「メガネ専用」発売10周年 本家以外の酒蔵も参加し、日本酒とメガネの文化をつなぐ

日本酒業界には数多くの銘柄がありますが、その中でも異彩を放ってきたのが「メガネ専用」というユニークな名前のお酒です。宮城県の萩野酒造が2015年に発売したこの一本は、インパクトのあるネーミングと確かな味わいで人気を集め、発売から10周年を迎えた今年も注目を浴びています。

「日本酒の日」と「メガネの日」が生んだ異色の銘柄と、その広がり

そもそも「メガネ専用」という発想は、10月1日が「日本酒の日」であると同時に「メガネの日」にも制定されていることに由来します。日本酒の需要喚起とメガネ文化のユーモラスな融合を狙ったこの試みは、多くの人に驚きを与えました。当初は遊び心に満ちた企画のように見えましたが、その軽やかな発想が日本酒に新しい楽しみ方をもたらしたのです。

今年は特に記念すべき年となりました。10周年を迎えるにあたり、本家の萩野酒造だけでなく、全国の複数の蔵が賛同し、それぞれの「メガネ専用」を発売するという広がりを見せています。これにより、「メガネ専用」は一つの銘柄を超え、日本酒業界全体で楽しむイベント性を帯びるようになりました。まさに、メガネと日本酒を結ぶ文化現象といえるでしょう。

メガネと日本酒が持つ共通性と遊び心

メガネと日本酒の組み合わせは一見奇抜ですが、そこには共通する魅力があります。メガネは単なる視力矯正の道具にとどまらず、ファッションや自己表現の象徴でもあります。同じように日本酒もまた、米や水、造り手の哲学によって個性を映し出す存在です。つまり、両者は「日常を支えながらも、その人の個性を表す」という点で重なり合います。

また「専用」という言葉がもたらすユーモアも忘れてはなりません。飲み手がメガネをかけているかどうかは関係なく、ラベルに描かれた印象的な眼鏡マークを見るだけで、飲む人は自然と笑みを浮かべます。そしてメガネ愛用者同士でグラスを傾ければ、まるで秘密のサークルに参加しているかのような一体感が生まれます。これは従来の日本酒では得がたい新しい楽しみ方です。

さらに「メガネ専用」が示したのは、日本酒の世界における「遊び心」の価値です。伝統と格式を大切にする日本酒にあって、ユーモラスな銘柄は挑戦ともいえます。しかし、そうした軽やかな発想こそが若い世代や新規層の関心を引き寄せます。実際に、この銘柄をきっかけに日本酒に親しむようになったという声も少なくありません。

10年で育った「文化」とこれからの展望

発売から10年を経て、今や「メガネ専用」は一つのシンボルとなりました。今年のように複数の蔵が参加する動きは、単なる話題づくりではなく、日本酒業界全体が消費者との距離を縮めようとする意志の表れです。加えて10月1日という「日本酒の日」と「メガネの日」が重なる記念日性が、今後さらに盛り上がりを後押ししていくことでしょう。

「メガネ専用」が築いたものは、ユーモラスな一本のお酒にとどまりません。日常を彩るメガネと、日本文化を体現する酒が響き合うことで、飲む人の生活や趣味と一体化する新しい日本酒文化の可能性を示したのです。これからの10年も、こうした遊び心と共感を大切にした発想が、日本酒の世界をより豊かにしていくに違いありません。

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老舗酒蔵の新挑戦!まぐろ専用日本酒『まぐろ結び』誕生、市場の反応と「一品一酒」文化への期待

2025年9月25日、日本酒業界に新たな話題が投じられました。老舗酒蔵である宮崎酒造店が、穴太ホールディングスによる事業継承後第二弾となる新商品として、「まぐろ専用日本酒『まぐろ結び』」を発表。このユニークなコンセプトを持つ日本酒は、2025年9月27日に開催された「千葉の酒フェスタ2025」でお披露目され、来場者やメディアの注目を集めました。これは単なる新商品のリリースに留まらず、日本酒のペアリング文化、そして特定の食材に特化した日本酒というニッチ市場に大きな一石を投じるものとして、各方面から高い関心が寄せられています。

