日本酒GI指定が拡大!京都・鳥取・福岡を新たに登録。地域ブランド確立へ新たな一歩

2025年10月1日、国税庁は酒類の地理的表示(GI:Geographical Indication)として「京都」「鳥取」「福岡」の3地域を新たに指定しました。産地の特性や伝統的な醸造技術を背景とする品質が国により公式に保証され、これまで以上に国内外でのブランド価値が強化されることになります。日本酒にとっては、消費者の信頼を高めるだけでなく、海外市場開拓の大きな後押しとなる出来事です。

GI制度の概要とこれまでの歩み

GI制度は、地域の自然条件や文化に根差した農林水産物・酒類を保護し、その名称を独占的に使用できるようにする仕組みです。清酒では2005年に「GI白山(石川県白山市)」が初めて登録され、2016年には県単位で初となる「GI山形」が誕生しました。その後、「GI三重」「GI山梨」「GI佐賀」「GI長野」「GI新潟」「GI滋賀」「GI岩手」「GI静岡」「GI青森」と続き、さらにエリアとして「GI灘五郷」など、今回の指定前までに20の地域が登録済となっています。今回、3地域が同時に登録されたことは初めてであり、日本酒のGI制度史における大きな節目となります。

ところで、GI指定を受けるということは、その地域名を冠する清酒を国が保証する形となり、模倣品や不正使用からブランドを守るという効果があります。また、国際的に通用する制度であるため、海外輸出においても信頼性が高まるのです。近年はフランスやイタリアなどワイン文化を持つ国々で日本酒の関心が高まっており、「GI」の表示は市場開拓の強力な武器となります。

すでにGI指定を受けた地域では、観光振興や輸出拡大に向けた取り組みが加速しています。山形では「GI山形」を軸にした試飲イベントや海外プロモーションが展開され、県産米の使用率向上にもつながりました。灘五郷(2023年指定)では酒蔵巡りとGI認証を組み合わせた観光施策が進められ、ブランド力の強化に寄与しています。

京都・鳥取・福岡の特色と狙い

京都

伏見を中心に千年以上の酒造りの歴史を誇る地域です。古都のイメージや観光資源を活かした高付加価値戦略が期待されます。

鳥取

県内18蔵が結束し、「鳥取の酒」として統一的に発信。欧州やアジア市場への展開を視野に、まとまりあるブランド戦略を志向しています。

福岡

筑後川流域の水系と米を活かし、九州最大の酒どころとして知られます。流通拠点性を背景に、国内外販路の拡大を見据えた輸出促進が進められる見通しです。

品質基準の明確化と課題

今回のGI指定は、域内酒蔵にとって品質基準の明確化を意味します。一定の水準を保つことで地域全体の評価が底上げされ、個々の銘柄への信頼も高まる効果が見込まれます。特に若手蔵や小規模蔵にとっては、GIという共通ブランドを足がかりに存在感を増すことができます。

ただし、基準遵守には検査や管理コストが伴い、小規模蔵には負担となる可能性もあります。また「地域名」の共有は統一感を生む一方で、個性が埋没する懸念も否定できません。制度を活かすには、産地内の品質管理体制の整備や農家との連携、観光・食文化との融合による付加価値創出が重要です。

過去の指定地域では、観光客誘致や地元米の利用拡大が進み、長期的には生産基盤の安定化や設備投資の増加につながる例も見られます。ただし、即効的な経済効果を生むためには、地域ぐるみの戦略立案と、国内外市場への継続的な発信が欠かせません。


今回の「京都」「鳥取」「福岡」のGI指定は、日本酒の地域ブランド化を一段と進める大きな転機です。指定という“公的なお墨付き”をどう活かすか──地域の蔵元、農家、観光事業者が協働し、個性を守りつつも世界市場へ挑む姿勢が今後の成否を分けるでしょう。GIが「看板倒れ」とならないよう、地域全体での連携と持続的な魅力づくりが問われることになります。

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10月1日は「日本酒の日」 歴史と現在、そして未来への課題

