石川県小松市の東酒造が、天然水ブランド「霧島天然水 のむシリカ」を仕込み水に使用した限定酒「神泉 純米吟醸 旨口 のむシリカ仕込み」を発売しました。販売元の株式会社Qvouによる企画で、2026年11月6日から公式サイトで先行販売が始まっています。
東酒造は1860年創業の酒蔵で、地元小松の米や金沢酵母など、地域に根差した酒造りを続けてきました。今回の酒は、五百万石74%、山田錦20%、もち米6%を使用し、精米歩合60%、アルコール分14.5%の純米吟醸酒です。昔ながらの四段仕込みを採用し、甘みと旨みを持ちながら、後味の切れを意識した酒質に仕上げています。
特徴は、通常の仕込み水に代えて、シリカを1リットル当たり97mg含む中硬水の「のむシリカ」を使用したことです。杜氏は、搾りたての口当たりについて、通常とは異なるなめらかさを感じたとコメントしています。また、この酒は2025年のフェミナリーズ世界ワインコンクールで金賞を受賞したと発表されています。製造数は3,000本で、うち1,000本が先行販売の対象となります。
水のブランドが酒のブランドになる可能性
日本酒の原料として、米と並んで重要なのが水です。日本酒の約8割を占める水は、仕込みだけでなく、洗米や浸漬、割水など、製造工程のさまざまな場面で使われます。さらに、水に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラルは、酵母や麹菌の働きにも関係し、発酵の進み方や酒質に影響を与えます。
そのため、酒蔵は古くから水にこだわってきました。名水のある土地に酒蔵が集まり、地域の水が酒の個性を形づくってきた歴史もあります。しかし、今回の取り組みは、そうした地域の水を使うという従来の考え方に加え、すでに市場で認知されているブランド水を酒造りに取り入れた点に特徴があります。
これは、酒蔵にとって新しい可能性を持っています。水の採水地や成分、ブランドが持つイメージを日本酒の価値に結びつけることができれば、これまで日本酒に関心の薄かった消費者にも接点をつくれます。水のブランド側にとっても、自社商品を飲料水としてだけでなく、発酵食品の原料として訴求できるメリットがあります。異業種のコラボレーションが、双方の顧客を広げるきっかけになるわけです。
一方で、ブランド水を使えば必ずおいしい日本酒になるわけではありません。水の硬度やミネラル組成が発酵に及ぼす影響は、米や酵母、麹、温度管理などとの組み合わせによって変わります。重要なのは、ブランドの知名度ではなく、その水を使うことでどのような酒質が生まれるのかを明らかにすることです。
今後は、同じ酒米や酵母、製法を用いて水だけを変えた比較醸造や、成分分析、官能評価などを積み重ねることで、ブランド水を使う意味がより明確になるでしょう。また、地域の天然水と全国流通するブランド水を組み合わせることは、酒蔵と水の産地との新たな関係づくりにもつながります。
今回の「神泉」の取り組みは、単なる話題性のある限定商品ではなく、日本酒の原料としての水に新しい価値を見いだそうとする試みです。これまで酒蔵は、米や酵母、製法によって個性を競ってきました。そこに水のブランドという新しい選択肢が加われば、日本酒の商品開発はさらに広がる可能性があります。ブランドの力を借りるだけでなく、水そのものが生み出す味わいを消費者に伝えられるか。それが、この取り組みの今後を左右することになるでしょう。