開発の背景とコンセプト:「まぐろに寄り添う、究極の食中酒」

宮崎酒造店は、近年、経営体制が一新された後、「日本酒を、もっと身近に、もっと楽しく」をテーマに掲げ、革新的な商品開発を進めています。『まぐろ結び』の開発は、日本人が愛してやまない「まぐろ」の様々な部位や調理法に、「最適に寄り添う」日本酒を目指すという明確なコンセプトからスタートしました。

『まぐろ結び』は、赤身の鉄分、トロの濃厚な脂などを科学的に分析し、「適度な酸味でまぐろの鉄分を包み込み、軽快なキレで脂を洗い流す」という設計思想に基づき醸造されました。具体的には、特定の酵母と精米歩合を採用することで、香りは穏やかに抑えつつ、口に含むとふくよかな旨味が広がり、その後に続くシャープな後味が、まぐろの味わいを一層引き立てるという、絶妙なバランスを実現しています。

市場の反応:ニッチ戦略への期待と反響

『まぐろ結び』の発表に対する市場の反応は、非常にポジティブなものでした。特に日本酒愛好家は、この「食材特化型」というニッチな戦略を、今後の日本酒の新たな可能性を広げるものとして高く評価しています。

寿司店や海鮮居酒屋からは、早くも導入を検討する声が上がっています。特に高級寿司店では、提供するまぐろの品質に妥協がない分、それに合う日本酒を厳選しています。『まぐろ結び』は、そのネーミングとコンセプトから、お客様への提案が容易であり、ペアリングの説得力が増すと期待されています。ある寿司店の店主は、「まぐろの赤身と大吟醸の華やかさがぶつかることがあったが、『まぐろ結び』はまぐろの良さを邪魔しない。特にトロとの相性は抜群で、脂をすっきりと流してくれる」と絶賛しています。

SNS上では、「面白いアイデア!」「こういう明確なコンセプトのお酒を待っていた」「刺身好きとしては飲んでみたい」といった期待の声が多く見られました。また、27日のお披露目イベントでは列ができるなど、その注目度の高さが伺われました。

日本酒業界に期待される影響:「一品一酒」文化の創造へ

『まぐろ結び』の成功は、日本酒業界全体にいくつかの重要な影響を与える可能性があります。

1.「食材特化型」日本酒ブームの到来

『まぐろ結び』が市場に受け入れられれば、「うなぎ専用」「ジビエ専用」「カレー専用」など、特定の食材や料理に特化した日本酒の開発が加速する可能性があります。これにより、日本酒の新しい楽しみ方が提案され、若年層や外国人観光客など、これまで日本酒に馴染みの薄かった層へのアピールが強化されます。

2.「一品一酒」という新たな飲用文化の創造

最も注目されるのは、特定の料理一品に対して、それを最も引き立てるためだけに醸された日本酒を合わせる「一品一酒」という、新たなペアリング文化が生まれる可能性です。これまでの「食中酒」は、コース料理や様々な食材に対応する汎用性が求められることが多かったのですが、「一品一酒」の考え方は、日本酒の提供方法や注文のスタイルそのものを変える可能性があります。

例えば、料亭や居酒屋で「本日のおすすめ」として特定の酒と料理をセットで提供したり、家庭でも「今日はこの日本酒のためにまぐろを買おう」というように、日本酒が食卓の中心となる購買動機を生み出すことが期待されます。これは、ワインにおける「グランヴァン」のように、特定の料理との最高の相性を追求する、贅沢で洗練された飲用スタイルを確立することに繋がるかもしれません。

3.食中酒としての地位向上と地域産業との連携

このような明確な食との結びつきは、日本酒を「料理を引き立てる食中酒」として再認識させ、消費シーンの拡大に繋がります。さらに、まぐろという国民的な食材をテーマにすることで、今後は産地の漁業協同組合や、まぐろ料理を提供する観光業者などとのコラボレーションが生まれ、地域経済の活性化に貢献する新たなモデルとなり得ます。


宮崎酒造店の『まぐろ結び』は、単なる季節の新酒ではなく、日本酒の未来を占う試金石となるでしょう。その斬新なアプローチと市場の反応、そして「一品一酒」という文化を創造する可能性から、日本酒の多様な楽しみ方を再定義し、新しいペアリングの扉を開くものとして、今後の展開が非常に楽しみです。

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吟醸酒の夜明けから半世紀──黒龍酒造「龍」五十周年記念酒、発売へ

