獺祭が高級酒領域を強化 輸出急伸と世界市場成長に合わせ製造体制を刷新

山口県岩国市に本社を置く株式会社獺祭は、プレミアム日本酒専用の新製造場建設計画を正式に発表いたしました。同社はこれまで国内外で高い評価を得てきた獺祭ブランドのさらなる品質向上と、世界市場での高価格帯酒の需要拡大を見据え、新たな一歩を踏み出します。

近年、獺祭ブランドは海外での存在感を強めており、2025年12月に発表された最新の経営状況では、輸出売上が前年比で約4割増となったことが明らかになりました。主要な輸出先である中国や米国を中心に、日本酒ブランドとしての信頼性と認知度が着実に高まっています。こうした実績を背景に、獺祭は単なる数量拡大ではなく、高価格帯・高付加価値商品の開発と供給体制の強化に取り組む意向です。

また、世界的な日本酒市場そのものも堅調な成長が見込まれています。2024年のデータでは、清酒の総輸出額が過去最高となり、80か国以上へ輸出が拡大したことが報告されており、プレミアム酒への需要が広がっていることがうかがえます。欧米の高級レストランやワイン市場との競合環境において、日本酒が選択肢として認知されつつある現状は、新たな市場機会を生む追い風となっています。

こうした背景を踏まえ、旭酒造は本社近郊にて高級酒専用の製造場(プレミアムブリュワリー)を新設する計画を進めています。新製造場は、伝統的な技術と最新の醸造設備を融合させた施設となり、特に原料選定や精米歩合の極限まで追求した純米大吟醸酒を中心とした高価格帯商品群の生産に特化する予定です。品質管理の徹底はもちろん、気候や水質などの微細な環境変化にも対応できる最新鋭の醸造ラインを導入することで、「究極の日本酒体験」を提供することを目指します。

獺祭が既に展開している高価格帯シリーズには、厳選した山田錦を極限まで磨いた製品や、海外のオークションで高値を記録した限定酒などがあり、その価値は国内外で高く評価されています。これらの経験と技術を活かしながら、新製造場ではさらに一歩進んだ品質基準を設け、「獺祭 Beyond」といった 世界の高級酒市場で競争力のあるブランドラインの強化を進める方針です。

獺祭の蔵元は、「世界の日本酒市場は、単に数量を追う段階から、真の味わいと体験を求める消費者層へと転換しています。 獺祭としては、この変化をチャンスと捉え、ブランドとしての価値をさらに高めるために、新たな生産基盤を確立したい」とコメントしています。

この新製造場の完成は2028年春を予定しており、稼働が始まると同時に、国内外のコンテストや高級市場への出品を積極的に進める計画です。獺祭ブランドはこれまでも、品質第一の姿勢で多くの支持を集めてきましたが、この施設建設によって、「獺祭=世界が認めるプレミアム日本酒」というブランドポジションを一段と強固なものにする狙いです。

加えて、世界市場の成長予測は日本酒全体にとって追い風であり、特に高級品に対する需要は今後も増加が期待されています。こうした潮流の中で、獺祭が新たに構える製造場は、日本酒文化を再定義し、世界の高級酒市場における存在感をさらに高める重要な施設となるでしょう。

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日本酒技術を応用した新ジャンルの大麦醸造酒「800 大麦〈天盃〉」が発売される

2025年12月11日、酒造りの最前線で新たな挑戦が始まりました。京都府に拠点を置く発酵集団・株式会社LINNÉが、福岡県の焼酎蔵・株式会社天盃と共創し、日本酒造りの技術基盤を応用した国産大麦100%の醸造酒「800 大麦〈天盃〉(ヤオ オオムギ テンパイ)」を発売したと発表しました。これは、現代の日本酒技術を起点に、従来の清酒とは異なる原料と製法で醸した新ジャンルのお酒であり、酒類市場において革新的な一歩といえます。

まず、この「現代日本酒技術」とはどのようなものかを理解するために、日本酒造りの基本を振り返る必要があります。日本酒(清酒)は、米・水・麹・酵母という最小限の原料で造られ、麹菌の力で米のデンプンを糖に分解し、酵母が糖をアルコールに変える「並行複発酵」という独自の発酵方式を取っています。これは世界的にも稀有な発酵プロセスであり、米由来の味わいを柔らかく、複雑な旨味と香りに仕上げる重要な技術です。

