発酵が生む循環の物語――白鶴酒造「HAKUTSURU SAKE CRAFT No.15」が示す日本酒の未来

白鶴酒造株式会社は、1月17日(土)より、醸造所から発生する発酵由来のCO₂を活用した新商品「HAKUTSURU SAKE CRAFT No.15 ホップ&バジル」を263本限定で発売します。本商品は、従来の純米大吟醸造りにホップやバジルを加えた『その他の醸造酒』規格のSAKEであり、日本酒の枠を超えた新たな創造性を提示しています。

発酵由来CO₂を資源に変える酒蔵の挑戦

この新商品が特徴的なのは、単なる風味の変化だけに留まらず、「循環型ものづくり」という環境配慮の視点が取り入れられている点です。白鶴酒造のマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」で発酵中に発生するCO₂をただ排出するのではなく、それを捕集・濃縮して室内農業装置に送り込み、バジルを栽培する仕組みを実証しました。こうして育てられたバジルを原料の一部として酒造りに活用することで、発酵→栽培→醸造という循環するプロセスの構築を実現しています。

この取り組みには、単なる環境対応以上の深い意味があります。まず、発酵由来のCO₂を有効利用することは、排出を抑制するだけでなく、原料生産にもつなげるという新しいアイデアです。通常、日本酒の発酵過程で発生するCO₂は単に大気中に放出されてしまいますが、その副産物を価値あるものに転換する発想は、製造業全般が抱える環境負荷低減の課題への一つの応答でもあります。こうした発想は「廃棄物の価値化」とも呼べるもので、持続可能な産業プロセスへの転換を象徴しています。

また、酒蔵という伝統的な現場において、室内農業装置を組み合わせることで、農業技術と発酵技術の融合を図っている点も見逃せません。バジルは高付加価値のハーブであると同時に、香りや味わいのアクセントとしてもユニークな役割を果たします。このハーブを自ら育て、原料として使うという実験は、酒造りを単なる醸造行為から、より広い食文化・農業技術との対話を可能にする創造活動へと拡大しています。この点は、伝統産業が現代的な課題と向き合う際の新しい道筋を示唆していると言えます。

クラフトSAKE~伝統とサステナビリティの融合

さらに、この限定酒の開発は、SAKEの多様性の拡大という広い文脈にも位置付けられます。近年、従来の日本酒概念にとらわれない「クラフトサケ」と呼ばれるジャンルが注目されつつあります。これは、伝統的な清酒造りの技術を基盤としながら、フルーツやハーブ、スパイスなど多様な素材を用いることで、新しい風味や体験を生み出すものです。こうした潮流は、若年層や海外市場での嗜好に応える試みとしても評価されており、白鶴酒造が取り組むクラフトSAKEシリーズはその先駆的存在となっています。

白鶴酒造にとって「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、単なる限定商品のブランド名ではありません。それは、醸造技術と感性、環境配慮と消費者体験を結びつける実験的な場であり、学びの場でもあります。伝統産業が抱える硬直化したイメージを打ち破り、柔軟な発想と技術融合によって新たな価値を生み出す過程は、日本酒産業のみならず、地方産業全体へのヒントにもなります。

また、この取り組みは単独企業の努力にとどまるものではありません。発酵由来CO₂利用の実証プロジェクトは、県内企業やスタートアップ企業との協業で進められており、産学官連携の可能性をも示しています。こうした異分野との連携がもたらす創発的な成果は、地域社会の持続可能性を高めるうえでも重要です。


最後に、本商品の提供が限定的であることは、消費者にとって「一期一会」の体験価値として働きます。限定発売263本という希少性は、単にマーケティングの手法ではなく、一つひとつの製品に込められた手間と想いを伝える象徴とも言えるでしょう。伝統を未来へつなぐための革新は、こうした小さな実験の積み重ねから生まれるのだと感じます。

白鶴酒造が提示した「循環型ものづくり」は、伝統産業におけるサステナビリティの新たな方向性を示すと同時に、発酵というプロセスが持つ可能性を広げる挑戦でもあります。この試みが日本酒業界全体にどのような波及効果をもたらすのか、今後の展開が非常に楽しみです。