福井県の黒龍酒造の名酒「黒龍 大吟醸 龍」の発売50周年を記念した特別酒が、9月下旬から発売の運びとなりました。1975年に誕生した「龍」は、当時の日本酒業界に大きな衝撃を与え、以降の吟醸酒文化の礎を築いた革新の一杯です。その節目にあたる今年、蔵元の技術と美意識が結集した記念酒が登場し、酒文化の進化を静かに物語ろうとしています。

「龍」が切り拓いた吟醸酒の夜明け──革新と美意識のはじまり

「龍」が初めて世に出たのは、「吟醸酒」がまだ一般に流通していなかった時代でした。当時、大吟醸酒は品評会用に造られる特別な酒であり、蔵の技術力を示す象徴的存在でした。市販されることはほとんどなく、一般消費者が口にする機会は限られていたのです。そんな中、黒龍酒造の七代目蔵元・水野正人氏は、フランスで学んだワインの熟成技術を日本酒に応用し、「龍」を市販化。これは全国に先駆ける試みであり、日本酒の価値観を根底から揺さぶる出来事でした。

この挑戦は、単なる商品開発にとどまらず、日本酒の“飲み方”や“楽しみ方”に新たな視点をもたらしました。香り高く、繊細で、食中酒としても映える吟醸酒は、従来の濃醇な酒とは異なる魅力を持ち、都市部の若い世代や女性層にも受け入れられるようになります。黒龍酒造はこの流れを牽引し、「吟醸蔵」としてのブランドを確立。以降、全国の酒蔵が吟醸酒の市販化に乗り出し、1990年代には“吟醸ブーム”と呼ばれる現象を巻き起こしました。

半世紀の熟成美──「龍」五十周年記念酒に込められた技と美意識

今回発売される「龍 五十周年記念酒」は、2020年に醸造された原酒を、蔵に培われてきた低温熟成技術で5年間じっくりと寝かせたもの。香りは蜜リンゴやミラベル、ユリのアロマに加え、フェンネルや鳳凰単叢の茶葉を思わせる複雑なニュアンスが重なり、まろやかでシルキーな口当たりが特徴です。まさに、半世紀にわたる熟成と探求の集大成と言えるでしょう。

パッケージにも黒龍らしい美意識が宿ります。発売当初は酒袋をラベル地に使用し、現在は地元・福井の越前織を採用。黒と金を基調とした意匠は、節目にふさわしい気品と重厚感を備えています。こうした“纏う美”へのこだわりも、黒龍が日本酒を文化として捉えてきた姿勢の表れです。

むすびに

「龍」の登場から50年。その一杯が切り開いた道は、今や日本酒の多様性と国際的評価へとつながっています。記念酒は、単なる周年商品ではなく、日本酒の可能性を信じて挑戦を続けてきた蔵元の哲学を体現する存在です。そして、これからの50年を見据える一歩でもあります。

この酒を口にすることは、過去と未来を味わうこと。黒龍酒造の「龍」は、今もなお、日本酒の進化を静かに導いているのです。

▶ 黒龍|歴史を塗り替えていく酒蔵の挑戦。大吟醸酒はここに生まれた

▶ 黒龍 大吟醸 龍 五十周年記念酒|半世紀前に日本酒を変えた一本。貴重なコレクションアイテム

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【Kura Master 2025】「雁木 純米大吟醸 鶺鴒」がプレジデント賞受賞|国際舞台で示した日本酒の新たな可能性

2025年9月24日、在フランス日本国大使公邸にて開催された Kura Master 2025 の授賞式で、日本酒部門の最高賞「プレジデント賞」が発表されました。その栄冠に輝いたのは、山口県・八百新酒造が醸す 「雁木 純米大吟醸 鶺鴒」 でした。

Kura Master とは

Kura Master は、フランス人を中心としたソムリエやワイン関係者、料理・飲食関係者らが審査員を務め、日本酒と料理とのマリアージュ性を重視する観点で選定を行う国際的な日本酒コンクールです。各部門のプラチナ賞から選出される審査員賞を経て、その中から1本に与えられる最高の栄誉がプレジデント賞であり、単なる酒質評価を超えて、国際舞台で「最も強く訴求力をもつ酒」としての総合的評価が問われます。

