雪国から生まれる循環の酒──津南醸造が描くサステナブルな日本酒の未来

新潟県津南町に蔵を構える津南醸造は、2025年10月23日から25日にかけて開催されたフードテックカンファレンス「SKS JAPAN 2025」の街中展示企画「食のみらい横丁」に出展しました。同蔵が紹介したのは、純米大吟醸「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」です。雪国のテロワールを象徴する一本として注目を集めましたが、今回の展示で特に焦点となったのは、その味わいだけでなく「サステナビリティ(持続可能性)」というテーマでした。

雪国の気候を生かす「自然冷蔵庫」

津南町は日本有数の豪雪地帯として知られています。冬には積雪が3メートルを超えることもあり、その雪は厳しい自然環境であると同時に、津南醸造にとっては貴重な資源でもあります。蔵では雪室を利用した貯蔵や温度管理を行っており、電力使用量を大幅に抑えています。つまり、雪の冷気がゆるやかに温度を安定させることで、機械による制御を最小限にし、エネルギーコストを削減しながら酒質の安定を実現しているのです。

この「雪の冷蔵庫」は、自然エネルギーを活かした地域ならではの持続可能な仕組みといえます。雪を敵ではなく味方にする発想が、雪国テロワールの根幹にあります。

米・水・人がつなぐ地域循環

「郷(GO)」シリーズの大きな特徴は、原料米に魚沼産コシヒカリを使用している点です。一般的には食用米として知られるコシヒカリですが、津南醸造はその香味の豊かさに注目し、酒造好適米ではなく地元農家と連携して栽培した食用米を用いています。これにより、農家の販路拡大につながり、地域経済の循環を促しています。

また、仕込み水には信濃川源流域の伏流水を使用しています。この清冽な水は雪解けとともに山々から流れ込み、町の水田を潤します。その水が再び酒となって人々の手に戻るという循環こそ、津南醸造が掲げる「雪国サステナビリティ」の象徴です。

フードテックと伝統の融合

今回のSKS JAPANでは、「未来の食」をテーマにテクノロジーと環境への配慮を取り入れた食品が多く出展されました。その中で津南醸造は、伝統的な日本酒という枠組みを超え、自然環境との共生を軸に据えた「地域循環型のフードシステム」としての酒造りを提示しました。

蔵では再生可能エネルギーの導入や廃棄物削減の取り組みも進めています。酒粕は堆肥化され、再び米作りへと還元されます。さらに、瓶や包装資材にもリサイクル素材を積極的に活用し、輸送過程でも二酸化炭素の排出を抑える努力を続けています。

雪国から世界へ──持続可能な味わい

津南醸造の挑戦は、単に環境に優しい酒造りというだけではありません。地域の自然と人の営みを一体化し、未来に継承できる「酒文化の生態系」をつくることを目指しています。

雪国が抱える厳しい気候を逆に資源として捉え、地域全体で支え合う循環のモデルは、世界のサステナブルフードの潮流にも通じます。「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」は、雪国の恵みを凝縮した一本であり、環境と共存する新しい日本酒の在り方を示す『未来の郷土酒』といえるでしょう。

▶ 食卓に寄り添う魚沼の新風:津南醸造「郷(GO)TERRACE」始動

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「堅あげポテト あさりの酒蒸し味」登場──『あまいすえひろ』に寄り添う、日本酒専用スナックの誕生

カルビーが発表した10月27日からの新商品「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」が、いまにわかに注目を浴びています。その理由は、単なる新フレーバーの登場ではなく、会津若松の老舗・末廣酒造の純米酒「あまいすえひろ」に合わせて開発された『日本酒専用スナック』だからです。これまでの「食に合わせて日本酒を選ぶ」発想から、「日本酒に合わせて食をデザインする」発想へ──日本酒文化が新たなフェーズに入ったことを象徴する一品と言えます。

『あまいすえひろ』のやさしい甘みに寄り添う味設計

末廣酒造は嘉永3年(1850年)創業の老舗蔵で、「伝統を守りながら新しさを創る」姿勢で知られています。その純米酒「あまいすえひろ」は、まろやかな米の甘味と軽やかな酸味が調和する、優しく包み込むような味わいが特徴です。アルコール度数はやや低めで、食中酒としてもデザート酒としても楽しめる柔軟さを持っています。

今回の「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」は、この「あまいすえひろ」の持つ米の甘味と繊細な香りを引き立てるように、あさりの旨みと酒蒸しの風味を重ね合わせたといいます。あさりのだし感が日本酒の甘みを引き立て、香ばしいポテトの余韻が酒の酸をやさしく包み込む。まさに、「酒をおいしくするための菓子」として設計された逸品です。