この技術を「800 大麦〈天盃〉」の醸造に応用した点は、日本酒の枠を超えた発想といえます。一般に日本酒は米麹を用いますが、本商品では国産大麦100%を原料とした大麦麹を用い、そこに日本酒の吟醸造りを掛け合わせました。このように、米以外の穀物原料を核とする発酵酒を造る試み自体が従来の清酒の定義を超えており、日本酒技術の「拡張」とも位置付けられています。

具体的には、LINNÉが培った麹菌操作や発酵制御のノウハウと、天盃が大麦麹の製造および焼酎造りで培った技術が融合されました。天盃は、1976年に大麦100%の本格焼酎を世界で初めて造ったパイオニアとして知られ、その豊富な経験が本商品の開発において大きな役割を果たしています。

こうした技術基盤の融合によって生まれた「800 大麦〈天盃〉」は、味わいにおいても独自性を打ち出しています。スミレやラズベリーを思わせるエレガントな香りと、白麹がもたらすクリアな酸味、そして大麦の芳醇な穀物感が織り成すバランスは、これまでの清酒や焼酎とは一線を画すものです。アルコール度数は約14%であり、日本酒のように軽やかに楽しめるタイプの醸造酒として設計されています。

では、この新ジャンルのお酒が持つ意味とは何でしょうか。まず第一に、日本酒業界が直面する課題――原料米の高騰や収穫量の不安定化――に対する一つの答えとなり得る点が挙げられます。日本酒造りは伝統的に米に依存してきましたが、近年の気象変動や農業資材の高騰により、原料の安定調達が大きなテーマとなっています。このような背景の下、大麦などの他の穀物を活用した発酵酒の開発は、原料の多様化と製造リスクの分散につながる可能性があります。

また、文化としての意義も見逃せません。2024年に日本酒製造技術の一部がユネスコ無形文化遺産に登録されたことは、日本の発酵技術が世界的な評価を受けた証です。こうした伝統的価値を守りつつ、素材と技術の境界を越えた新しい発酵酒を生み出すことは、発酵文化の未来を切り拓く試みともいえます。

さらに、本商品は国内販売のみならず海外2カ国への輸出も決定しており、日本発の発酵酒文化を世界に発信する役割も期待されています。これまで日本酒は純米・吟醸などのスタイルで世界的な人気を集めていますが、原料や製法に新たな視点を加えた「800 大麦〈天盃〉」は、より広範な層に日本の発酵技術を理解してもらう機会を創出します。

総じて、「800 大麦〈天盃〉」の発売は、日本酒技術の応用範囲を拡大する象徴的な出来事です。伝統と革新が共存するこのアプローチは、国内の原料不足という現実的な課題への対応であると同時に、世界の発酵文化との対話を深める挑戦でもあります。今後、このようなジャンル横断型の発酵酒がどのように受け入れられ、発展していくのか、業界内外から注目が集まっています。

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日本酒の「香り」を数値化・可視化へ:「香度®」が切り拓く新たな酒選びと品質管理

長らく日本酒の評価において、最も感覚的で言語化が難しかった要素――「香り」。この曖昧な領域に、AIと独自のセンサー技術によって客観的な指標を与えようという画期的な動きがあります。株式会社レボーンが商標登録した「香度®」(コード、カオリド)と呼ばれるこの概念が、日本酒業界のブランディング、流通、そして消費体験に変革をもたらす可能性があります。

「糖度」の次は「香度」

「香度®」とは、果物の「糖度」が甘さの客観的指標として定着したように、香りの「芳醇さ」を科学的に評価し、可視化するための新しい概念および指標です。

これまでの一般的なにおいセンサーは、におい成分を構成する分子の種類や濃度を測定するに留まり、人間が嗅覚で捉える「官能的」な香りの全体像を捉えることは困難でした。しかし、レボーン社の技術は、独自のセンサーとAI・クラウドプラットフォームを組み合わせることで、人間が香りを感じるメカニズムを模倣し、香りの特徴をチャートとして可視化することに成功しました。

この技術の登場は、感覚的な「なんとなく良い香り」を、誰もが理解できる客観的なデータへと変換することを可能にします。

具体的な活用事例

「香度®」の実装に向けた動きは、特定の産地との連携を通じて具体化しています。特に注目されるのが、愛媛県とのデジタル実装加速化プロジェクト「トライアングルエヒメ」を通じた取り組みです。