プレジデント賞受賞酒の評価

今回、「雁木 純米大吟醸 鶺鴒」が選ばれたことには、いくつかの象徴的意味合いを読み取ることができます。

まず、審査委員長グザビエ・チュイザ氏は、この酒の「輝きや光沢、鼻や口に広がる煌めき」「力強いエネルギー」に深い感動があったとコメントしました。さらに「爽やかさ」「飲みやすさ」「喉を潤すような味わい」を高く評価し、魚介類・海産物、また、地中海料理やセビーチェなど国際料理との相性も強調しています。これらの言葉から読み取れるのは、海外の食文化や国際的なテーブルにおいても自然に受け入れられる「調和力と存在感」を備えている酒という評価です。

特に印象的なのは、「喉を潤すような心地よさ」「爽やかな風味」が繰り返し言及されている点です。これは、香りや複雑性を追求するあまり“構えすぎず”、飲み手にストレスなく入ってくる飲み口を重視した造りであることを示唆します。国際舞台での審査で高評価を得る酒には、華やかさだけでなく、飲み継ぎやすさ・汎用性が必須要素となるため、このバランス感覚を兼ね備えた点こそが、最高賞に選ばれた大きな理由の一つでしょう。

また、Kura Master は「フードペアリング」を重要視するコンクールであり、この酒が料理と共鳴する力を持つことが最終的な選考ポイントとなります。「雁木」というブランドには船着場の意味があり、人と料理の橋渡し役であるかのような響きがあります。「おしえ鳥」とも呼ばれる「鶺鴒」の銘は、まさにこれを示唆するものです。

そして、この受賞は、八百新酒造という蔵の長年の酒造技術・個性への鍛錬が、国際舞台で認知されたという成果でもあります。「雁木」は、日本国内ではすでにかなりの知名度を誇る日本酒となっていますが、それが、世界の食文化と接点を持つ場で選ばれるということは、日本酒界のグローバル化を象徴する出来事であるとも言えます。

今回の授賞式は、在仏日本大使公邸という格式高い場で行われ、名だたるソムリエや料理関係者ら約100名が集う中で、受賞酒の表彰とともにそのストーリー性や表現性も語られました。その意味で、単なる品質の勝利を超えて、日本酒という文化の「世界への伝達力」を試す場において、雁木は最も強いメッセージを持つ酒として選ばれたといえるでしょう。


最後に、このプレジデント賞受賞が、山口県・八百新酒造、そして「雁木」ブランドにとって国際的な飛躍の契機となることは間違いありません。日本酒愛好家のみならず、海外の料理界・飲食界にも「雁木」という名が記憶され、やがては世界の食卓にその名を刻む存在になっていく可能性を感じさせる受賞です。

▶ 雁木 純米大吟醸 鶺鴒|Kura Master 2025 でプレジデント賞(全体1位)を獲得した日本酒

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110万円の熟成酒「梵」限定200本を抽選販売へ|ヴィンテージ日本酒市場への挑戦

福井県鯖江市の老舗酒蔵・加藤吉平商店が、日本酒の可能性を一歩先へ押し上げる挑戦を再び仕掛けています。今秋同社は、熟成大吟醸「梵・超吟 Vintage(720ml)」を、110万円で限定200本抽選販売することを発表しました。これは、国内外で“ヴィンテージ日本酒”という新しいカテゴリーを切り拓くための試みと見られています。

“梵・超吟 Vintage”とは何か

「梵・超吟 Vintage」は、酒造年度2013年の「梵・超吟」を原料とし、氷点下で 10年以上熟成 させた酒です。酒米には、兵庫県三木市の特A地区で栽培された最高品質の山田錦が使われ、精米歩合は明かされていないものの、通常の大吟醸をはるかに凌ぐ研ぎ澄まされた磨きと手間をかけていることが報じられています。

同社の加藤社長は、この商品を「世界の酒類市場をけん引するような銘柄に育てていきたい」と語っており、日本酒を“ただの飲み物”から「文化的価値」「コレクション性」を備えたヴィンテージ品として認めさせる狙いがあります。

この「梵・超吟 Vintage」が最初に発表されたのは 2024年9月 のことで、10月1日発売とされ、同じく限定約200本での提供が予告されていました。

そのときの記事によれば、発表直後から2倍以上の注文があった とされ、発売前に完売が見込まれていたとのこと。また、地元・福井県をはじめ、国内外の高級酒取扱店や富裕層をターゲットとする販路での期待が非常に高く、話題性でも大きな注目を集めました。

