会津の宮泉銘醸、新ブランド純米吟醸「暁霞」を発表|海外市場を意識した香り高い日本酒

福島県会津若松市の老舗酒蔵・宮泉銘醸は、2025年8月26日、新たな純米吟醸酒「暁霞(あきがすみ)」を発表しました。本銘柄は、香りの老舗企業である日本香堂グループとの共同開発によって誕生したもので、約2年にわたる構想と試作を経て完成した注目の新商品です。宮泉銘醸は「寫樂」など全国的に評価の高い銘柄を手掛ける蔵元として知られていますが、今回の「暁霞」には、国内市場のみならず海外市場を強く意識した設計が盛り込まれている点が特徴です。

海外市場を見据えた開発背景

「暁霞」開発の契機は、世界的に高まる日本酒需要に応えるためでした。とりわけ北米や欧州では、ワインやクラフトビールに並ぶ「食中酒」としての日本酒の可能性が広く認識されつつあります。宮泉銘醸は、海外消費者が日本酒に求める要素として、香りの華やかさと飲みやすさ、そして料理との相性を重視している点に注目しました。そこで、日本香堂グループの香りに関するノウハウを取り入れ、香りの印象がより繊細かつ持続的に感じられる酒質を追求しました。

また、使用米には福島県が開発した酒造好適米「福乃香」と、安定した醸造適性を持つ「五百万石」を採用しています。これにより、米由来のしっかりとした旨味を持ちつつも、後味がすっきりとしたバランスの良い味わいに仕上がっています。特に「福乃香」は、県を挙げてブランド化を推進している酒米であり、地元の農業振興とも結びつく点が評価できます。

ブランド名に込められた意味

新ブランド「暁霞」は、夜明けに立ち込める霞をイメージし、未来へと広がる希望や新しい日本酒文化の幕開けを象徴しています。ネーミング自体も海外市場を意識し、発音が比較的容易で、ビジュアルとしても美しい印象を与えるよう配慮されています。ラベルデザインには淡い色調を用い、モダンで洗練された印象を重視。ワインやクラフトジンのボトルと並んでも違和感がないよう、国際的な消費シーンを想定した造りになっています。

今後の展開と期待

「暁霞」は、まず国内での数量限定販売を経て、順次海外市場への展開が見込まれています。とくに北米では、寿司や和食レストランだけでなく、現地料理と組み合わせる提案型のプロモーションが計画されています。香り豊かで軽快な飲み口は、魚介料理や野菜を中心とした地中海料理にも合わせやすく、食文化の垣根を超えたペアリングが期待されます。

一方、欧州市場では、ワイン愛好家を意識したアプローチが検討されています。ワイングラスで提供することを前提としたテイスティングイベントや、現地ソムリエとの協業によるペアリング提案など、これまでの日本酒の枠を超える販売戦略が展開される見通しです。さらに、香りの魅力を訴求する点では、香水やアロマ製品といった異業種とのコラボレーションも視野に入れられています。

日本酒の新たな挑戦として

宮泉銘醸はこれまで、国内市場を中心に着実に評価を築いてきましたが、「暁霞」の発表は、同蔵にとっても新しい挑戦です。日本香堂という異分野の専門企業との連携により、これまでにない切り口で日本酒の可能性を広げ、海外市場への足がかりを築こうとしています。

世界中で多様な食文化が交わる中、日本酒はその繊細さと奥行きによって注目を集めています。「暁霞」は、伝統的な技術と革新的な発想を掛け合わせることで、日本酒の国際的な存在感をさらに高める役割を担うことでしょう。今後の展開は、日本酒業界全体にとっても新たな可能性を示す一歩となりそうです。

出典:TBS NEWS DIG(2025年8月26日)

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

サステナブル日本酒「環」、日本酒として初のSalmon-Safe認証を取得――SDGsを牽引する存在へ

神戸新聞社が推進する「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから誕生した日本酒「環(めぐる)」が、この度、米国発の環境認証「Salmon-Safe」を、日本の酒として初めて取得しました。これは、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った日本酒造りの新たな一歩であり、日本酒がSDGs推進の先導者になりうることを示す大きな成果となりました。