『食が日本酒に寄り添う』という新しい文化の兆し

これまでの日本酒ペアリングは、料理に合わせて酒を選ぶのが一般的でした。刺身には吟醸、煮物には純米、天ぷらには本醸造――というように、食材の特性を基準に酒が選ばれてきました。しかし、この商品はまったく逆。まず特定の日本酒があり、その味わいを最大限に引き出すために、スナックの味が組み立てられています。

この発想の転換は、まさに日本酒の楽しみ方を拡張するものです。スナックという軽やかなフォーマットに日本酒の魅力を組み合わせることで、これまで「日本酒は難しい」「食事の時だけ」と感じていた層にも、新しい入り口を提示しています。特に「あまいすえひろ」のようなやわらかな味わいの酒は、女性層や若年層にも人気があり、その層と親和性の高いスナックとのコラボは、非常に理にかなっていると言えるでしょう。

カルビーの「堅あげポテト」は、厚切りのじゃがいもをじっくり揚げることで生まれる独特の硬質食感と、素材の香りを引き出す低温仕上げが特徴です。今回の「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」では、その技術が活かされ、咀嚼のたびに広がる貝の旨味が、あまいすえひろのやさしい甘香と重なり合います。

日本酒が主役の時代へ──ペアリングの未来

今回のコラボは、食品メーカーと酒蔵の協業が進む中でも特に象徴的な事例です。ワインやウイスキーでは「ペアリングフード」の発想が定着していますが、日本酒でこれほど明確に『銘柄指定』で味を合わせたスナックは、ほとんど前例がありません。

この動きは、日本酒の「嗜好品としての再定義」にもつながります。すなわち、日本酒が料理を支える脇役ではなく、食体験の中心に立つ主役へと変わりつつあるということです。今後、他の酒造や地域限定銘柄とのタイアップも増えることでしょう。

『カルビー×末廣酒造』という異業種のタッグが生み出した「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」。それは、スナックの世界に日本酒文化を融合させた『味の交差点』であり、日本酒が日常の中に自然に溶け込む未来を予感させる試みです。

日本酒を主役に据えた一袋──その小さな革命が、家庭の晩酌をより豊かな時間へと変えていくに違いありません。

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シャンパンファイトに変わるか『AWA SAKE』~ドジャースとともに闘う八海山

新潟県南魚沼市の老舗蔵「八海醸造」は、メジャーリーグ・ロサンゼルス・ドジャースのリーグ優勝を記念した限定ボトル「八海山 ドジャース リーグチャンピオン記念ボトル」を発表しました。球団公式パートナーとして契約を結ぶ同社が、優勝の節目に合わせて記念酒をリリースするのは初の試みです。すでにアメリカ国内のファンや日本の野球ファンの間で話題となり、単なる限定酒にとどまらず、『日本酒が世界の祝祭に登場する瞬間』として注目を集めています。

日本酒をメジャーに導く八海山

八海山は、長年にわたり「淡麗辛口」を象徴する銘柄として国内外にファンを持つ蔵です。清冽な南魚沼の水と精緻な温度管理によるキレのある味わいは、アメリカ市場でも『HAKKAISAN』ブランドとして定着し、寿司店や高級レストランなどで高い評価を得ています。

今回の記念ボトルは、そうした国際展開の延長線上にあります。ドジャースという世界的チームとのコラボレーションは、日本酒がもはや「輸出される伝統産品」ではなく、「文化を共有する象徴的存在」へと進化していることを示しています。

スポーツという喜びを共有する舞台で日本酒が祝杯の中心に登場することは、文化的にも極めて意義深いことです。長年、勝利や祝福の瞬間にはシャンパンが定番とされてきましたが、そこに日本酒が並び立つ姿は、日本文化の新たな国際的地位を象徴します。特に八海山には、シャンパンを標榜する『AWA SAKE』があり、その清らかな酒質は、スポーツの美学にもよく似合うと思われます。

近年、日本酒の海外展開は「飲まれる」から「語られる」段階へと変化しています。八海山のような蔵が、スポーツや文化イベントと連動する動きを見せるのは、単なる販売促進ではなく、「体験価値」を生み出す戦略といえます。

ドジャースとの提携によって、八海山は国際的なブランドとしての存在感を強化しつつあります。これは他の酒蔵にとっても大きな刺激となるでしょう。音楽・映画・アートなど、異業種とのコラボレーションによる文化発信が今後さらに広がれば、日本酒が『文化資産』として世界の舞台に定着する可能性が高まります。