つまり、昨年は「告知→予約注文→完売見込み」という流れで、ヴィンテージ日本酒としての可能性を消費者も事業者も肌で感じる形でした。

2025年も同様に、限定200本を 10月以降抽選販売することが報じられています。抽選方式を採る理由には、過度な需要集中を防ぐこと、正しい価格で正しいユーザーに届けること、コレクター性や希少性を保つことなどが考えられます。

また、抽選にすることで“公平性”や“話題性”を持たせることができ、ヴィンテージ酒を持ちたいという潜在的需要を改めて掘る機会にもなるでしょう。

ヴィンテージ日本酒への足がかりとして課題と展望

このような動きは、日本酒業界における“ヴィンテージ”の概念を具体化するひとつのモデルケースです。ワインやウイスキーのように、年号・熟成年数・原料・貯蔵条件などが語られることで、味わい以上の価値が生まれ、コレクション対象や投資対象となる可能性を含みます。

「梵・超吟 Vintage」が成功すれば、以下のような波及が期待できるでしょう。

  • 他の酒蔵も“ヴィンテージライン”を模索し、熟成酒や限定酒の企画を増やす
  • 流通・販売ルートでのプレミア価格帯の確立とサポート体制が整う
  • 消費者の中で“熟成させる日本酒”という選択肢が一般化する
  • 酒イベントやオークション市場でヴィンテージ日本酒が取り上げられる機会が増える

とはいえ、こうした高価格ヴィンテージ酒には課題もあります。110万円という価格を支払える顧客層が限られること、品質の維持や熟成による品質のばらつきリスク、保存環境の確保、法律税制面での表示・課税の問題などです。

しかし、加藤吉平商店の実績を見れば、すでにそうした課題をある程度クリアした上での挑戦であることが分かります。昨年の“注文が5倍、完売見込み”という反響は、市場に“それだけの価値を認める層”が存在するという証左だからです。


110万円の「梵・超吟 Vintage」は、単なる価格のインパクト以上に、日本酒が「時間を経ることによって熟成し、香味に深みを増し、歴史を語る酒」になりうることを、消費者にも業界にも示す一石となっています。昨年の成功例を土台に、今年の抽選販売がどのような反響を呼び、ヴィンテージ日本酒という新しいカテゴリがどう広がっていくか、大いに注目されるところです。

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日本酒は二日酔いがひどい?自然食研調査が示す業界の課題

健康食品メーカー・自然食研が行った調査によると、複数のアルコール飲料の中で「日本酒が最も二日酔いになりやすい」と感じる人が多いという結果が出ました。ビールやワイン、焼酎と比べても、日本酒を飲んだ翌日の体調不良を訴える割合が高かったことは、日本酒業界にとって看過できない指摘です。なぜこのような結果になったのか、そして今後どのような対応が求められるのでしょうか。

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二日酔いの原因と、業界に求められる新しいアプローチ

まず原因として考えられるのは、日本酒に含まれる成分と飲まれ方の特徴です。日本酒はアルコール度数が平均14~16%と、ビールより高く、ワインと同等以上です。にもかかわらず飲み口が柔らかく、甘味や旨味が豊かなため、つい飲みすぎてしまう傾向があります。結果として、アルコール総量の摂取が多くなりやすく、翌日の負担が大きくなるのです。

また、日本酒は発酵過程でアミノ酸や糖分を多く含みます。これらは味わいの奥行きを生む一方で、体内での代謝負担を増やし、二日酔いの原因物質であるアセトアルデヒドの分解を遅らせる可能性があります。さらに一部の銘柄では添加される醸造アルコールや副成分が、体調に影響を及ぼす要因となっていると考えられます。

この調査結果は、日本酒業界にとってイメージ面のリスクを孕みます。せっかく国内外で「和食ブーム」「クラフトサケ人気」が高まっている中で、「日本酒=二日酔いしやすい」という印象が広がれば、消費拡大の足かせとなりかねません。とりわけ若年層や女性層は、健康志向や翌日のパフォーマンスを重視するため、飲みやすく翌日に響きにくい酒類を選ぶ傾向があります。日本酒がその選択肢から外されてしまう可能性も否定できません。

