天郷醸造所がFusicと戦略的提携 日本酒×テクノロジーが導く「次世代クラフト酒造」の未来

福岡県福智町のクラフト醸造所「天郷醸造所」が、クラウド・AI・IoT 技術を有するFusic株式会社と戦略的パートナーシップを締結したと発表しました。同醸造所は2023年に設立された新興ブランドですが、地域の米や果物を活かした酒造りで注目を集めており、今回の提携により酒造工程のデジタル化とブランド体験の高度化を進める構えです。

テクノロジー活用で酒造を革新

今回の提携では、発酵データのクラウド管理や品質の可視化など、IoTを軸とした醸造工程の改善が見込まれています。また、NFCタグによるトレーサビリティの強化や、消費者が原料農家の情報を簡単に確認できる仕組みの導入など、体験型の酒造ブランド構築にも取り組むと見られます。これにより、小規模ながら高度な品質管理を実現できるスマート醸造所として新たなモデルケースとなる可能性があります。

ところで、日本酒業界ではすでに複数の先進事例が生まれています。新潟の津南醸造はAIを使った「スマート発酵」を実践し、酵母の動きをリアルタイムで分析して品質を安定化させています。また、阿部酒造はNFCやブロックチェーンを活用し、酒瓶ごとの流通履歴を記録するなど、デジタル技術で透明性とブランド価値を高めています。

さらに、酒蔵のデジタルツイン化やメタバースでの蔵見学など、バーチャル空間での新しい発信も行われています。こうした事例は、伝統とテクノロジーが矛盾ではなく相互補完的に作用することを示しており、今回の『天郷醸造所×Fusic』の提携も、その流れに連なる重要な動きといえます。

日本酒市場の未来を象徴する提携

天郷醸造所は福智町の産業振興施策により誕生したクラフト醸造所であり、地元米や特産品を使った商品開発による地域活性化にも力を入れています。デジタル化が進めば、地元農家のストーリーを世界に発信できるだけでなく、越境ECなどによる海外展開も可能になり、酒造業を核とした地域経済循環を生み出すことが期待されます。

ところで、クラフト酒の台頭とともに、消費者は「味」だけでなく、「背景」「つくり手」「土地」などストーリー全体に価値を求める傾向が強まっています。デジタル技術はこのストーリーの可視化に極めて相性がよく、今回の提携はまさにその潮流を後押しするものとなるでしょう。

天郷醸造所とFusicの取り組みは、技術を活かした酒造の未来像を提示するだけでなく、地域と世界を繋ぐ新たな日本酒の姿を浮かび上がらせています。今後の動向は日本酒業界に大きな示唆を与えることになりそうです。

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日本酒×ティーブランドの革新 ~「haccoba × SMITH TEAMAKER」コラボが示す新たな可能性

福島県南相馬市の酒造、haccobaが、米国ポートランド発のスペシャルティティーブランド、SMITH TEAMAKERとのコラボレーションを発表しました。両者が手がけるこのプロジェクトは、従来の「日本酒=米+麹+酵母」の枠を超えた“飲料素材の掛け合わせ”が、業界に新風を巻き起こす予兆とも言えます。

幅広い飲料コラボへ広がる日本酒マーケット

今回のコラボレーションでは、SMITH TEAMAKER が渋谷店限定で展開するブレンド「TOKYO TWILIGHT」の茶葉(煎茶・グリーンルイボス・レモンピール・ジュニパー・ラベンダー)を、お米とともに発酵させたプロトタイプ酒を開発したと報じられています。このように、茶葉という他飲料由来の素材を日本酒に取り入れる試みは、飲料業界の異ジャンルコラボが日本酒の世界にも浸透してきていることを示しています。例えば、クラフトビール由来のホップや清涼飲料・産地茶葉との掛け合わせを試みる酒造も増えており、日本酒の固定観念の刷新が進んでいます。

「haccoba」と「SMITH TEAMAKER」の異業種コラボから読み解く変化

haccobaは「酒づくりをもっと自由に」という理念を掲げ、日本酒の伝統製法を再解釈しつつ、新素材・新手法を積極的に採用してきたクラフトサケブルワリーです。一方、SMITH TEAMAKERは世界各地から厳選した茶葉を用い、卓越したブレンド技術を駆使してティー文化のリデザインに取り組んできたブランドです。両者が手を組む意義は、単に「お茶+日本酒」という組み合わせにとどまらず、香り・葉物素材・発酵プロセスの再解釈を通じて、新たな飲料体験を創出しようという点にあります。加えて、地域・海外展開・ブランド戦略という複数の軸が重なっており、単なる製品開発以上の意図が読み取れます。