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世界における「日本酒の現在地」~VinePair日本酒特集から読み解く世界での評価

米国の酒類専門メディア「VinePair」はこのほど、日本酒入門者に向けた記事「8 Producers You Should Know to Get Into Sake(日本酒を始める前に知っておくべき8つの酒造)」を公開しました。ワインやクラフトビール、スピリッツを主戦場としてきた同メディアが、日本酒を正面から取り上げた点は、世界の酒類市場における日本酒の立ち位置を考えるうえで象徴的な出来事と言えます。

この記事の特徴は、香味成分や製法理論を詳述するのではなく、「どの酒蔵を知れば、日本酒の世界に入りやすいか」という視点で構成されている点です。取り上げられている酒蔵は、海外での流通実績やブランド認知を持ち、かつ味わいの個性が比較的わかりやすい蔵が中心となっています。これは、日本酒がいまだ『専門的で難しい酒』と見られがちな海外市場において、入口の整理が重要であることを示しています。

VinePairはワインや蒸留酒の記事で知られ、「飲むことは文化である」という編集方針を掲げています。その同じ文脈で日本酒が語られていることは、日本酒がエキゾチックな特殊酒ではなく、世界の酒文化の一ジャンルとして認識され始めている証とも言えるでしょう。実際、記事では寿司や和食との相性だけでなく、日常的な飲酒シーンでの楽しみ方にも言及されており、日本酒を「特別な場の酒」から「選択肢の一つ」へと位置付けの見直しが行われています。

一方で、記事の構成からは、日本酒がワインほど体系化された理解をまだ得ていない現状も見えてきます。ワインであれば産地、品種、スタイルで語られるところを、日本酒の場合は酒蔵名が強い軸になっています。これはテロワールや使用米のストーリーが、海外ではまだ十分に共有されていないことを意味します。その分、酒蔵の哲学やクラフト性が、日本酒理解の近道として機能している段階にあると言えます。

世界の酒類市場全体で見ると、日本酒のシェアは依然として小さい存在です。しかし、VinePairのように月間数百万規模の読者を持つメディアが、日本酒を「これから知るべき酒」として扱うこと自体、確実な地殻変動が起きていることを示しています。これは輸出量の増加以上に、「語られ方」が変わってきている点が重要です。

今回の記事は、日本酒がワインやクラフトビールと同じ土俵で比較・選択される段階に入りつつあることを静かに示しています。日本酒はすでに世界で評価される酒でありながら、その魅力の全体像はまだ伝え切れていません。だからこそ、海外メディアによる入門的な整理が意味を持ち、日本酒は今、「発見され続ける酒」として世界の中で位置づけられているのです。

▶ 8 Producers You Should Know to Get Into Sake(日本酒を始める前に知っておくべき8つの酒造)

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津南醸造がメタバース上のバーチャル酒蔵「月面酒蔵 〜Lunar Brewery〜」を公式ローンチ

新潟県中魚沼郡津南町に本社を置く津南醸造は、2025年12月31日、メタバース空間に酒蔵の仮想空間「月面酒蔵 〜Lunar Brewery〜」を本格的にローンチしました。これは単なるデジタル展示ではなく、世界中の人々がアクセス可能な仮想体験プラットフォームとして設計されたものです。

「月面酒蔵」は、2040年に月面で酒蔵をつくるという壮大なビジョンに基づくプロジェクトの一環であり、宇宙時代における発酵文化の可能性にも着目した長期的な文化発信の場となっています。アクセスしたユーザーは、未来の酒造りのシーンを探索できるほか、月面での醸造に関連する情報や建築デザインについて学ぶことができる設計になっています。

この空間は、単なるバーチャル展示に留まらず、世界中の参加者が集うグローバルカンファレンス、蔵見学、ディストリビューションに関するミーティングなどのイベントも開催予定とされており、時空を越えた交流の場として運用されていく予定です。構築には株式会社Urthの「metatell」プラットフォームが利用されています。

