発酵が生む循環の物語――白鶴酒造「HAKUTSURU SAKE CRAFT No.15」が示す日本酒の未来

白鶴酒造株式会社は、1月17日(土)より、醸造所から発生する発酵由来のCO₂を活用した新商品「HAKUTSURU SAKE CRAFT No.15 ホップ&バジル」を263本限定で発売します。本商品は、従来の純米大吟醸造りにホップやバジルを加えた『その他の醸造酒』規格のSAKEであり、日本酒の枠を超えた新たな創造性を提示しています。

発酵由来CO₂を資源に変える酒蔵の挑戦

この新商品が特徴的なのは、単なる風味の変化だけに留まらず、「循環型ものづくり」という環境配慮の視点が取り入れられている点です。白鶴酒造のマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」で発酵中に発生するCO₂をただ排出するのではなく、それを捕集・濃縮して室内農業装置に送り込み、バジルを栽培する仕組みを実証しました。こうして育てられたバジルを原料の一部として酒造りに活用することで、発酵→栽培→醸造という循環するプロセスの構築を実現しています。

この取り組みには、単なる環境対応以上の深い意味があります。まず、発酵由来のCO₂を有効利用することは、排出を抑制するだけでなく、原料生産にもつなげるという新しいアイデアです。通常、日本酒の発酵過程で発生するCO₂は単に大気中に放出されてしまいますが、その副産物を価値あるものに転換する発想は、製造業全般が抱える環境負荷低減の課題への一つの応答でもあります。こうした発想は「廃棄物の価値化」とも呼べるもので、持続可能な産業プロセスへの転換を象徴しています。

また、酒蔵という伝統的な現場において、室内農業装置を組み合わせることで、農業技術と発酵技術の融合を図っている点も見逃せません。バジルは高付加価値のハーブであると同時に、香りや味わいのアクセントとしてもユニークな役割を果たします。このハーブを自ら育て、原料として使うという実験は、酒造りを単なる醸造行為から、より広い食文化・農業技術との対話を可能にする創造活動へと拡大しています。この点は、伝統産業が現代的な課題と向き合う際の新しい道筋を示唆していると言えます。

クラフトSAKE~伝統とサステナビリティの融合

さらに、この限定酒の開発は、SAKEの多様性の拡大という広い文脈にも位置付けられます。近年、従来の日本酒概念にとらわれない「クラフトサケ」と呼ばれるジャンルが注目されつつあります。これは、伝統的な清酒造りの技術を基盤としながら、フルーツやハーブ、スパイスなど多様な素材を用いることで、新しい風味や体験を生み出すものです。こうした潮流は、若年層や海外市場での嗜好に応える試みとしても評価されており、白鶴酒造が取り組むクラフトSAKEシリーズはその先駆的存在となっています。

白鶴酒造にとって「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、単なる限定商品のブランド名ではありません。それは、醸造技術と感性、環境配慮と消費者体験を結びつける実験的な場であり、学びの場でもあります。伝統産業が抱える硬直化したイメージを打ち破り、柔軟な発想と技術融合によって新たな価値を生み出す過程は、日本酒産業のみならず、地方産業全体へのヒントにもなります。

また、この取り組みは単独企業の努力にとどまるものではありません。発酵由来CO₂利用の実証プロジェクトは、県内企業やスタートアップ企業との協業で進められており、産学官連携の可能性をも示しています。こうした異分野との連携がもたらす創発的な成果は、地域社会の持続可能性を高めるうえでも重要です。


最後に、本商品の提供が限定的であることは、消費者にとって「一期一会」の体験価値として働きます。限定発売263本という希少性は、単にマーケティングの手法ではなく、一つひとつの製品に込められた手間と想いを伝える象徴とも言えるでしょう。伝統を未来へつなぐための革新は、こうした小さな実験の積み重ねから生まれるのだと感じます。

白鶴酒造が提示した「循環型ものづくり」は、伝統産業におけるサステナビリティの新たな方向性を示すと同時に、発酵というプロセスが持つ可能性を広げる挑戦でもあります。この試みが日本酒業界全体にどのような波及効果をもたらすのか、今後の展開が非常に楽しみです。