ワールドチャンピオンの瞬間には『AWA SAKE ファイト』を

今回のリーグ優勝記念ボトルの発売は、八海山が次のステージを見据えていることを示しています。現時点でこれほど話題性のある限定品を打ち出してきたことからも、もしドジャースがワールドチャンピオンに輝いた暁には、さらなる特別企画が待っているのではないかと期待されます。

そして、その瞬間には、シャンパンファイトならぬ「八海山 AWA SAKE ファイト」を見たい——そう願うファンも少なくないでしょう。八海山のスパークリング日本酒「あわ 八海山(AWA SAKE)」は、細やかな泡と上品な香りで、まさに祝杯にふさわしい一本です。もしその AWA SAKE がロッカールームで勢いよく開栓され、勝利の喜びを共有する姿が見られたなら、それは日本酒文化が世界に完全に受け入れられた瞬間になるはずです。


日本酒が国境を越え、祝祭の象徴となる未来。その先頭を走るのが八海山であり、今回のドジャース優勝記念ボトルはその道を切り拓く第一歩です。次なる舞台は、ワールドシリーズの頂点。もし再び八海山が勝利の瞬間を彩ることになれば、日本酒の新たな歴史が、世界の歓声とともに刻まれることになるかもしれません。

▶ 「美味しいお酒」が「SAKE」に! 大谷翔平選手MVPインタビュー通訳が生んだ日本酒への熱視線

▶ 日本酒をメジャーに導く、ドジャース公式日本酒「特別本醸造 八海山 ブルーボトル」

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全国で広がる「呑み鉄」文化|列車で楽しむ地酒イベントと日本酒ツーリズムの未来

このところ、列車に揺られながら日本酒を楽しむユニークな旅 ―――いわゆる「呑み鉄(のみてつ)」スタイルのイベントが全国各地で盛り上がっています。たとえば、東日本旅客鉄道新潟支社の「越乃Shu*Kura」は、2014年から運行され、車内で新潟の地酒を味わえるとして人気となっています。
また今月25日には、関東鉄道常総線(水海道−下館駅間)で、地元の酒やつまみを車内で味わえる「日本酒列車」を運行するとあって注目されているほか、山陽新幹線でも、「一滴一駅~新幹線酒めぐり~」という11月のイベントが話題を呼んでいます。

呑み鉄とは何か

「呑み鉄」とは、元来「酒を飲みながら列車旅を楽しむ」鉄道ファンのスタイルを指します。テレビ番組 六角精児の呑み鉄本線・日本旅(NHK-BS)では、俳優で鉄道ファンでもある 六角精児 さんが各地のローカル線を巡り、車内で缶ビールやお酒を嗜み、沿線の酒蔵を訪ねる旅を紹介しており、この番組を通じて「呑み鉄」という言葉が一般にも広く知られるようになりました。

鉄道旅とお酒、地域文化が結びつくことで、「ただ乗る」「ただ飲む」だけではない、『旅と酒と鉄道』が三位一体となった遊び方として注目されてきたのです。たとえば、旅先の沿線風景を眺めながらお酒を一口含むと、列車の揺れや車窓の景観が酒の味わいを引き立て、旅そのものが特別な体験になります。実際、六角精児さんも「車内で泥酔しない」「列車を目的地ではなく移動そのものを楽しむ」のが基本と語っています。

なぜ今、盛り上がっているのか

近年、観光列車や地域活性化の文脈で、『景色+地域産品(=地酒)』という組み合わせが重視されており、鉄道会社や自治体、酒蔵側が共同で企画を打ち出すケースが増えています。また、イベント型「枡酒列車」や「地酒電車」など、プログラム化された列車旅が『旅行商品』の一つとして定着しつつあるのです。

さらにコロナ禍以降、人との接触を抑えた『ゆったり旅』や、鉄道を移動手段だけでなく『旅そのもの』として楽しむムーブメントが強まり、「列車旅×飲酒」のスタイルにも追い風となりました。こうした背景が、「呑み鉄」の流行を後押ししているといえます。

今後の展望と課題

これから「呑み鉄」が発展していくうえで、いくつかのポイントが考えられます。まず、地域との連携。酒蔵・飲食店・鉄道会社が一体となり、列車旅をハブに地元体験を盛り込むことで、旅の満足度が高まります。若桜鉄道(鳥取県)では酒蔵見学を含める企画まで準備していますが、これはその好例です。

次に、移動を楽しむ視点の維持。「飲むこと」が主目的になってしまうと列車旅の魅力が損なわれかねません。六角精児さんも語っていたように、列車特有の『ゆっくりと流れる時間』を楽しみながら飲むことが鍵です。また、公共交通としての安全配慮も重要です。酒を伴う旅なので、飲酒量のコントロール、席数や定員、駅からの帰路手段などを明確にする必要があります。