日本酒業界に及ぼす影響と今後の展望

このようなコラボレーションが業界に与える影響は少なくありません。まず、香味・風味のバリエーションが飛躍的に広がる可能性があります。お茶やハーブ、スパイスなど異素材の導入により、これまでの日本酒ファンだけでなく、紅茶・ハーブティー・クラフト飲料好きの潜在顧客をも取り込む境界外マーケットの開拓が期待できます。

次に、ブランド価値・差別化の観点です。日本酒が海外発のティーブランドとコラボするという話題性は、国内外のメディア露出を通じて 日本酒のモダナイズを印象付ける効果をもたらします。これにより、若年層や海外のリカーコンシューマーにもアプローチ可能となります。

さらに、製造・流通・販促の面でも変化が見込まれます。茶葉との発酵実験や異素材の投入という製造プロセスの革新は、蔵元にとって新たなノウハウの蓄積機会となり、将来的には「コラボ日本酒」というカテゴリ自体の拡大を後押しするでしょう。販促面では、コラボレーションというストーリーがSNSやEC、インバウンド誘致のキラーコンテンツとなり、流通チャネルの拡張にもつながります。

ただし、課題もあります。異素材導入に伴う品質の安定確保、消費者の理解・受容、そして日本酒伝統の資産価値とのバランスです。業界全体としては、変革の方向と伝統維持のバランスを慎重に考える必要があります。

総じて、「haccoba × SMITH TEAMAKER」のコラボレーションは、日本酒業界における「異飲料コラボ時代」の幕開けを象徴する取り組みと言えるでしょう。香り・素材・体験という観点から日本酒の価値を再構築する動きが、今後さらに加速する可能性があります。飲料市場の多様化が進む中で、日本酒メーカーが他飲料との掛け合わせをどのように実践し、自社のブランディングに結びつけるか。今後の展開に注目が集まります。

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大手酒造に「マイクロブリュワリー」設置の波~新しい時代に向けて変わりゆく日本酒業界

日本酒業界に新たな波が押し寄せています。伝統的な大量生産を主軸としてきた大手酒造メーカー、白鶴酒造と大関が相次いで、極めて小規模な醸造施設である「マイクロブリュワリー」を新設しました。

白鶴酒造は2024年9月に「HAKUTSURU SAKE CRAFT」を、大関は2025年10月に「魁蔵(さきがけくら)」を開設。この動きは、業界が直面する構造的な課題に対する、大手ならではの戦略的な回答と見られています。

伝統技術の「継承」と人材育成の重要性

大手酒造は、高い品質を維持するために機械化と大量生産のシステムを確立してきました。しかし、この効率化の裏側で、酒造りの全工程を杜氏や蔵人が手作業で経験する機会が減少し、「技術のブラックボックス化」と「若手育成の難しさ」という課題が顕在化していました。

大関が「丹波杜氏の技術継承」を主要な目的に掲げた「魁蔵」は、この課題を解決するための場です。小仕込み施設では、洗米から瓶詰めまで、すべての工程を少人数で手作業によって一貫して行います。これは、伝統的な酒造りの技術を若手社員が「肌で学ぶ」ための、逆説的ながら最も効果的な研修システムとして機能します。そしてそれは、機械と対峙する酒造りから脱却し、感覚を研ぎ澄ませて、生きた商品をつくり上げることにつながると考えられています。

また、大規模な生産ラインでは、リスクの大きさから、新しい酵母や米の導入、異業種とのコラボレーションなど、革新的な酒造りを試すことは困難でした。マイクロブリュワリーなら、このリスクを最小限に抑えた「実験工場」としての役割を担わせることができます。白鶴酒造の「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、まさにその代表例です。ここでは、ワイン酵母の使用、ぶどうとのハイブリッド酒、特定の酸味成分の強化など、従来の日本酒の枠を超えたユニークな酒造りに挑戦しています。

この実験的な取り組みから生まれた限定酒は、高付加価値な商品として市場に投入され、従来の日本酒ファンだけでなく、ワインやクラフトビールの消費者など、新たな顧客層の開拓にも繋がっているのです。

