インドネシア商社が高知を訪問~甘口日本酒で新市場開拓の兆し

インドネシアの食品輸入商社「リブラフードサービス社」が、10月7日から9日にかけて高知県内の酒蔵を訪問しました。訪問の目的は、日本酒の輸出に向けた具体的な協議や商品選定で、今後の東南アジア市場における日本酒展開を見据えた動きとみられます。

富裕層を中心に広がる「甘口日本酒」人気

近年、インドネシアでは日本酒への関心が高まり、富裕層や都市部のレストランを中心に“ちょっとした日本酒ブーム”が起きています。人口2億7000万人を誇る同国は、イスラム教徒が多数を占めるため、飲酒が文化的に制限されている一方で、非イスラム層や外国人駐在員などを含めると約5000万人規模の飲酒市場が存在するとされています。これは東南アジアの中でも非常に大きな潜在需要といえます。

その中で特徴的なのが、インドネシアの食文化に合った“甘口嗜好”です。現地では甘味の強い料理が多く、これに寄り添う形で、やや甘口の日本酒が好まれる傾向にあります。これまで辛口で知られてきた日本酒の中でも、フルーティーで柔らかい甘みを持つタイプが人気を集めています。

「CEL-24酵母」がもたらした新しい味わい

高知県の日本酒といえば、長らく「土佐鶴」や「司牡丹」に代表されるようなキリッとした辛口が主流でした。しかし、2013年に高知県工業技術センターが開発した酵母「CEL-24」の登場により、状況は一変しました。この酵母を使うことで、リンゴや南国フルーツを思わせる華やかな香りと、独特のフルーティーな甘みを持つ酒が誕生し、全国的に注目を浴びています。今回、リブラフードサービス社が高知を訪問した背景にも、この「CEL-24」系統の酒がインドネシア市場で受け入れられる可能性を見据えた狙いがあるとみられます。

課題と可能性

一方で、輸出には課題もあります。日本酒は温度管理が品質を大きく左右する繊細な酒です。インドネシアのような高温多湿な気候では、輸送中や保管中の品質維持が難しく、現地の物流体制や保冷輸送の確立が重要になります。また、インドネシア国内でのアルコール販売に関する規制も複雑で、宗教的配慮を踏まえた販売戦略が求められます。現在、流通している日本酒は高価格帯のものが中心で、一般市場にはまだ十分に浸透していません。

それでも、今回のように現地商社が日本の酒蔵を直接訪問するケースが増えていることは、海外市場の広がりを象徴する動きといえます。特に東南アジアでは、日本食レストランの増加に伴い、日本酒を「料理と楽しむ文化」として紹介する動きが活発化しています。甘口の酒が人気という傾向は、高知の新しい酒質との親和性が高く、今後、同県がインドネシア市場で存在感を高める可能性もあります。

日本酒業界にとって、インドネシアは決して容易な市場ではありません。しかし、5000万人という飲酒可能人口を抱える巨大な潜在市場であり、品質管理や現地の嗜好に合わせた酒づくりが進めば、新たな成長の柱となることも期待されます。今回の商談は、そうした未来に向けた第一歩として、大きな意味を持っているといえるでしょう。

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福千歳、「蕎麦冷酒」を発売~「蕎麦の日」に合わせた挑戦が示す日本酒の新潮流

山廃仕込みで知られる福井の老舗酒蔵・福千歳(田嶋酒造株式会社)は、10月8日の「蕎麦の日」に合わせて新商品『蕎麦冷酒』を発売しました。古来より「蕎麦前」という言葉に象徴されるように、日本酒と蕎麦は深い縁で結ばれていますが、蔵元が正面から“蕎麦専用”をうたった酒を出すのは極めて珍しい試みです。季節の節目と食文化を結びつけたこの商品は、今後の日本酒市場における新しい方向性を示すものとして注目されています。

“蕎麦の日”に合わせた発売の意図

10月8日は日本麺類業団体連合会などが制定した「蕎麦の日」です。新そばの時期を前に、全国各地で蕎麦イベントやキャンペーンが行われる日でもあります。福千歳がこの日に合わせて商品を投入したのは、単なる話題作りではなく、「日本酒を食文化の一部として再定義する」という明確な狙いがありました。