代表取締役である鈴木健吾氏は、「日本酒は味だけでなく、土地・水・米・微生物、そして人々の営みによって生まれる文化である」と述べ、仮想空間を通したストーリーの発信は、国境や物理的距離を越えて日本酒文化を広める新しい方法になるとの意義を強調しています。

バーチャル蔵の意義と背景

今回のメタバース酒蔵ローンチの背景には、インバウンド観光と清酒輸出の好調があり、海外市場での体験価値が競争力の重要な要素となっているという業界の現状があります。津南醸造は、従来から雪国・津南のテロワールや魚沼産米などの地域資源を活かしつつ、生成AIを活用したスマート醸造などの先端技術導入にも積極的でした。この新たな取り組みは、そうした伝統と技術が融合した流れの延長線上にあります。

このような先進的な取り組みは、日本酒業界全体のプレゼンス拡大に寄与する可能性があります。世界最大級のバーチャル空間であるメタバースを活用することで、海外の消費者やファンに日本酒文化を直感的に体験してもらう機会が生まれます。物理的な訪問が難しい人でも、酒蔵の内部を探検したり、イベントに参加したりすることが可能になる点は、従来のプロモーション手法にはない利点です。

また、英語対応や多言語サポートを含めた酒蔵プロモーションAIエージェントの導入にも取り組んでいることから、海外市場での日本酒ブランドの認知向上やファン形成に大きな影響を与えることが期待されます。こうした仮想プラットフォームは、日本酒の「物語性」や「文化体験」をより深く伝えるツールとして機能し、輸出拡大やブランド価値向上に寄与する可能性があります。

さらに、メタバース空間は他産業と連携したコラボレーションや、現地のイベントと連動したプロモーション、デジタルツインとして現実世界の酒蔵と統合した体験設計なども可能です。これにより、観光業とのシナジーや新しいファン層の開拓が期待できるだけでなく、日本酒文化の価値を世界的に再定義する動きに繋がっていくと考えられます。

今後の展望

津南醸造の「月面酒蔵 〜Lunar Brewery〜」は、日本酒業界の未来を象徴する試みとして注目を集めています。伝統と革新が出会うこのプロジェクトは、オンライン・オフライン双方の酒蔵体験を拡張し、世界中の人々に日本酒文化の魅力を届ける新たな可能性を示しています。今後、どのようなコミュニティやイベントが生まれ、日本酒文化の地球規模での広がりに寄与していくのか、多くの関係者が注目しているところです。

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【トレンド】伝統をアップデートする「ネオお屠蘇」とは?

2026年1月6日、東京・西新橋の「日本の酒情報館」にて、古くから伝わる「お屠蘇」の概念を現代的に解釈した『ネオお屠蘇』の提供が今年も始まりました。健康志向や多様化する日本酒の楽しみ方を背景に、若い世代や海外観光客からも熱い視線が注がれています。

そもそも「お屠蘇」とは何か

お屠蘇は、一年の無病息災を願って正月に飲まれる薬酒です。唐の時代の中国から伝わったとされ、日本では平安時代の貴族の行事として定着しました。山椒、肉桂、陳皮といった数種類の生薬を調合した「屠蘇散」を、日本酒やみりんに一晩浸して作ります。

しかし、近年ではライフスタイルの変化により、家庭で本格的なお屠蘇を用意する機会が減少していました。「生薬の独特な風味が苦手」「アルコール度数が高すぎる」といった声もあり、伝統行事としての存続が課題となっていました。

「ネオお屠蘇」の正体

今回注目を集めている「ネオお屠蘇」は、単なる伝統の再現ではなく、現代の嗜好に合わせた「自由なペアリングとアレンジ」を特徴として、2010年代後半から「アレンジお屠蘇」のような形で広がり、2023年に「ネオお屠蘇」として、「日本の酒情報館」から登場しました。主に以下の3つのスタイルが提案されています。