「見える醸造」による各方面との関係構築

両社のマイクロブリュワリーは、工場の一部がガラス張りであったり、資料館内に設置されたりするなど、「見える醸造」となっていることも特徴です。

消費者との接点を強化し、製造工程の透明性を高めることは、日本酒に対する信頼感と興味を深め、熱狂的なロイヤルティを持つファンを生み出す効果があります。これは、酒蔵が直販やECを強化する現代において、極めて重要なマーケティング戦略です。

さらには、確立された新しい技術や知見がオープンになることで、特に伝統的な技術の継承に悩む小規模蔵にとっても、革新的な技術の恩恵を受ける道が開かれ、業界全体の技術水準の底上げに繋がる可能性をも秘めているのです。


大手酒造によるマイクロブリュワリーの設置は、伝統の継承と未来へのイノベーションという、相反するテーマを見事に両立させるための戦略的な一手であり、日本酒業界の再活性化に向けた大きな魁(さきがけ)となるはずです。

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チリ発・南米最大の酒の祭典Catad’Or World Wine Awards 2025に見る日本酒の未来

【サンティアゴ・2025年11月6日】中南米最大の国際的な酒類コンペティション「Catad’Or World Wine Awards(カタドール・ワールド・ワイン・アワーズ)2025」の結果が11月6日に発表されました。ワイン・スピリッツが中心の同アワードにおいて、2023年から正式に審査カテゴリーに加わった日本酒(SAKE)が今年も多数の賞を獲得し、世界的な評価を不動のものとしつつあります。

Catad’Or World Wine Awards:南米の酒類文化を牽引する歴史と位置づけ

Catad’Or World Wine Awardsは、チリの首都サンティアゴで毎年開催される、中南米で最も権威ある国際的な酒類コンペティションです。1995年の設立以来、当初はチリ国内のワイン評価を主目的としていましたが、現在はその対象を中南米全域、さらには世界各国のワイン・スピリッツ・そして日本酒などへと広げ、名実ともに南米最大の酒類品評会へと成長しました。

このアワードの大きな特徴は、審査に国際ブドウ・ワイン機構(OIV)の厳格な規定を採用している点です。OIVの「30%受賞ルール」に従い、出品総数の30%までしかメダルを授与しないという厳しい基準は、受賞の価値を非常に高いものにしています。ヨーロッパ圏の権威あるコンテストが数多く存在する中、中南米という巨大な新興市場における「羅針盤」としての地位を確立しており、特に南米諸国への販路拡大を目指す酒類メーカーにとって、その受賞歴は極めて重要な意味を持ちます 。

審査対象入り3年目:日本酒が獲得した確かな手応え

日本酒が正式な審査カテゴリーとして導入されたのは2023年。これは、南米における日本食ブームや、チリのワイン文化との親和性の高さなどから、日本酒の将来的な市場拡大への期待が高まったことを示しています。

2025年のコンペティションにおいては、多くの日本酒が出品され、最高賞にあたる「Mejor Sake」をはじめ、金賞(Gold Medal)、銀賞(Silver Medal)といったメダルが授与されています。このような受賞は、今後の日本酒業界に複合的な好影響をもたらすと考えられます。

最も直接的な効果は、南米市場への本格的な足がかりとなることです。チリやブラジルといった国々は、ワイン文化が根付いており、同じ醸造酒である日本酒を受け入れる土壌が既に存在します。このコンペティションでの高評価は、南米現地の消費者やソムリエに対し、日本酒の品質を保証する強力な「お墨付き」となります。これまでアメリカやヨーロッパが中心だった日本酒の輸出戦略において、「南米ルート」が重要な柱の一つとなる可能性を高めます。

Catad’Or World Wine Awardsでの継続的な受賞は、日本酒を「和食の傍ら」の存在から、世界のアルコール飲料市場における普遍的な嗜好品として位置づけるための、重要な一歩と言えるでしょう。

Mejor Sake嘉美心 純米大吟醸嘉美心酒造株式会社
Great Gold陸奥八仙 natural sparkling八戸酒造株式会社
Great Gold陸奥八仙 貴醸酒八戸酒造株式会社
Great Gold陸奥八仙 特別純米八戸酒造株式会社
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新幹線で「朝詰め」を直送する価値~「はこビュン」活用で日本酒流通