同蔵はこれまでも「山廃仕込み」という伝統技法を軸に、食との相性を追求してきました。今回の『蕎麦冷酒』は、まさにその延長線上にあるものです。蕎麦の香りやのど越しを損なわず、つゆの出汁やかえしの塩味にも寄り添うよう、キレのある辛口で酸のバランスを整えた仕上がりになっているといいます。冷やして飲むことで山廃由来の複雑な旨味が引き締まり、蕎麦との調和を生み出す設計です。

「蕎麦専用酒」という新カテゴリーの可能性

これまでにも「牡蠣専用」「寿司専用」「チーズ専用」など、特定の料理と合わせることを目的にした日本酒はありました。しかし「蕎麦専用酒」として一般流通する商品はほとんど前例がありません。日本酒の多様化が進むなかで、蕎麦という和食の代表格に焦点を当てた点は業界的にも意味があります。

蕎麦は香りや喉ごしといった繊細な感覚を楽しむ料理であり、これに寄り添う酒には軽やかさと輪郭の明確さが求められます。福千歳の山廃仕込みはその条件を満たすだけでなく、冷やでも燗でも表情が変わるという柔軟性を持つため、食中酒としての可能性を広げています。今回の発売が評価されれば、今後は「天ぷら専用」「蕎麦屋限定」など、料理と一体化した酒造りがさらに加速する可能性があります。

食文化コラボが拓く新市場

この数年、日本酒業界では「季節」「食」「地域」とのコラボレーションを重視する動きが顕著です。酒を単体で楽しむのではなく、食体験や文化の文脈で価値を高める方向です。福千歳が「蕎麦の日」という明確な記念日に合わせて商品を出したのは、まさにその象徴的な一例といえるでしょう。

特に外食業界では、蕎麦屋が地酒やこだわりの日本酒を揃える傾向が強まっています。『蕎麦冷酒』の登場は、飲食店側にとっても「メニューの物語性」を高める格好の題材となります。たとえば「新そばに合わせる冷酒」という季節提案は、SNS時代の発信にも適しており、販促効果も見込まれます。

伝統と新しさを融合した挑戦

福千歳は創業150年を超える蔵ですが、挑戦的な姿勢でも知られています。山廃仕込みという古典技法を基盤に置きつつ、新しいテーマを打ち出す姿勢は、地方蔵が生き残るための一つの方向性を示しています。『蕎麦冷酒』のラベルには葛飾北斎の意匠が使われ、女将の直筆文字をあしらうなど、伝統美と現代感覚の融合も印象的です。

「蕎麦の日」に合わせて発売されたこの一本は、単なる季節限定酒ではなく、“日本酒を文化で味わう時代”の到来を告げる試金石といえるでしょう。今後、他蔵が同様の「食文化特化型」商品を展開していく可能性も高く、日本酒市場の新しい波を呼び起こすかもしれません。

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月桂冠「炭酸割りでおいしい純米酒」が通年販売へ 1.8Lパックで広がる“酒ハイ文化”の定着

月桂冠株式会社(京都市伏見区)が今年3月に発売した「炭酸割りでおいしい純米酒」がこの秋、通年販売となりました。発売当初は春から夏にかけての期間限定商品という設定でしたが、想定を上回る販売実績とリピート購入の多さを受け、年間を通じて提供されることとなったのです。日本酒を炭酸で割る“酒ハイ(SAKE HIGH)”が、いよいよ一過性のブームを超え、飲酒文化として根づきつつあることを示す動きです。

炭酸で引き立つ旨み 家庭で手軽に“日本酒ハイボール”

「炭酸割りでおいしい純米酒」は、炭酸で割ることを前提に設計された純米酒です。米の旨みや香りをしっかり残しながら、炭酸を加えることで軽やかで爽快な口当たりを実現しています。アルコール度数はやや低めで、氷を入れたグラスに注ぎ、炭酸水で1:1に割ると、刺激のあるすっきりとした“日本酒ハイボール”が完成します。特に夏場は冷たく爽やかに、寒くなれば柚子や生姜を加えるなど、季節に合わせてアレンジを楽しむこともできます。

同商品は1.8リットルの紙パックで販売されており、軽量で冷蔵庫にも収まりやすく、保存や注ぎやすさに優れた形態です。パック酒というと、「晩酌用にコスパ重視」といったイメージがありましたが、この商品は「自由にアレンジできるベース酒」としての新しい価値を提案しています。炭酸水やレモン、ハーブなどを加えた自分好みの味付けを楽しめ、自宅での「おうち酒ハイ」を楽しむユーザーが増えているようです。