さらに、新しい体験の創出が期待されます。例えば、四季折々の風景と連動する「雪室熟成酒列車」や、夜景と合わせた「ナイト地酒列車」、さらには海外観光客向けの『日本酒+鉄道』パッケージなど、無数の組み合わせが評判を呼ぶ可能性を秘めています。

ただし、気をつけるべき課題もあります。列車旅という公共空間で飲酒を伴う以上、マナーや安全への配慮、および飲酒後の移動手段の確保など、企画者側・参加者ともに意識すべきです。また、飲酒そのものの需要だけでなく、地域体験としての「旅」の価値を高めることが、長期的な人気継続につながるでしょう。

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和光アネックス、「IWA 5」取り扱い開始 ──スイーツと日本酒の新しい関係を提案

銀座・和光アネックスで、話題の日本酒「IWA 5」がラインナップに加わりました。フランス・シャンパーニュの名門「ドン ペリニヨン」を率いたリシャール・ジョフロワ氏が手がけるこの日本酒は、彼の代名詞ともいえる「アッサンブラージュ(調合)」の技術が存分に発揮された逸品です。今回、和光では「IWA 5」とショコラ・フレ(生チョコレート)のペアリングを提案し、日本酒とスイーツの新たな関係性を提示しています。

「IWA 5」が示すアッサンブラージュの極み

「IWA 5」は、富山県・白岩で仕込まれる純米大吟醸酒でありながら、シャンパーニュの哲学を背景に持ちます。複数の酒米や酵母、仕込み年度の異なる原酒をブレンドすることで、単一の酒にはない奥行きと調和を生み出しているのが特徴です。ジョフロワ氏は「ひとつの完成形ではなく、進化を続ける味わい」をテーマに掲げ、毎年のアッサンブラージュによって「IWA 5」というブランドの生命を更新し続けています。

和光アネックスでは、この「IWA 5」を複数の仕込み年度で飲み比べることができる特別な体験を用意。日本酒のヴィンテージという新しい概念を、ラグジュアリーブランドの文脈で提示しています。これにより、日本酒がワインやシャンパーニュと同じように「年ごとに語る」文化として根づいていく可能性を感じさせます。

スイーツと日本酒の“新しいマリアージュ”

今回の注目は、「ショコラ・フレ」との組み合わせです。和光のショコラティエが手がけるフレッシュなチョコレートは、繊細な口溶けと香りの広がりが特徴で、「IWA 5」の多層的な味わいと見事に響き合います。日本酒の米由来の甘みと旨みがカカオの苦味をやわらげ、反対にチョコレートのコクが酒の酸味や余韻を引き立てる。単なる「合わせる」ではなく、互いの世界を補完しあう関係が生まれています。

興味深いのは、このペアリングが「酒にスイーツを合わせる」という従来の発想に留まらず、「スイーツに酒を合わせる」という逆の発想をも促している点です。ジョフロワ氏のアッサンブラージュ哲学をスイーツに応用し、「ショコラ・フレ」に合わせたブレンドのIWAを生み出す──そんな可能性も夢ではありません。素材の対話による調和という意味では、双方がアーティストの領域で共鳴していると言えるでしょう。

日本酒の未来を切り拓くアートとしてのペアリング

日本酒と洋菓子の融合は、これまでにも試みられてきましたが、和光の提案はその域を超えています。高級ショコラを通じて、日本酒の持つ繊細さと構築的な味わいを“ラグジュアリーの文法”で表現する──それはまさに、日本酒を世界の高級嗜好文化の中に再定義する試みです。

今後、「IWA 5」のようにワールドワイドな視点をもつブランドが、スイーツや香り、音楽など異分野との協働を進めることが予想されます。特に、アッサンブラージュという手法は、異素材を調和させるという点で、ペアリング文化と極めて親和性が高いと言えるでしょう。たとえば「チョコに合う酒」「チーズに合う酒」といったテーマ別の限定ボトルが登場すれば、日本酒の楽しみ方はさらに広がっていくでしょう。


銀座という洗練の舞台で始まった「IWA 5」とショコラ・フレの出会いは、日本酒の新しい物語の幕開けです。ジョフロワ氏の掲げる「調和の美学」が、和光のショコラティエによって味覚の芸術へと昇華されたとき、日本酒は単なる伝統産業ではなく、世界に通じる表現媒体として進化を遂げていくのかもしれません。

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女性審査員が選ぶ美酒コンクール2025『吟天 龍王』が日本酒界の頂点に