愛媛県は、柑橘類や日本酒など、香りに特徴を持つ特産品が多く、この技術を導入するのに最適な環境とされています。2022年にスタートしたプロジェクトでは、愛媛県の酒造組合が展開する「愛媛さくらひめシリーズ」の日本酒、全22銘柄の香りを「香度®」技術により分析し、「香度®チャート」を作成。このチャートをプロモーションへ活用する試みが進められています。

これは、従来の「辛口/甘口」や「淡麗/濃醇」といった表現に、「華やかな香りが強い」「米由来の香りが豊か」など、香りの質と強さを明確に加えることを意味し、国内外の消費者に対し、商品の魅力をより詳細かつ客観的に伝えることを可能にします。今後は、特にインバウンド客に向けた分かりやすいユースケースの確立が急がれます。

日本酒業界への多角的な影響と期待

「香度®」の普及は、日本酒業界に以下のような多角的な影響をもたらすと期待されています。

  1. 消費者体験の革新と新規顧客の獲得
    【購入体験の客観化】
    消費者は、自身の好みや気分に合わせて、チャートを見て直感的に商品を選ぶことができるようになります。これにより、「どれを選んでいいか分からない」という日本酒初心者や、香りを重視する海外のワイン愛好家層など、新規顧客の獲得につながります。
    【ブランディングの強化】
    従来のイメージやキャッチコピーに頼るだけでなく、科学的な裏付けに基づいた香りの特徴をアピールできるようになり、酒蔵ごとの個性を際立たせ、高付加価値化を促進します。
  2. 製造・品質管理の高度化
    【品質の安定】
    熟練の杜氏の感覚に頼っていた部分を客観的な指標で補完できます。製造工程における香りの変化を継続的にモニタリングすることで、目標とする品質からのズレを早期に検知し、酒質の安定化に貢献します。
    【熟成管理の精度向上】
    日本酒は貯蔵・熟成過程で香りが変化します。温度や時間経過に伴う香気成分の変化を「香度®」で追跡できれば、「老ね香」の発生リスクを管理したり、最適な出荷タイミングを科学的に決定したりするツールとしても活用できます。
  3. グローバル市場での競争力強化
    【世界基準での訴求】
    ワインには「フレーバーホイール」などの香りの指標が浸透していますが、日本酒も「香度®」を持つことで、世界共通の言語として香りの特徴を提示できるようになります。これは、輸出拡大を目指す日本酒のグローバル市場における競争力を大きく高める要因となります。

「香度®」技術は、日本酒に留まらず、愛媛の柑橘類、コーヒー、さらには医療分野など、香りが重要な要素となる他の商品カテゴリーへの展開も計画されています。

日本酒の製造は、米と水、そして発酵の微生物が織りなす極めて繊細なアートです。このアートに、最新のAIとセンサー技術というサイエンスの光が差し込むことで、今後、酒蔵はより安定した品質で個性を追求できるようになり、消費者はより深く、安心して日本酒を選び、楽しめる時代が訪れるでしょう。「香度®」は、伝統産業である日本酒に新たな付加価値を与え、次の世代へと繋ぐ重要な鍵となるかもしれません。

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志摩観光ホテル2026年オリジナル日本酒「志摩」を発売~三重の酒造との協働で生み出す新たな地域価値

2016年の伊勢志摩サミットで各国首脳の食卓に日本酒が供されたことは、世界に向けて三重の食文化と日本酒の奥深さを印象づける大きな契機となりました。その会場となった志摩観光ホテルでは、サミット以降、三重県内の酒蔵と連携してオリジナル日本酒を毎年企画しており、今年も12月15日より2026年版のホテルオリジナル日本酒「志摩」が数量限定で販売されます。

このシリーズの最大の特徴は、単なる『ラベル企画』にとどまらず、三重の「水・酒米・技・風土」を軸に据えた、より深い共同開発の姿勢にあります。原料選定の段階からホテルと酒蔵が議論し、食とのマリアージュを前提とした味わい設計を行うことで、ホテル独自のペアリング哲学を反映した酒へと仕上げています。

協働の深化がもたらす地域ブランドの強化

このような取り組みは、地域の素材を単に使うだけでは生まれない価値を可視化し、結果として三重全体の日本酒ブランド力を底上げする効果が期待されます。特にホテルのような観光拠点は、県外・海外からの来訪者に直接アプローチできる存在であり、そこで提供される日本酒が高いストーリー性を持つことは、酒蔵にとって強力な発信の窓口になります。