“酒ハイ”がファッションから文化へ

“酒ハイ”という飲み方は、焼酎ハイボールやウイスキーハイボールの流行に続く形で広まりました。当初は「SNS映えする新しい日本酒の飲み方」として注目されていましたが、現在ではすっかり定番化。アルコール度数を自分で調整できること、炭酸による飲みやすさ、料理との相性の良さなどが支持され、幅広い世代に浸透しています。

そのような中、1.8Lパックの当商品が通年商品に移行したということは、酒ハイが一時的なファッションではなく、日常の飲酒文化として根づいた証ともいえます。

日本酒の未来を変える“日常化”の流れ

これまで日本酒は“特別な日に飲む酒”という印象が強くありましたが、近年はスパークリング日本酒や氷専用酒など、よりカジュアルな方向へと進化しています。月桂冠の「炭酸割りでおいしい純米酒」は、その流れの中心にある商品です。伝統的な清酒の枠を守りつつ、現代のライフスタイルに合わせた提案を行うことで、新しい層を取り込み、日本酒の裾野を広げています。

“酒ハイ”がファッションを超え、文化として定着する今、1.8Lパックの純米酒を手に取る姿は、もはや「庶民的」ではなく「時代のスタンダード」といえるかもしれません。炭酸割りというシンプルな発想が、古くて新しい日本酒の魅力を再発見させているのです。

▶ 意外な組み合わせがトレンドに!日本酒ハイボールが拓く和酒の新境地

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SHUWAN、意匠登録を取得~五感に響く“体験型酒器”の誕生

酒器「SHUWAN」を展開する株式会社シュワン(福岡市)は、同ブランドの酒器デザインが日本国特許庁より意匠登録を正式に認定されたと発表しました。日本酒業界では、酒そのものの多様化が進む一方で、それを受け止める酒器の進化にも注目が集まっています。今回の登録は、SHUWANが単なるデザイン性の高い器ではなく、“体験としての酒器”を志向していることを象徴する出来事です。

「香り」中心の酒器から“五感”に響く体験へ

ここ数年、日本酒専用グラスの開発は「香り」を最大限に引き出すことに焦点が当てられてきました。リーデルや木本硝子の専用グラスに見るように、香りの拡散性を高めるチューリップ型の酒器がその代表です。これらは、ワイングラスの文脈を日本酒に応用した“香りの可視化”を目的としていました。

しかし、SHUWANが提示したのは、その一歩先を行く「五感に訴える酒器」という新たな方向性です。
形状は、口縁から胴張り部にかけて柔らかく広がり、高台に向かって絞り込む流線形。上から見ると円形と楕円形が交錯する独特のフォルムをもち、手に取った瞬間の“触感”や“重量バランス”までもが設計に織り込まれています。

この曲線がもたらす香りの対流や温度変化は科学的にも検証されており、ガスクロマトグラフィー分析によって、従来の猪口やワイングラスよりも香気成分の安定性と拡散性が優れていることが報告されています。香りだけでなく、視覚・触覚・温度感覚までを統合的に演出する――まさに“飲む”という動作そのものを体験化した酒器といえます。

今回の意匠登録は、こうしたSHUWAN独自のフォルムと機能性が「創作性と新規性をもつもの」として公的に認められたことを意味します。外観の模倣を防ぎ、ブランドの知的財産を守る基盤を得たことに加え、今後の製品展開やライセンス戦略の強力な支えにもなります。酒器が「工芸」から「デザイン知財」へと昇華する流れを示した点でも意義深いといえるでしょう。

みむろ杉とのコラボなどに見る新しい酒器の未来

SHUWANはまた、奈良の今西酒造が手がける人気ブランド「みむろ杉」とのコラボレーションを発表しています。これは、酒器ブランドが単に器を提供するのではなく、“酒そのものの世界観を共に構築する”という新しいアプローチです。
香りや味わいを受け止める「器」ではなく、酒造と共に“体験の設計者”として関わる姿勢は、これまでの酒器業界には見られなかったものです。みむろ杉の透明感ある旨味と、SHUWANの柔らかな香気表現は、共振するようにして飲み手の感覚を刺激します。