「環」が誕生した背景と2021年の発売

「環」は、神戸新聞社が2019年に立ち上げた「地エネと環境の地域デザイン協議会」を母体とする「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから、生まれた日本酒です。2020年度に農家、蔵元、新聞社が連携して取り組みを開始し、2021年9月22日に初めて「地エネの酒 環」として販売が開始されました。

このプロジェクトの特徴は、食品残さや家畜のふん尿を原料とする「バイオガス」をエネルギー源に変え、副産物である「消化液」を有機肥料として酒米「山田錦」の栽培に活用した点にあります。化学肥料や除草剤の使用を抑えた脱炭素農法によって、地域資源を循環させる持続可能な酒造りを実現しました。さらに、環境に配慮したエコロジーボトルなどを導入した上で販売されております。

「Salmon-Safe」認証取得、その意義

このような背景の延長線上で、2025年8月26日、Super Normal社の支援を受けながら「環」がSalmon-Safe認証を取得しました。米国オレゴン州発祥のSalmon-Safeは、水質保全や生物多様性、水源流域の環境保護を重視する厳格な第三者認証です。

日本では日本酒として初の取得となり、Salmon-Safeが求める「川岸の復元」「水資源の保全」「生態系保護」「有害な投入物の段階的廃止」といった基準をクリアした点が高く評価されました。

日本酒とSDGsの親和性

日本酒は、その成り立ちからしてSDGsと親和性が高い存在です。第一に、原料となる米は地域の農業と直結しており、生産者との協働が不可欠です。環境に配慮した米作りを推進することは、食の安全や地域農業の持続に直結します。第二に、水の質が酒質を左右するため、水環境の保全は日本酒造りの根幹であり、自然資源の保護に必然的に取り組むことになります。さらに、酒蔵は地域文化や伝統を継承する役割を担っており、持続可能な社会の中で地域の誇りを守る文化的側面をも担っています。

「環」が示したように、日本酒は国際的な基準を満たすサステナブルな酒造りを牽引できる存在です。地域資源の循環利用、環境保全、文化の継承を同時に体現できる日本酒は、SDGsの理念を実際の形に落とし込む力を持っています。今回の「Salmon-Safe」認証は、世界市場に向けても日本酒が環境先進的な飲料として発信できる契機となるでしょう。

「環」の誕生は、日本酒が単なる嗜好品を超え、社会課題の解決に貢献できることを強く印象づけました。これからも地域と自然を結び、未来世代に受け継がれる酒造りが広がっていくことが期待されます。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド


「日本酒&温泉ナビゲーター」認定宿の誕生に寄せて

千葉県君津市の亀山湖畔に佇む「亀山温泉ホテル」が、2025年8月、「日本酒&温泉ナビゲーター」認定の宿第一号として登録されました。この認定は、日本酒と温泉の魅力を観光資源として発信できる人材を育成する資格講座を修了したスタッフが在籍する宿に与えられるもので、観光業界における新たな価値創出の一歩として注目されています。

▶ 大自然の静寂と天然自噴温泉を愉しむ湯宿 亀山温泉ホテル

日本酒と温泉が織りなす文化

日本酒と温泉は、どちらも「癒し」と「地域性」を軸にした文化資源です。温泉はその土地の地質や水脈によって泉質が異なり、訪れる人々に身体的な安らぎを提供します。一方、日本酒もまた、米・水・気候・技術といった地域の要素が味わいに反映されるため、土地ごとの個性が際立ちます。温泉地でその土地の日本酒を味わうことは、地域の自然と文化を五感で体験することにほかなりません。

また、温泉で身体を温めた後にいただく日本酒は、心身ともにリラックスした状態で味覚が研ぎ澄まされ、より深い味わいを感じることができます。特に、ぬる燗や常温で提供される日本酒は、温泉上がりの体温と調和しやすく、心地よい余韻をもたらします。亀山温泉ホテルのように、泉質にこだわりを持ち、料理にも定評のある宿では、日本酒とのペアリングが旅の満足度をさらに高めてくれるでしょう。

さらに、日本酒と温泉には「非日常性」という共通点もあります。どちらも日常から離れた空間で楽しむことが多く、旅の特別感を演出する要素として機能します。例えば、地元の酒蔵が造る限定酒を温泉宿で味わう体験は、その土地ならではの贅沢であり、記憶に残る旅の一幕となります。