また、ホテル側にとっても、酒蔵の技術や発酵文化への深い理解は、料理との調和を追求する上で欠かせない視点です。双方にとって学びのある対等な協働こそが、このシリーズの価値を支えているといえます。

「志摩 2026」が目指す味わい

今年の「志摩」は、志摩観光ホテルが誇る海の幸との相性を徹底的に追求し、穏やかな香りとやわらかい旨味、そして品の良い酸のバランスを重視した仕上がりになるといいます。華美な香りに頼らず、食材の持つ滋味を引き立てる構成は、ホテルの料理哲学と密接に結びついています。

酒米は三重県産にこだわり、適度に芯のある味わいを生む精米歩合を採用。仕込み水には地元の伏流水を用い、三重の風土をそのままボトルに閉じ込める設計がなされています。まさに『ホテルが理想とする食中酒像』を具現化した一本といえるでしょう。

酒造業界への波及とこれからの可能性

現在、多くの観光地でご当地ラベルの商品が増えていますが、それらの多くは既存酒のデザインを変えた限定品に過ぎません。一方、志摩観光ホテルのように原料・醸造・味わいまで共同で設計する取り組みは、酒蔵と地域事業者が対等にブランドを築いていくモデルとして注目されています。

この動きが広がれば、地域ごとに『酒と土地の物語』が明確になり、観光産業と酒造業が連動した新しい価値創造につながります。酒蔵にとっても、小ロットでの実験的な醸造や新たな味づくりにチャレンジする余地が広がり、地域全体の技術発展を促すきっかけにもなります。

ホテル文化と日本酒文化の融合が、単なる商品開発ではなく、地域ブランドの未来をつくる取り組みへと進化しつつあることを、この「志摩 2026」は象徴しています。数量限定での発売は、希少性とともにその思想の深さを感じさせるもので、今年も注目を集めることになりそうです。

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Patagoniaと仁井田本家が挑む 「未来の日本酒」 — 日本初の「リジェネラティブ・オーガニック認証」取得酒を発売

アウトドアブランド・Patagonia(パタゴニア)が、福島県郡山市の酒造・仁井田本家とタッグを組み、12月11日より日本で初めてとなる「リジェネラティブ・オーガニック認証(RO認証)」を取得した日本酒「やまもり 2025」を発売します。

この取り組みは、目新しい新商品の発売というだけでなく、農業・醸造・流通・消費という「食のサイクル」の中で、環境・社会・経済を統合的に変えていこうという意図が込められています。

認証の背景と意義

「リジェネラティブ・オーガニック認証」とは、従来の有機農業からさらに一歩進み、 ①健全な土壌づくり ②動植物の福祉 ③社会的公平性 の3つの柱を掲げる農法・認証枠組みです。この認証は世界46カ国で約340ブランドが取得するに至っており、2025年11月時点では米の水田を対象としたガイドラインも制定。「やまもり 2025」は、日本酒として国内初のRO認証取得製品となりました。

この「やまもり 2025」を醸造した自然酒造りで有名な仁井田本家では、自社田で栽培した酒米「雄町」を100%使用し、農薬・化学肥料を使わない水田稲作を実践。また、自社山のスギで作った木桶仕込みという伝統技法も併用。こうした「生態系を守りつつ、地域資源を活用した酒造り」が、RO認証取得の鍵となったのです。

RO認証取得でどうなる

このプロジェクトが持つ意味合いは多岐にわたりますが、下記のような影響が考えられます。

環境インパクトの拡大

水田やその周辺の生態系は、単に米を作る場というだけでなく、野鳥・昆虫・魚介類など多くの生物を育む場です。RO農法を水田に適用することで、そのような生態系の回復・維持につながる可能性があります。また、土壌が健全になることで炭素を貯留し、温室効果ガスの削減にも寄与するとされます。RO認証そのものが「食を通じて気候変動・自然危機と向き合う手段」として位置付けられています。

地域・伝統産業との融合

仁井田本家のような300年以上の歴史を持つ酒造が、最新の持続可能性を取り入れた酒造りに挑む姿勢は、地域産業の新たな方向性を示すものです。老舗であっても環境・社会視点を取り入れることで、伝統×革新の融合モデルを提示していると言えます。

消費者・ブランドの責任意識の高まり

Patagoniaはもともとアパレル・アウトドア分野で環境・社会的責任を重視してきたブランドです。その延長線上で「酒」に環境的ストーリーを持ち込んだ点が注目されます。消費者も「何を・どうやって・誰が作ったか」を問う時代にあり、こうした背景を持つ日本酒への関心は高まる可能性があります。