酒器がもたらす“新しい日本酒体験”

意匠登録によって保護された独創的デザイン、科学的裏付けを持つ香り設計、そして酒蔵との協働――SHUWANが描く未来は、日本酒を「味わう」から「感じる」文化へと進化させることにあります。

これまで香り中心に設計されてきた酒器の世界に、触れる、見る、聴く、香る、味わう――そのすべてを統合した体験価値を持ち込むことは、日本酒文化の拡張でもあります。

SHUWANの挑戦は、酒器という小さな器の中に、五感と知性、伝統と革新をどう共存させるかという、日本酒の未来を映す実験でもあるのです。

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ミラノ酒チャレンジ2025、マニフィカ賞を発表~国際舞台で光る日本酒の存在感

イタリア・ミラノで開催された国際日本酒コンペティション「ミラノ酒チャレンジ2025」の最高賞にあたる「マニフィカ賞」が、2025年9月28日に発表されました。マニフィカ賞は、各部門のプラチナ賞受賞酒の中からさらに突出した1本にのみ与えられる特別な称号であり、日本酒の国際的評価を象徴するものとして注目を集めています。

最高賞「マニフィカ賞」とは

ミラノ酒チャレンジは2019年に始まり、ヨーロッパにおける最大規模の日本酒審査会として急速に存在感を高めてきました。その特徴は、単に酒質を競うだけでなく、「テイスティング」「フードペアリング」「デザイン」という三つの視点から総合的に評価を行う点にあります。これにより、世界市場で選ばれるために必要な味わいの普遍性、料理との親和性、そして商品としての魅力が同時に審査されます。

その中でマニフィカ賞は、プラチナ賞の中からさらに「その年を代表する酒」として選ばれる特別賞です。まさに“唯一無二の一本”として認められるこの賞は、世界における日本酒の評価軸を示す存在として年々注目を増しています。

2025年のマニフィカ賞受賞結果

本醸造部門愛宕の松 宮城県限定本醸造株式会社新澤醸造店
スパークリング部門水芭蕉 雪ほたか永井酒造株式会社
にごり部門博多練酒株式会社若竹屋酒造場
特殊製造部門一ノ蔵 Madena株式会社一ノ蔵
吟醸部門金鯱山田錦​盛田金しゃち酒造株式会社
純米吟醸部門SETOICHI 手の鳴る方へ株式会社瀬戸酒造店
純米部門超特撰白雪江戸元禄の酒小西酒造株式会社
普通酒部門白雪樽酒カップ小西酒造株式会社
純米大吟醸部門楯野川 純米大吟醸 十八楯の川酒造株式会社
大吟醸部門夜明け前 大吟醸株式会社小野酒造店
古酒部門夢乃寒梅 古酒 2000年鶴見酒造株式会社

今年は、宮城県の新澤醸造店「愛宕の松 宮城県限定本醸造」や、長野県の小野酒造店「夜明け前 大吟醸」などがマニフィカ賞に選ばれました。いずれも国内で確固たる評価を得てきた銘柄ですが、国際舞台での審査員からも高く支持され、料理との相性やデザイン面においても総合的に優れていると認められました。

特に「愛宕の松」は、本醸造というカテゴリーでありながら、飲みやすさと奥行きを兼ね備えた味わいが高評価となりました。「夜明け前」は大吟醸らしい華やかさと品格を備え、イタリア料理との相性でも群を抜いた結果を示しました。これらの結果は、カテゴリーの違いを超えて、日本酒の多様な魅力が国際的に認知されていることを物語っています。

日本酒業界への影響

ミラノ酒チャレンジは、審査結果をヨーロッパ市場に広く発信しており、受賞酒は現地での販路拡大やレストランでの採用につながるケースが増えています。特にワイン文化が根付いたイタリアにおいて、日本酒が「食と合わせて楽しむ酒」として浸透するきっかけとなっており、輸出の拡大に直結する重要な場となっています。

また、デザイン審査の存在は、海外消費者の感覚に合う商品開発を促す契機となっています。伝統を重んじつつも国際市場を意識した新しいラベルやボトルが登場することで、日本酒のイメージ刷新にもつながっています。