地域文化を体感する旅の新しいスタイル

これまで、温泉旅館と日本酒は「自然な取り合わせ」として受け止められてきました。夕食時に地酒が並ぶことは珍しくなく、旅の風情として定着しています。しかし、今後はその関係性をより深く掘り下げ、銘柄の背景や味わいの特徴、さらには健康面での効能などにも注目が集まるべきではないでしょうか。たとえば、アミノ酸が豊富な純米酒は疲労回復に役立つとされ、温泉との相乗効果が期待できます。また、発酵由来の香りや味わいが、温泉地の食材とのマリアージュを生み出す可能性もあります。

今回の認定を受けた亀山温泉ホテルでは、6名のスタッフが「日本酒&温泉ナビゲーター」資格を取得し、宿泊者に対して日本酒と温泉の魅力をわかりやすく伝える取り組みを始めています。このような人材がいることで、単なる宿泊体験ではなく、文化的な学びや発見を伴う旅へと昇華する可能性が広がります。

今後、こうした認定宿が全国に広がることで、地域の酒蔵や温泉地との連携が進み、観光の質が高まることが期待されます。日本酒と温泉の融合は、単なる嗜好品と癒しの組み合わせではなく、地域文化を体感する旅の新しいスタイルとして、ますます注目されていくことでしょう。

日本酒を旅する

まだまだ誤解だらけ~海外の日本酒事情

2025年8月23日付で米国のライフスタイル誌「The Manual」に掲載された記事「3 saké myths busted — surprising truths from a saké pro(日本酒に関する3つの誤解を専門家が解説)」では、アメリカの日本酒専門家ポール・イングラート氏(SakeOne社長)が、日本酒にまつわる誤解とその真実を語りました。この記事は、輸出先2位であるアメリカでさえ、いまだに日本酒が正しく理解されていない現状と、逆にそれが大きな可能性につながることを示しています。

誤解その1「日本酒は熱燗で飲むもの」

海外では、多くの人が「日本酒=熱燗」というイメージを持っています。イングラート氏は、吟醸酒や大吟醸のように香り豊かなタイプは冷やして飲むことで繊細な味わいを楽しむことができ、一方で純米酒などはぬる燗で旨みが引き立つことを指摘。つまり、日本酒は温度によって多彩な表情を見せる飲み物であり、固定観念にとらわれない楽しみ方が推奨されることを語っています。

誤解その2「日本酒はライスワイン」

欧米では日本酒を「ライスワイン」と呼ぶことがありますが、イングラート氏はそれを正しくないと指摘します。ワインは単発酵で造られるのに対し、日本酒はデンプンを糖に変えながら並行してアルコール発酵が進む「並行複発酵」という独自の技法によって造られます。世界的に見ても稀なこの製法こそが日本酒の本質であり、ワインやビールと同列に置くことはできません。日本酒は、「日本酒」という唯一無二のカテゴリーだと語るのです。

誤解その3「日本酒は日本でしか造られない」

日本酒は日本固有の酒と考えられがちですが、現代ではアメリカをはじめ各国で本格的に造られています。特に米国では、ワイン造りやクラフトビール文化の影響も受け、技術力の高いクラフト日本酒が生まれています。日本から学んだ伝統的な技法を生かしつつ、地域の特色を加えた酒造りは、世界における日本酒の普及に大きな役割を果たしつつあります。

誤解があるからこその可能性

イングラート氏の解説から見えてくるのは、日本酒がまだ海外で誤解されているという事実です。「熱燗の酒」「ライスワイン」「日本でしか造れない」といったイメージは、日本酒の多様な魅力を伝えきれていません。しかしその反面、正しい知識を広める余地が大きく存在しています。誤解を一つずつ解消することによって、日本酒はさらなる市場拡大の可能性を秘めているのです。

特に、冷やしてワイングラスで味わうスタイルや、和食以外の料理との相性を紹介することで、日本酒はより幅広い層に受け入れられるでしょう。日本酒はまだ「未知の酒」として捉えられている部分が大きいため、その分だけ、成長の余地も大きいのです。

「The Manual」の記事は、海外における日本酒の理解が不十分であることを浮き彫りにしました。ですが、その誤解を正しく伝え直すことによって、日本酒は「日本限定の酒」から「世界に広がる伝統酒」へと飛躍できます。海外市場における教育や啓蒙は、日本酒文化の未来を豊かにし、さらに多様な飲み手へと広げるための重要な取り組みとなるでしょう。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド


女性の感性が照らし出す日本酒スタイル~「十勝 with Cheese Yellow」

日本酒の世界に新しい風を吹き込むイベントとして注目されているのが、2023年から始まった「Japan Women’s SAKE Award」です。今年は9月7日に審査会が開催される予定で、国内外の女性たちが審査員となり、多様な視点から日本酒の魅力を見出す試みが続けられています。近年、日本酒はただ「飲む」だけではなく、食との調和によってさらに豊かに味わう文化へと広がりを見せており、このアワードはその最前線を映す鏡ともいえるでしょう。

「十勝 with Cheese Yellow」が切り拓いた新境地

中でも、昨年「リッチ&ウマミ部門」の金賞受賞酒として少なからぬ話題を呼んだのが、上川大雪酒造が手がける「十勝 with Cheese Yellow」です。この銘柄は、北海道帯広市にある帯広畜産大学のキャンパス内「碧雲蔵」で醸されています。大学と連携し、地域の資源を活かしながら生まれた一本で、コンセプトはその名の通り「チーズとのペアリング」。乳製品王国ともいえる北海道の特徴を、見事に日本酒の世界へ取り込んだユニークな取り組みとして高く評価されました。

日本酒とチーズという組み合わせは、一見意外に思われるかもしれません。しかし、発酵食品同士である両者は相性が良く、旨味や香りが重なり合うことで新しい味覚体験を生み出します。「十勝 with Cheese Yellow」はその点に的を絞り、芳醇な酸味と柔らかな甘みを備えた酒質に仕上げられています。熟成タイプのハードチーズや、ミルキーな風味のチーズと合わせることで、互いの魅力を引き出し合い、まるでワインとチーズのような感覚で日本酒を楽しめるのです。

地域から世界へ広がる可能性

この試みは、単なる味の追求にとどまりません。地域資源の活用や、異なる食文化との橋渡しという側面も大きな意味を持っています。北海道十勝地方は酪農王国として知られ、豊富なチーズ文化が根付いています。そこに日本酒を掛け合わせることで、地元の食と酒が一体となった「新しい北海道らしさ」を打ち出すことができるのです。さらに、国内外でワイン文化が広く浸透している中、「日本酒もチーズと楽しめる」という新鮮な発見は、海外市場へのアプローチにも大きな可能性を開きます。

 「Japan Women’s SAKE Award」は、女性ならではの視点を重視することで知られています。甘味や酸味、香りの広がりといった細やかな感性から、日本酒の新しい価値が掘り起こされてきました。「十勝 with Cheese Yellow」が昨年の金賞を獲得したのも、まさにその発想力と挑戦が評価された結果といえるでしょう。従来の「和食と日本酒」という枠組みを越え、チーズという洋の食材と向き合う姿は、日本酒の未来を象徴する取り組みとして鮮やかに映ります。

9月7日の審査会が近づくにつれ、今年はどのような銘柄が光を浴びるのか、多くの注目が集まっています。その中で「十勝 with Cheese Yellow」が示した道筋は、今後も大きなヒントとなるはずです。日本酒が食とのペアリングを通じて、日本酒の可能性を押し広げ、世界中の食卓を潤す未来。その一歩を、北海道の碧雲蔵から生まれた一本が、力強く示してくれているのです。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

日本酒がキャンプシーンを変える|注目の商品群と今後の可能性

近年、日本酒の楽しみ方に新しい潮流が生まれています。それは「屋外に持ち出す日本酒」という試みです。これまで日本酒といえば、自宅や居酒屋、料亭などでゆっくりと味わうのが一般的でした。しかし近年、アウトドア文化の広がりとともに、日本酒をキャンプや登山など屋外のシーンに持ち出して楽しもうという動きが注目されています。

その火付け役となったのが、2017年に朝日酒造とアウトドアブランド・スノーピークがコラボレーションして発売した「久保田 雪峰」です。瓶のデザインはシックでアウトドアの景観に溶け込み、キャンプサイトで焚き火を囲みながら飲むシーンを想定して作られました。この取り組みは「山に入って家飲みと同じ瓶を傾ける」という新しいライフスタイルを提示し、多くの日本酒ファンに衝撃を与えました。