10月1日は「日本酒の日」と定められています。酒造業界にとって、この日は単なる記念日以上の意味を持っています。そもそも「日本酒の日」が生まれたのは1978年、日本酒造組合中央会が制定したことに始まります。その背景には、酒造年度が10月に切り替わるという伝統的な習わしがあります。昔から新米の収穫が秋に始まり、それを原料とする酒造りが10月から翌年にかけて本格化することから、酒蔵にとっての「一年の始まり」は10月でした。また十二支の「酉」が「酒壺」を意味する文字であることも後押しし、10月1日が象徴的な日として選ばれたのです。

近年では、この日を機に日本酒の魅力を広める取り組みが各地で行われています。今年も全国の酒蔵や飲食店が趣向を凝らしたイベントを準備しています。東京や京都などの都市部では試飲会や蔵元との交流イベントが予定され、地方都市では地域色を活かした酒祭りや利き酒ラリーも開催されます。さらにオンラインでも蔵元とつなぐリモート試飲会や、日本酒と料理のペアリング体験企画が予定され、コロナ禍を経て定着した「デジタルでの日本酒体験」も健在です。今年は特に若い世代へのアプローチが重視され、SNS連動のキャンペーンや、音楽・アートと組み合わせたイベントが注目を集めています。

過去の「日本酒の日」にも、話題を呼んだ出来事が少なくありません。2015年には全国の酒蔵が同時刻に一斉乾杯を呼びかける「全国一斉日本酒で乾杯!」キャンペーンが行われ、大きな広がりを見せました。また、近年では「メガネの日」と同じ10月1日であることにちなみ、「メガネ専用」と名付けたユニークな日本酒が発売され、SNSを中心に話題になりました。これらは「日本酒の日」がまだ広く知られていない中で、人々に関心を持たせる工夫の一例といえるでしょう。

しかし、フランスワインの「ボージョレ・ヌーヴォー解禁日」と比べると、その知名度は依然として高いとはいえません。ボージョレが国を挙げた輸出戦略やメディアの徹底した情報発信を背景に、季節の一大イベントとして根付いたのに対し、「日本酒の日」は広報のスケールも限られてきました。また、日本酒は種類や飲み方が多様であるため「統一的な楽しみ方」を打ち出しにくい点も普及の難しさにつながっています。

本来、「日本酒の日」は新米を使った仕込みが始まる「仕事始めの日」であり、新酒を並べる解禁イベントではありません。けれども、秋の訪れを告げるこの時期は、ちょうど「ひやおろし」が旬を迎え、さらに旧暦9月9日の「重陽の節句」にも近いことから、熟成を経て味わいが深まり、燗にすると一層映える酒の魅力を伝える絶好のタイミングです。新たに仕込み始める期待感と、前年に仕込まれた酒の円熟を楽しむ喜びが重なる時期こそ、まさに日本酒文化の奥行きを示すものといえるでしょう。市場にとっても、秋から冬にかけての熟成酒を戦略的に打ち出し、食文化と結びつけて広めていく大きなチャンスを秘めています。

しかし現状を見ると、「日本酒の日」の知名度は全国でわずか5%にとどまるとされ、制定から40年以上を経た今も、愛好家や関係者のあいだでの小さな祭りにとどまっているのが実情です。残念ながら、その間に国内市場は縮小を続け、若い世代や海外市場への訴求も十分とはいえません。つまり業界の枠を超えて、一般消費者を巻き込む「共通体験」としての魅力を打ち出せなければ、市場の尻すぼみを食い止める力を発揮できないのです。

そのためには、「立春朝搾り」のように全国規模で統一された分かりやすい仕掛けをつくり出すことが求められます。例えば、10月1日に合わせて「全国一斉ふるまい酒」を実施し、参加者には、インターネット上で投票や交流ができる「日本酒SNS」に招待するなどというシステムを作ってみてはどうでしょうか。デジタル時代にふさわしい双方向型の企画を取り入れることで、単なる飲酒の記念日から「みんなで参加し、語り合い、日本酒を再発見する日」へと進化させることもできるのではないでしょうか。

酒蔵の仕事始めの日としての原点を大切にしつつ、旬の「ひやおろし」や燗酒文化を前面に打ち出し、さらに全国の消費者がオンライン・オフラインを問わず一斉に参加できる仕掛けを組み合わせること。そうした工夫が積み重なって初めて、「日本酒の日」は伝統の継承だけにとどまらず、新しい市場を切り開く力を持つ一大行事へと成長していくのではないでしょうか。

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