馬耕古代米酒『和眞嘉傳』、11月23日に200本限定発売──黒米が描き出す『原初の酒』の面影

日本酒の新たな挑戦として注目が集まっている馬耕古代米酒『和眞嘉傳(わしんかでん)』が、11月23日よりオンライン限定で200本のみ販売されます。馬耕による田づくり、有機栽培、古代米の使用という三つの原点回帰を掲げた本作は、近年の酒造りに見られるストーリー型のプロダクトの中でも、とりわけ土地への回帰性と文化性の強さが特徴となっています。

今回の酒造りで象徴的な位置付けとなっているのが古代米「黒米」の採用です。黒米は、古代から神事や献上品に使われてきた歴史を持つ稀少米で、アントシアニンを多く含むことから、淡く紫がかった色調や奥行きある風味を生むことで知られています。市場では黒米をブレンドしたリキュールやどぶろくは散見されますが、伝統的な日本酒仕込みの中核へ黒米を据えた商品は依然として珍しく、『和眞嘉傳』はこの点でも大きな存在感を放っています。

黒米の使用は単なる原材料の珍しさにとどまりません。まず挙げられるのは、酒質における大きな表情の変化です。胚芽が多く残る黒米は繊細な精米が難しく、通常の酒米のように高精白を行いにくい一方、米由来の複層的な旨味を引き出すことができます。さらにアントシアニンの存在は、香り・余韻・舌触りに独自の陰影を作ると言われています。近代的な淡麗志向の酒とは異なる、新たな美学を提示する日本酒として、黒米の個性は確かなアクセントとなりそうです。

農業面でも黒米の採用は象徴性を持っています。『和眞嘉傳』の栽培方法は、あえて機械化を抑え、馬による田起こしを行うという極めて手間のかかるものです。黒米は雑草との競合が起きやすく、栽培の難度は高いとされますが、そこに馬耕を組み合わせることは、単なるエコ農法とは異なる『文化としての米作り』の再構築といえます。機械化・効率化を追求してきた現代農業とは真逆のベクトルを提示することにより、環境配慮だけでなく、農業の営みを未来へ継承する意味が込められていると考えられます。

醸造は茨城県の井坂酒造店が担当し、伝統的な四段仕込みが採用されています。手間を惜しまない農法と素材の個性を最大限に生かすため、昔ながらの技を選択した点も興味深いところです。四段仕込みは、味わいの厚みと余韻を引き出しやすく、とりわけ黒米との組み合わせには適していると見られています。味や香りの詳細は発売前で明らかではありませんが、黒米ならではのふくよかな旨味、紫色の淡い色調、締まりのある酸や苦みが調和する可能性が高く、特別な一本となることが期待されます。

限定200本という希少性は、単なるマーケティング上の戦略ではなく、手作業中心の農法と黒米栽培の制約を反映したものです。大量生産を目的とせず、土地と農法、そして米の個性を守りながら、毎年つくり続けられる規模をそのまま商品設計へ反映したとも言えます。こうした姿勢は、近年増えつつあるプレミアム日本酒の流れの中にありながらも、豪華さではなく真摯さを価値軸としている点で一線を画します。

『和眞嘉傳』の登場は、古代米の再評価、日本酒の原点回帰、そして自然共生型農業の再認識といった、複数の潮流の接点に位置しているといえます。単なる伝統回帰ではなく、古代米という素材が持つポテンシャルを現代の酒造技法で再解釈し、次世代の日本酒の可能性を探る作品として、今後も注目を集めることになりそうです。

▶ 馬耕古代米酒『和眞嘉傳』が販売されるソマイチ

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