さらに、フードペアリング部門ではパルミジャーノ・レッジャーノやサンダニエーレ生ハムといったイタリアの食材との相性が審査されるなど、現地の食文化との接点が意識されている点も特徴です。これにより、日本酒が和食専用にとどまらず、多様な料理に合わせられる酒として認知されつつあります。


2025年のマニフィカ賞は、日本酒が世界の舞台で改めて評価され、その可能性が広がっていることを示す象徴的な出来事となりました。受賞した蔵元にとっては名誉であると同時に、海外市場に踏み出す強力な追い風となるでしょう。

ミラノ酒チャレンジが持つ「国際基準で日本酒を評価する」という仕組みは、今後ますます業界に影響を与え、日本酒の国際化を後押ししていくと考えられます。今年選ばれたマニフィカ賞の酒が、どのように世界の食卓へ広がっていくのか、今後の展開が注目されます。

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タカラ「料理のための清酒」新発売にみる、料理酒が切り開く日本酒の新たな可能性

宝酒造は9月23日、料理酒ブランド「料理のための清酒」から期間限定商品<旨にごり>を発売しました。にごりならではの旨味を取り入れ、煮物や炒め物にコクを加えることを狙った一品です。これまで「万能調味料」としての側面が強かった料理酒に、日本酒的なバリエーションを持ち込む試みといえます。

料理酒市場の現状と位置づけ

全国の料理酒市場は年間およそ150億円規模と推定されます。これは日本酒全体のおよそ5%にとどまり、本みりん市場(約350〜400億円)の40%程度の大きさです。醤油の国内市場が約3,000億円、さらに世界市場では10兆円規模に拡大していることを踏まえると、料理酒はまだ小さな市場といえます。しかし、その小ささは裏返せば成長余地の大きさでもあります。

日本酒の多様性を料理に活かす挑戦

料理酒はアルコールによって臭みを消し、米由来の旨味で料理に深みを加えるという特性を持ちます。飲用の日本酒が停滞感を抱える中でも、料理シーンに寄り添うことで新たな需要を開拓できる可能性があります。今回の<旨にごり>は「にごり酒」という日本酒のカテゴリーを調味料に応用するもので、料理酒の幅を広げる試みです。吟醸やスパークリングなど、日本酒の多様なスタイルが将来的に料理酒に展開される道筋を示しているとも言えるでしょう。

近年は減塩や健康志向の高まりを背景に、無塩タイプや低塩タイプの料理酒が広がっています。調味料としての役割に加えて、健康的で繊細な味わいを提供できる点は、消費者のニーズに合致します。宝酒造の新商品もまた、単なる風味補助にとどまらず、こうした流れを後押しする存在になることが期待されます。


しょうゆが世界市場で存在感を放つように、料理酒もまた「発酵による旨味」という普遍的な価値を軸に、海外市場への展開余地を持っています。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界中で親しまれている今こそ、料理酒が「日本酒のもう一つの可能性」として注目される機会が訪れるかもしれません。

宝酒造の「料理のための清酒」<旨にごり>は、にごりの旨味を活かした新しい提案です。規模はまだ小さいものの、料理酒は日本酒文化の多様性を家庭の台所から広げていく存在として期待されます。今回の新商品は、その未来に向けた重要な布石といえるでしょう。

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日本酒GI指定が拡大!京都・鳥取・福岡を新たに登録。地域ブランド確立へ新たな一歩

2025年10月1日、国税庁は酒類の地理的表示(GI:Geographical Indication)として「京都」「鳥取」「福岡」の3地域を新たに指定しました。産地の特性や伝統的な醸造技術を背景とする品質が国により公式に保証され、これまで以上に国内外でのブランド価値が強化されることになります。日本酒にとっては、消費者の信頼を高めるだけでなく、海外市場開拓の大きな後押しとなる出来事です。

GI制度の概要とこれまでの歩み

GI制度は、地域の自然条件や文化に根差した農林水産物・酒類を保護し、その名称を独占的に使用できるようにする仕組みです。清酒では2005年に「GI白山(石川県白山市)」が初めて登録され、2016年には県単位で初となる「GI山形」が誕生しました。その後、「GI三重」「GI山梨」「GI佐賀」「GI長野」「GI新潟」「GI滋賀」「GI岩手」「GI静岡」「GI青森」と続き、さらにエリアとして「GI灘五郷」など、今回の指定前までに20の地域が登録済となっています。今回、3地域が同時に登録されたことは初めてであり、日本酒のGI制度史における大きな節目となります。