では、これからの日本酒業界はどう対応すべきでしょうか。第一に、アルコール度数を抑えた「ライト日本酒」のカテゴライズ化が重要です。実際、最近では8~12%程度の低アルコール清酒や、発泡タイプの日本酒が若い世代に支持され始めています。二日酔いを軽減する設計の酒は、今後の市場拡大に資するはずです。

第二に、飲み方の提案も欠かせません。適量を守ることはもちろん、チェイサー(水割りや炭酸割り)を組み合わせるスタイルを広めることは、消費者に優しい啓蒙活動となります。欧米ではワインと水を一緒に楽しむ文化が根付いていますが、日本酒でも同様の習慣を定着させれば、翌日への負担軽減につながります。

第三に、成分や製造方法の透明化です。糖分やアミノ酸度の高い酒が二日酔いの一因となり得るのであれば、分析値や飲み方の目安を分かりやすく表示することが信頼につながります。健康や生活の質に配慮した酒造りを打ち出すことは、時代の要請といえるでしょう。

自然食研の調査は、日本酒業界にとって一見ネガティブなニュースに映りますが、逆に消費者のニーズを知る貴重な機会でもあります。美味しさを追求するだけでなく、翌日の健やかさまで考慮した日本酒が求められているのです。今後、日本酒が世界に誇れる国酒として持続的に愛され続けるためには、「飲んで楽しい、翌日も安心」という新たな価値軸を加えることが不可欠になってくるのではないでしょうか。

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新潮流──この秋、低アルコール日本酒が続々登場。大手酒造の挑戦

2025年秋、日本酒業界に新たな潮流が訪れています。月桂冠や宝酒造、大関といった大手日本酒メーカーが、相次いで低アルコール日本酒の新商品を発表し、注目を集めています。背景には、若年層を中心とした飲酒スタイルの変化や、健康志向の高まりがあります。


月桂冠は、昨年秋に発売したアルコール度数5%の「アルゴ 日本酒5.0」を、今年10月より缶タイプやスパークリング仕様で展開することを発表しました。従来の瓶タイプに加え、持ち運びやすく気軽に楽しめる缶タイプを導入することで、より幅広い層への訴求を狙います。炭酸の爽快感とフルーティな味わいが特徴で、日本酒初心者やライトユーザーにも親しみやすい設計となっています。

一方、宝酒造は「松竹梅<金色の9%>」を10月7日に発売予定です。こちらはアルコール度数9%と、一般的な日本酒よりはやや低めながら、しっかりとした飲みごたえを残した商品です。注目すべきは、アルコール度数の高さを理由に日本酒の飲用を控えていた層に向けた提案である点です。日本酒を飲みたい気分でも、翌日の予定や体調を考慮して控えるという声に応え、程よい度数と華やかな香りを両立させた新しい選択肢として登場しました。

さらに、大関は「ワンカップミニLight 100ml瓶詰」を9月22日に全国発売します。アルコール度数8%の純米酒で、100mLの飲みきりサイズが特徴です。やや甘口でバランスの取れた味わいは、和食はもちろん、サラダやカルパッチョなど幅広い料理と好相性。日本酒の旨みをしっかり残しつつ、“ほどよく酔える”という新しい飲酒スタイルを提案しています。

低アルコール日本酒登場の背景と未来

こうした低アルコール日本酒の広がりには、いくつかの社会的背景があります。まず、若年層を中心に「酔うための酒」から「楽しむための酒」への価値観のシフトが進んでいることです。Z世代やMZ世代では、アルコールを控えつつも食事や会話を楽しむスタイルが定着しつつあり、軽やかな飲み口の酒が求められるようになっているのです。

また、健康志向の高まりも見逃せません。アルコール摂取量を意識する人が増え、平日でも気軽に飲める酒へのニーズが拡大しています。さらに、日本酒のフルーティーな味わいに注目が集まり、より飲みやすい形の商品が求められるようになったのです。

この秋の新商品の投入は、伝統的なイメージから脱却し、こうした価値観に対応しようとする試みです。瓶から缶へ、晩酌から昼飲みへ、重厚から軽快へ──日本酒は今、文化的再定義の真っただ中にあります。

消費量の減少という課題に対し、酒造各社は「守るべき伝統」と「変えるべき常識」を見極めながら、未来の日本酒像を模索しています。低アルコール日本酒は、その象徴的な存在として、今後ますます重要な役割を担っていくはずです。