今年3回目を迎えた『第3回 美酒コンクール 2025』の審査概要および結果が公表され、「吟天 龍王」(小田切商事株式会社/兵庫県)が、最高賞である「美酒 of the Year 2025」に輝きました。主催の 一般社団法人『日本のSAKEとWINEを愛する女性の会』は、「香り・味わい」という感性を切り口に、女性審査員のみで審査を行う新しい日本酒コンクールとして注目を集めています。

▶ 『女性審査員による日本酒コンクール』ホームページ

今回、国内外から127社293アイテムが出品され、審査員数も海外からの参加者を含め165名に及びました。審査方式も一般的な「特定名称」別ではなく、香りと味わいの特徴に応じて分類された全6部門(フルーティー/ライト&ドライ/リッチ&旨味/エイジド<熟成酒>/スパークリング/ロウ・アルコール)で構成され、酒類資格を保有する『正規審査員』と、一般女性の『アマチュア審査員』の両輪でブラインド・テイスティング形式の評価が行われました。

本コンクールが掲げる三つの理念――「日本の伝統文化の継承」「地域経済の活性化」「女性が活躍する社会の実現」――もあわせて強く打ち出され、特に女性審査員による審査という構造が、これまで日本酒コンクールであまり見られなかった女性の感性を活かした評価基準を提示しており、新たな価値づくりの場となっています。

今回「美酒 of the Year 2025」に選定された『吟天 龍王』は、エイジド(熟成)部門の金賞受賞酒でもあり、熟成という時間を経た酒の深み、香味の重層性、果実的なアロマとコクのバランスなどが、女性審査員の評価軸と好相性を示した結果と言えるでしょう。

今後このコンクールを展望すると、香味を起点とした部門構成によって「自分好みの味わいを選ぶ」消費者動線の構築が進む可能性があります。蔵元にとっても、女性審査員のコメントやアマチュア消費者の意見をマーケティングに活かす機会が増えており、酒造りのブランディングや流通展開にも新たなヒントをもたらしています。たとえば、銘柄ラベルに香味部門を明示することで、消費者にとって敷居の低い選びやすい日本酒となる可能性が開けてきています。

まとめると、第3回となる今回の美酒コンクールは、出品数・審査員数ともに規模を固めつつ、従来の枠を超えた女性審査・香味別部門という切り口で日本酒ジャンルに新風を吹き込みました。そして、その最高賞に選ばれた『吟天 龍王』の受賞は、熟成日本酒の魅力が改めて女性の審美眼によって讃えられた象徴とも言えます。今後、全国各地の蔵元がこの評価制度を刺激源とし、より多彩な味わいを表現していくことが期待されます。

美酒 of the Year 2025
(エイジド部門)吟天 龍王小田切商事兵庫県
TOP OF THE BEST
フルーティー部門作 槐山一滴水清水清三郎商店三重県
ライト&ドライ部門赤城山 本醸造辛口生貯蔵酒近藤酒造群馬県
リッチ&ウマミ部門萬歳楽 石川門 純米 小堀酒造店石川県
エイジド部門夢乃寒梅 古酒 2000鶴見酒造愛知県
スパークリング部門琵琶のささ浪リンゴ印スパークリング麻原酒造埼玉県
ロウ・アルコール部門賀茂泉酒造 COKUN賀茂泉酒造広島県
特別賞
ソムリエ賞CatskillsBrooklyn Kuraアメリカ
客室乗務員/CA賞天賦 純米吟醸西酒造鹿児島県
アマチュア賞越乃雪椿 Grand-Cuvée 純米大吟醸原酒雪椿酒造新潟県
ラベル賞吟天 花龍小田切商事兵庫県

▶ 大吟醸も純米酒も同じ土俵で――美酒コンクール2025の入選酒発表を受けて

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宇宙へ飛び立つ日本酒──獺祭MOON、種子島から打ち上げ

2025年10月、ついに人類初の宇宙での清酒醸造試験が始動します。山口県岩国市を拠点とする酒造会社獺祭と三菱重工業は、共同開発した宇宙用醸造装置および清酒原材料を、種子島宇宙センターから H3 ロケット第7号機で打ち上げます(10月21日の打ち上げ予定は、天候不良のため延期)。

本プロジェクトは「獺祭MOONプロジェクト」と名づけられ、将来的には月面上での酒蔵建設・醸造を視野に入れる野心的プランの一環です。まずは国際宇宙ステーション(ISS)に設置された日本実験棟「きぼう」内で、月面重力環境(1/6G)を模擬した条件下での試験醸造が行われる予定です。

打ち上げ方法と ISS での醸造プロセス

打ち上げは 2025年10月24日以降の予定で、H3 ロケットによって宇宙へ送り出されます。荷物は、今回が初搭載となる次世代補給機 HTV-X により ISS へ輸送されます。