ところで、GI指定を受けるということは、その地域名を冠する清酒を国が保証する形となり、模倣品や不正使用からブランドを守るという効果があります。また、国際的に通用する制度であるため、海外輸出においても信頼性が高まるのです。近年はフランスやイタリアなどワイン文化を持つ国々で日本酒の関心が高まっており、「GI」の表示は市場開拓の強力な武器となります。

すでにGI指定を受けた地域では、観光振興や輸出拡大に向けた取り組みが加速しています。山形では「GI山形」を軸にした試飲イベントや海外プロモーションが展開され、県産米の使用率向上にもつながりました。灘五郷(2023年指定)では酒蔵巡りとGI認証を組み合わせた観光施策が進められ、ブランド力の強化に寄与しています。

京都・鳥取・福岡の特色と狙い

京都

伏見を中心に千年以上の酒造りの歴史を誇る地域です。古都のイメージや観光資源を活かした高付加価値戦略が期待されます。

鳥取

県内18蔵が結束し、「鳥取の酒」として統一的に発信。欧州やアジア市場への展開を視野に、まとまりあるブランド戦略を志向しています。

福岡

筑後川流域の水系と米を活かし、九州最大の酒どころとして知られます。流通拠点性を背景に、国内外販路の拡大を見据えた輸出促進が進められる見通しです。

品質基準の明確化と課題

今回のGI指定は、域内酒蔵にとって品質基準の明確化を意味します。一定の水準を保つことで地域全体の評価が底上げされ、個々の銘柄への信頼も高まる効果が見込まれます。特に若手蔵や小規模蔵にとっては、GIという共通ブランドを足がかりに存在感を増すことができます。

ただし、基準遵守には検査や管理コストが伴い、小規模蔵には負担となる可能性もあります。また「地域名」の共有は統一感を生む一方で、個性が埋没する懸念も否定できません。制度を活かすには、産地内の品質管理体制の整備や農家との連携、観光・食文化との融合による付加価値創出が重要です。

過去の指定地域では、観光客誘致や地元米の利用拡大が進み、長期的には生産基盤の安定化や設備投資の増加につながる例も見られます。ただし、即効的な経済効果を生むためには、地域ぐるみの戦略立案と、国内外市場への継続的な発信が欠かせません。


今回の「京都」「鳥取」「福岡」のGI指定は、日本酒の地域ブランド化を一段と進める大きな転機です。指定という“公的なお墨付き”をどう活かすか──地域の蔵元、農家、観光事業者が協働し、個性を守りつつも世界市場へ挑む姿勢が今後の成否を分けるでしょう。GIが「看板倒れ」とならないよう、地域全体での連携と持続的な魅力づくりが問われることになります。

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IWA5「アッサンブラージュ6」と鳳凰美田の挑戦──日本酒に広がるアッサンブラージュの可能性

シャンパーニュの伝説的醸造家、リシャール・ジョフロワ氏が手掛ける日本酒ブランド「IWA5」から10月1日、「アッサンブラージュ6」が発売されます。今回のテーマは「余分なものを削ぎ落とす」というものです。アッサンブラージュとは本来、複数のワインや原酒をブレンドし、理想の味わいを形作る手法を指します。ジョフロワ氏は日本酒にこの概念を持ち込み、米・水・酵母といった異なる要素を組み合わせながら、調和の中に個性を生み出すことを試みています。

新作の「アッサンブラージュ6」では、あえて華美な要素を抑え、無駄をそぎ落とすことで、日本酒が本来持つ透明感や奥深さを際立たせるものだといいます。この「削ぎ落とす」という発想は、日本の美意識にも通じるものであり、シンプルさの中に多様性を見出す姿勢が感じられます。ワインの世界ではアッサンブラージュはしばしば“足し算”の技術と語られますが、日本酒においては“引き算”の美学として新たな解釈が可能になるのかもしれません。

一方で、栃木の銘酒「鳳凰美田」も、このたび初めてアッサンブラージュに挑戦しました。長らく単一の仕込みや特定の酒米にこだわってきた酒造が、複数の原酒を組み合わせることで新しい味わいを表現する。その背景には、単一のスペックでは表現しきれない複雑さや奥行きを追求したいという思いがあると考えられます。鳳凰美田が持つ果実味豊かな酒質と、アッサンブラージュによる調和の技法の融合は、日本酒ファンにとって大きな関心事といえるでしょう。