  • 【ボタニカル・サケとの融合 】これまでの屠蘇散を浸す方法ではなく、製造工程でハーブやスパイスを直接投入した「クラフトサケ」をベースに使用します。従来の薬臭さを抑え、ジンのような華やかな香りと、日本酒本来の旨味を両立させた「新しい味わい」が特徴です。
  • 【低アルコール&スパークリング仕立て】「朝からお酒を飲むのは抵抗がある」という層に向けて、5~7%程度の低アルコール日本酒や、微発泡のスパークリング日本酒をベースにしたレシピが登場しています。これにより、お屠蘇のイメージが「重々しい儀式」から「新年の爽やかな乾杯」へと進化しました。
  • 【追いスパイスによるパーソナライズ】 飲む直前にカルダモンやクローブ、あるいは柚子のピール(皮)を添えるなど、自分好みの香りにカスタマイズするスタイルです。これは近年のクラフトコーラやスパイスカレーの流行とも呼応しており、20代から30代の層に「自分だけの一杯」として受け入れられています。

今後の展望

この「ネオお屠蘇」の動きは、単なる一過性の流行に留まらず、日本酒の「シーズン(季節性)」を強調するプロモーションとして期待されています。かつての「お屠蘇」が家族の健康を願うものであったように、現代の「ネオお屠蘇」もまた、自分の体調や好みに向き合う「セルフケア」の一環として定着していくかもしれません。

館長によれば、「伝統は形を変えながら受け継がれるもの。ネオお屠蘇をきっかけに、日本酒の持つ文化的な深みと、多様な楽しみ方を知ってほしい」とのことです。

伝統と革新が交差する2026年。新しい年の幕開けに、自分に合った「ネオお屠蘇」で、一年の健康を願ってみるのもいいかもしれません。

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清酒「憲法と人権」から考える~社会性を帯びた日本酒ネーミングの可能性

販売開始から20周年を迎えた佐々木酒造の清酒「憲法と人権」が話題になっているようです。弁護士団体と酒蔵が協力し、「日本国憲法と人権について考えるきっかけをつくる」という明確な意図を持って世に送り出されたこれは、日本酒としてはきわめて異色の名前を持つ一本です。

日本酒の銘柄名といえば、自然や風土、縁起の良さ、美意識を表す言葉が一般的であり、「憲法」「人権」という社会的・制度的な言葉が正面から掲げられる例はほとんどありません。その意味で本商品は、日本酒の役割そのものを問い直す存在だと言えるでしょう。

日本酒の名前が果たしてきた役割

日本酒の銘柄は長らく、土地の名前や山川、神仏、季節感、理想の酒質などを象徴するものとして機能してきました。そこには「飲む前から安心感や期待を抱かせる」役割があり、同時に地域文化を静かに伝えるメディアとしての側面もありました。一方で、強い主張や社会的メッセージを前面に出すことは、あえて避けられてきたとも言えます。日本酒は祝いの席や日常の食卓に寄り添う存在であり、対立や議論を想起させる言葉とは距離を取ってきたのです。

「憲法と人権」が示した新しい地平

その常識に風穴を開けたのが、「憲法と人権」です。この酒は、味わいそのもの以上に「名前を見て立ち止まらせる力」を持っています。なぜ日本酒にこの名前が付けられているのか、誰がどんな思いで造ったのか。飲み手は自然と背景に関心を向け、会話が生まれます。ここで重要なのは、酒が主張を押し付けるのではなく、「考える入口」として機能している点です。日本酒が対話を生む媒体となる可能性を、この一本は示しています。

社会性を帯びた名前の日本酒は、販売数量や市場規模だけを見れば主流にはなりにくいでしょう。しかし、話題性や記号性という観点では大きな価値を持ちます。特に現代は、SNSやオンラインメディアを通じて「なぜその名前なのか」が瞬時に共有される時代です。強いコンセプトを持つ名前は、広告費をかけずとも物語として拡散され、結果的に日本酒そのものへの関心を高める装置となります。

海外では、ワインやクラフトビールが社会的テーマや政治的メッセージをラベルに込める例も少なくありません。それに比べ、日本酒は「語らない美徳」を重んじてきました。しかし消費者の価値観が多様化する中で、日本酒もまた「語る文化」としての側面を持ち得るのではないでしょうか。人権、環境、地域の課題、記憶の継承など、テーマは慎重さを要する一方で、真摯に向き合えば日本酒の文化的厚みを増す要素になります。