SS に到着後は、宇宙飛行士 油井亀美也氏が醸造装置を設置する準備を担当する見込みとされ、JAXA と調整中と報じられています。

装置には、米(α化米)、乾燥麹、乾燥酵母、水の四種の原材料があらかじめ投入されており、水を注入することですべてが混合され、いわゆる 並行複発酵 が始まる仕組みです。地上からは自動攪拌やアルコール濃度のモニタリングがなされ、約10日後から発酵試験を開始、2週間程度で進行する見通しです。醸造中および試験中の各種データは地上から遠隔で観察されます。

発酵を終えた醪(もろみ)は軌道上で凍結保管され、地球帰還のタイミングまで保存されます。早ければ年内に地球への帰還が見込まれています。帰還後、凍結醪は解凍され、清酒にするために搾られます。完成した清酒の半量は販売用に、残る半量は科学解析用サンプルとして扱われる予定です。

宇宙清酒の驚きの価格と意義

この清酒は 「獺祭MOON-宇宙醸造-」 と名付けられ、一般向けには 100ミリリットル入りで価格 1億1,000万円(税込) で販売される計画です。販売利益はすべて将来の宇宙開発事業に寄付される見込みとされています。

販売本数は極めて少ないとの見方が強く、すでに問い合わせや予約希望が複数件あるとの報道もあります。

この宇宙醸造プロジェクトには、ただ話題性を狙ったものではなく、将来的に月面で人が生活する環境下で “酒文化” や “食文化の豊かさ” をもたらすことを視野に入れた目的があります。生活の質(QOL:Quality of Life)向上という観点から、宇宙での発酵技術や食品加工技術の研究は今後不可欠となるからです。

また、この種の技術実証は、月面だけでなく火星や他の天体での食料生産技術にも波及し得る可能性があり、宇宙産業やバイオテクノロジー分野での新たな展開を予感させます。

課題と今後の展望

ただし、このような壮大な挑戦には多くの技術的・運用的なリスクも伴います。極限環境下での発酵制御、温度管理、宇宙放射線や微小重力下での酵母挙動、機器の故障リスクなどが懸念されます。また、輸送・帰還時の振動・衝撃への耐性や、凍結保存から解凍・搾り出し作業の品質維持といった点も重要な課題です。

さらに現地で酒を造るためには、将来的に “月資源の活用” や “現地素材の利用” が鍵になるとされ、この金属構造・水利用・微生物環境設計などは今後の研究テーマとなるでしょう。

成功すれば、この打ち上げは宇宙開発と日本文化との融合という、新たなステージの幕を開くものとなるかもしれません。日本の伝統技術を宇宙で試すこの挑戦に、国内外からの注目が集まっています。

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「美味しいお酒」が「SAKE」に! 大谷翔平選手MVPインタビュー通訳が生んだ日本酒への熱視線

ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が、ナ・リーグ優勝決定シリーズの最優秀選手(MVP)に輝いた後のインタビューで、通訳のウィル・アイアトン氏が発した「SAKE」という言葉が大きな話題を呼んでいます。大谷選手が「今日は美味しいお酒を飲んでください」とファンへ向けたメッセージを、アイアトン通訳は「SAKE」と直訳に近い形で伝達。この瞬間に、球場は一層の歓声に包まれました。この粋な計らいは、単なる通訳を超えた文化の発信として、世界中の人々に「SAKE(日本酒)」という言葉を印象づけました。

ドジャースと八海醸造のタッグが追い風に

この「SAKE」の背景には、ドジャースと八海醸造(新潟県南魚沼市)が結んでいる契約があります。八海醸造は、今年からドジャースとパートナーシップ契約を締結し、ドジャースタジアム内で日本酒を提供するなど、積極的なブランド展開を行っています。

大谷選手という世界的スターのメッセージと、それに乗じたアイアトン通訳の「SAKE」という言葉が、この八海醸造の取り組みと相まって、日本酒の存在感を飛躍的に高めました。これは、日米のトップスポーツチームと老舗酒蔵という異業種間の連携が、文化交流という形で実を結んだ好例と言えるでしょう。

日本酒業界への計り知れない影響

今回の出来事が日本酒業界に与える影響は、非常に大きいと考察されます。

【国際的な認知度の向上】

「SAKE」というシンプルな単語が、MVPという輝かしい舞台で、大谷選手という影響力を持つ人物を通じて発信されたことで、英語圏における日本酒の認知度が格段に向上しました。これにより、「SAKE=美味しいお酒」というイメージが、これまで日本酒に馴染みのなかった層にも広く浸透することが期待されます。