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世界における「日本酒の現在地」~VinePair日本酒特集から読み解く世界での評価

米国の酒類専門メディア「VinePair」はこのほど、日本酒入門者に向けた記事「8 Producers You Should Know to Get Into Sake(日本酒を始める前に知っておくべき8つの酒造)」を公開しました。ワインやクラフトビール、スピリッツを主戦場としてきた同メディアが、日本酒を正面から取り上げた点は、世界の酒類市場における日本酒の立ち位置を考えるうえで象徴的な出来事と言えます。

この記事の特徴は、香味成分や製法理論を詳述するのではなく、「どの酒蔵を知れば、日本酒の世界に入りやすいか」という視点で構成されている点です。取り上げられている酒蔵は、海外での流通実績やブランド認知を持ち、かつ味わいの個性が比較的わかりやすい蔵が中心となっています。これは、日本酒がいまだ『専門的で難しい酒』と見られがちな海外市場において、入口の整理が重要であることを示しています。

VinePairはワインや蒸留酒の記事で知られ、「飲むことは文化である」という編集方針を掲げています。その同じ文脈で日本酒が語られていることは、日本酒がエキゾチックな特殊酒ではなく、世界の酒文化の一ジャンルとして認識され始めている証とも言えるでしょう。実際、記事では寿司や和食との相性だけでなく、日常的な飲酒シーンでの楽しみ方にも言及されており、日本酒を「特別な場の酒」から「選択肢の一つ」へと位置付けの見直しが行われています。

一方で、記事の構成からは、日本酒がワインほど体系化された理解をまだ得ていない現状も見えてきます。ワインであれば産地、品種、スタイルで語られるところを、日本酒の場合は酒蔵名が強い軸になっています。これはテロワールや使用米のストーリーが、海外ではまだ十分に共有されていないことを意味します。その分、酒蔵の哲学やクラフト性が、日本酒理解の近道として機能している段階にあると言えます。

世界の酒類市場全体で見ると、日本酒のシェアは依然として小さい存在です。しかし、VinePairのように月間数百万規模の読者を持つメディアが、日本酒を「これから知るべき酒」として扱うこと自体、確実な地殻変動が起きていることを示しています。これは輸出量の増加以上に、「語られ方」が変わってきている点が重要です。

今回の記事は、日本酒がワインやクラフトビールと同じ土俵で比較・選択される段階に入りつつあることを静かに示しています。日本酒はすでに世界で評価される酒でありながら、その魅力の全体像はまだ伝え切れていません。だからこそ、海外メディアによる入門的な整理が意味を持ち、日本酒は今、「発見され続ける酒」として世界の中で位置づけられているのです。

▶ 8 Producers You Should Know to Get Into Sake(日本酒を始める前に知っておくべき8つの酒造)

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津南醸造がメタバース上のバーチャル酒蔵「月面酒蔵 〜Lunar Brewery〜」を公式ローンチ

新潟県中魚沼郡津南町に本社を置く津南醸造は、2025年12月31日、メタバース空間に酒蔵の仮想空間「月面酒蔵 〜Lunar Brewery〜」を本格的にローンチしました。これは単なるデジタル展示ではなく、世界中の人々がアクセス可能な仮想体験プラットフォームとして設計されたものです。

「月面酒蔵」は、2040年に月面で酒蔵をつくるという壮大なビジョンに基づくプロジェクトの一環であり、宇宙時代における発酵文化の可能性にも着目した長期的な文化発信の場となっています。アクセスしたユーザーは、未来の酒造りのシーンを探索できるほか、月面での醸造に関連する情報や建築デザインについて学ぶことができる設計になっています。

この空間は、単なるバーチャル展示に留まらず、世界中の参加者が集うグローバルカンファレンス、蔵見学、ディストリビューションに関するミーティングなどのイベントも開催予定とされており、時空を越えた交流の場として運用されていく予定です。構築には株式会社Urthの「metatell」プラットフォームが利用されています。

