日本盛が9月16日から「日本盛 超辛口」をリニューアル発売します。今回の最大の変更点は、日本酒度を従来の+8.0から+12.0へ引き上げたことです。日本盛は、よりシャープなキレ、きりっとした口当たり、すっきりしたのどごしを実現するために酒質を刷新したと説明しています。
しかし、ここで興味深いのは「なぜ、いま、さらに辛口なのか」という点です。日本盛によれば、今回の開発では単純に辛さだけを追求したわけではありません。辛さを強めすぎると味わいが薄くなってしまうため、酸味やアミノ酸などの旨味とのバランスを細かく調整し、「突き抜けた辛さ」と「旨さ」の両立を目指したとしています。つまり+8から+12への変更は、単なる数字競争ではなく、辛口でありながら飲み応えを失わない酒質を狙った変更と見ることができます。
そもそも日本酒度とは、酒の比重を基準にした数値で、一般的にはプラスになるほど「辛口」、マイナスになるほど「甘口」の目安として使われます。ただし、日本酒度だけで実際の味覚が決まるわけではありません。酸度やアミノ酸度、アルコール、香りなどによって、同じ日本酒度でも飲んだときの印象は大きく変わります。それでも「+10」「+12」「+15」といった数字が商品説明の中で目を引くのは、消費者にとって非常に分かりやすい指標だからでしょう。実際、現在でも日本名門酒会の商品には日本酒度+12~+13程度の「超辛口」が存在します。
一方で、最近の日本酒市場全体を見ると、「日本酒度の高い酒だけが求められている」と考えるのは少し違います。華やかな香り、甘味、酸味、低アルコール、発泡感など、従来の「甘い・辛い」という二軸では説明しにくい酒が増えています。日本酒度-10以下の甘口酒も珍しくなくなり、甘さを酸で引き締めることで、従来とは違う「飲みやすさ」を作る商品もあります。
だからこそ今回の「+12」は、単純な「昔ながらの辛口への回帰」と見るより、日本酒度という古くからある尺度を、現代の消費者に向けてもう一度分かりやすく提示する動きと捉えた方が面白いのではないでしょうか。
特に注目したいのは、今回の日本盛が「+12」という数字そのものをパッケージ上でも強く打ち出していることです。「超辛口」という言葉と数字を組み合わせることで、売り場で一瞬にして商品の個性を伝えようとしています。つまり、日本酒度は「味を正確に表現する数字」から、「商品を選ぶための記号」へと役割を変えつつあるのかもしれません。これは日本酒業界にとって重要な変化です。消費者が「+12だから辛い」と理解して購入し、実際に飲んで「思ったほど辛くない」「意外に旨味がある」と感じれば、そこから酸度やアミノ酸度、製法などへの関心も生まれます。
数字は味そのものではありません。しかし、数字が入口になることで、日本酒の奥深さに入っていくことはできます。「日本酒度+12」という今回の数字は、単に「もっと辛い酒を造りました」という意味ではありません。むしろ、甘口・辛口という分かりやすい入口を使いながら、その先にある「辛口とは何なのか」を問い直す商品なのではないでしょうか。
これからの日本酒では、「日本酒度が高い=おいしい」でも「低い=甘くて飲みやすい」でもありません。重要なのは、その数字をどのような酸味、旨味、香り、余韻と組み合わせるかです。日本酒度+12という一見シンプルな数字の裏側には、実は「数字だけでは味を語れない」という、現代の日本酒造りの難しさが隠れているのです。