【消費拡大への期待】

特にアメリカでは、若者を中心に健康志向が高まっており、日本酒が持つ「グルテンフリー」や「天然の醸造酒」といった特性が、新たな消費層を開拓する強力なフックとなり得ます。ドジャースタジアムという「ハレの場」での提供実績が相まって、アメリカ国内での日本酒の販売拡大に直結する可能性を秘めています。

【プレミアム化とブランド価値の向上】

八海醸造のような、すでに国際的に評価の高い酒蔵だけでなく、他の日本酒ブランドにとっても、今回の出来事はブランド価値向上のチャンスです。スポーツと結びつくことで、日本酒が「洗練された」「セレブが楽しむ」といったポジティブなイメージをまとい、プレミアムなアルコール飲料としての地位を確立する大きな一歩となるでしょう。

ワールドシリーズ制覇で熱狂は最高潮へ

さらに、ドジャースがこの勢いでワールドシリーズを制覇すれば、日本酒への注目度は最高潮に達するでしょう。大谷選手が再びMVPなどの栄誉に輝く場面や、優勝後の祝賀ムードの中で、日本酒がメディアに露出する機会が増えることは間違いありません。

「世界一のチーム」と「公式SAKEパートナー」という強固な結びつきは、日本酒を「勝利の美酒」として世界に印象づけます。この「勝利」というイメージは、日本酒のブランド力をさらに高め、特にアメリカをはじめとする海外輸出に決定的な追い風となります。日本酒業界は、この歴史的な瞬間を、グローバル市場での飛躍につなげる絶好の機会と捉えるべきでしょう。


大谷選手の偉業と、通訳の機知に富んだ「SAKE」という一言は、八海醸造とのパートナーシップを基盤に、日本酒を世界的なアルコール飲料へと押し上げる起爆剤となりそうです。そして、ワールドシリーズ制覇という快挙が実現すれば、その熱狂は一過性のものでは終わらず、日本酒を「クールな日本文化」の象徴として世界に定着させるでしょう。この波を最大限に活かし、日本酒業界全体がグローバルな展開を加速させることが、今後ますます重要になってくるはずです。「美味しいお酒=SAKE」が世界の共通語となる日も、そう遠くないかもしれません。

▶ 日本酒をメジャーに導く、ドジャース公式日本酒「特別本醸造 八海山 ブルーボトル」

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大関「上撰ワンカップ 大相撲ラベル2」発売~世界を標榜する二つの伝統が交わるとき

大関株式会社(兵庫県西宮市)は、10月14日に「上撰ワンカップ 180ml 瓶詰(大相撲ラベル2)」を数量限定で発売しました。力士の姿をあしらったこの特別デザインは、同社が展開する人気シリーズの第2弾にあたり、土俵の緊張感や日本の美意識を小さな瓶の中に凝縮したような仕上がりです。四股名にローマ字表記を加えることで、海外のファンにも親しみやすいデザインであり、まさに世界へ開かれた日本酒を象徴する一本といえます。

国技と国酒という二つの顔

相撲と日本酒は、いずれも日本文化の根幹にある伝統です。力士が神前で四股を踏み、土俵入りの前に塩をまく所作は、古代からの祈りと清めの儀式に通じます。同じように日本酒も、神事に欠かせない「御神酒」として、人々の暮らしの中にありました。両者は形式の中に精神性を宿し、「形の美」と「心の和」を併せ持つ文化として発展してきたのです。

近年、相撲も日本酒も国内の枠を超え、海外での存在感を高めています。相撲は世界各地で巡業が行われ、外国出身力士の活躍が常態化しました。日本酒もまた、“SAKE”という名で国際的に評価され、ヨーロッパや北米の高級レストランのワインリストに並ぶまでになっています。どちらも「日本から世界へ」を合言葉に、新しいファンを獲得しながら進化を遂げています。

『上撰ワンカップ』が体現するグローバル・トラディション

大関の「上撰ワンカップ」は、1964年の発売以来、半世紀以上にわたり日本の食卓と旅路を支えてきたロングセラーです。開けてすぐ飲める手軽さと、どこか懐かしい温もり。その両立は、日本人の日常の中の文化を象徴する存在として定着しました。

今回の「大相撲ラベル2」は、その伝統的な価値を保ちながらも、デザイン面でグローバルな視点を取り入れています。瓶に描かれた力士の四股名がローマ字で表記されているのは、単なる視認性のためではありません。相撲と日本酒、二つの日本文化を誰もが読める言語で世界に伝えるための象徴的な一歩なのです。