農業・酒造産業への波及効果

今回のRO認証取得がモデルケースとなることで、他の酒蔵・農家にも「水田や酒米栽培において持続可能な手法を取り入れる」という動きが加速する可能性があります。また、流通・小売・消費のサプライチェーン全体で、より高い環境・社会基準を求める潮流が強まるでしょう。

もちろん、RO農法に対する疑問が存在したり、認証取得にはコストや手間がかかるなど、この種の取り組みは慎重に見ておくべき点もあります。ただ、「やまもり 2025」の発売は、 環境・社会・地域の循環を前提とした食の未来像 を提示するものです。Patagoniaと仁井田本家の協働は、酒造りを通じて「土・人・生き物・地域」がつながる物語を紡ぎ出しています。これがうまく実を結べば、日本酒業界だけでなく、農業・食品産業・消費文化全体に新しい基準やムーブメントを生む契機となるかもしれません。

今後は、実際の味わいや消費者の反応、他業界・他地域での波及効果などにも注目したいところです。

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季節限定「2026年干支ボトル 伯楽星 純米大吟醸 金箔酒」が美しい──金箔が文化デザインへと昇華する瞬間

新澤醸造店の公式インスタグラムに、季節限定商品「2026年干支ボトル“午” 伯楽星 純米大吟醸 金箔酒」が投稿され、注目を集めています。干支デザインの特別ラベルに加え、瓶内で舞う金箔が、新春らしい祝祭感を演出しています。

しかし、この金箔という要素は、味にはほとんど影響を与えません。にもかかわらず、視覚体験として強い存在感を持ち、さらに文化的な意味までも帯びる点にこそ、日本酒デザインの奥深さがあります。

味に関与しない「混ぜ物」だからこそ問われる存在理由

金箔は融点が高く、香味に干渉しないため、酒質の繊細さを崩さない一方で、「味に関係ないものを加える」ことへの抵抗感を生むことがあります。金箔はまた、ときに「派手さ」「いやらしさ」といった俗っぽい印象を与えてしまうのも事実です。

しかし、この味に関与しない異物性こそ、文化的解釈へと転換する余地を生み出します。金箔はそもそも味のために存在しているのではなく、酒を飲む行為に別の価値軸――視覚・象徴・儀礼性――を持ち込む素材なのです。

「金箔がいやらしく見える時」と「美しく見える時」の境界

金箔が俗悪に映るのは、文脈や節度が欠けた場面です。贈り物としての意味、祝いの場が持つ秩序、季節や時間の背景が整わないまま金箔だけが目立つと、表層的で自己顕示的な印象が強まります。

しかし、干支ボトルのように季節性・祝祭性・文化的物語が備わると、その印象は反転します。金箔は単なる飾りではなく、「時の節目を可視化するためのデザイン」として機能し始めるのです。

そして伯楽星は、清冽で雑味がない酒質に金箔を組み合わせ、過剰な華美に走ることなく、静かなきらめきを生み出しています。金箔は主役ではなく、むしろ『光の演出装置』として、酒の透明感を引き立てる立場に回っています。引き算の美学に、控えめな足し算が加わることで、全体が上品な祝祭性を纏います。

金箔酒が持つ儀礼性と文化的記憶

日本文化における金は、吉兆・繁栄・清浄の象徴でした。金箔酒が贈答や新年の席で喜ばれるのは、こうした歴史的背景が無意識に共有されているためです。干支ボトルの金箔酒は、単なるトレンド商品ではなく、日本人が長く育んできた『節目を祝う文化』を現代に再提示する存在でもあります。

「混ぜ物」でありながら、体験価値を増幅し、文化を語る装置へと飛躍する――金箔酒はその稀有な存在です。

伯楽星の2026年干支ボトルは、金箔がもつ俗っぽさを抑え、むしろ文化的深みへと引き上げるデザインの好例と言えるでしょう。味に関わらない素材が、時間・儀礼・美意識と共鳴し、一杯の日本酒を『体験の場』へと変える。その魅力が、この季節限定品には詰まっています。

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伝統は力となるか? 「伝統的酒造り」無形文化遺産登録から1年

2024年12月5日、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されてから一年が経過しました。これは、単に日本酒だけでなく、焼酎や泡盛を含む多岐にわたる日本の伝統的な醸造技術、それを支える人々の知恵、そして季節ごとの祭事や地域文化との結びつきが世界的に認められたことを意味します。