重要なのは、これらが大量生産・大量消費を前提としない点です。社会性を持つ名前の日本酒は、限定酒や企画酒として位置付けられることで、蔵の哲学や姿勢を明確に伝える役割を果たします。「すべての酒が語る必要はないが、語る酒があってもいい」。清酒「憲法と人権」は、その可能性を現実の形として示した存在です。


日本酒は単なる嗜好品ではなく、日本社会や文化を映す鏡でもあります。社会性を持った名前の日本酒は、飲む人に問いかけ、対話を生み、記憶に残る体験を提供します。「憲法と人権」は例外的な存在かもしれませんが、その例外があるからこそ、日本酒の表現領域は広がっていくのです。今後、このような試みが点としてではなく線となり、日本酒文化の新たな側面を形づくっていくのか、静かに注目していきたいところです。

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能登半島地震から2年――地元日本酒蔵がつないだ灯と復興への歩み

2024年元日未明に発生した能登半島地震は、最大震度7クラスの強い揺れで地域を襲い、酒造業をはじめとした地域経済に大きな爪痕を残しました。発生から2年を迎えた現在、地元の日本酒蔵は壊滅的な被害から立ち上がるべく、さまざまな形で復興の歩みを進めています。

地震発災直後、能登地方の多くの酒蔵は蔵の倒壊や設備損壊によって醸造設備が使えなくなる深刻な被害を受けました。被災した蔵は、震災当時10を超えたとされ、その多くが建物や原料の保管庫に甚大な損害を被りました。中には倉庫に眠っていた貴重な酒米を崩壊した建物の下から手作業で救出し、それを活用して再出発を図った蔵元もありました。

復興のキーワードとなったのが、地域内外の蔵元との共同醸造プロジェクトです。被災した蔵元が独自に設備を再建するまでの間、他地域の蔵に醸造を委託し、能登の味わいを途切れさせない取り組みが進められました。こうしたプロジェクトは「能登の酒を止めるな!」として全国の賛同を集め、クラウドファンディングを通じた資金調達にも成功しています。

また、被災蔵同士が連携して製品をセット販売したり、復興支援イベントに出展するなど、「飲んで応援」という形での地域外へのアピールも活発です。2025年2月には、石川県・富山県の蔵元が集結し、東京・日本橋兜町で「能登の地酒市」と銘打った応援イベントが開催され、復興の歩みを世に伝える機会となりました。

こうした取り組みとともに、能登の酒蔵を支える動きは官民を問わず広がっています。例えば、県酒造組合連合会や地元自治体が行う支援策や、災害後に加盟組合が開発した商品を通じての地域経済活性化など、被災酒蔵に対する支援インフラも整備されてきました。

一方で、復興の道のりは必ずしも平坦ではありません。震災による人口流出や労働力不足、原料となる酒米の価格高騰といった構造的な課題が根強く残っています。地元の蔵元の多くは、醸造から販売に至るまで人手を要するため、地域人口の減少は深刻な問題です。また、設備や建築資材の価格上昇により、蔵の再建費用も当初の想定を超える状況が続いています。

そのような中でも、櫻田酒造のように、震災直後に蔵を失いながらも被害の少なかった他地域に仮拠点を構え、地域の協力を得て酒造りを継続する酒造もあります。そして、伝統の継承と地元での復活を期し、今日もその準備を進めているのです。

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正月の「ふるまい酒」外国人はどう受け止めているのか――鏡開きに込められた日本文化の体験価値

年始の神社や地域行事、観光施設などで行われる「ふるまい酒」は、日本人にとっては正月の風物詩の一つです。鏡開きとともに振る舞われる日本酒には、無病息災や五穀豊穣を願う意味が込められており、単なるアルコール提供以上の文化的役割を担ってきました。では、この正月のふるまい酒を、訪日外国人はどのように感じているのでしょうか。