代表取締役である鈴木健吾氏は、「日本酒は味だけでなく、土地・水・米・微生物、そして人々の営みによって生まれる文化である」と述べ、仮想空間を通したストーリーの発信は、国境や物理的距離を越えて日本酒文化を広める新しい方法になるとの意義を強調しています。

バーチャル蔵の意義と背景

今回のメタバース酒蔵ローンチの背景には、インバウンド観光と清酒輸出の好調があり、海外市場での体験価値が競争力の重要な要素となっているという業界の現状があります。津南醸造は、従来から雪国・津南のテロワールや魚沼産米などの地域資源を活かしつつ、生成AIを活用したスマート醸造などの先端技術導入にも積極的でした。この新たな取り組みは、そうした伝統と技術が融合した流れの延長線上にあります。

このような先進的な取り組みは、日本酒業界全体のプレゼンス拡大に寄与する可能性があります。世界最大級のバーチャル空間であるメタバースを活用することで、海外の消費者やファンに日本酒文化を直感的に体験してもらう機会が生まれます。物理的な訪問が難しい人でも、酒蔵の内部を探検したり、イベントに参加したりすることが可能になる点は、従来のプロモーション手法にはない利点です。

また、英語対応や多言語サポートを含めた酒蔵プロモーションAIエージェントの導入にも取り組んでいることから、海外市場での日本酒ブランドの認知向上やファン形成に大きな影響を与えることが期待されます。こうした仮想プラットフォームは、日本酒の「物語性」や「文化体験」をより深く伝えるツールとして機能し、輸出拡大やブランド価値向上に寄与する可能性があります。

さらに、メタバース空間は他産業と連携したコラボレーションや、現地のイベントと連動したプロモーション、デジタルツインとして現実世界の酒蔵と統合した体験設計なども可能です。これにより、観光業とのシナジーや新しいファン層の開拓が期待できるだけでなく、日本酒文化の価値を世界的に再定義する動きに繋がっていくと考えられます。

今後の展望

津南醸造の「月面酒蔵 〜Lunar Brewery〜」は、日本酒業界の未来を象徴する試みとして注目を集めています。伝統と革新が出会うこのプロジェクトは、オンライン・オフライン双方の酒蔵体験を拡張し、世界中の人々に日本酒文化の魅力を届ける新たな可能性を示しています。今後、どのようなコミュニティやイベントが生まれ、日本酒文化の地球規模での広がりに寄与していくのか、多くの関係者が注目しているところです。

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【トレンド】伝統をアップデートする「ネオお屠蘇」とは?

2026年1月6日、東京・西新橋の「日本の酒情報館」にて、古くから伝わる「お屠蘇」の概念を現代的に解釈した『ネオお屠蘇』の提供が今年も始まりました。健康志向や多様化する日本酒の楽しみ方を背景に、若い世代や海外観光客からも熱い視線が注がれています。

そもそも「お屠蘇」とは何か

お屠蘇は、一年の無病息災を願って正月に飲まれる薬酒です。唐の時代の中国から伝わったとされ、日本では平安時代の貴族の行事として定着しました。山椒、肉桂、陳皮といった数種類の生薬を調合した「屠蘇散」を、日本酒やみりんに一晩浸して作ります。

しかし、近年ではライフスタイルの変化により、家庭で本格的なお屠蘇を用意する機会が減少していました。「生薬の独特な風味が苦手」「アルコール度数が高すぎる」といった声もあり、伝統行事としての存続が課題となっていました。

「ネオお屠蘇」の正体

今回注目を集めている「ネオお屠蘇」は、単なる伝統の再現ではなく、現代の嗜好に合わせた「自由なペアリングとアレンジ」を特徴として、2010年代後半から「アレンジお屠蘇」のような形で広がり、2023年に「ネオお屠蘇」として、「日本の酒情報館」から登場しました。主に以下の3つのスタイルが提案されています。