高まる国内外の認知度と期待

この一年で最も大きな変化は、国内および海外における認知度の劇的な向上です。メディアでの露出が増えたことはもちろん、特に欧米やアジアの富裕層・文化層の間で、単なるアルコール飲料としてではなく、「日本の歴史と風土が生んだ文化遺産」としての評価が定着し始めました。これにより、日本産酒類の輸出市場では、プレミアムライン、つまり高価格帯の商品の需要が高まる傾向が見られています。

一方で、現場の酒蔵には、労働環境の改善や後継者不足という依然として深刻な課題が残されています。無形文化遺産としての価値を将来にわたって維持するためには、これらの「技術の担い手」を確保・育成することが不可欠です。この一年間、各地の酒造組合や自治体は、蔵人の募集や研修制度の充実、さらには冬場に限られていた酒造りを四季醸造へ移行させるための技術導入など、働き方改革と技術継承の両輪での取り組みを加速させています。

「GI」との相乗効果:地域ブランド力の強化

「伝統的酒造り」の価値を具体的に市場に伝える上で、地理的表示(GI:Geographical Indication)制度の存在は欠かせません。GI制度は、特定の産地ならではの特性を持つ産品を保護し、その品質と評判を保証するものです。

ユネスコ無形文化遺産登録は、日本の酒造り全体に「文化的な権威」と「伝統というストーリー」を与えました。これに対し、GIは「具体的な品質基準」と「産地ごとの明確なアイデンティティ」を付与します。

例えば、「GI日本酒」や「GI山形」など、すでに登録されているGI表示が付いた日本酒は、無形文化遺産に裏打ちされた「伝統的技術で造られている」という大前提の上に、「この地域の特定の原料と風土が生み出した特徴を持つ」という二重のブランド価値を持つことになります。

この相乗効果により、特に地方の小規模ながらも個性的な酒蔵が、その地域のテロワール(風土)を表現した商品を、高付加価値なものとして国内外に訴求しやすくなりました。今後、GI登録を目指す地域も増加すると予想され、地域ごとの多様な酒造りの保護と発展に寄与するでしょう。

今後の課題と展望:持続可能な酒造りへ

登録一年という節目に立ち、日本の酒造業界が目指すのは「持続可能な酒造り」の実現です。

【技術のデジタル化とデータの活用】
伝統的な技術を若手に効率よく伝えるため、熟練蔵人の技術をデジタルデータとして記録し、温度管理などにAIを導入する動きが今後さらに広がることが予想されます。

【環境への配慮】
持続可能性の観点から、環境負荷の低い米作りへの回帰や、再生可能エネルギーの導入、水の利用効率改善など、環境と調和した酒造りへの取り組みが、国内外の消費者にとって重要な選択基準となるでしょう。

無形文化遺産登録は、日本の酒造業界が、過去の技術をただ守るだけでなく、それを現代の課題解決と融合させ、未来に進化させていくための大きな契機となりました。この登録を追い風に、日本酒・焼酎・泡盛が、世界の文化遺産として、より広く、より深く愛される存在となることが期待されます。

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一献一局プロジェクト始動!アルミ缶入り日本酒が織りなす地域活性化の新たな一手

日本将棋連盟、東洋製罐グループ、Agnavi の3者が手を組み、将棋と日本酒による地域活性化プロジェクト「一献一局プロジェクト」を立ち上げました。第1弾として、12月6日・7日に開催される「第3回達人戦立川立飛杯」で、青梅の酒造・小澤酒造の「澤乃井」を一合サイズのアルミ缶に詰めた限定酒が来場者に抽選配布されます。文化イベントと地酒をセットで発信する新しい試みとして注目を集めています。

「詰太郎」と「酒代官」がつくる小ロットの自由

今回の取り組みでユニークなのが、缶の充填方法として採用された2つのサービスです。東洋製罐グループの移動式充填機「詰太郎」は、蔵元へ設備を持ち込み、現地で酒を缶に詰められる画期的な仕組みです。一方、Agnaviの「酒代官」は、酒造から受け取った酒を代わって充填する委託型サービスで、設備投資なしで缶日本酒づくりに挑戦できます。

どちらも名前の軽妙さも相まって、これまでハードルの高かった「缶入り日本酒」を、蔵元が小ロットで試せる環境を整えています。大量生産前提だったアルミ缶市場に小回りのきく選択肢が登場したことは、日本酒業界にとって大きな転換点になりつつあります。