日本酒業界において、アッサンブラージュはまだ新しい試みです。従来、日本酒は仕込みごとの個性や純米・吟醸といったカテゴリーに重きを置き、ブレンドという発想は限定的でした。しかし、原酒を組み合わせることで生まれる表現の幅は、酒蔵にとっても新しい可能性を切り拓きます。たとえば、米や酵母、醸造年度の異なる原酒を組み合わせることで、単一の酒では実現できない奥行きや余韻を創出することができます。さらに、気候変動や米の収量変化といった外的要因への対応策としても、アッサンブラージュは有効です。

また、海外市場に目を向けると、ブレンドの概念はすでに一般的です。ワインやウイスキーに親しむ消費者にとって、アッサンブラージュによる日本酒は理解しやすく、興味を持ちやすいカテゴリーとなるでしょう。IWA5の挑戦は、まさにその可能性を世界に示すものといえます。そして国内の酒造もまた、その流れに続くことで、日本酒がさらに多彩で柔軟な表現を獲得していくことが期待されます。

IWA5「アッサンブラージュ6」と鳳凰美田の新しい挑戦は、日本酒におけるアッサンブラージュの可能性を示す象徴的な出来事です。足し算と引き算、両方の視点を活かしたこの技法が、日本酒の未来にどのような景色を描くのか。今後も注目していきたいところです。

▶ 日本酒に広がる「アッサンブラージュ」の可能性〜ブレンドがもたらす新しい酒造りのかたち〜

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静岡の地酒『からっ風会』オリジナル酒が今年も登場|花の舞酒造と地域酒販店が日本酒の日に届ける伝統の味

静岡県内の酒販店で組織する「からっ風会」が、1989年から継続して取り組んでいるオリジナル日本酒の販売が、今年も10月1日の「日本酒の日」に合わせて始まります。この日本酒は、県内を代表する蔵元である花の舞酒造に醸造を依頼し、地域酒販店が自らの発意と責任を持って企画するもので、すでに三十年以上の歴史を刻んでいます。

「からっ風会」は、静岡県西部を中心とした酒販店の有志が集まり、日本酒の魅力を広めるとともに、地域の消費者と地元酒をつなぐことを目的として発足しました。会の名称は、冬に吹き荒れる遠州のからっ風に由来し、厳しい風土を逆に力強さへと転じる象徴として掲げられています。その精神は、日本酒の販売を単なる商取引にとどめず、文化的・地域的なつながりとして育んでいこうという思いに根ざしています。

花の舞酒造は、静岡県浜松市に本拠を構える老舗の酒蔵で、地元産米と天竜川水系の伏流水を生かした酒造りで知られています。全国的にも「地酒」ブームが起こる以前から、地域性を重んじた醸造姿勢を守り続けてきた蔵であり、からっ風会との協働はまさに「地元と共に歩む酒造り」の象徴といえます。

この取り組みの大きな意義は、酒販店が主導するという点にあります。一般的に新商品の企画や販売戦略は蔵元が中心となりますが、からっ風会では「売り手」である酒販店自らが発案し、顧客の声を直接反映させています。地域の消費者と最も近い距離にいる小売店だからこそ、求められる味わいやスタイルを的確に把握できるのです。そのため、この日本酒は毎年「消費者目線」を強く意識した味わいに仕上げられ、購入者からの支持も長年にわたって安定しています。

また、酒販店が主体となることは、販売意欲の向上にも直結します。自らが関わった商品であれば、ただの仕入れ品ではなく、自店の看板商品として積極的に紹介したいという思いが自然と芽生えます。こうした主体性が、酒販店と消費者の関係性をより強固にし、地域市場に根ざした日本酒文化を支えてきました。

さらに、こうした取り組みは、酒蔵と酒販店が対等な立場で協力する新しい関係性のモデルともいえます。日本酒業界では、かつて酒販店が蔵元に完全に依存する構造が主流でした。しかし流通の自由化や消費者嗜好の多様化が進む中で、売り手が自ら動き、商品づくりに参画する姿勢は、時代の変化に即した形といえるでしょう。