近年のインバウンド回復を背景に、年末年始に日本を訪れる外国人観光客は増加しています。彼らが正月行事の中で強い印象を受けるものの一つが、無料で日本酒が振る舞われるこの習慣です。多くの外国人にとって、「知らない人同士が同じ場で酒を分かち合う」という体験は新鮮に映ります。特に欧米圏からの旅行者の間では、「日本人のホスピタリティを象徴する行為」「宗教的儀礼と酒が自然に結びついている点が興味深い」といった声が聞かれます。

また、ふるまい酒が「正月限定」であることも、特別感を高めています。普段は有料で提供される日本酒が、年の始まりという節目に、誰にでも平等に差し出される。この行為を、外国人の中には「コミュニティに迎え入れられた感覚」として受け止める人も少なくありません。言葉が十分に通じなくても、杯を受け取り、周囲と同じ所作で口に含むことで、日本文化の輪の中に入ったと実感できるからです。

一方で、アルコールに対する価値観の違いも浮き彫りになります。宗教上の理由で酒を口にできない人や、昼間から酒を飲む習慣のない文化圏の人にとっては、戸惑いを覚える場面もあります。ただし最近では、ノンアルコール甘酒を提供するところもあり、「選べるふるまい酒」として柔軟な対応が評価されています。こうした配慮があることで、外国人観光客も安心して行事に参加できるようになっています。

興味深いのは、味そのもの以上に「背景」に関心が集まっている点です。なぜ正月に酒を飲むのか、鏡開きとは何か、なぜ樽酒なのか。これらの説明を受けることで、日本酒は単なる飲み物から「文化を語るメディア」へと変わります。実際、簡単な英語解説や多言語の掲示がある会場では、ふるまい酒の満足度が高い傾向が見られます。

正月のふるまい酒は、日本人にとって当たり前の慣習でありながら、外国人の目には非常に象徴的な文化体験として映っています。酒を介して年の始まりを祝うという行為は、日本酒の国際的な価値を伝える絶好の機会でもあります。今後、インバウンド施策の中でこの伝統をどう活かしていくのか。正月の一杯は、日本酒の未来を映す小さな鏡になりつつあります。

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日経年頭特集が示す潮流――日本酒を原料とするクラフトジンは2026年どうなるか

今年の元旦の日本経済新聞において、「クラフトジン 地域薫る」という特集が組まれ、その中に、日本酒を原料に用いたクラフトジンを手がける亀田酒造が取り上げられていました。年始という象徴的なタイミングで、とりわけ、日本酒を原料とするジンが取り上げられた点は注目に値します。地域性や酒蔵の背景を語る文脈の中で、日本酒が蒸留酒へと姿を変え、新たな価値を生み出していることが明確に打ち出されていました。

昨年の話題から今年の「評価」へ

振り返れば、昨年も日本酒を用いたジンは業界内外で話題になりました。清酒や酒粕をベーススピリッツに用い、そこに和柑橘や山椒、茶葉などのボタニカルを重ねることで、「日本らしさ」を明確に打ち出した商品が相次いで登場しました。これらは単なる蒸留酒の一ジャンルにとどまらず、日本酒の技術や発想を別の形で表現する試みとして評価されてきました。

こうした流れの中で、日本酒蔵が主体となってジンづくりに取り組む意義は、年々明確になりつつあります。亀田酒造のように、清酒の醸造で培った原料処理や発酵への理解を生かし、酒質設計の段階からジンを構想する姿勢は、既存のクラフトジンとは一線を画します。単にアルコールを調達して香りを付けるのではなく、「酒としての骨格」をどうつくるかという、日本酒的な思考が反映されている点に大きな特徴があります。

今年、日本酒を用いたクラフトジンが持つ可能性のひとつは、「日本酒の代替」ではなく「日本酒の拡張」として受け止められるかどうかにあるでしょう。日本酒市場が縮小と高付加価値化の間で揺れる中、ジンという国際的に通用するカテゴリーに、日本酒由来のストーリーを乗せることは、海外市場への訴求力を高める手段にもなります。実際、ジンはカクテル文化と結びつきやすく、飲用シーンの提案がしやすい酒類でもあります。