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オンキヨー、恋酒川越2025に出展 加振酒が切り拓く日本酒の新たな可能性

2025年9月20日、埼玉県川越市の氷川神社で開催される「恋酒川越2025」に、オーディオ機器メーカーとして知られるオンキヨー株式会社が出展することが発表されました。出展内容は、同社が独自に開発した「加振技術」を活用した日本酒、いわゆる「加振酒」です。伝統文化と先端技術の融合がテーマとなる同イベントにおいて、加振酒の登場は大きな注目を集めることが予想されます。

音の振動を酒造りに活かすオンキヨーの挑戦

オンキヨーの加振技術は、音楽の振動を特殊な装置を通じて醸造タンクに伝え、酵母や発酵環境に働きかける仕組みです。従来の“音楽を聴かせる”試みとは異なり、音波そのものを酒の熟成プロセスに活かす点が特徴です。研究の過程では、発酵中に生成される香味成分が通常よりも増加する傾向が確認されており、バナナの香りに似た酢酸イソアミルや、リンゴ様のカプロン酸エチルなどが強調されるケースも見られました。科学的な裏付けとともに、新たな醸造手法としての可能性が広がっています。

全国で広がる「加振酒」の輪

オンキヨーの技術はすでに複数の酒蔵で実用化され、独自のブランド展開が進んでいます。岡山県の菊池酒造「燦然 蔵リズム」、新潟県の北雪酒造「北雪 純米 加振音楽酒」、愛媛県の八木酒造部「山丹正宗 Jazz Brew」、徳島県の三芳菊酒造「純米吟醸 ワイルドサイドを歩け 音楽振動熟成」など、各蔵が音楽ジャンルや地域性を掛け合わせた商品を発表しています。さらに、北海道の国稀酒造や大阪の山野酒造も参画し、全国に「音楽と酒の融合」という新たな潮流が広がりつつあります。

特筆すべきは、京都市交響楽団とのコラボレーションにより誕生した「聚楽第 京乃響」です。交響楽団の演奏が発酵過程に加振されることで、芸術と酒造りの共演が実現しました。加振酒は単なる技術応用にとどまらず、文化や地域資源を結び付ける媒介としても存在感を増しています。

恋酒川越2025での意義

「恋酒川越」は、日本酒を通じて人と人とを結び付けることを目的とするイベントで、着物来場者への特典なども用意される華やかな催しです。そこにオンキヨーが加振酒を携えて参加することは、伝統的な日本酒の場に新しい価値観を提示する試みといえます。歴史ある川越の町並みにおいて、最先端技術で育まれた酒を体験できることは、多くの来場者に驚きと興味を与えるでしょう。

未来に向けて

加振酒は、今後さらに研究が進めば、音楽ジャンルや周波数の違いによって味わいや香りを自在にデザインする可能性があります。イベントでの体験をきっかけに、消費者が「どんな音楽で育った酒なのか」というストーリーを楽しむ時代が到来するかもしれません。

オンキヨーの出展は、日本酒が進化し続ける文化であることを強く印象付けるものです。伝統と革新が交わる「恋酒川越2025」での披露は、日本酒の未来を語る上で大きな一歩になるでしょう。

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大吟醸も純米酒も同じ土俵で――美酒コンクール2025の入選酒発表を受けて

国内外の酒造関係者や愛好家から注目を集める「美酒コンクール2025」の入選酒が、9月12日に発表されました。このコンクールは、2023年に始まった女性審査員による日本酒コンクールで、今年も全国各地から数多くの銘柄がエントリーし、熱のこもった審査が行われました。

▶ 第3回美酒コンクール2025<速報> 審査結果

ところで、この美酒コンクールの面白さは、仕込みや精米歩合の違いによる部門立てがなされていないところにあります。通常の日本酒コンテストでは、「大吟醸」「吟醸」「純米」など、いわばボクシングの階級分けのような分類がなされ、そのつくりによって、評価の土俵が分かれているのが一般的です。ところが美酒コンクールでは、あえてその線引きを取り払い、ひとつのテーブルで大吟醸と純米酒が肩を並べ、同じ基準で味わいの総合力を競うのです。