  • 【ボタニカル・サケとの融合 】これまでの屠蘇散を浸す方法ではなく、製造工程でハーブやスパイスを直接投入した「クラフトサケ」をベースに使用します。従来の薬臭さを抑え、ジンのような華やかな香りと、日本酒本来の旨味を両立させた「新しい味わい」が特徴です。
  • 【低アルコール&スパークリング仕立て】「朝からお酒を飲むのは抵抗がある」という層に向けて、5~7%程度の低アルコール日本酒や、微発泡のスパークリング日本酒をベースにしたレシピが登場しています。これにより、お屠蘇のイメージが「重々しい儀式」から「新年の爽やかな乾杯」へと進化しました。
  • 【追いスパイスによるパーソナライズ】 飲む直前にカルダモンやクローブ、あるいは柚子のピール(皮)を添えるなど、自分好みの香りにカスタマイズするスタイルです。これは近年のクラフトコーラやスパイスカレーの流行とも呼応しており、20代から30代の層に「自分だけの一杯」として受け入れられています。

今後の展望

この「ネオお屠蘇」の動きは、単なる一過性の流行に留まらず、日本酒の「シーズン(季節性)」を強調するプロモーションとして期待されています。かつての「お屠蘇」が家族の健康を願うものであったように、現代の「ネオお屠蘇」もまた、自分の体調や好みに向き合う「セルフケア」の一環として定着していくかもしれません。

館長によれば、「伝統は形を変えながら受け継がれるもの。ネオお屠蘇をきっかけに、日本酒の持つ文化的な深みと、多様な楽しみ方を知ってほしい」とのことです。

伝統と革新が交差する2026年。新しい年の幕開けに、自分に合った「ネオお屠蘇」で、一年の健康を願ってみるのもいいかもしれません。

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清酒「憲法と人権」から考える~社会性を帯びた日本酒ネーミングの可能性

販売開始から20周年を迎えた佐々木酒造の清酒「憲法と人権」が話題になっているようです。弁護士団体と酒蔵が協力し、「日本国憲法と人権について考えるきっかけをつくる」という明確な意図を持って世に送り出されたこれは、日本酒としてはきわめて異色の名前を持つ一本です。

日本酒の銘柄名といえば、自然や風土、縁起の良さ、美意識を表す言葉が一般的であり、「憲法」「人権」という社会的・制度的な言葉が正面から掲げられる例はほとんどありません。その意味で本商品は、日本酒の役割そのものを問い直す存在だと言えるでしょう。

日本酒の名前が果たしてきた役割

日本酒の銘柄は長らく、土地の名前や山川、神仏、季節感、理想の酒質などを象徴するものとして機能してきました。そこには「飲む前から安心感や期待を抱かせる」役割があり、同時に地域文化を静かに伝えるメディアとしての側面もありました。一方で、強い主張や社会的メッセージを前面に出すことは、あえて避けられてきたとも言えます。日本酒は祝いの席や日常の食卓に寄り添う存在であり、対立や議論を想起させる言葉とは距離を取ってきたのです。

「憲法と人権」が示した新しい地平

その常識に風穴を開けたのが、「憲法と人権」です。この酒は、味わいそのもの以上に「名前を見て立ち止まらせる力」を持っています。なぜ日本酒にこの名前が付けられているのか、誰がどんな思いで造ったのか。飲み手は自然と背景に関心を向け、会話が生まれます。ここで重要なのは、酒が主張を押し付けるのではなく、「考える入口」として機能している点です。日本酒が対話を生む媒体となる可能性を、この一本は示しています。

社会性を帯びた名前の日本酒は、販売数量や市場規模だけを見れば主流にはなりにくいでしょう。しかし、話題性や記号性という観点では大きな価値を持ちます。特に現代は、SNSやオンラインメディアを通じて「なぜその名前なのか」が瞬時に共有される時代です。強いコンセプトを持つ名前は、広告費をかけずとも物語として拡散され、結果的に日本酒そのものへの関心を高める装置となります。