11月7日から13日にかけて開催されている「新潟産直市」で、白瀧酒造が当日朝に詰めた生酒を新幹線で首都圏へ直送し、駅ナカで数量限定販売するという取り組みが話題になっています。即日輸送に「はこビュン」を使うことで、『朝詰め→当日販売』という鮮度訴求が可能になり、来場者の注目を集める効果が確認されています。

「はこビュン」の強みと課題

そもそも「はこビュン」は新幹線や特急を活用する列車荷物輸送サービスで、高速・定時性・低振動という特性を活かし、鮮度が重要な食品や緊急性のある貨物の輸送に向くとされています。駅間の輸送が短時間で済むため、搾りたてや開栓後まもない生酒の当日到着を実現しやすく、消費者にとっては市場に出回らない体験価値が生まれます。

一方で実務面ではクリティカルな課題も顕在化します。まず温度管理。生酒は冷温での取扱いが必須であり、新幹線輸送の車内保管や駅での一時保管に冷蔵インフラが要ります。また「はこビュン」は荷物単位での小口輸送に対応する反面、積載量や発着時間は列車ダイヤに依存するため、大量出荷や高頻度運用には別途の調整・コストが伴います。輸送料金や保険、アルコール類特有の取り扱い(届け出やラベル表示)も事前にクリアしておく必要があります。

それでも、はこビュン活用のメリットは明確です。その主なものとして下記が挙がります。

①鮮度を前面に出した高単価商材の販売が可能になること
②地域の話題性を東京圏の駅ナカという接点で即時に試せること
③鉄道輸送の低振動・定時性が品質保持に寄与すること

過去の事例でも、同様の「当日しぼり」を新幹線で輸送して短時間で完売したケースが報告されており、限定性と体験価値が消費を促進する傾向が見られます。ただ、持続可能なモデルにするためには、下記のようなことも必要になってくるでしょう。

①冷蔵対応の輸送ボックスや駅側の一時冷蔵設備の標準化
➁定期便や季節便の導入でスケールをつくること
③ECや予約販売と連携して当日現地で受け取る形式を併用し需要を平滑化すること
④物流コストを下げるための共同梱包・自治体支援の活用

これらを進めれば、はこビュンは単なる話題作りを超え、地方酒蔵の首都圏販路拡大と地域ブランド強化に貢献し得るサービスとなり得るはずです。


「はこビュン」を用いた新幹線直送は、日本酒の鮮度という無形の価値を具体的な売上につなげる有効な手段です。しかし、その価値を拡大させるには、冷温管理・輸送容量・コストの三点にわたる設計改善と、販路・観光誘客を絡めた総合的なプランニングが不可欠です。今後、継続的な実績蓄積とインフラ投資が進めば、新幹線荷物輸送は地方酒の新しい流通標準の一つになり得るかもしれません。

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「危険なので真似しないで」がSNSで大バズり!カステラと日本酒の衝撃マリアージュが示す新ペアリングの時代

10月21日に投稿された菊水酒造の公式X(旧Twitter)「カステラに日本酒を染みこませてはいけません。止まらなくなります。危険なので真似しないように。」という『警告』が、SNS上で爆発的な話題を呼んでいます。特に同社の代表銘柄である「ふなぐち 菊水一番しぼり」とカステラを合わせた短い動画は、多くの日本酒ファンやスイーツ愛好家の好奇心を刺激し、試す人が続出。その結果、賛同と驚きの声が相次ぎ、「危険すぎる」「まさに禁断の味」といった感想と共に広く拡散され、投稿は一躍、大きな注目を集めることとなりました。

「危険な組み合わせ」が証明した日本酒の多様性

この背景には、消費者の間で高まる「自由で新しい日本酒の楽しみ方」への希求があると考えられます。伝統的な和食とのペアリングが主流だった日本酒の世界に、「スイーツ」という意外な組み合わせが斬り込んできたことは、その固定概念を打ち破る象徴的な出来事と言えるでしょう。

一般的に、濃厚な甘さを持つカステラには、同じく濃厚な甘口や熟成古酒などが合うとされてきました。しかし、菊水酒造が推奨した「ふなぐち」は、フレッシュで濃厚ながらも力強いアルコール感を持つタイプです。このアルコール感が、カステラのバターや卵の風味、そしてザラメの強い甘さを「キレ」で引き締めつつ、同時に日本酒由来の「米の旨み」とカステラの「旨み・甘み」を完璧に融合させます。この絶妙なバランスこそが、「止まらなくなる」という中毒性を生み出した最大の理由だと推察されます。

