指摘されていました。国内であれば蔵元と販売店の関係を比較的把握しやすくても、海外では流通経路が複雑になり、商品がどこに渡ったのかを追跡することが難しくなります。そこで、一本一本の商品にデジタル上の「身分証明書」を持たせるわけです。

しかも、SHIMENAWAの特徴は、消費者が情報を確認できるだけではありません。商品の出荷先情報を紐付けることで正規流通の管理に利用できるほか、タグへのアクセスを通じて、購入後の商品がどこで確認されたのかといった情報を把握することも可能です。これは、日本酒業界にとって意外に大きな意味を持つのではないでしょうか。

これまで酒蔵にとって重要だったのは、「良い酒を造ること」と「それを販売すること」でした。しかし高級酒が増え、海外市場も拡大するこれからは、「その酒がどのように流通し、最終的に誰に選ばれたのか」まで含めて商品を管理する必要性が高まります。

一方で、すべての日本酒に同じ仕組みを導入すればよいという話でもありません。タグの導入や情報管理にはコストがかかります。日常的に飲まれる商品よりも、希少性が高く、価格も高い商品から導入する方が合理的でしょう。今回、白鶴が「天空」のような高付加価値商品にSHIMENAWAを採用したことは、その意味でも象徴的です。日本酒の高価格化が進むと、「なぜ高いのか」を説明する必要も出てきます。原料や製法だけではなく、蔵元から消費者までの過程そのものを透明にする。そうすることで、価格に対する納得感を生み出すこともできます。

これからの日本酒に求められる「品質」とは、味や香りだけではないのかもしれません。どこで造られ、どこを通り、そして本当にその酒であることを証明できるのか——日本酒が世界の商品になっていく中で、トレーサビリティは「偽物を防ぐための技術」から、「日本酒そのものへの信頼を可視化する技術」へと、その役割を広げていく可能性があります。今回の白鶴の取り組みは、その変化を示す一例と言えそうです。

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