新しい挑戦とパッケージの革新

この動きは全国へと広がり、今年も新たな展開が話題を呼んでいます。先日も、酔鯨酒造株式会社(高知県高知市)が、北海道の地酒専門店「髙野酒店」、そしてアウトドアブランド「NANGA」と手を組み、日本酒をベースにしたアウトドア専用リキュールを発売しました。これもまた「自然の中で味わう日本酒」の新しい表現であり、雪峰以来の流れを受け継ぐ挑戦だといえるでしょう。

一方で、パッケージデザインに新たな意匠を凝らした商品も登場しています。代表的な例が、アウトドア用日本酒「GO POCKET」です。小型で軽量なパウチタイプの容器に詰められており、キャンプや登山に持ち運びやすい形態が特徴です。また、今春話題になった「NARUTOTAI CAMPING SAMURAIセット」も、従来の瓶や缶にない工夫を取り入れ、キャンプ飯との相性を重視した日本酒体験を提案しています。

雪峰や今回の酔鯨の取り組みのように、瓶のまま屋外へ持ち出すスタイルがある一方、GO POCKETやNARUTOTAIのように、利便性や環境対応を考慮したパッケージ革新も進んでいます。これは日本酒が「家で飲むもの」という従来の枠を超え、ライフスタイルの一部として変化してきていることを示しています。

広がる可能性とこれからの課題

屋外で日本酒を楽しむスタイルは、今後さらにクローズアップされていくべきでしょう。ブームを呼び込み、新たなジャンルを創出するためには、キャンプで食べる肉料理や燻製、あるいは山菜や川魚など、自然の恵みと合わせて楽しめる酒質の開発が大きなテーマとなります。また、デザイン面でもアウトドアの雰囲気に調和し、さらに持ち運びやすく環境にも優しい容器の開発が期待されます。例えば、飲み終えた後にゴミとして持ち帰るだけでなく、ゴミなどを入れる密閉容器や軽量容器として再利用できるパッケージが普及すれば、日本酒はアウトドア文化により強く根付くことでしょう。

日本酒が外の世界に踏み出すことは、単なる飲み方の変化にとどまりません。それは自然との関わり方を深め、伝統的な酒文化を現代的なライフスタイルと結びつける新たな試みです。今後も「外で飲む日本酒」の可能性は広がり、キャンプや登山の楽しみを豊かにする存在になっていくに違いありません。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

「全国燗酒コンテスト2025」、受賞酒の栄冠は誰の手に?

「全国燗酒コンテスト2025」の審査結果がこのほど発表されました。全国から選りすぐりの日本酒が集まり、専門家による厳正な審査を経て、各部門の最高金賞および金賞が決定しました。燗酒にすることで、その真価が問われるこのコンテストは、日本酒ファンだけでなく、燗酒の奥深さを知りたいと願う多くの人々から注目を集めています。

今年のコンテストも、多岐にわたる部門で多数の出品があり、燗酒の多様性が改めて浮き彫りになりました。「お値打ちぬる燗部門」や「お値打ち熱燗部門」で、千円台という手頃な価格帯でありながら、燗にすることで驚くほどの香味の広がりを見せる日本酒が多数あることは世界に誇るべきことですし、「プレミアムぬる燗部門」「プレミアム熱燗部門」「特殊ぬる燗部門」に見られる日本酒の持つ存在感は、新たな飲酒文化の広がりを期待させるものでありました。

そうした中、二年連続で最高金賞を受賞した銘柄が2つありました。「栄冠 白真弓」(有限会社蒲酒造場)と「甲子 純米吟醸 はなやか 匠の香」(株式会社飯沼本家)です。中でも、純米吟醸酒として「プレミアムぬる燗部門」で最高金賞を受賞した「甲子純米吟醸はなやか匠の香」は大注目です。

甲子 純米吟醸 はなやか 匠の香

「純米吟醸」という特定名称酒は、一般的に冷やして飲むことで、その華やかな香りと軽やかな口当たりを楽しむのが王道とされてきました。しかし、この「甲子純米吟醸はなやか匠の香」は、あえて「ぬる燗」という温度帯で飲むことで、その真価を発揮します。審査員は、華やかで品のある香りが、ぬる燗にすることでさらに柔らかく開き、米の旨みが穏やかに、そして豊かに感じられる点を高く評価したと考えられます。