一合缶がつくる新しい消費シーン

手に取りやすく、軽く、イベントや観光と結びつけやすい一合缶は、これまで瓶では取り込めなかった層に日本酒を届ける力を秘めています。若年層やライトユーザーが「まず一杯、気軽に飲んでみる」という入り口になり、地域性の高い地酒がカジュアルに流通する可能性が広がっています。

缶は遮光性に優れ、劣化を防ぎやすいだけでなく、デザインの自由度が高いため、イベント限定、地域限定、コラボラベルといったパッケージで魅せる地酒の展開にも適しています。今回の将棋イベントのように、文化との掛け合わせによる相乗効果も期待できます。

小口生産が次の地酒ブームを生むか

これまで地酒ブームは、希少な銘柄の人気や、酒蔵のストーリー性によって生まれてきました。しかし近年、消費者の嗜好は「体験」や「その場だけの価値」にシフトしています。アルミ缶という新たな容器を使い、イベントや観光を軸にその土地ならではの日本酒を提供できる環境が整ったことで、地酒の楽しみ方がまさにアップデートされつつあります。

小ロットで自由に商品をつくれることは、蔵元にとって新しい挑戦のプラットフォームとなり、地域イベントやコラボ企画と結びつきやすくなります。その積み重ねが、次の地酒ブームの引き金になる可能性は大いにあります。缶入り日本酒が、地酒をより身近な存在へと押し上げ、地域の個性がそのまま楽しめる新しい市場を生み出すかもしれません。

「一献一局プロジェクト」は、将棋と日本酒という日本らしい文化の組み合わせに、アルミ缶という現代的な手法を重ねることで、文化体験としての地酒の可能性を提示しています。伝統と革新が交わるこの取り組みには、地域文化の新しいかたちを切り開く可能性が秘められているのではないでしょうか。

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【特集】燗がもたらす日本酒の科学的変化――温度が広げる味わいの可能性

日本酒の魅力の一つとして、幅広い温度帯で楽しめる点が挙げられます。なかでも「燗」は、古くから日本の食文化に寄り添ってきた飲み方ですが、近年は科学的な分析が進んだことで、その味わいの変化がより明確に説明されるようになってきました。本稿では、燗によって日本酒にどのような科学的変化が起きるのかを掘り下げ、その可能性を探ります。


まず注目されるのは、温度上昇による揮発性成分の変化です。日本酒にはリンゴ酸、コハク酸、乳酸などの有機酸や、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルといった香気成分が含まれています。これらは温度が上がると揮発しやすくなり、香りの立ち方に大きな影響を与えます。特に酢酸イソアミルなどの「吟醸香」と呼ばれるフルーティーな成分は低温で感じやすい一方、燗をつけることでアルコール由来の香りや米のうま味を想起させる成分が前面に出やすくなります。そのため、吟醸酒よりも純米酒や本醸造酒が燗酒と相性がよいとされる理由が、科学的にも裏付けられつつあります。

次に、味わいのバランスの変化が挙げられます。温度が上がると、糖分やアミノ酸の甘味・うま味は感じやすくなり、逆に酸味や苦味は相対的に穏やかに知覚されます。この味覚特性は、温かいスープが甘味やコクを強調するのと同じ原理です。日本酒に含まれるアミノ酸は、うま味に寄与するだけでなく、温度上昇により複雑な味わいを形成するため、燗にすることで「まろやかさ」や「ふくらみ」が出ると評価されます。これらの変化は単なる感覚的なものではなく、温度による味覚細胞の反応の変化が関与しているとされています。

さらに、アルコール自体の感覚変化も重要です。温度が高くなるとアルコール刺激は強く感じそうに思われますが、実際には40〜50度の「上燗」帯では刺激が和らぎ、代わりに香りの湯気立ちが増すことで、全体の印象が柔らかく感じられることが知られています。これは、エタノールの揮発による香り成分との相互作用が変化し、味と香りの一体感が増すためとされています。

また、燗によって日本酒のテクスチャーにも変化が生じます。冷酒ではシャープに感じられた酒質が、燗をつけることで粘度が低下し、口当たりが軽やかになる一方で、うま味が広がる印象が強まります。この口中での広がりは、料理との相性を高める効果もあり、和食を中心に幅広いペアリングが楽しめます。