海外では、ワインやクラフトビールが社会的テーマや政治的メッセージをラベルに込める例も少なくありません。それに比べ、日本酒は「語らない美徳」を重んじてきました。しかし消費者の価値観が多様化する中で、日本酒もまた「語る文化」としての側面を持ち得るのではないでしょうか。人権、環境、地域の課題、記憶の継承など、テーマは慎重さを要する一方で、真摯に向き合えば日本酒の文化的厚みを増す要素になります。

重要なのは、これらが大量生産・大量消費を前提としない点です。社会性を持つ名前の日本酒は、限定酒や企画酒として位置付けられることで、蔵の哲学や姿勢を明確に伝える役割を果たします。「すべての酒が語る必要はないが、語る酒があってもいい」。清酒「憲法と人権」は、その可能性を現実の形として示した存在です。


日本酒は単なる嗜好品ではなく、日本社会や文化を映す鏡でもあります。社会性を持った名前の日本酒は、飲む人に問いかけ、対話を生み、記憶に残る体験を提供します。「憲法と人権」は例外的な存在かもしれませんが、その例外があるからこそ、日本酒の表現領域は広がっていくのです。今後、このような試みが点としてではなく線となり、日本酒文化の新たな側面を形づくっていくのか、静かに注目していきたいところです。

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日経年頭特集が示す潮流――日本酒を原料とするクラフトジンは2026年どうなるか

今年の元旦の日本経済新聞において、「クラフトジン 地域薫る」という特集が組まれ、その中に、日本酒を原料に用いたクラフトジンを手がける亀田酒造が取り上げられていました。年始という象徴的なタイミングで、とりわけ、日本酒を原料とするジンが取り上げられた点は注目に値します。地域性や酒蔵の背景を語る文脈の中で、日本酒が蒸留酒へと姿を変え、新たな価値を生み出していることが明確に打ち出されていました。

昨年の話題から今年の「評価」へ

振り返れば、昨年も日本酒を用いたジンは業界内外で話題になりました。清酒や酒粕をベーススピリッツに用い、そこに和柑橘や山椒、茶葉などのボタニカルを重ねることで、「日本らしさ」を明確に打ち出した商品が相次いで登場しました。これらは単なる蒸留酒の一ジャンルにとどまらず、日本酒の技術や発想を別の形で表現する試みとして評価されてきました。

こうした流れの中で、日本酒蔵が主体となってジンづくりに取り組む意義は、年々明確になりつつあります。亀田酒造のように、清酒の醸造で培った原料処理や発酵への理解を生かし、酒質設計の段階からジンを構想する姿勢は、既存のクラフトジンとは一線を画します。単にアルコールを調達して香りを付けるのではなく、「酒としての骨格」をどうつくるかという、日本酒的な思考が反映されている点に大きな特徴があります。

今年、日本酒を用いたクラフトジンが持つ可能性のひとつは、「日本酒の代替」ではなく「日本酒の拡張」として受け止められるかどうかにあるでしょう。日本酒市場が縮小と高付加価値化の間で揺れる中、ジンという国際的に通用するカテゴリーに、日本酒由来のストーリーを乗せることは、海外市場への訴求力を高める手段にもなります。実際、ジンはカクテル文化と結びつきやすく、飲用シーンの提案がしやすい酒類でもあります。

また、国内においても、日本酒に親しみの薄い層への入口として機能する可能性があります。「日本酒は難しいが、ジンなら飲める」という消費者に対し、日本酒を原料にしていることや蔵元が手がけていることを伝えることで、結果的に日本酒文化への関心を喚起することが期待されます。この間口の広さは、今年さらに重要な意味を持つでしょう。

一方で課題もあります。日本酒を用いる必然性が曖昧なままでは、単なる話題先行の商品に終わる危険性があります。なぜ日本酒なのか、その酒質がジンの香味にどう寄与しているのかを、造り手自身が明確に語れるかどうかが問われます。年頭に特集が組まれた今こそ、本質が試される局面に入ったと言えます。