この方式は、一見すると不公平に思えるかもしれません。精米歩合35%まで磨き上げた大吟醸と、精米歩合70%で米の個性をしっかり残した純米酒とでは、そもそものスタイルが大きく異なるからです。しかし、審査員たちが重視するのは「味わいのカタチ」という一点に尽きます。そして、それぞれの部門基準に応じて純粋に比較されるのです。グラスの中にある液体そのものの魅力に向き合うことこそが、このコンクールの精神といえるでしょう。

このアプローチは、今後の日本酒業界にとっても大きな意味を持ちます。国内外で日本酒の多様性が注目される中、消費者の嗜好は必ずしも大吟醸至上主義ではなくなってきました。食事と合わせやすい純米酒や、熟成による深みを楽しむタイプ、さらには低アルコールや発泡性のある酒までが市場に広がっています。そうした流れの中で、美酒コンクールの「スペックにとらわれない審査方針」は、まさに時代の変化を映し出しているといえるでしょう。

また、出品する蔵元にとっても、この舞台は大きな挑戦となります。大吟醸を磨き上げて勝負するのではなく、あえて日常酒として親しまれる純米酒で受賞を狙う蔵もあります。それは「自分たちの酒造りの核をどう表現するか」という問いに向き合う作業でもあり、単なるスペック競争から脱却する契機ともなるのです。

美酒コンクール2025の結果は、日本酒がこれから進むべき未来を示しているように感じます。スペックや分類の枠を越え、「味わいのカタチ」を追求する姿勢は、国内の酒造業界のみならず、海外市場に向けて日本酒の多様性と奥深さを発信する大きな力となるはずです。

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宮城発・等外米で醸す革新酒「土音」~柴田屋酒店×田中酒造店が挑むサステナブル日本酒の新境地

株式会社柴田屋酒店(東京都中野区)は、宮城県加美町の老舗・田中酒造店と共同で開発したプライベートブランド日本酒「土音(つちのね)sound of terroir」を、2025年9月4日(木)に発売しました。この酒は、発売直後から日本酒ファンや業界関係者の間で注目を集め、サステナブルな酒造りの象徴として高い評価を受けています。

「土音」は、粒の形状やサイズが規格外とされる「等外米」を原料に使用しています。これまで廃棄や飼料化されてきた等外米に新たな価値を見出し、農家の努力と土地の恵みを酒として昇華させるというコンセプトは、環境意識の高まりとともに多くの共感を呼んでいます。使用される酒米はすべて契約栽培によって供給され、「みやぎの環境にやさしい農産物」認証を取得。農薬や化学肥料の使用を極力控え、堆肥による土づくりを重視した持続可能な農法が採用されています。

味わいにおいても「土音」は独自性を放っています。穏やかな香りの中に、餅やキャンディ、カンロ飴、アップルパイといった甘いニュアンスが重なり、地層のように幾重にも重なる味の深みが特徴です。旨味と甘味が層を成し、長い余韻を残すその味わいは、メインディッシュとのペアリングにも適しており、鯖の棒鮨やすき焼き、牛肉の赤ワイン煮などとの相性が良いとされています。

発売から約10日が経過した現在、柴田屋酒店のオンラインショップの注目度もアップし、消費者の関心の高さをうかがわせます。SNS上でも「土音」の味わいや背景に共感する声が多く見られ、「土地の声を感じる酒」「環境と文化をつなぐ一杯」といったコメントが寄せられています。

▶ 土音つちのね sound of terroir(柴田屋酒店のオンラインショップ)

この酒が持つ意味は、単なる新商品の枠を超えています。まず、等外米の活用という点で、食品ロス削減への貢献が期待されます。さらに、契約栽培や環境認証米の使用は、持続可能な農業の推進に寄与するものであり、酒造りを通じて地域の農業や環境保全に光を当てる取り組みといえます。

また、「sound of terroir」という副題が示すように、この酒は土地の気候や土壌、栽培者の技術といった“テロワール”を体現する存在です。ワインの世界では一般的な概念であるテロワールを日本酒に取り入れることで、より深い文化的・地理的背景を味わいに込める試みは、日本酒の新たな可能性を示しています。

柴田屋酒店と田中酒造店の協業によって誕生した「土音」は、伝統と革新、環境と文化、そして人と土地をつなぐ象徴的な一杯です。今後の展開にも注目が集まる中、この酒が日本酒業界に与える影響は小さくないでしょう。持続可能性と物語性を兼ね備えた「土音」は、これからの日本酒のあり方を問い直すきっかけとなるかもしれません。

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