今後の日本酒ペアリングが目指す「三位一体」

このカステラ事件は、これからの日本酒ペアリングのトレンドを予見させるものです。近年の外食産業では、日本酒とフレンチ・イタリアン・中華といった異ジャンルの料理を合わせる「SAKEペアリングレストラン」が人気を博しています。これは単に料理と酒を並べるのではなく、それぞれの要素を深く理解し、相乗効果で全く新しい味わいを創出する「マリアージュ」を追求する動きです。

ここにスイーツが加わろうとしているわけですが、以下の三つの要素が鍵となると考えられます。

【脱・和食依存】

伝統に囚われず、チョコレート、チーズ、スパイス料理など、多様な食材との組み合わせに積極的に挑戦する姿勢です。今回のカステラは、その一つの成功例と言えるでしょう。

【要素の分解と再構築】

料理と日本酒を、香り・酸味・甘み・旨み・アルコール度数といった個々の要素に分解し、「温度」や「濃度」まで緻密に調整して合わせるプロの技術が、より重要になります。

【情報発信とコミュニティ】

蔵元や飲食店が、SNSなどを通じて新しいペアリングの「発見」をエンターテイメントとして発信し、消費者との双方向のコミュニケーションでトレンドを作り上げていくことが、市場の拡大に不可欠となります。


菊水酒造の投稿は、日本酒の持つ無限の可能性を、遊び心とユーモアを交えて世に知らしめました。「危険」というキャッチーな言葉が、新たな「発見」への扉を開き、日本酒の楽しみ方を大きく広げるきっかけとなったことは間違いありません。日本酒が今後、和食だけでなく世界の食卓を彩る存在となるためにも、こうした自由な発想と発信が、ますます重要になってくるでしょう。

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北米最大級ワインコンクール「Sélections Mondiales des Vins 2025」日本酒部門の結果が発表される

Sélections Mondiales des Vins(セレクシオン・モンディアル・デ・ヴァン、略称:SMV)は、ワインの国際的な品評会として、カナダのモントリオールで毎年開催されています。その歴史は長く、1983年に第1回が開催されて以来、北米で最も権威あるワインコンペティションの一つとして確固たる地位を築いてきました。

世界におけるSMVの位置付けと日本酒部門

SMVは、国際ブドウ・ワイン機構(OIV)と世界ワイン・スピリッツ・コンペティション連盟(VINOFED)の公認を得ていることが最大の特徴です。この公認は、審査の公平性、透明性、そして厳格な基準が国際的に認められている証であり、世界最大級のワインコンペティションとしての信頼性と威信を裏付けています。受賞歴は、世界市場におけるブランドの認知度向上と販売促進に直結するため、世界中の生産者が注目の的としています。

そのSMVは長年、ワイン部門のみで開催されてきましたが、昨年(2024年)から新たに日本酒(Sake)部門が開設されました。この背景には、世界市場、特に北米市場における日本酒人気の爆発的な高まりがあり、下記のような点を考慮してのことです。

【グローバルな食文化の変化】和食がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、日本食への関心が高まり、それに伴い日本酒の需要が増加しているため。

【多様な飲用機会】日本酒が、和食だけでなくフレンチやイタリアンといった多様な料理と合わせる酒として認識され始めているため。

【コンペティションの包括性】市場の変化に対応し、国際的な酒類コンペティションとしての包括性を高めるため。

この部門開設は、日本酒が単なる日本のローカルな酒から、世界的な高級酒としての地位を確立する上で、極めて重要なターニングポイントとなっています。

Sélections Mondiales des Vins 2025 日本酒部門の最高金賞

このSMVでは、国際審査員による厳正なブラインドテイスティングで、「GRAND OR/GRAND GOLD(最高金賞)」「OR/GOLD(金賞)」「ARGENT/SILVER(銀賞)」が決まります。今年は10月8日から10月11日にかけて開催され、日本酒部門における「GRAND OR/GRAND GOLD(最高金賞)」は下記5銘柄が選ばれました。なお、「作 槐山一滴水」は、審査員特別賞にも選ばれています。

GRAND OR作 槐山一滴水清水清三郎商店株式会社
GRAND OR作 恵乃智清水清三郎商店株式会社
GRAND OR超特選純米大吟醸 残響 Super7株式会社新澤醸造店
GRAND OR一ノ蔵 純米大吟醸 松山天株式会社一ノ蔵
GRAND OR天明 純米火入 オレンジの天明曙酒造株式会社