大関はこれまでも「日本の心をカジュアルに楽しむ」という理念を掲げ、伝統と現代性の両立を追求してきました。その延長線上にある今回のコラボレーションは、まさに国技と国酒の融合というメッセージを世界に発信する試みといえるでしょう。

世界が見つめる「円」の美学

相撲の土俵も、日本酒の盃も、どちらも円形をしています。その円は「和」を象徴し、境界を持ちながらも調和を生む形です。大関のワンカップが持つ丸いフォルムは、土俵の円と共鳴し、日本の文化が大切にしてきた循環と連帯の精神を静かに伝えています。

今回の「大相撲ラベル2」は、単なる限定ボトルではなく、こうした円の哲学を現代に再解釈した文化的メッセージボトルでもあります。手のひらに収まるその小さな瓶が、世界のどこにあっても日本の心を感じさせる――それが大関の目指す新しい伝統のかたちです。

ロンドンへ――ふたつの伝統が並び立つ舞台

そして発売の翌日、10月15日には「大相撲ロンドン公演」が開幕しました。日本文化を代表する二つの象徴が、ほぼ同時に世界へと羽ばたいたことは、偶然にして象徴的です。

土俵の上で力士が踏みしめる大地と、盃の中で揺らめく清酒。どちらも日本の精神を宿した円の文化です。大関「上撰ワンカップ 大相撲ラベル2」は、その円が世界と交わる瞬間を、最も美しいかたちで映し出しているのかもしれません。

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日本酒レビュー・情報メディア「Japan Cellar」グランドオープン

日本酒・焼酎・日本ワインの魅力を世界に発信する新しい情報プラットフォーム「Japan Cellar(ジャパン・セラー)」が、2025年10月にグランドオープンしました。運営は、東京・高田馬場に拠点を置く株式会社ハイパープロダクティブ。同社は、国内外の酒類を評価・紹介する統一的なレビュー基準を確立し、日本の酒文化を国際的に通用する形で可視化することを目標に掲げています。

世界基準に近づく「日本酒レビュー」の新時代

「Japan Cellar」は、ワイン業界における“パーカーポイント”のように、専門的で透明性のある評価を行う仕組みを導入しました。その中核となるのが、独自の5指標「JC BLICU(Balance/Length/Intensity/Complexity/Uniqueness)」です。バランス、余韻、力強さ、複雑性、独自性という5つの観点から酒を総合的に分析し、85点以上の銘柄のみを掲載するという厳格な基準を設けています。

レビュアーには、全日本最優秀ソムリエの井黒卓氏や岩田渉氏、さらに世界的ワイン誌『The Wine Advocate』の元レビュアー星山厚豪氏など、国内外で実績を持つ専門家が参加。いずれも匿名ではなく記名制で評価することで、レビューの透明性と信頼性を担保しています。試飲用サンプルではなく、自社購入による評価方針を明確にしている点も、これまでの酒類メディアとは一線を画しています。

デジタル化と多言語展開が拓く新たな市場

同サイトは日本語と英語の2言語対応でスタートし、今後はフランス語、中国語など主要言語への展開も予定されています。対象は日本酒だけでなく、焼酎や日本ワインにも及びます。酒蔵やワイナリーのデータベース、ペアリングガイド、酒蔵見学情報なども充実しており、国内外の消費者・バイヤーが日本の酒文化を体系的に理解できる構成となっています。

これまで、ワインのように国際的な共通指標が存在しなかった日本酒市場では、輸出先ごとに味覚や品質評価が分散していました。「Japan Cellar」は、そうした断片的な情報の壁を取り払い、“世界の酒類の中での日本酒の位置づけ”を明確に示す試みといえます。特に、輸出拡大を狙う中小酒造にとっては、海外の流通業者や飲食店バイヤーへの新たなプレゼンテーション手段となる可能性を秘めています。

日本酒業界ではここ数年、品質や味わいの多様化が進み、従来の“地酒”という枠を超えて、クラフトやテロワールといった概念が注目され始めています。「Japan Cellar」は、こうした動きを国際的に可視化し、定量化する役割を果たすことで、ブランド価値の客観的評価や国際競争力の向上に寄与するでしょう。

一方で、点数化がもたらす序列や市場偏重への懸念もあります。特定の味覚傾向に評価が集中すれば、多様性が損なわれる可能性も否定できません。運営側はこの点を意識し、「文化的背景や個性を尊重したレビュー」を理念に掲げています。今後、どのように公平性と創造性を両立させるかが、プラットフォームの信頼性を左右する鍵となりそうです。


日本酒の魅力を“感覚”ではなく“共通言語”として伝える試み——。
世界の愛好家が日本の酒を語るための新しい基準を築く第一歩として、「Japan Cellar」の今後の展開が注目されます。

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