映画『種まく旅人~醪のささやき~』公開 情報化時代に見直される“ものづくり”の原点

淡路島の老舗・千年一酒造が舞台に

2025年10月10日、映画『種まく旅人~醪(もろみ)のささやき~』が全国で公開されました。日本の第一次産業をテーマにした人気シリーズ「種まく旅人」の第5作となる本作は、兵庫県淡路島を舞台に、日本酒づくりに携わる人々の情熱と苦悩、そして未来への希望を描いています。

主人公は農林水産省で働く官僚・神崎理恵(菊川怜)です。理恵は酒造業の現状を調査するため、淡路島の老舗酒蔵「千年一酒造」を訪れます。蔵では、伝統を守ろうとする蔵元・松元恒雄(升毅)と、時代の変化に合わせた酒づくりを模索する息子・孝之(金子隼也)が対立しながらも、理恵の存在を通じて少しずつ歩み寄っていきます。若手蔵人の夏美(清水くるみ)らも加わり、後継者問題や地域再生の課題など、現代の酒造業が直面する現実が丁寧に描かれています。

本作の重要な舞台となる千年一酒造は、淡路島に実在する明治創業の老舗蔵です。淡路島産の米と湧水を使い、今なお手づくりにこだわった酒造りを続けています。映画では実際の蔵で撮影が行われ、蒸し米の香り、醪のゆらめき、木桶の音など、五感に訴える映像が印象的に映し出されています。主演の菊川怜さんは「現場の空気そのものが物語を語ってくれるようでした」とコメントし、リアリティを大切にした撮影を振り返っています。

近年、情報化が進み、AIやデジタル技術が日常に浸透する一方で、土や水、人の手が生み出す“ものづくり”の価値が改めて注目されています。かつては時代遅れと見なされ、若者が離れていった第一次産業が、今では「かっこいい仕事」として再評価されつつあります。SNSや動画配信などを通じて、酒造りや農業の現場がリアルに発信され、職人たちの姿が憧れの対象となる時代になりました。

『醪のささやき』は、まさにそうした時代の転換を象徴する作品です。日本酒という伝統産業の中で、デジタルでは再現できない人の感性や手仕事の尊さを見つめ直しています。理恵が蔵人たちと心を通わせる過程は、効率やデータでは測れない“人のぬくもり”を描き出しており、観客に深い余韻を残します。

映画は107分のヒューマンドラマとして構成され、淡路島の美しい風景とともに、伝統産業が現代に生き続ける理由を静かに問いかけます。第一次産業への回帰が叫ばれる今、忘れかけていた“手でつくることの意味”を思い出させてくれる作品です。

『種まく旅人~醪のささやき~』は、日本酒という一滴に込められた人々の想いを通して、変化の時代を生きるすべての人に、「本当の豊かさとは何か」を問いかけます。その答えを探す旅が、今、静かに始まったのです。

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インドネシア商社が高知を訪問~甘口日本酒で新市場開拓の兆し

インドネシアの食品輸入商社「リブラフードサービス社」が、10月7日から9日にかけて高知県内の酒蔵を訪問しました。訪問の目的は、日本酒の輸出に向けた具体的な協議や商品選定で、今後の東南アジア市場における日本酒展開を見据えた動きとみられます。

富裕層を中心に広がる「甘口日本酒」人気

近年、インドネシアでは日本酒への関心が高まり、富裕層や都市部のレストランを中心に“ちょっとした日本酒ブーム”が起きています。人口2億7000万人を誇る同国は、イスラム教徒が多数を占めるため、飲酒が文化的に制限されている一方で、非イスラム層や外国人駐在員などを含めると約5000万人規模の飲酒市場が存在するとされています。これは東南アジアの中でも非常に大きな潜在需要といえます。

その中で特徴的なのが、インドネシアの食文化に合った“甘口嗜好”です。現地では甘味の強い料理が多く、これに寄り添う形で、やや甘口の日本酒が好まれる傾向にあります。これまで辛口で知られてきた日本酒の中でも、フルーティーで柔らかい甘みを持つタイプが人気を集めています。

「CEL-24酵母」がもたらした新しい味わい

高知県の日本酒といえば、長らく「土佐鶴」や「司牡丹」に代表されるようなキリッとした辛口が主流でした。しかし、2013年に高知県工業技術センターが開発した酵母「CEL-24」の登場により、状況は一変しました。この酵母を使うことで、リンゴや南国フルーツを思わせる華やかな香りと、独特のフルーティーな甘みを持つ酒が誕生し、全国的に注目を浴びています。今回、リブラフードサービス社が高知を訪問した背景にも、この「CEL-24」系統の酒がインドネシア市場で受け入れられる可能性を見据えた狙いがあるとみられます。

課題と可能性

一方で、輸出には課題もあります。日本酒は温度管理が品質を大きく左右する繊細な酒です。インドネシアのような高温多湿な気候では、輸送中や保管中の品質維持が難しく、現地の物流体制や保冷輸送の確立が重要になります。また、インドネシア国内でのアルコール販売に関する規制も複雑で、宗教的配慮を踏まえた販売戦略が求められます。現在、流通している日本酒は高価格帯のものが中心で、一般市場にはまだ十分に浸透していません。

それでも、今回のように現地商社が日本の酒蔵を直接訪問するケースが増えていることは、海外市場の広がりを象徴する動きといえます。特に東南アジアでは、日本食レストランの増加に伴い、日本酒を「料理と楽しむ文化」として紹介する動きが活発化しています。甘口の酒が人気という傾向は、高知の新しい酒質との親和性が高く、今後、同県がインドネシア市場で存在感を高める可能性もあります。

日本酒業界にとって、インドネシアは決して容易な市場ではありません。しかし、5000万人という飲酒可能人口を抱える巨大な潜在市場であり、品質管理や現地の嗜好に合わせた酒づくりが進めば、新たな成長の柱となることも期待されます。今回の商談は、そうした未来に向けた第一歩として、大きな意味を持っているといえるでしょう。

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福千歳、「蕎麦冷酒」を発売~「蕎麦の日」に合わせた挑戦が示す日本酒の新潮流

山廃仕込みで知られる福井の老舗酒蔵・福千歳(田嶋酒造株式会社)は、10月8日の「蕎麦の日」に合わせて新商品『蕎麦冷酒』を発売しました。古来より「蕎麦前」という言葉に象徴されるように、日本酒と蕎麦は深い縁で結ばれていますが、蔵元が正面から“蕎麦専用”をうたった酒を出すのは極めて珍しい試みです。季節の節目と食文化を結びつけたこの商品は、今後の日本酒市場における新しい方向性を示すものとして注目されています。

“蕎麦の日”に合わせた発売の意図

10月8日は日本麺類業団体連合会などが制定した「蕎麦の日」です。新そばの時期を前に、全国各地で蕎麦イベントやキャンペーンが行われる日でもあります。福千歳がこの日に合わせて商品を投入したのは、単なる話題作りではなく、「日本酒を食文化の一部として再定義する」という明確な狙いがありました。

同蔵はこれまでも「山廃仕込み」という伝統技法を軸に、食との相性を追求してきました。今回の『蕎麦冷酒』は、まさにその延長線上にあるものです。蕎麦の香りやのど越しを損なわず、つゆの出汁やかえしの塩味にも寄り添うよう、キレのある辛口で酸のバランスを整えた仕上がりになっているといいます。冷やして飲むことで山廃由来の複雑な旨味が引き締まり、蕎麦との調和を生み出す設計です。

「蕎麦専用酒」という新カテゴリーの可能性

これまでにも「牡蠣専用」「寿司専用」「チーズ専用」など、特定の料理と合わせることを目的にした日本酒はありました。しかし「蕎麦専用酒」として一般流通する商品はほとんど前例がありません。日本酒の多様化が進むなかで、蕎麦という和食の代表格に焦点を当てた点は業界的にも意味があります。

蕎麦は香りや喉ごしといった繊細な感覚を楽しむ料理であり、これに寄り添う酒には軽やかさと輪郭の明確さが求められます。福千歳の山廃仕込みはその条件を満たすだけでなく、冷やでも燗でも表情が変わるという柔軟性を持つため、食中酒としての可能性を広げています。今回の発売が評価されれば、今後は「天ぷら専用」「蕎麦屋限定」など、料理と一体化した酒造りがさらに加速する可能性があります。

食文化コラボが拓く新市場

この数年、日本酒業界では「季節」「食」「地域」とのコラボレーションを重視する動きが顕著です。酒を単体で楽しむのではなく、食体験や文化の文脈で価値を高める方向です。福千歳が「蕎麦の日」という明確な記念日に合わせて商品を出したのは、まさにその象徴的な一例といえるでしょう。

特に外食業界では、蕎麦屋が地酒やこだわりの日本酒を揃える傾向が強まっています。『蕎麦冷酒』の登場は、飲食店側にとっても「メニューの物語性」を高める格好の題材となります。たとえば「新そばに合わせる冷酒」という季節提案は、SNS時代の発信にも適しており、販促効果も見込まれます。

伝統と新しさを融合した挑戦

福千歳は創業150年を超える蔵ですが、挑戦的な姿勢でも知られています。山廃仕込みという古典技法を基盤に置きつつ、新しいテーマを打ち出す姿勢は、地方蔵が生き残るための一つの方向性を示しています。『蕎麦冷酒』のラベルには葛飾北斎の意匠が使われ、女将の直筆文字をあしらうなど、伝統美と現代感覚の融合も印象的です。

「蕎麦の日」に合わせて発売されたこの一本は、単なる季節限定酒ではなく、“日本酒を文化で味わう時代”の到来を告げる試金石といえるでしょう。今後、他蔵が同様の「食文化特化型」商品を展開していく可能性も高く、日本酒市場の新しい波を呼び起こすかもしれません。

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月桂冠「炭酸割りでおいしい純米酒」が通年販売へ 1.8Lパックで広がる“酒ハイ文化”の定着

月桂冠株式会社(京都市伏見区)が今年3月に発売した「炭酸割りでおいしい純米酒」がこの秋、通年販売となりました。発売当初は春から夏にかけての期間限定商品という設定でしたが、想定を上回る販売実績とリピート購入の多さを受け、年間を通じて提供されることとなったのです。日本酒を炭酸で割る“酒ハイ(SAKE HIGH)”が、いよいよ一過性のブームを超え、飲酒文化として根づきつつあることを示す動きです。

炭酸で引き立つ旨み 家庭で手軽に“日本酒ハイボール”

「炭酸割りでおいしい純米酒」は、炭酸で割ることを前提に設計された純米酒です。米の旨みや香りをしっかり残しながら、炭酸を加えることで軽やかで爽快な口当たりを実現しています。アルコール度数はやや低めで、氷を入れたグラスに注ぎ、炭酸水で1:1に割ると、刺激のあるすっきりとした“日本酒ハイボール”が完成します。特に夏場は冷たく爽やかに、寒くなれば柚子や生姜を加えるなど、季節に合わせてアレンジを楽しむこともできます。

同商品は1.8リットルの紙パックで販売されており、軽量で冷蔵庫にも収まりやすく、保存や注ぎやすさに優れた形態です。パック酒というと、「晩酌用にコスパ重視」といったイメージがありましたが、この商品は「自由にアレンジできるベース酒」としての新しい価値を提案しています。炭酸水やレモン、ハーブなどを加えた自分好みの味付けを楽しめ、自宅での「おうち酒ハイ」を楽しむユーザーが増えているようです。

“酒ハイ”がファッションから文化へ

“酒ハイ”という飲み方は、焼酎ハイボールやウイスキーハイボールの流行に続く形で広まりました。当初は「SNS映えする新しい日本酒の飲み方」として注目されていましたが、現在ではすっかり定番化。アルコール度数を自分で調整できること、炭酸による飲みやすさ、料理との相性の良さなどが支持され、幅広い世代に浸透しています。

そのような中、1.8Lパックの当商品が通年商品に移行したということは、酒ハイが一時的なファッションではなく、日常の飲酒文化として根づいた証ともいえます。

日本酒の未来を変える“日常化”の流れ

これまで日本酒は“特別な日に飲む酒”という印象が強くありましたが、近年はスパークリング日本酒や氷専用酒など、よりカジュアルな方向へと進化しています。月桂冠の「炭酸割りでおいしい純米酒」は、その流れの中心にある商品です。伝統的な清酒の枠を守りつつ、現代のライフスタイルに合わせた提案を行うことで、新しい層を取り込み、日本酒の裾野を広げています。

“酒ハイ”がファッションを超え、文化として定着する今、1.8Lパックの純米酒を手に取る姿は、もはや「庶民的」ではなく「時代のスタンダード」といえるかもしれません。炭酸割りというシンプルな発想が、古くて新しい日本酒の魅力を再発見させているのです。

▶ 意外な組み合わせがトレンドに!日本酒ハイボールが拓く和酒の新境地

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SHUWAN、意匠登録を取得~五感に響く“体験型酒器”の誕生

酒器「SHUWAN」を展開する株式会社シュワン(福岡市)は、同ブランドの酒器デザインが日本国特許庁より意匠登録を正式に認定されたと発表しました。日本酒業界では、酒そのものの多様化が進む一方で、それを受け止める酒器の進化にも注目が集まっています。今回の登録は、SHUWANが単なるデザイン性の高い器ではなく、“体験としての酒器”を志向していることを象徴する出来事です。

「香り」中心の酒器から“五感”に響く体験へ

ここ数年、日本酒専用グラスの開発は「香り」を最大限に引き出すことに焦点が当てられてきました。リーデルや木本硝子の専用グラスに見るように、香りの拡散性を高めるチューリップ型の酒器がその代表です。これらは、ワイングラスの文脈を日本酒に応用した“香りの可視化”を目的としていました。

しかし、SHUWANが提示したのは、その一歩先を行く「五感に訴える酒器」という新たな方向性です。
形状は、口縁から胴張り部にかけて柔らかく広がり、高台に向かって絞り込む流線形。上から見ると円形と楕円形が交錯する独特のフォルムをもち、手に取った瞬間の“触感”や“重量バランス”までもが設計に織り込まれています。

この曲線がもたらす香りの対流や温度変化は科学的にも検証されており、ガスクロマトグラフィー分析によって、従来の猪口やワイングラスよりも香気成分の安定性と拡散性が優れていることが報告されています。香りだけでなく、視覚・触覚・温度感覚までを統合的に演出する――まさに“飲む”という動作そのものを体験化した酒器といえます。

今回の意匠登録は、こうしたSHUWAN独自のフォルムと機能性が「創作性と新規性をもつもの」として公的に認められたことを意味します。外観の模倣を防ぎ、ブランドの知的財産を守る基盤を得たことに加え、今後の製品展開やライセンス戦略の強力な支えにもなります。酒器が「工芸」から「デザイン知財」へと昇華する流れを示した点でも意義深いといえるでしょう。

みむろ杉とのコラボなどに見る新しい酒器の未来

SHUWANはまた、奈良の今西酒造が手がける人気ブランド「みむろ杉」とのコラボレーションを発表しています。これは、酒器ブランドが単に器を提供するのではなく、“酒そのものの世界観を共に構築する”という新しいアプローチです。
香りや味わいを受け止める「器」ではなく、酒造と共に“体験の設計者”として関わる姿勢は、これまでの酒器業界には見られなかったものです。みむろ杉の透明感ある旨味と、SHUWANの柔らかな香気表現は、共振するようにして飲み手の感覚を刺激します。

酒器がもたらす“新しい日本酒体験”

意匠登録によって保護された独創的デザイン、科学的裏付けを持つ香り設計、そして酒蔵との協働――SHUWANが描く未来は、日本酒を「味わう」から「感じる」文化へと進化させることにあります。

これまで香り中心に設計されてきた酒器の世界に、触れる、見る、聴く、香る、味わう――そのすべてを統合した体験価値を持ち込むことは、日本酒文化の拡張でもあります。

SHUWANの挑戦は、酒器という小さな器の中に、五感と知性、伝統と革新をどう共存させるかという、日本酒の未来を映す実験でもあるのです。

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10月6日は仲秋の名月~酒と月のおはなし

月見の風習は、中国・唐の中秋節(陰暦8月15日)に由来します。奈良時代(8世紀)に遣唐使がもたらしたとされ、宮中行事として定着しました。最初は貴族たちが詩歌を詠み、音楽を奏でる雅な宴でした。そこでは酒も欠かせぬものであり、池に浮かぶ月を眺めながら、盃を交わしたと考えられています。

平安貴族の「観月の宴」

平安時代になると、この風習は宮廷文化の象徴となります。特に有名なのは、池のほとりで舟を浮かべて行う「舟遊び」。
盃を水面に浮かべ、流れ着くまでに詩を詠む「曲水の宴」と同じ発想で、杯に映る月を飲むように見立てる「飲月」の美意識が生まれました。

紫式部や清少納言の随筆にも月見の情景が登場します。単なる宴ではなく、自然と一体化する精神行為として、月と酒は密接に結びついていたのです。

民間へと広がる江戸時代

江戸時代になると、月見は庶民にも広まりました。稲の収穫期にあたることから、収穫祭・豊穣祈願の意味が強くなります。
農村では「芋名月」と呼ばれ、里芋・団子・栗・豆・すすきを供えて月を拝みました。月見団子は、稲穂に見立てたすすきとともに供えられ、実りへの感謝を象徴します。このときに飲まれるのが「月見酒」。

現代ではその伝統を受け継ぎ、前年の酒を秋まで熟成させた「秋あがり」や「ひやおろし」を楽しむのが定番となっています。

月見酒のしきたり・作法

月見酒は、月を眺めながらゆっくり酒を味わう行為です。
盃に酒を注ぎ、その表面に月を映して飲むという作法がありました。これを「盃中の月」と呼び、古来から詩歌や茶の湯の題材にもなっています。
飲むことで「月を体に取り込む」「月の気を受ける」とされ、吉兆の象徴でもありました。

なお、伝統的な月見の供え物には次のような意味があります。

【月見団子】満ちた月を象徴。通常15個を三方に盛る(十五夜にちなむ)。

【すすき】稲穂の代わり、神を招く依代(よりしろ)。

【里芋・栗・豆】秋の収穫への感謝。「芋名月」の名の由来。

【清酒】神々へのお供え。豊作祈願と感謝の象徴。

これらを縁側や窓辺、月の見える場所に供え、家族で月を眺めながら酒を酌み交わすのが伝統的な形です。

現代に生きる月見酒

近年は、酒蔵や観光地で「観月会」や「月見の宴」が復活しています。京都では、ライトアップされた夜空の下で日本酒を味わう催しが人気を集めています。
また、酒造も「満月仕込み」や「月光」など、月をテーマにした限定酒を販売し、古の風習を現代の感性で再解釈しています。

デジタル時代になっても、月を眺めながら静かに盃を傾ける時間には、どこか懐かしい安らぎがあります。
月見酒は、自然と人、神と生活をつなぐ文化的な儀礼として、今も日本人の心の中に息づいているのです。

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ミラノ酒チャレンジ2025、マニフィカ賞を発表~国際舞台で光る日本酒の存在感

イタリア・ミラノで開催された国際日本酒コンペティション「ミラノ酒チャレンジ2025」の最高賞にあたる「マニフィカ賞」が、2025年9月28日に発表されました。マニフィカ賞は、各部門のプラチナ賞受賞酒の中からさらに突出した1本にのみ与えられる特別な称号であり、日本酒の国際的評価を象徴するものとして注目を集めています。

最高賞「マニフィカ賞」とは

ミラノ酒チャレンジは2019年に始まり、ヨーロッパにおける最大規模の日本酒審査会として急速に存在感を高めてきました。その特徴は、単に酒質を競うだけでなく、「テイスティング」「フードペアリング」「デザイン」という三つの視点から総合的に評価を行う点にあります。これにより、世界市場で選ばれるために必要な味わいの普遍性、料理との親和性、そして商品としての魅力が同時に審査されます。

その中でマニフィカ賞は、プラチナ賞の中からさらに「その年を代表する酒」として選ばれる特別賞です。まさに“唯一無二の一本”として認められるこの賞は、世界における日本酒の評価軸を示す存在として年々注目を増しています。

2025年のマニフィカ賞受賞結果

本醸造部門愛宕の松 宮城県限定本醸造株式会社新澤醸造店
スパークリング部門水芭蕉 雪ほたか永井酒造株式会社
にごり部門博多練酒株式会社若竹屋酒造場
特殊製造部門一ノ蔵 Madena株式会社一ノ蔵
吟醸部門金鯱山田錦​盛田金しゃち酒造株式会社
純米吟醸部門SETOICHI 手の鳴る方へ株式会社瀬戸酒造店
純米部門超特撰白雪江戸元禄の酒小西酒造株式会社
普通酒部門白雪樽酒カップ小西酒造株式会社
純米大吟醸部門楯野川 純米大吟醸 十八楯の川酒造株式会社
大吟醸部門夜明け前 大吟醸株式会社小野酒造店
古酒部門夢乃寒梅 古酒 2000年鶴見酒造株式会社

今年は、宮城県の新澤醸造店「愛宕の松 宮城県限定本醸造」や、長野県の小野酒造店「夜明け前 大吟醸」などがマニフィカ賞に選ばれました。いずれも国内で確固たる評価を得てきた銘柄ですが、国際舞台での審査員からも高く支持され、料理との相性やデザイン面においても総合的に優れていると認められました。

特に「愛宕の松」は、本醸造というカテゴリーでありながら、飲みやすさと奥行きを兼ね備えた味わいが高評価となりました。「夜明け前」は大吟醸らしい華やかさと品格を備え、イタリア料理との相性でも群を抜いた結果を示しました。これらの結果は、カテゴリーの違いを超えて、日本酒の多様な魅力が国際的に認知されていることを物語っています。

日本酒業界への影響

ミラノ酒チャレンジは、審査結果をヨーロッパ市場に広く発信しており、受賞酒は現地での販路拡大やレストランでの採用につながるケースが増えています。特にワイン文化が根付いたイタリアにおいて、日本酒が「食と合わせて楽しむ酒」として浸透するきっかけとなっており、輸出の拡大に直結する重要な場となっています。

また、デザイン審査の存在は、海外消費者の感覚に合う商品開発を促す契機となっています。伝統を重んじつつも国際市場を意識した新しいラベルやボトルが登場することで、日本酒のイメージ刷新にもつながっています。

さらに、フードペアリング部門ではパルミジャーノ・レッジャーノやサンダニエーレ生ハムといったイタリアの食材との相性が審査されるなど、現地の食文化との接点が意識されている点も特徴です。これにより、日本酒が和食専用にとどまらず、多様な料理に合わせられる酒として認知されつつあります。


2025年のマニフィカ賞は、日本酒が世界の舞台で改めて評価され、その可能性が広がっていることを示す象徴的な出来事となりました。受賞した蔵元にとっては名誉であると同時に、海外市場に踏み出す強力な追い風となるでしょう。

ミラノ酒チャレンジが持つ「国際基準で日本酒を評価する」という仕組みは、今後ますます業界に影響を与え、日本酒の国際化を後押ししていくと考えられます。今年選ばれたマニフィカ賞の酒が、どのように世界の食卓へ広がっていくのか、今後の展開が注目されます。

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タカラ「料理のための清酒」新発売にみる、料理酒が切り開く日本酒の新たな可能性

宝酒造は9月23日、料理酒ブランド「料理のための清酒」から期間限定商品<旨にごり>を発売しました。にごりならではの旨味を取り入れ、煮物や炒め物にコクを加えることを狙った一品です。これまで「万能調味料」としての側面が強かった料理酒に、日本酒的なバリエーションを持ち込む試みといえます。

料理酒市場の現状と位置づけ

全国の料理酒市場は年間およそ150億円規模と推定されます。これは日本酒全体のおよそ5%にとどまり、本みりん市場(約350〜400億円)の40%程度の大きさです。醤油の国内市場が約3,000億円、さらに世界市場では10兆円規模に拡大していることを踏まえると、料理酒はまだ小さな市場といえます。しかし、その小ささは裏返せば成長余地の大きさでもあります。

日本酒の多様性を料理に活かす挑戦

料理酒はアルコールによって臭みを消し、米由来の旨味で料理に深みを加えるという特性を持ちます。飲用の日本酒が停滞感を抱える中でも、料理シーンに寄り添うことで新たな需要を開拓できる可能性があります。今回の<旨にごり>は「にごり酒」という日本酒のカテゴリーを調味料に応用するもので、料理酒の幅を広げる試みです。吟醸やスパークリングなど、日本酒の多様なスタイルが将来的に料理酒に展開される道筋を示しているとも言えるでしょう。

近年は減塩や健康志向の高まりを背景に、無塩タイプや低塩タイプの料理酒が広がっています。調味料としての役割に加えて、健康的で繊細な味わいを提供できる点は、消費者のニーズに合致します。宝酒造の新商品もまた、単なる風味補助にとどまらず、こうした流れを後押しする存在になることが期待されます。


しょうゆが世界市場で存在感を放つように、料理酒もまた「発酵による旨味」という普遍的な価値を軸に、海外市場への展開余地を持っています。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界中で親しまれている今こそ、料理酒が「日本酒のもう一つの可能性」として注目される機会が訪れるかもしれません。

宝酒造の「料理のための清酒」<旨にごり>は、にごりの旨味を活かした新しい提案です。規模はまだ小さいものの、料理酒は日本酒文化の多様性を家庭の台所から広げていく存在として期待されます。今回の新商品は、その未来に向けた重要な布石といえるでしょう。

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日本酒GI指定が拡大!京都・鳥取・福岡を新たに登録。地域ブランド確立へ新たな一歩

2025年10月1日、国税庁は酒類の地理的表示(GI:Geographical Indication)として「京都」「鳥取」「福岡」の3地域を新たに指定しました。産地の特性や伝統的な醸造技術を背景とする品質が国により公式に保証され、これまで以上に国内外でのブランド価値が強化されることになります。日本酒にとっては、消費者の信頼を高めるだけでなく、海外市場開拓の大きな後押しとなる出来事です。

GI制度の概要とこれまでの歩み

GI制度は、地域の自然条件や文化に根差した農林水産物・酒類を保護し、その名称を独占的に使用できるようにする仕組みです。清酒では2005年に「GI白山(石川県白山市)」が初めて登録され、2016年には県単位で初となる「GI山形」が誕生しました。その後、「GI三重」「GI山梨」「GI佐賀」「GI長野」「GI新潟」「GI滋賀」「GI岩手」「GI静岡」「GI青森」と続き、さらにエリアとして「GI灘五郷」など、今回の指定前までに20の地域が登録済となっています。今回、3地域が同時に登録されたことは初めてであり、日本酒のGI制度史における大きな節目となります。

ところで、GI指定を受けるということは、その地域名を冠する清酒を国が保証する形となり、模倣品や不正使用からブランドを守るという効果があります。また、国際的に通用する制度であるため、海外輸出においても信頼性が高まるのです。近年はフランスやイタリアなどワイン文化を持つ国々で日本酒の関心が高まっており、「GI」の表示は市場開拓の強力な武器となります。

すでにGI指定を受けた地域では、観光振興や輸出拡大に向けた取り組みが加速しています。山形では「GI山形」を軸にした試飲イベントや海外プロモーションが展開され、県産米の使用率向上にもつながりました。灘五郷(2023年指定)では酒蔵巡りとGI認証を組み合わせた観光施策が進められ、ブランド力の強化に寄与しています。

京都・鳥取・福岡の特色と狙い

京都

伏見を中心に千年以上の酒造りの歴史を誇る地域です。古都のイメージや観光資源を活かした高付加価値戦略が期待されます。

鳥取

県内18蔵が結束し、「鳥取の酒」として統一的に発信。欧州やアジア市場への展開を視野に、まとまりあるブランド戦略を志向しています。

福岡

筑後川流域の水系と米を活かし、九州最大の酒どころとして知られます。流通拠点性を背景に、国内外販路の拡大を見据えた輸出促進が進められる見通しです。

品質基準の明確化と課題

今回のGI指定は、域内酒蔵にとって品質基準の明確化を意味します。一定の水準を保つことで地域全体の評価が底上げされ、個々の銘柄への信頼も高まる効果が見込まれます。特に若手蔵や小規模蔵にとっては、GIという共通ブランドを足がかりに存在感を増すことができます。

ただし、基準遵守には検査や管理コストが伴い、小規模蔵には負担となる可能性もあります。また「地域名」の共有は統一感を生む一方で、個性が埋没する懸念も否定できません。制度を活かすには、産地内の品質管理体制の整備や農家との連携、観光・食文化との融合による付加価値創出が重要です。

過去の指定地域では、観光客誘致や地元米の利用拡大が進み、長期的には生産基盤の安定化や設備投資の増加につながる例も見られます。ただし、即効的な経済効果を生むためには、地域ぐるみの戦略立案と、国内外市場への継続的な発信が欠かせません。


今回の「京都」「鳥取」「福岡」のGI指定は、日本酒の地域ブランド化を一段と進める大きな転機です。指定という“公的なお墨付き”をどう活かすか──地域の蔵元、農家、観光事業者が協働し、個性を守りつつも世界市場へ挑む姿勢が今後の成否を分けるでしょう。GIが「看板倒れ」とならないよう、地域全体での連携と持続的な魅力づくりが問われることになります。

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10月1日は「日本酒の日」 歴史と現在、そして未来への課題

10月1日は「日本酒の日」と定められています。酒造業界にとって、この日は単なる記念日以上の意味を持っています。そもそも「日本酒の日」が生まれたのは1978年、日本酒造組合中央会が制定したことに始まります。その背景には、酒造年度が10月に切り替わるという伝統的な習わしがあります。昔から新米の収穫が秋に始まり、それを原料とする酒造りが10月から翌年にかけて本格化することから、酒蔵にとっての「一年の始まり」は10月でした。また十二支の「酉」が「酒壺」を意味する文字であることも後押しし、10月1日が象徴的な日として選ばれたのです。

近年では、この日を機に日本酒の魅力を広める取り組みが各地で行われています。今年も全国の酒蔵や飲食店が趣向を凝らしたイベントを準備しています。東京や京都などの都市部では試飲会や蔵元との交流イベントが予定され、地方都市では地域色を活かした酒祭りや利き酒ラリーも開催されます。さらにオンラインでも蔵元とつなぐリモート試飲会や、日本酒と料理のペアリング体験企画が予定され、コロナ禍を経て定着した「デジタルでの日本酒体験」も健在です。今年は特に若い世代へのアプローチが重視され、SNS連動のキャンペーンや、音楽・アートと組み合わせたイベントが注目を集めています。

過去の「日本酒の日」にも、話題を呼んだ出来事が少なくありません。2015年には全国の酒蔵が同時刻に一斉乾杯を呼びかける「全国一斉日本酒で乾杯!」キャンペーンが行われ、大きな広がりを見せました。また、近年では「メガネの日」と同じ10月1日であることにちなみ、「メガネ専用」と名付けたユニークな日本酒が発売され、SNSを中心に話題になりました。これらは「日本酒の日」がまだ広く知られていない中で、人々に関心を持たせる工夫の一例といえるでしょう。

しかし、フランスワインの「ボージョレ・ヌーヴォー解禁日」と比べると、その知名度は依然として高いとはいえません。ボージョレが国を挙げた輸出戦略やメディアの徹底した情報発信を背景に、季節の一大イベントとして根付いたのに対し、「日本酒の日」は広報のスケールも限られてきました。また、日本酒は種類や飲み方が多様であるため「統一的な楽しみ方」を打ち出しにくい点も普及の難しさにつながっています。

本来、「日本酒の日」は新米を使った仕込みが始まる「仕事始めの日」であり、新酒を並べる解禁イベントではありません。けれども、秋の訪れを告げるこの時期は、ちょうど「ひやおろし」が旬を迎え、さらに旧暦9月9日の「重陽の節句」にも近いことから、熟成を経て味わいが深まり、燗にすると一層映える酒の魅力を伝える絶好のタイミングです。新たに仕込み始める期待感と、前年に仕込まれた酒の円熟を楽しむ喜びが重なる時期こそ、まさに日本酒文化の奥行きを示すものといえるでしょう。市場にとっても、秋から冬にかけての熟成酒を戦略的に打ち出し、食文化と結びつけて広めていく大きなチャンスを秘めています。

しかし現状を見ると、「日本酒の日」の知名度は全国でわずか5%にとどまるとされ、制定から40年以上を経た今も、愛好家や関係者のあいだでの小さな祭りにとどまっているのが実情です。残念ながら、その間に国内市場は縮小を続け、若い世代や海外市場への訴求も十分とはいえません。つまり業界の枠を超えて、一般消費者を巻き込む「共通体験」としての魅力を打ち出せなければ、市場の尻すぼみを食い止める力を発揮できないのです。

そのためには、「立春朝搾り」のように全国規模で統一された分かりやすい仕掛けをつくり出すことが求められます。例えば、10月1日に合わせて「全国一斉ふるまい酒」を実施し、参加者には、インターネット上で投票や交流ができる「日本酒SNS」に招待するなどというシステムを作ってみてはどうでしょうか。デジタル時代にふさわしい双方向型の企画を取り入れることで、単なる飲酒の記念日から「みんなで参加し、語り合い、日本酒を再発見する日」へと進化させることもできるのではないでしょうか。

酒蔵の仕事始めの日としての原点を大切にしつつ、旬の「ひやおろし」や燗酒文化を前面に打ち出し、さらに全国の消費者がオンライン・オフラインを問わず一斉に参加できる仕掛けを組み合わせること。そうした工夫が積み重なって初めて、「日本酒の日」は伝統の継承だけにとどまらず、新しい市場を切り開く力を持つ一大行事へと成長していくのではないでしょうか。

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