三十年以上続いていること自体が、この試みの成功を証明しています。単なる限定酒としての一過性に終わらず、毎年恒例の行事として地域の人々に浸透しているのです。消費者にとっては、秋の訪れとともに待ち望む「風物詩」のような存在となり、地元の誇りを象徴する酒として愛されています。

近年、日本酒市場は縮小傾向にある一方で、クラフト的な小ロット醸造や、地域の物語を背負った商品が注目を集めています。その意味でも、からっ風会の取り組みは先駆的であり、全国的に見ても独自の価値を放っています。地域に根差した販売網と、伝統ある蔵元の技術力が結びついたこのプロジェクトは、日本酒の未来を考える上でも重要な示唆を与えてくれるでしょう。

10月1日から店頭に並ぶ今年の「からっ風会」オリジナル酒も、きっと地域の食卓を彩り、人々の交流を温める存在になるはずです。酒販店が主導することで生まれる地域性と親しみやすさこそが、この酒の最大の魅力といえるのではないでしょうか。

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「メガネ専用」発売10周年 本家以外の酒蔵も参加し、日本酒とメガネの文化をつなぐ

日本酒業界には数多くの銘柄がありますが、その中でも異彩を放ってきたのが「メガネ専用」というユニークな名前のお酒です。宮城県の萩野酒造が2015年に発売したこの一本は、インパクトのあるネーミングと確かな味わいで人気を集め、発売から10周年を迎えた今年も注目を浴びています。

「日本酒の日」と「メガネの日」が生んだ異色の銘柄と、その広がり

そもそも「メガネ専用」という発想は、10月1日が「日本酒の日」であると同時に「メガネの日」にも制定されていることに由来します。日本酒の需要喚起とメガネ文化のユーモラスな融合を狙ったこの試みは、多くの人に驚きを与えました。当初は遊び心に満ちた企画のように見えましたが、その軽やかな発想が日本酒に新しい楽しみ方をもたらしたのです。

今年は特に記念すべき年となりました。10周年を迎えるにあたり、本家の萩野酒造だけでなく、全国の複数の蔵が賛同し、それぞれの「メガネ専用」を発売するという広がりを見せています。これにより、「メガネ専用」は一つの銘柄を超え、日本酒業界全体で楽しむイベント性を帯びるようになりました。まさに、メガネと日本酒を結ぶ文化現象といえるでしょう。

メガネと日本酒が持つ共通性と遊び心

メガネと日本酒の組み合わせは一見奇抜ですが、そこには共通する魅力があります。メガネは単なる視力矯正の道具にとどまらず、ファッションや自己表現の象徴でもあります。同じように日本酒もまた、米や水、造り手の哲学によって個性を映し出す存在です。つまり、両者は「日常を支えながらも、その人の個性を表す」という点で重なり合います。

また「専用」という言葉がもたらすユーモアも忘れてはなりません。飲み手がメガネをかけているかどうかは関係なく、ラベルに描かれた印象的な眼鏡マークを見るだけで、飲む人は自然と笑みを浮かべます。そしてメガネ愛用者同士でグラスを傾ければ、まるで秘密のサークルに参加しているかのような一体感が生まれます。これは従来の日本酒では得がたい新しい楽しみ方です。

さらに「メガネ専用」が示したのは、日本酒の世界における「遊び心」の価値です。伝統と格式を大切にする日本酒にあって、ユーモラスな銘柄は挑戦ともいえます。しかし、そうした軽やかな発想こそが若い世代や新規層の関心を引き寄せます。実際に、この銘柄をきっかけに日本酒に親しむようになったという声も少なくありません。

10年で育った「文化」とこれからの展望

発売から10年を経て、今や「メガネ専用」は一つのシンボルとなりました。今年のように複数の蔵が参加する動きは、単なる話題づくりではなく、日本酒業界全体が消費者との距離を縮めようとする意志の表れです。加えて10月1日という「日本酒の日」と「メガネの日」が重なる記念日性が、今後さらに盛り上がりを後押ししていくことでしょう。

「メガネ専用」が築いたものは、ユーモラスな一本のお酒にとどまりません。日常を彩るメガネと、日本文化を体現する酒が響き合うことで、飲む人の生活や趣味と一体化する新しい日本酒文化の可能性を示したのです。これからの10年も、こうした遊び心と共感を大切にした発想が、日本酒の世界をより豊かにしていくに違いありません。

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