二年連続で最高金賞を受賞したことの意味は、単なる偶然ではありません。これは、飯沼本家が目指す酒造りの哲学が、一貫して「燗酒」という視点からも高いレベルで実現されていることを示しています。毎年異なる米の出来や気候条件がある中で、安定して最高の酒を造り続けることは、蔵元の技術力、そして日本酒に対する深い理解がなければ成し得ません。

「甲子純米吟醸はなやか匠の香」が二年連続で最高金賞に輝いたことは、消費者にとっても大きな指針となります。一般的に「冷やして美味しいお酒」と認識されている純米吟醸酒であっても、燗にすることで、まるで別のお酒のような魅力を引き出すことができるという、日本酒の楽しみ方の多様性を示してくれたのです。

今回のコンテスト結果は、単なる順位発表に留まらず、日本酒の持つ無限の可能性を私たちに示してくれました。特に「甲子純米吟醸はなやか匠の香」の快挙は、燗酒の奥深さと、蔵元の弛まぬ努力が結実した好例と言えるでしょう。受賞された全ての蔵元に、心より拍手を送りたいと思います。

▶ 甲子 純米吟醸 はなやか 匠の香|全国燗酒コンテスト最高金賞に輝く燗上がりする純米吟醸酒

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

古い酒造りが現代の食卓に帰ってきた〜注目される「菩提もと」

近年、日本酒業界では多様な造りが見直されています。その中で、「菩提もと」が改めてクローズアップされています。「菩提もと」とは、室町時代に奈良県の菩提山正暦寺で確立された、現存する最古の酒母の製法で、今、その古来の製法を用いて酒造りをする酒造が増えてきているのです。
雑誌『dancyu』をはじめとするグルメ媒体でも特集が組まれ、イベントや試飲会では「飲み比べてその酸味の違いを楽しむ」企画が人気です。注目される理由は大きく3つあります。

  1. 歴史とストーリー性
    室町時代、奈良の正暦寺で確立された技法が千年を経て復活したという背景は、酒好きだけでなく歴史好きや観光客にも強い訴求力があります。
  2. 自然な酸味と個性
    菩提もとは、自然界の乳酸菌による酸づくりが特徴です。やわらかい酸味と複雑な香味があり、魚介や発酵食品との相性が抜群です。ナチュラルワイン人気とも相まって支持を広げています。
  3. 地域振興とグローバル化
    奈良発の復活から始まり、全国各地の酒蔵、さらには海外のクラフトサケブルワリーも挑戦。地域ブランドの強化と国際的な発信力を兼ね備えています。

こうした背景のもと、菩提もとは単なる「古式醸造の復元」を超え、現代的な食文化の潮流の中で新たな地位を築きつつあります。

【現代菩提もと復活年表(奈良)】

年代出来事・人物蔵元 / 銘柄ポイント
1996年奈良県工業技術センター、正暦寺、奈良県酒造組合が古文書を調査し再現プロジェクト始動(菩提酛研究会)奈良県15蔵:油長酒造、倉本酒造、今西酒造など正暦寺の古式醸造「菩提酛」の製法を復元開始
1998年12月11日酒母製造免許が下り、寺院醸造を行う菩提山正暦寺500年ぶりに菩提酛復活
1999年寺と共に造り上げた『菩提酛』を会員蔵が持ち帰り、試験醸造を開始「鷹長 菩提酛 純米酒」「三諸杉 菩提もと純米」など初仕込みを行う
2021年奈良県が保有する特許が失効会員蔵が自蔵で菩提もと仕込みを開始
2021年醸造技術を正暦寺に技術移転菩提泉日本初の民間の醸造技術書にある正暦寺の酒が復活

次々と復活する菩提もと

実は、上記の奈良に先駆けて、岡山の辻本店が菩提もとの「御前酒」を商品化しています。しかし近年までは、知る人ぞ知るという存在で、風変わりな日本酒として、マニアに受け入れられているに過ぎませんでした。

今回の技術確立は、全国の酒造の目が、菩提もとへと向く切っ掛けとなりました。これに伴い、多くの酒造が菩提もとづくりに参入し、独自の解釈や工夫を加えた酒を次々と世に送り出しています。伝統の継承と革新を両立させる動きが活発になり、業界内では多様な情報や技術が飛び交いながら、菩提もとの魅力を広めようとする流れが強まっています。