総じて今年は、日本酒を原料としたクラフトジンが「珍しさ」から「評価」へと移行する年になると考えられます。地域性、蔵の思想、日本酒技術の応用といった要素がどこまで説得力を持てるのか。その成否は、日本酒業界にとっても、自らの可能性を占う試金石となるでしょう。年の始まりに示されたこの動きは、静かではありますが、確かな広がりを伴って注目されていくはずです。

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貴醸酒「白狐」発売――旧醸造試験所と王子の狐が開く新年

東京北区観光協会は、水の代わりに日本酒を仕込みに用いた貴醸酒「白狐(びゃっこ)」の販売を、クラウドファンディングサイト「Makuake」で行っています。日本酒文化と地域の物語性を重ね合わせた本商品は、年末年始という節目の時期にふさわしい一本として注目を集めています。

貴醸酒とは、仕込み水の一部、あるいはすべてを日本酒に置き換えて仕込む、非常に贅沢な製法で造られる酒です。通常の日本酒に比べ、糖分や旨味が凝縮され、まろやかで奥行きのある甘味が特徴となります。「白狐」もその例に漏れず、口当たりは柔らかく、余韻には豊かなコクと品のある甘さが広がる仕上がりとなっています。

この「白狐」という名称には、東京北区・王子の地が持つ歴史と伝承が重ねられています。王子といえば、古くから「狐の町」として知られ、王子稲荷神社には関東各地の狐が大晦日に集まるという「狐の行列」の伝承が残されています。白狐は神の使いともされ、豊穣や繁栄の象徴です。年の瀬から新年へと移り変わる特別な時間に、この名を冠した日本酒を味わうことには、どこか縁起の良さが感じられます。

さらに、「白狐」は北区が誇る近代日本酒史の重要拠点、旧醸造試験所の存在とも深く結びついています。現在の独立行政法人酒類総合研究所の前身にあたる醸造試験所は、明治時代に王子の地に設立され、日本酒の品質向上と技術革新を支えてきました。全国の酒蔵へと広まった酵母研究や醸造技術の礎は、まさにこの地から発信されたものです。

「白狐」は、そうした日本酒の知の原点ともいえる土地の記憶を、現代のかたちで伝える存在とも言えるでしょう。単なる土産品や限定酒ではなく、北区という土地が育んできた日本酒文化そのものを一杯の中に閉じ込めた商品として位置づけられています。

年末年始は、日本酒が最も文化的な意味合いを帯びる季節でもあります。年越しの一献、正月の祝酒、家族や親しい人との語らいの場において、日本酒は「時間を共有するための酒」としての役割を担ってきました。甘味と厚みを備えた貴醸酒は、食後酒やゆったりと味わう一杯としても相性が良く、慌ただしい年末年始の中で、ひと息つく時間を演出してくれます。

東京北区観光協会による「白狐」の販売は、観光振興にとどまらず、日本酒と地域文化を改めて結び直す試みとも言えます。旧醸造試験所の記憶、王子の狐の伝承、そして現代の醸造技術が交差するこの貴醸酒は、年の終わりと始まりを彩る象徴的な存在となりそうです。日本酒の持つ物語性を味わいながら、新たな一年への願いを込めて杯を傾けたいところです。

▶ 特別な日に開けたい一本。貴醸酒「白狐」プロジェクト【Makuake】

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「一本の評価」から酒蔵の本質へ――世界酒蔵ランキングが示す日本酒評価の現在地

年も押し迫った12月、2025年の「世界酒蔵ランキング」が発表され、株式会社新澤醸造店が、4年連続となる第1位を獲得しました。このランキングは、特定の銘柄や話題性を競うものではなく、一本一本の日本酒に対する専門家の評価を積み重ね、その集合体として酒蔵を評価するという、極めて特徴的な思想に基づいています。

世界酒蔵ランキングでは、国内外で開催される主要な日本酒コンテストや鑑評会における受賞・入賞実績をポイント化し、酒蔵単位で集計します。評価の起点はあくまで「一本の酒」であり、審査はブラインドテイスティングが基本です。そこには、知名度や規模、販売力といった要素が入り込む余地はほとんどありません。つまりこのランキングは、「どの酒蔵がうまい酒を継続的に造っているか」を、結果として浮かび上がらせる仕組みなのです。