▶ Sélections Mondiales des Vins

▶ 作 槐山一滴水|北米最大級のコンクールで最高金賞。プレミアム日本酒

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「浄酎-JOCHU-」とは何か?日本酒が、新たな形で動き出す

ナオライ株式会社が手がける新ジャンルの和酒「浄酎-JOCHU-」が、2025年10月29日から12月1日までの期間、東京・銀座のGINZA SIX地下2階に期間限定ショップをオープンしています。高級商業施設という舞台で、蒸留によって生まれた『新しい日本酒のかたち』を提案するこの展開は、単なる販売イベントにとどまらず、日本の酒文化の進化を象徴する試みとして注目されています。

「浄酎-JOCHU-」とは

「浄酎-JOCHU-」は、ナオライ独自の低温浄溜®という技術で、純米酒を丁寧に蒸留して造られるお酒です。一般的な焼酎やスピリッツと異なり、原料に使用する日本酒の香味を繊細に保ちながら雑味を抑え、アルコール度数を約41度にまで高めています。蒸留によって生まれる透明感と、熟成による柔らかな口当たりが共存し、従来の蒸留酒にはあてはまらない、新しい味わいを実現しています。

ナオライの創業理念は「時をためて、人と自然を醸す」というものです。単に酒を造るのではなく、自然と人、そして時間の流れそのものを味わいとして表現しようとしています。なかでも「浄酎-JOCHU-」の大きな特徴は、ワインやウイスキーのように、時の経過が味わいを変化させる点にあります。消費の即時性を重視しがちな現代社会において、「時間を飲む」という発想は、日本的な熟成美を現代的に再定義する試みでもあります。

「浄酎-JOCHU-」の未来

今回のGINZA SIXでの出店は、その哲学を都市空間で体験してもらう貴重な機会といえます。高級ブランドが並ぶ銀座の中心において、伝統的な酒文化の枠を超えたクラフトスピリッツとしての日本酒を発信することで、従来の日本酒ファンだけでなく、ワインやウイスキーを愛する層、さらには海外の観光客にもアプローチできる構成となっています。

また、「浄酎-JOCHU-」は、国内外のサステナブルな酒造りへの関心の高まりにも呼応しています。使用される日本酒は、地域の酒蔵が造った純米酒であり、その副産物である酒粕や米も無駄なく活用されています。ナオライは広島県・三角島を拠点に、地域の自然循環の中で発酵文化を育むプロジェクトを展開しており、「浄酎-JOCHU-」もその延長線上にあるプロダクトです。自然との共生を掲げたブランド哲学が、酒という嗜好品を通じて社会や環境にポジティブな影響を与えようとしているのです。

総じて、「浄酎-JOCHU-」は、伝統の延長ではなく、未来の和酒を創る挑戦です。日本酒の香りを残しながらも、アルコール度数や熟成の深みでスピリッツのような余韻を生み出す。和と洋、伝統と革新を架け橋のように結ぶこのお酒は、日本酒を世界にどう発信していくかを示す、一つの象徴的な存在になるかもしれません。銀座の街で、その『時を飲む』体験がどのように受け止められるか、今後の展開に大きな注目が集まります。

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立冬は「鍋と燗の日」~冬を迎える日本の風物詩を味わう記念日の由来と意味

「鍋と燗の日」は、暦の上で冬の到来を告げる二十四節気の一つ・立冬(今年は11月7日)を記念日にあて、温かい鍋料理と燗酒を楽しむ文化を広めることを目的に制定されました。発起人は灘・伏見・伊丹の老舗酒造会社が参加する「日本酒がうまい!推進委員会」で、2011年に記念日として打ち出し、制定当初から試飲イベントや体験会などの共同プロモーションを行っています。

立冬は暦の上で「冬の始まり」を示す日であり、肌寒さが増すこの時期に家族や友人と鍋を囲み、体を温める習慣と自然に重なります。とりわけ日本酒の「燗」は、酒質の違いをやさしく引き出し、料理との相性を高めることから、鍋料理との親和性が高いと考えられています。こうした季節性と食文化の結びつきを象徴する日として「立冬=鍋と燗の日」が選ばれました。