現代の日本酒市場では、消費者の嗜好や飲み方の多様化が進み、ナチュラルで酸味のある酒への関心も高まっています。こうした中で菩提もとは、単なる伝統酒の枠を超え、日本酒醸造技術に柔軟性を付与し、日本酒の可能性を押し広げたと言えるでしょう。

これからの日本酒は、より幅広い消費者のニーズに応えられるだけでなく、地域や造り手ごとの個性を活かしながら進化していくことでしょう。菩提もとの復活は、日本酒の未来を切り拓く重要な一歩となり、多様性あふれる新しい日本酒文化の創造へとつながっていくに違いありません。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

ロサンゼルスを魅了した「磯自慢 雄町 特別純米53」— 世界が認めた日本酒の新たな価値

去る8月16日、アメリカ・ロサンゼルスで開催された「SAKE COMPETITION in LA」が盛況のうちに幕を閉じました。会場では、日本酒の品質を競う審査会「SAKE COMPETITION 2025」の受賞酒が振る舞われ、多くの来場者がその多様な味わいに舌鼓を打ちました。

中でも純米酒部門で栄えある第1位に輝いた「磯自慢 雄町 特別純米53」は、注目を集めたようです。この日本酒は、静岡県焼津市にある磯自慢酒造が手がける逸品であり、その革新的な酒造りが世界的な評価を得たことは、日本の伝統文化が海外で新たな形で受け入れられている証と言えるでしょう。

吟醸酒の枠を超えた「特別純米」の哲学

「磯自慢 雄町 特別純米53」は、そのスペックにおいて特異な存在です。精米歩合は大吟醸に迫る吟醸酒並みの53%という高精米でありながら、蔵元はあえて「特別純米」と名付けています。これは、磯自慢酒造が目指す酒造りの哲学を体現しているからです。

多くの海外の日本酒愛好家は、華やかなフルーティーな香りを特徴とする吟醸酒に驚きと感動を覚えます。しかし、磯自慢がこの酒で追求したのは、香りよりも「米の旨味」でした。使用する酒米は、最高品質として知られる岡山県赤磐産の「赤磐雄町」。この希少な米が持つ本来の旨味や奥深さを最大限に引き出すため、低温でじっくりと発酵させる、まさに吟醸造りの技術を応用しています。しかし、過度に華美な香りではなく、あくまで米本来の風味が主役となるよう、絶妙なバランスを保っているのです。このこだわりが、「特別純米」という名称に込められた、蔵元の強いメッセージなのです。

ロサンゼルスでの受容:なぜ「磯自慢」は受け入れられたのか

「SAKE COMPETITION in LA」の会場で、「磯自慢 雄町 特別純米53」を試飲した来場者たちは、どのような反応を示したのでしょうか。多くの参加者からは、香りや味わいに対する驚きの声が聞かれたようです。

この酒が海外で受け入れられた背景には、近年の食文化の変化が大きく関係しています。海外、特にアメリカでは、ローカルな食材や伝統的な製法に回帰する「クラフト」ブームが定着しています。ワインにおいても、ブドウ本来の風味を活かした「ナチュラルワイン」が人気を博しています。このような潮流の中で、「磯自慢 雄町 特別純米53」が持つ、米の個性を最大限に引き出した「ベーシック」な味わいは、まさに時代に合った価値観として評価されたと言えるでしょう。

華やかな吟醸香も確かに魅力的ですが、この酒が示すのは、日本酒の持つ「懐の深さ」です。食中酒としての日本酒の可能性を広げ、さまざまな料理と合わせることで、その真価を発揮するのです。ロサンゼルスのフードシーンに敏感な人々にとって、「磯自慢」が持つ奥深い旨味は、寿司や和食だけでなく、現地の多様な食文化にも寄り添う「新たな食のパートナー」として受け入れられたのです。

日本酒の未来を担う新たな基準

「SAKE COMPETITION 2025」での純米酒部門1位獲得、そして「SAKE COMPETITION in LA」での喝采は、「磯自慢 雄町 特別純米53」が、単なる技術的な革新にとどまらない、日本酒の新たな価値基準を提示したことを意味します。

