2025年の INTERNATIONAL SAKE CHALLENGE(ISC) の審査結果がこのほど発表され、福井県鯖江市の加藤吉平商店による銘酒「梵(BORN)」が、7部門中4部門で最高賞である TROPHY(トロフィー) を獲得しました。
この結果は、単なる受賞の枠を超え、「梵」というブランドが改めて世界の審美眼に通用する品質を持つことを証明したものとして注目されています。
INTERNATIONAL SAKE CHALLENGEとは
ISCは、2007年に設立された日本酒の国際審査会で、世界的なワインコンペティション「International Wine Challenge(IWC)」の姉妹大会に位置づけられています。
しかし、IWC SAKE部門とは異なり、ISCは完全に日本国内で開催される国際基準の官能評価会である点が特徴です。審査員には日本国内の酒類鑑定士や蔵人だけでなく、海外のマスター・オブ・ワイン(MW)やワインジャーナリスト、ホテルソムリエなど、非日本人審査員が多数参加しており、評価基準はワインやスピリッツの世界基準と同等の枠組みで運営されています。
他の主要コンクール――たとえば全国新酒鑑評会やSAKE COMPETITIONなどが「技術力」を基準にした美味しさを評価するのに対し、ISCは世界の消費者が感じる美味しさという普遍的基準を軸に置いています。
香味の完成度・熟成バランス・温度変化による味の展開、さらには輸出市場での可能性まで含めた「総合的国際評価」が行われるため、世界で売れる日本酒を見極める場ともいわれます。
世界に知られる「梵」が、再び世界基準で認められた
そんな審査の中で、梵が4部門でトロフィーを獲得したのは極めて異例です。
梵はすでに、海外では「BORN」というローマ字表記で高級レストランや一流ホテルに流通しており、国際的名声を得ているブランドです。1998年の国際酒祭り(カナダ・トロント)ではグランプリを受賞、カンヌ国際映画祭で日本酒として初めて晩餐酒として使われるなど、国際的な舞台に度々登場してきました。
つまり、世界市場での名声をすでに持つ酒が、あえて世界標準の審査に挑み、とんでもない快挙を達成したのです。しかも「梵・天使のめざめ」は、毎年のようにトロフィーを獲得しています。
このように、「評価されるべき酒が、再び評価された」ことは、一見当然のようでいて、実は非常に難しいことです。なぜなら、知名度のある酒ほど期待値が高く、厳しい目が向けられるからです。そんな中でも、「梵」が純米大吟醸・吟醸・純米酒・熟成酒と複数のカテゴリーで最高賞を得たことは、蔵としての総合力と品質維持力の高さを、あらためて世界に示した形です。
今後への影響
今回のISC2025での「梵」の快挙は、「世界に認められた日本酒」が我が国の日本酒コンテストで認められたということであり、日本酒の評価軸が定まってきたことを象徴しています。
これまで日本酒は、国内で高い評価を受けても必ずしも海外で理解されるとは限らず、また逆に、海外で人気を博す銘柄が国内審査で埋もれることもありました。しかし今回、「梵」が世界の舞台で培った信頼と、日本の酒としての完成度を両立させ、「世界品質の日本酒」として再確認されたことは、業界全体にとって大きな意味を持ちます。
この結果は、単に「梵」にとっての栄誉ではなく、日本酒という文化そのものが「国境を越えて通じる味」として成熟したことの証でもあります。今後、「梵」が築いたこの評価の橋を渡るように、多くの蔵が世界と対話しながら、新たな日本酒像を描いていくことになるでしょう。
【TROPHY(トロフィー)受賞酒一覧】
| 最優秀大吟醸・吟醸酒 | 出羽桜 大吟醸酒 | 出羽桜酒造 | 山形県 |
| 最優秀純米大吟醸酒 | 五橋 純米大吟醸50% | 酒井酒造 | 山口県 |
| 最優秀純米吟醸酒 | 會津宮泉 純米吟醸 | 宮泉銘醸 | 福島県 |
| 最優秀純米酒 | 梵・純米55 | 加藤吉平商店 | 福井県 |
| 最優秀熟成酒 | 梵・天使のめざめ | 加藤吉平商店 | 福井県 |
| 最優秀スパークリング酒 | 梵・ささ雪 | 加藤吉平商店 | 福井県 |
| 最優秀プレミアム酒 | 梵・夢は正夢 | 加藤吉平商店 | 福井県 |
