富山県砺波市の立山酒造が、炭酸割り専用の日本酒「タテヤマサンダー」を発売したというニュースが話題になっています。7月から試験販売されるこの商品は、「日本酒を炭酸で割る」ことを前提に酒質を設計した意欲作であり、従来の「日本酒はそのまま飲むもの」という常識に一石を投じる商品と言えるでしょう。
昨年、日本酒業界では「酒ハイ」が大きな注目を集めました。酒ハイとは、日本酒と炭酸水を1対1程度で割って楽しむ新しい飲み方です。日本酒需要創造会議を中心にメーカーや流通各社が普及活動を展開し、飲食店でも提供が始まりました。若い世代や日本酒初心者でも飲みやすく、食中酒としても楽しみやすいことから、「日本酒版ハイボール」として期待を集めたのです。
しかし昨年の段階では、「酒ハイ」はあくまで飲み方の提案でした。どの日本酒を使うかは飲食店や消費者に委ねられ、既存の商品を炭酸で割ることが基本でした。それが今年になって、大きな変化が見え始めています。
立山酒造の新商品は、「炭酸で割ることを前提に造る」という発想へ踏み込んでいます。炭酸で割っても香りや旨味が薄まらず、日本酒らしい味わいを維持できるよう設計されており、「酒ハイ」という飲み方そのものを商品化したと言っても過言ではありません。これは日本酒業界にとって大きな意味があります。
新しい飲み方が定着するためには、「飲み方を提案する」だけでは不十分です。その飲み方に最適化された商品が生まれ、市場に並び始めて初めて、一つのカテゴリーとして認知されます。ビールには糖質オフがあり、ワインにはスパークリングがあり、ウイスキーにはハイボール向けの商品があります。同じように、日本酒にも「酒ハイ専用」という新しいジャンルが生まれようとしているのです。
実際、この一年間で酒ハイの普及活動は着実に進んでいます。展示会では各メーカーが酒ハイ提案を強化し、飲食店向けにはさまざまなアレンジレシピも紹介されています。また、大型商業施設では「酒ハイに出会う夏」といったイベントが開催され、日本酒を炭酸で楽しむ文化そのものを広げる取り組みも行われています。つまり今年は、「酒ハイ」という言葉を知ってもらう段階から、「酒ハイを楽しむための商品を選ぶ段階」へ移りつつあると言えるでしょう。
もちろん、すべての日本酒が炭酸割り向きになるわけではありません。吟醸酒の華やかな香りをそのまま味わいたい人もいれば、燗酒を好む人もいます。従来の楽しみ方がなくなることは決してありません。しかし、日本酒人口を増やすという観点では、「入口」を広げることが何より重要です。「日本酒は度数が高くて飲みにくい」「難しそう」というイメージを持つ人にとって、爽快感のある酒ハイは非常に親しみやすい存在になります。その入口から日本酒そのものに興味を持ち、純米酒や吟醸酒へと世界を広げていく人も少なくないでしょう。
立山酒造の挑戦は、単なる新商品の発売ではありません。「酒ハイ」を一過性のブームではなく、新しい日本酒文化として定着させようという意思表示でもあります。昨年は「酒ハイ」という言葉が広まった一年でした。そして今年は、その酒ハイを支える専用商品が各地で登場し始める一年になるかもしれません。もしその流れが加速すれば、日本酒は「冷酒」「燗酒」に加えて、「炭酸で楽しむ酒」という第三の定番を手に入れることになります。立山酒造の新商品は、その新しい時代の幕開けを告げる一本として、大いに注目される存在となりそうです。
