獺祭が「未来を作曲」。日本酒で奏でる交響曲、大阪関西万博で話題に

2025年大阪・関西万博において話題を集める日本酒があります。それが株式会社獺祭の手掛ける「獺祭 未来を作曲」です。ヨハン・シュトラウスⅡ世の名曲「入り江のワルツ」を、発酵タンクに聴かせながら醸造するという試みで、伝統と革新を併せ持つ日本酒文化に、新たな地平を切り拓くものとして注目を浴びています。

技術的挑戦 ― 発酵を変える音楽

まず目を引くのは、音楽を酒に聴かせるという技術的側面です。株式会社獺祭によれば、タンク内に音楽の振動を伝えることで、酵母の働き方や発酵の進み方に微妙な変化が生じるといいます。音波の刺激によってガスが抜けやすくなり、酵母が活動しやすい環境をつくることができるとされており、その結果、香りや味わいに独自の個性が宿ります。日本酒は、米と水と酵母の繊細なバランスの上に成り立つ芸術品です。その発酵過程に「音楽」という新たな要素を加えることで、今までにない表情を生み出す、まさに科学と文化が融合した挑戦であり、日本酒造りの未来を想像させる試みだといえるでしょう。

異文化を結ぶ ― 日本とオーストリアの協奏曲

次に、このプロジェクトが示すのは、異文化交流の側面です。シュトラウスはオーストリアを代表する作曲家であり、その楽曲を日本酒に聴かせることは、日本とヨーロッパの文化を繋ぐ象徴的な行為といえます。株式会社獺祭とオーストリア連邦産業院のコラボレーションによって生まれた「獺祭 未来を作曲」は、単なる一つの日本酒にとどまらず、国境を越えた文化交流の成果として位置づけられています。万博という「世界が出会う場」で発表されたことにも、大きな意味があるでしょう。音楽という普遍的な言語と、日本酒という日本独自の文化資産が出会うことで、新しい物語が紡がれたのです。

日本酒が開く未来 ― 文化の架け橋として

さらに、この挑戦は、今後の日本酒の可能性を広げるものでもあります。日本酒は長らく「伝統の酒」としての側面が強調されてきましたが、近年はクラフトサケや海外進出など、多様な進化を遂げています。「未来を作曲」のように、芸術や異文化と結びつくことによって、日本酒は単なる飲料を超え、文化的な交流の触媒となることができます。たとえば、音楽ホールで演奏とともに提供される日本酒、芸術祭とコラボレーションした限定酒など、異分野との出会いによって新しい楽しみ方が提案されていくことが考えられます。

万博は常に未来を提示する舞台であり、「獺祭 未来を作曲」はその精神を体現した存在です。伝統的な日本酒の枠を守りつつも、音楽との融合によって新しい価値を生み出し、さらに国際的な交流を促進する。こうした試みは、日本酒がグローバルな舞台で文化的にどのような役割を果たせるのかを示唆しています。単なる嗜好品ではなく、人と人、国と国を結ぶ文化の架け橋としての可能性を秘めているのです。

「獺祭 未来を作曲」が提示した未来像は、決して一過性の話題ではありません。むしろ、これからの日本酒の在り方を考える上で、重要な一歩となるものです。音楽に耳を傾けながら発酵した酒を味わうとき、そこには科学と芸術、伝統と革新、そして日本と世界が響き合う姿が浮かんでくるのではないでしょうか。

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獺祭MOONプロジェクト:人類と酒の新たな一歩

2025年、人類は新たな挑戦に踏み出します――それは宇宙での日本酒造りです。山口県岩国市に本社を構える獺祭が、看板銘柄「獺祭」を国際宇宙ステーション(ISS)内の日本実験棟「きぼう」で醸造するという前例のないプロジェクトを発表しました。

この挑戦の背景には、2040年代に月面移住が現実味を帯びる中、酒が人々の暮らしに彩りを添える存在になるという獺祭の想いがあります。日本酒は、原料である米が軽量で輸送に適していることから、月面での製造にも向いているとされております。獺祭では将来的に、月に存在するとされる水と米を活用して、月面での酒造りを目指しています。

今回の宇宙醸造は、その第一歩です。2025年後半に、酒米(山田錦)、麹、酵母、水をISSへ打ち上げ、「きぼう」内で発酵を行う予定です。実験には、月面の重力(地球の約1/6)を再現できる人工重力装置「CBEF-L」を使用します。宇宙飛行士が原材料と仕込み水を混ぜ合わせることで発酵が開始され、その後は自動撹拌とアルコール濃度のモニタリングによって、もろみの完成を目指していきます。

特筆すべきは、日本酒特有の「並行複発酵」という現象――麹による糖化と酵母による発酵が同時に進行するプロセス――を、世界で初めて宇宙空間で確認する点です。これは日本酒の醸造技術の核心であり、宇宙環境での再現は技術的にも文化的にも大きな意味を持つといえるでしょう。

醸造されたもろみ約520gは冷凍状態で地球に持ち帰り、搾って清酒に仕上げる予定です。そのうち100mlをボトル1本に瓶詰めし、「獺祭 MOON – 宇宙醸造」として販売されることが計画されています。驚くべきはその価格――希望小売価格は1億円。その売上は全額、日本の宇宙開発事業に寄付されるということです。

このプロジェクトは、単なる技術実験にとどまらず、日本酒という伝統文化を宇宙時代へと橋渡しする象徴的な試みです。獺祭の挑戦が成功すれば、日本酒は地球を超えて人類の新たな生活空間でも愛される存在になることでしょう。

宇宙で醸す一滴には、未来への夢が詰まっています。

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