また、国内においても、日本酒に親しみの薄い層への入口として機能する可能性があります。「日本酒は難しいが、ジンなら飲める」という消費者に対し、日本酒を原料にしていることや蔵元が手がけていることを伝えることで、結果的に日本酒文化への関心を喚起することが期待されます。この間口の広さは、今年さらに重要な意味を持つでしょう。

一方で課題もあります。日本酒を用いる必然性が曖昧なままでは、単なる話題先行の商品に終わる危険性があります。なぜ日本酒なのか、その酒質がジンの香味にどう寄与しているのかを、造り手自身が明確に語れるかどうかが問われます。年頭に特集が組まれた今こそ、本質が試される局面に入ったと言えます。

総じて今年は、日本酒を原料としたクラフトジンが「珍しさ」から「評価」へと移行する年になると考えられます。地域性、蔵の思想、日本酒技術の応用といった要素がどこまで説得力を持てるのか。その成否は、日本酒業界にとっても、自らの可能性を占う試金石となるでしょう。年の始まりに示されたこの動きは、静かではありますが、確かな広がりを伴って注目されていくはずです。

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【日本酒】熟成酒元年となるか~2026年展望

2026年、日本酒の世界で「熟成酒」が改めて注目を集める可能性が高まっています。近年の日本酒市場では、フレッシュな香味や軽快な飲み口の酒が人気を博してきましたが、歴史や時間が育んだ味わいを持つ熟成酒が、国内外の審査会や愛好家の間で再評価されつつあります。

この潮流を象徴する出来事の一つが、世界的な酒類品評会であるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(International Wine Challenge:IWC)における審査制度の変更です。IWCは1984年に創設された世界最大級のワインおよび酒類コンペティションで、日本酒のSAKE部門は2007年に設けられて以来、国際的な日本酒評価の指標として定着しています。

従来、古酒カテゴリーとして一括で扱われていた「時間を経た酒」の評価が、2023年の審査から「古酒」と「熟成酒」に分けて審査されるようになりました。古酒は一般的に常温で長期熟成され、琥珀色に近い色合いと豊かな風味を持つタイプを指します。一方、「熟成酒」は低温で丁寧に熟成され、透明感のある色調ながらも、時間の経過が香味に与える深みや奥行きが評価対象となるスタイルです。これにより、熟成のスタイルや方向性ごとに、より公正で特色ある審査が可能となりました。

この制度変更は、熟成酒の多様性を国際市場にきちんと伝える上で重要な意味を持っています。熟成酒は一見すると伝統酒と捉えられがちですが、低温熟成や管理の工夫によって、香りや味わいを損なわずに熟成の恩恵を引き出す現代的な技術が確立されてきました。そうした製品が世界的なステージでも評価されることは、日本の酒蔵が持つ熟成技術の高さを再認識させる機会となっています。

そして、2026年にはこのIWCのSAKE部門審査会が日本の酒どころ・広島県で開催されることが決定しました(5月18日〜21日予定)。IWCのSAKE部門が国内で開催されるのは、東京都、兵庫県、山形県に次いで4度目であり、設立20周年の節目を迎える記念すべき年となります。広島は西条を中心に多くの歴史ある酒蔵が存在し、酒類総合研究所といった国内唯一の研究機関を抱えるなど、日本酒文化の伝統と革新が息づく地域です。

こうした国際的な舞台で熟成酒が審査される機会が増えることは、国内の酒蔵にとって大きな励みになることでしょう。熟成酒は、時間という不可逆的なプロセスを経た酒ならではの豊かな香味が魅力であり、まさに「時間芸術」とも言えます。数年〜数十年という年月を経ることで、米の甘みや酸味が複雑に重なり、通常のフレッシュな酒では味わえない深い味わいが開花します。

さらに、IWCだけでなく、国内の熟成酒専門イベントやテイスティング会も増えつつあり、地域の酒蔵が自らの熟成酒を消費者に伝える機会が広がっています。これにより、熟成酒の価値や楽しみ方が多くの日本酒ファン、特に若い世代にも伝わりやすくなっているのです。