こうした科学的理解の進展により、最近では酒蔵や飲食店が温度帯ごとの最適な提供方法を研究し、温度管理を行うケースが増えています。専用の燗酒器や温度別テイスティングイベントも広がり、燗酒は「古い飲み方」から「新しい体験価値」へと評価が変わりつつあります。

科学が明らかにする燗の魅力は、単に温めるだけではない繊細な味わいの変化にあります。これからの日本酒文化の中で、燗はよりクリエイティブで多様な楽しみ方を生む要素として注目を集めていきそうです。

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梅乃宿酒造株式会社(奈良県葛城市)、共創型プロジェクト「ワクワク日本酒体験ラボ」を始動

奈良県葛城市に拠点を置く老舗酒蔵、梅乃宿酒造株式会社(以下「梅乃宿酒造」)は、2025年11月23日、オンラインファン・コミュニティ「梅乃宿KURABU」のメンバーとともに、共創企画「ワクワク日本酒体験ラボ」の第1日目を開催しました。

この取り組みは、単なる「お酒を飲む」体験を超えて、蔵元とファンが対話し、造り手と飲み手が「ともに」酒を創るプロセスを共有することで、日本酒を文化体験としてリ・デザインする試みでもあります。

「体験」から「共創」へ—味わいを決める開発会議も

当日は、抽選で選ばれた「梅乃宿KURABU」会員が蔵元を訪問、通常は非公開の仕込み部屋を含む特別蔵見学を行い、蔵人の説明を受けながら酒造りの現場に触れました。その後、「どのような味わいにしたいか」「どんなシーンで飲んでほしいか」といった議論を、利き酒を交えつつ蔵人と参加者が展開。参加者の「花見シーズンに軽やかに飲める華やかですっきりとした味わいにしたい」という声がうけて、今回の共創酒の方向性が決まりました。

開発プロセスのラベルデザイン・ネーミングなどもオンラインコミュニティ内で投票によって決定予定。最終的な完成試飲会とラベル作りを伴う第2日目は2026年3月28日に予定されています。

日本酒を「文化体験の道具」に転換する

この企画が示すのは、いま日本酒が、「ただ飲む酒」から「体験として楽しむ」方向へ変化しているということです。

  • 蔵見学という場で、伝統的な酒造りの機械・温度管理・酵母や米の違いに触れる体験。
  • ファン自身が味わいやラベルを議論し、酒づくりに参加するという能動的な関与。
  • オンラインコミュニティを通じて、離れた場所からでも蔵との接点を持つことができるプラットフォーム。

これらがかみ合うことで、酒そのものだけでなく「造る過程」「場」「人との繋がり」が一体となった文化的な体験価値が生まれています。

また、梅乃宿酒造が掲げる「新しい酒文化を創造する」というパーパスにも合致。130年以上の歴史を持ちながら、ファンとともに『ワクワクする日本酒』を創る姿勢が現れています。

飲み手との壁を壊す蔵元とファンの関係性

従来、酒蔵と飲み手の関係は「造る側/飲む側」という一方通行になりがちでした。しかしこのプロジェクトでは、飲み手が造り手と直接ディスカッションすることで、味の背景にある技術・発酵・原料などへの理解が深まります。こうした関与が、飲む側の意識を変え、酒を「知る・創る・楽しむ」対象に転換しています。

また「夫があまり日本酒が得意でないが…」という声から、より幅広い層に向けて日本酒を開く姿勢も見えます。例えば、軽やかな味わいや華やかさを意識することで、初心者にも訴求する酒づくりが行われている点が注目されます。

このような取り組みは、酒造り体験・蔵見学・ラベルデザイン体験など、観光・体験サービスと融合する動きとしても捉えられます。蔵を訪れることで地域文化に触れ、ファンと蔵人が顔を合わせ、酒を通じたコミュニティが育まれる。こうした体験型の酒文化が今後増えることで、日本酒は「場をつくるキュレーター」としての役割も担うようになっていくでしょう。


梅乃宿酒造のワクワク日本酒体験ラボは、単なる『酒』を超えて『文化体験』へと日本酒を引き上げる新たな試みです。蔵人とファンが共に造るプロセス、オンラインとオフラインをつなぐコミュニティ、味覚だけでなく体験そのものを価値とする視点。これらが融合することで、今後の日本酒は「飲むもの」から「参加・体感するもの」へと進化していく可能性を示しています。日本酒ファンはもちろん、地域文化や体験消費を求める人々にとっても注目に値する動きと言えるでしょう。

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