世界酒蔵ランキングの歩みと評価軸の変化

世界酒蔵ランキングは2019年に始まりました。日本酒コンテストの国際化が進む一方で、「どの酒蔵が本当に評価されているのか」を横断的に示す指標が存在しなかったことが、その背景にあります。

従来の評価は、「この酒が金賞を取った」「あの銘柄が話題になった」といった点の評価に留まりがちでした。しかしランキングという形で実績を集積することで、「酒質の安定性」「カテゴリーの幅」「年ごとの再現性」といった、酒蔵としての総合力が可視化されるようになりました。

これは、単発的なヒットではなく、造り手の思想や技術が酒質にどう反映され続けているかを見る評価軸であり、日本酒の成熟を象徴する取り組みとも言えます。

新澤醸造店が示す「積み上げ型」の強さ

2025年のランキングで再び首位に立った新澤醸造店は、このランキングの思想を最も体現している酒蔵の一つです。「伯楽星」「愛宕の松」を中心に、食中酒としての完成度、繊細さ、再現性の高さが国内外で高く評価されてきました。

同社の強みは、突出した一本に依存しない点にあります。特定名称や価格帯を問わず、出品された複数の酒が安定して評価され、その結果としてポイントが積み上がる。この「平均値の高さ」こそが、新澤醸造店の真の競争力と言えるでしょう。

また、国際的なコンテストでの評価を強く意識しながらも、流行や過度な個性に依らず、料理とともに飲まれる酒の在り方を追求してきた姿勢は、一本一本の評価を尊重するランキングとの親和性が非常に高いものです。

ランキングが示す日本酒評価の次のフェーズ

世界酒蔵ランキングの意義は、順位そのものにあるのではありません。「一本の酒を真剣に評価することが、結果として酒蔵の哲学や姿勢を映し出す」という考え方を、業界と消費者の双方に提示している点にあります。

国内市場が縮小する中では、日本酒を『理解される酒』へと昇華させることが重要です。その際、こうした積み上げ型の評価指標は、海外市場においても信頼の拠り所となります。

新澤醸造店が示したスタンスは、ランキング1位という結果以上に、「評価され続ける酒を、淡々と造り続ける」という姿勢そのものです。世界酒蔵ランキングは、そうした酒蔵の在り方を静かに、しかし確かに照らし出しています。

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消費者が選ぶ日本酒の現在地~「The Sakenomy Award」の存在意義

日本酒の評価は、長らく鑑評会や国際コンテストなど専門家による審査が中心でした。しかし近年、もう一つの評価軸として存在感を高めているのが、一般消費者の声を可視化するランキングです。その代表例が、日本酒アプリSakenomyが主催する「The Sakenomy Award」です。

「The Sakenomy Award 2025」は、アプリ上に蓄積されたユーザー評価データをもとに選出され、いま実際に飲まれ、支持されている日本酒を映し出す指標として注目されています。


専門家が審査する日本酒コンテストは、香味のバランスや欠点の有無、酒質の完成度などを厳密に評価し、酒造技術の到達点を示す役割を担っています。蔵の実力や技術水準を客観的に示す点で、業界にとって不可欠な存在です。

一方、「The Sakenomy Award」は評価の前提が異なります。評価するのは専門家ではなく、実際に酒を購入し、飲み、記録した一般消費者です。そこに反映されるのは、「おいしいと感じたか」「また飲みたいと思ったか」という体験としての満足度です。必ずしも減点のない酒が上位に来るわけではなく、印象に残り、記憶に刻まれた酒が支持を集める点が特徴といえます。

この二つの評価軸は、対立するものではありません。専門家評価が「なぜ優れているのか」を説明するのに対し、消費者評価は「実際に選ばれているか」を示します。両者がそろうことで、日本酒は技術的価値と市場性を同時に獲得し、文化をつくり上げると言えるでしょう。