制定の狙いは単に記念日を作ることではなく、日本酒の需要を盛り上げ、消費者に燗で飲む日本酒の魅力を再発見してもらうことにあります。記念日前後では酒造や小売、飲食店が連携して燗酒の試飲会、鍋と燗のペアリングイベント、販促キャンペーンなどを実施しており、地域の酒文化の発信につながっています。

「鍋と燗の日」は、単なる商業プロモーションにとどまらず、共有・共食の文化を見直す機会でもあります。鍋を囲む行為は、場を和ませて人の距離を縮めます。燗酒は、味わいの幅を広げて会話を豊かにします。現代のライフスタイルでは外食や一人鍋も増えていますが、この記念日は、季節を感じる食卓の価値をあらためて提案する役割を果たしています。

立冬には、地元の旬の食材で作る鍋に、燗が映える純米酒や本醸造を合わせるのがおすすめです。燗の温度帯を変えて飲み比べることで、同じ酒でも風味の変化を楽しめます。また、家庭や居酒屋での小さなイベントとして「鍋と燗」のペアリング会を開けば、季節行事として定着しやすくなります。

立冬つまり「鍋と燗の日」は、暦と食文化を結びつける現代の記念日として、冬の食卓に新しい気づきと会話をもたらしています。季節の始まりを味わう一杯と一鍋で、心も体もあたたかく過ごしてみたいものです。

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【棚田×日本酒の新潮流】土地と人がつながる酒造りの現在地

近年、日本各地で棚田を活かした酒造りに取り組む酒造が増えてきています。急峻な地形に段々と広がる棚田は、農村文化の象徴であるだけでなく、寒暖差や水はけの良さなど、酒米栽培に適した環境条件を備えていることが再評価されています。人口減少により棚田の維持が難しくなる地域が増える中、酒蔵が棚田米を用いることで農地の保全に貢献し、地域のストーリーを酒に乗せて発信できる点が大きな魅力となっております。

こうした流れの象徴的な事例として、生酛造りで知られる大七がリリースした純米酒「西谷棚田」が挙げられます。福島県二本松市の美しい棚田で栽培された米を用いた同作は、単なる地域限定酒ではなく、棚田という文化景観そのものを味わう酒として注目を集めています。

『物語』を醸す酒造り

棚田を活かした酒造りの広がりは、日本酒が「ただ飲むもの」から「土地や人とつながる体験」に変化していることを示しています。かつては酒造が米を購入するだけで成り立っていた関係が、いまや農家と共同で米作りから関わる取り組みへと進化しつつあります。

この物語性を求める動きは、若い世代を中心に大きな支持を得ています。棚田という里山文化が持つ懐かしさ・美しさ・環境価値が、酒の背景として消費者に強く響いているためです。日本酒が地域文化のアンバサダー役を担い始めたことで、酒蔵もまた「どんな土地の米を、どんな思いで醸すのか」を積極的に発信するようになっています。

持続可能な地域づくりの一翼としての酒造

棚田再生に酒蔵が関わるメリットは、文化的価値の継承にとどまりません。棚田は水源涵養や景観保全など多面的な機能を持つため、その維持は地域の環境保護とも直結します。酒蔵が棚田米を使用することで、農家に安定した収入源をもたらし、耕作放棄地の減少にもつながっています。

また、棚田米を使用した日本酒は、観光コンテンツとしても魅力が高い存在です。田植え体験や収穫祭、棚田を望む蔵見学など、体験型の酒ツーリズムが生まれやすく、地域全体の活性化に波及していきます。酒が『』地域を回すエンジン』へと役割を広げている点は、現代の日本酒文化の重要な変化といえるでしょう。

棚田酒が描く日本酒の未来像

大七「西谷棚田」のような取り組みは、今後さらに広がっていくと見られます。気候変動や農業人口の減少が続く中で、酒蔵が原料生産から関わることは、品質向上だけでなく持続可能な仕組みづくりとしても不可欠です。そして、棚田という舞台は、自然・文化・人を結びつける象徴的な存在として、日本酒の新たな価値を生み出しています。

日本酒は今、単なる嗜好品ではなく、『地域の物語を体験するためのメディア』へと進化しつつあります。棚田から生まれる一杯は、土地の記憶、人の営み、そして未来への願いをそっと湛えています。こうした流れは、日本酒が再び地域の中心に戻り、人と人をゆるやかにつなぐ存在へと変化していることを物語っています。

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