消費者サイドでも、「時間をかけて育てられた酒」の魅力を再発見する動きがあります。SNSやブログ、専門誌などで熟成酒のレビューや飲み比べが取り上げられる機会が増え、単なる「古い酒」ではなく、熟成によって磨かれた味わいの世界が注目を浴びています。熟成酒は、祝いの席や特別な日の乾杯酒としても、その価値を発揮することでしょう。

2026年、日本の熟成酒は国際的な評価の場でさらに脚光を浴びることが予想されます。IWC広島開催という大舞台に向けて、酒蔵と愛好家が共に熟成酒の魅力を伝えていく一年となるに違いありません。時間をかけて育てられたその一滴は、まさに日本酒文化の新たな魅力として世界へと広がっていくことでしょう。

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2025年、日本酒が世界へ飛躍した年 —— 八海山とサマーフォールが示した二つの象徴

2025年は、日本酒にとって「世界の中で語られる存在」へと明確に踏み出した一年でした。昨年末に「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されたことを背景に、日本酒は文化としての価値を世界から認められ、その評価が具体的な動きとして各地に表れました。その象徴的存在として挙げられるのが、「八海山」と「サマーフォール」です。この二つの日本酒は、異なる方向性を持ちながらも、2025年の日本酒を語るうえで欠かせない存在となりました。

八海山 —— 世界の大舞台で「正統」を示した日本酒

2025年、日本酒の国際的存在感を強く印象づけた出来事の一つが、八海山がロサンゼルス・ドジャースとパートナーシップ契約を結んだことです。メジャーリーグという世界最高峰のスポーツエンターテインメントの中で、日本酒が公式に扱われることは極めて象徴的でした。

八海山は、派手さよりも品質と安定感を重視してきた酒蔵です。その八海山がドジャースと結びついたことで、日本酒は「特別な和食店で飲む酒」から、「世界のスタジアムで楽しまれる酒」へと認識の幅を広げました。これは、日本酒がワインやビールと同じ土俵で語られ始めたことを意味します。

ユネスコ登録によって裏付けられた伝統的酒造りの価値を、八海山は極めて分かりやすい形で世界に提示しました。2025年の八海山は、日本酒の「正統性」と「国際性」を同時に体現した存在だったと言えるでしょう。

サマーフォール —— 海外発で日本酒の常識を揺さぶった存在

一方、もう一つの象徴が、米国で人気を集めたスパークリング日本酒ブランド「サマーフォール」です。カリフォルニアで支持を広げたこの日本酒が、2025年に日本市場へと逆輸入されたことは、日本酒史の中でも特筆すべき出来事でした。

サマーフォールは、缶入り、スパークリング、比較的低アルコールという特徴を持ち、日本酒に対する従来のイメージを大きく覆しました。冷やして、気軽に、場面を選ばず飲める日本酒として、若年層やこれまで日本酒に縁のなかった層に受け入れられています。

重要なのは、サマーフォールが「日本酒らしくない」存在であるにもかかわらず、日本酒として認識され、評価されている点です。これは、日本酒が守るべき伝統と、変化すべき表現を切り分けられる段階に入ったことを示しています。2025年のサマーフォールは、日本酒の未来像を提示する存在だったと言えるでしょう。

二つの象徴が示す日本酒の姿

八海山とサマーフォールは対照的な存在です。前者は伝統と品質を武器に世界の中心へ進出し、後者は海外から新しい価値観を携えて日本に戻ってきました。しかし、この二つが同時に注目されたことこそが、2025年という年の本質を物語っています。

日本酒は今、「守る酒」と「広げる酒」の両輪で世界へ向かっています。ユネスコ登録によって文化的基盤が明確になったからこそ、新しいスタイルへの挑戦も許容されるようになりました。

2025年は、日本酒が世界の中で自らの立ち位置を見定めた転換点でした。八海山が示した正統な日本酒の強さと、サマーフォールが切り拓いた新しい入口。その両方が共存し評価されたこの一年は、日本酒が「日本の酒」であると同時に、「世界の酒」へと確実に歩み出した年として記憶されるでしょう。

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