華やかな吟醸香を競う時代から、米が持つ本来のポテンシャルを最大限に引き出し、食との調和を追求する時代へと、日本酒の潮流は変化しています。磯自慢酒造が示した「特別純米」という道は、日本酒が国際的な舞台で、さらに深く、そして広く愛されるための羅針盤となるでしょう。

今後、世界中の日本酒ファンは、香りだけではない「米の旨味」という、日本酒が持つ真の魅力に気づき、より一層奥深い世界へと足を踏み入れていくことになりそうです。

▶ 磯自慢|品質第一主義が生んだ酒造の目標とされる「磯さま」

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド

【日本酒の未来は米にある】「令和の米騒動」が加速させていく酒蔵の変革

8月18日は「米の日」。日本人の食生活に欠かせない米ですが、近年、日本酒の世界でも米をめぐる大きな変化が起きています。海外での日本酒人気が高まる中、酒蔵は単に酒米を調達するだけでなく、米作りそのものに深く関わり、さらには品種開発まで手掛ける動きが加速しているのです。今回は、昨今の米騒動を振り返りつつ、日本酒の未来を担う米作りの新たな潮流についてご紹介します。

令和の米騒動が炙り出した酒米の課題

昨年から続く「令和の米騒動」は、日本酒造りの根幹を支える酒米の脆弱な供給体制を明らかにしました。発端は、国内で深刻化した食用米不足です。食卓を守るため、酒米から食用米への転作が進み、酒米の作付け面積が縮小しました。そこへ天候不順や高温障害、世界的な日本酒需要の高まりが重なり、酒米の収量減と価格高騰が加速。人気品種の山田錦や雄町は特に入手困難となり、一部の蔵では仕込み量の削減や酒質設計の変更を迫られています。
今回の騒動は、酒米生産が特定品種や特定地域に依存していること、そして食用米との需給バランスが崩れたなら、供給が一気に不安定になるという構造的な課題を浮き彫りにしました。

日本酒と「テロワール」~米作りから取り組む蔵の増加

この「米騒動」を機に、酒造りのあり方を見直す動きは加速しています。その中で、テロワールの重要性が再認識されているようです。
世界中のワイン愛好家たちは、その土地の土壌が、ワインの味に与える影響を重んじる「テロワール」という考え方を持っています。日本酒もまた、その土地の米、水、そして造り手の技術が一体となって生まれるものです。海外の日本酒ファンは、日本酒をワインと同じように、その土地ならではの個性や物語を持つものとして捉え始めているのです。

近年、このテロワールの思想が、日本の酒造りにも移入されるようになりました。単に酒米を市場や農家から買い付けるだけでなく、米作りを本格的に手掛けるようになった酒造も増加しているのです。
これにより、酒蔵は安定した酒米の確保だけでなく、その土地ならではの個性を持った「唯一無二の日本酒」を生み出すことができるようになります。米作りから酒造りまで一貫して手掛けることで、より深いテロワールを表現した日本酒が生まれるというわけです。

既存の酒米を超えて~品種開発に挑戦する酒蔵

さらに一部の酒造は、既存の酒米栽培にとどまらず、自社で酒米の品種開発を行うという、より踏み込んだ挑戦を始めてもいます。
これは、理想とする日本酒の味わいを実現するために、既存の酒米では満足できないという強い思いから生まれるものです。

青森県の八戸酒造では、創業250周年を記念して、自社で開発した酒米を用いて、「陸奥八仙 創業250周年記念ボトル」を発売しました。この酒米は、山田錦を超える酒米を目指して12年もの歳月をかけて開発したといいます。
このような品種開発は、多大な労力を要する挑戦です。しかし、その土地の風土に合った、唯一無二の酒米を生み出すことで、酒造は単なる製造業者から、その土地の風土を育む「地域の担い手」へと進化します。

おわりに

今秋、酒造業界は大きな試練を迎えることになります。酒米の安定供給と品質確保は、酒造にとって喫緊の課題です。この状況にどう対応するかで、今後、日本酒を取り巻く環境は大きく変わっていくことになるでしょう。

今日のこの「米の日」、米問題を逆手にとって業界が発展していくことを、日本酒を傾けながら祈らずにはおれません。明日の日本酒が、米作りを中心とする日本の農業を活性化するものとなりますように!

▶ 陸奥八仙 250周年記念ボトル|オリジナル米を使ったはじめての味わい

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド