福井県鯖江市の老舗酒蔵・加藤吉平商店が、日本酒の可能性を一歩先へ押し上げる挑戦を再び仕掛けています。今秋同社は、熟成大吟醸「梵・超吟 Vintage(720ml)」を、110万円で限定200本抽選販売することを発表しました。これは、国内外で“ヴィンテージ日本酒”という新しいカテゴリーを切り拓くための試みと見られています。
“梵・超吟 Vintage”とは何か
「梵・超吟 Vintage」は、酒造年度2013年の「梵・超吟」を原料とし、氷点下で 10年以上熟成 させた酒です。酒米には、兵庫県三木市の特A地区で栽培された最高品質の山田錦が使われ、精米歩合は明かされていないものの、通常の大吟醸をはるかに凌ぐ研ぎ澄まされた磨きと手間をかけていることが報じられています。
同社の加藤社長は、この商品を「世界の酒類市場をけん引するような銘柄に育てていきたい」と語っており、日本酒を“ただの飲み物”から「文化的価値」「コレクション性」を備えたヴィンテージ品として認めさせる狙いがあります。
この「梵・超吟 Vintage」が最初に発表されたのは 2024年9月 のことで、10月1日発売とされ、同じく限定約200本での提供が予告されていました。
そのときの記事によれば、発表直後から2倍以上の注文があった とされ、発売前に完売が見込まれていたとのこと。また、地元・福井県をはじめ、国内外の高級酒取扱店や富裕層をターゲットとする販路での期待が非常に高く、話題性でも大きな注目を集めました。
つまり、昨年は「告知→予約注文→完売見込み」という流れで、ヴィンテージ日本酒としての可能性を消費者も事業者も肌で感じる形でした。
2025年も同様に、限定200本を 10月以降抽選販売することが報じられています。抽選方式を採る理由には、過度な需要集中を防ぐこと、正しい価格で正しいユーザーに届けること、コレクター性や希少性を保つことなどが考えられます。
また、抽選にすることで“公平性”や“話題性”を持たせることができ、ヴィンテージ酒を持ちたいという潜在的需要を改めて掘る機会にもなるでしょう。
ヴィンテージ日本酒への足がかりとして課題と展望
このような動きは、日本酒業界における“ヴィンテージ”の概念を具体化するひとつのモデルケースです。ワインやウイスキーのように、年号・熟成年数・原料・貯蔵条件などが語られることで、味わい以上の価値が生まれ、コレクション対象や投資対象となる可能性を含みます。
「梵・超吟 Vintage」が成功すれば、以下のような波及が期待できるでしょう。
- 他の酒蔵も“ヴィンテージライン”を模索し、熟成酒や限定酒の企画を増やす
- 流通・販売ルートでのプレミア価格帯の確立とサポート体制が整う
- 消費者の中で“熟成させる日本酒”という選択肢が一般化する
- 酒イベントやオークション市場でヴィンテージ日本酒が取り上げられる機会が増える
とはいえ、こうした高価格ヴィンテージ酒には課題もあります。110万円という価格を支払える顧客層が限られること、品質の維持や熟成による品質のばらつきリスク、保存環境の確保、法律税制面での表示・課税の問題などです。
しかし、加藤吉平商店の実績を見れば、すでにそうした課題をある程度クリアした上での挑戦であることが分かります。昨年の“注文が5倍、完売見込み”という反響は、市場に“それだけの価値を認める層”が存在するという証左だからです。
110万円の「梵・超吟 Vintage」は、単なる価格のインパクト以上に、日本酒が「時間を経ることによって熟成し、香味に深みを増し、歴史を語る酒」になりうることを、消費者にも業界にも示す一石となっています。昨年の成功例を土台に、今年の抽選販売がどのような反響を呼び、ヴィンテージ日本酒という新しいカテゴリがどう広がっていくか、大いに注目されるところです。