「The Sakenomy Award 2025」で上位に選ばれた日本酒を見ると、その傾向は明確です。商品部門GOLDの一番手から三番手に挙げられた「而今 特別純米 にごりざけ」「No.6 X-type」「十四代 本丸」は、いずれも明確な物語を持ったブランドを代表する日本酒です。単なる酒質の良さだけでなく、飲み手が共感し、語れる体験を持つことが求められていると言えるでしょう。

「The Sakenomy Award」は、日本酒を評価の対象としてだけでなく、体験として選ばれる存在として捉え直すものです。上位の顔ぶれを見ると、スタンダードモデルへの信認の厚さも見て取れますが、ブームの拡大とともに複雑化していくことが予想できます。専門家によるコンテストが酒造技術の進化を支え、消費者視点のランキングが市場のリアルを映し出す。その両輪がそろうことで、日本酒はより多様な広がりを持つようになるでしょう。

「The Sakenomy Award 2025」は、日本酒がいまどのように楽しまれているのかを端的に示す、現代的な指標といえるでしょう。

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BIO SAKE EXPO 2025開催で注目集まる「ビオサケ」とは?誕生の背景と日本酒の未来像

2025年11月29日、「BIO SAKE EXPO 2025」が開催され、日本酒業界における新たな潮流として「ビオサケ」が改めて注目を集めました。環境配慮やサステナビリティが世界的なテーマとなる中で、日本酒もまた「何で、どのように造られているのか」が問われる時代に入っています。本イベントは、そうした価値観の変化を象徴するものと言えるでしょう。

そもそも「ビオサケ」とは、オーガニック栽培された酒米や、自然環境への負荷を抑えた製造工程を重視した日本酒を指す言葉です。有機JAS認証を取得した酒に限らず、化学肥料や農薬に極力頼らない農法、地域の生態系と共生する酒造りの思想まで含めて語られることが多い点が特徴です。単なる製法区分ではなく、「姿勢」や「哲学」を含んだ概念として用いられています。

「ビオサケ」はいつから認識され始めたのか

「ビオサケ」という呼称が明確に使われ始めたのは、2017年前後とされています。この頃、オーガニック食品や自然派ワインの市場拡大を背景に、日本酒にも同様の価値軸を求める声が一部の蔵元や流通、消費者の間で生まれました。当初は海外輸出を見据えた動きが中心で、EUなどのオーガニック認証を取得する蔵も現れましたが、国内では制度的な裏付けがなく、概念としての認知にとどまっていました。

大きな転機となったのが2022年です。この年、酒類が正式に有機JAS認証の対象となり、日本国内でも「オーガニック日本酒」を制度として位置付けられるようになりました。これにより、「ビオサケ」は単なる理想論や個別の取り組みではなく、制度と市場の双方から支えられる存在へと一歩前進しました。今回の「BIO SAKE EXPO 2025」は、そうした積み重ねの到達点の一つと捉えることができます。

日本酒市場における「ビオサケ」の位置付けとこれから

現在の日本酒市場において、「ビオサケ」はまだ主流とは言えません。原料米の確保や栽培コスト、安定供給の難しさなど、課題は少なくありません。しかし一方で、消費者の価値観は確実に変化しています。精米歩合やスペック重視の時代から、「どんな土地で、誰が、どのような思いで造った酒なのか」を重視する層が増えているのも事実です。

また、伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、日本酒は「文化」としての側面がより強く意識されるようになりました。その文脈において、「ビオサケ」は伝統を守りながらも、現代的な課題である環境問題や持続可能性に応答する存在として、重要な意味を持ちます。

今後、「ビオサケ」は大量消費型の商品になるというよりも、高付加価値で物語性を持つ日本酒として、国内外で確かなポジションを築いていくと考えられます。特にオーガニック志向の強い海外市場においては、日本酒の新たな入口として機能する可能性も高いでしょう。

「BIO SAKE EXPO 2025」は、ビオサケが一過性の流行ではなく、日本酒の未来を考える上で欠かせない選択肢であることを示しました。自然と共生する酒造りという原点に立ち返りながら、日本酒が次の時代へ進むためのヒントが、そこには確かに存在しています。

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