日本酒の世界に、ワイン文化で用いられてきた「アッサンブラージュ(ブレンド)」の概念が静かに浸透し始めています。2022年に京都の複数の酒蔵が協働して立ち上げた「Assemblage Club」は、その象徴的な存在といえるでしょう。この度、同クラブから第5弾となる新商品『KASUMI-柑澄-』が登場しました。増田德兵衞商店、北川本家、松井酒造といった歴史ある蔵元が手を組み、酒質設計からブレンドまで共同で行う取り組みは、日本酒の世界に新しい可能性を提示しています。
今回の『KASUMI-柑澄-』は、甘酸っぱさを特徴とし、軽やかでニュートラルな味わいを持つ一本です。ジャンルに囚われない食中酒として設計されており、京都の料飲シーンとも相性のよい仕上がりとされています。複数の蔵がそれぞれの持ち味を出し合い、一つの『作品』としてまとめ上げたこの酒は、単なるブレンド酒にとどまらず、「共同で日本酒を創る」という新たな文化の兆しともいえます。
アッサンブラージュが持つ意味
アッサンブラージュとは、異なるロット・異なる畑、時には異なる品種のワインを組み合わせ、より複雑で調和のとれた味わいをつくる技法です。これを日本酒に応用することで、単一蔵では実現しづらい幅広い表現を追求できるようになります。
酒造ごとに水質・酵母・麹菌・醸造哲学が異なるため、複数の蔵を横断したブレンドは、日本酒文化において非常に大胆な挑戦です。蔵元同士が互いの個性を理解し、その個性を尊重しつつ一本の酒にまとめる作業は、技術的にも文化的にも高度なコミュニケーションを必要とします。
「Assemblage Club」の取り組みは、日本酒の多様性を『蔵単位』ではなく『地域単位』『共同プロジェクト単位』で広げる試みであり、地域文化としての日本酒の新しい形を提示しています。
日本酒におけるアッサンブラージュの可能性
日本酒のアッサンブラージュは、次の三つの大きな可能性を持っています。
① 味わいの多様化と新ジャンルの創出
単一の蔵では再現できない味わいを創造できる点は大きな魅力です。『KASUMI-柑澄-』のように、甘酸味と軽やかさを軸にした『食べさせる酒』は、世界的なフードシーンにも対応しやすく、日本酒を国際的に普及させる上でも重要な役割を果たします。
② 蔵の個性の可視化と再解釈
ブレンドによって、各蔵の癖や特徴が相互に引き立ちます。たとえば、増田德兵衞商店の落ち着いた酒質に、松井酒造の柔らかな香味が重なり、北川本家のきれいな酸が全体をまとめる──こうした個性の交差点こそ、アッサンブラージュの醍醐味です。結果として、共同で一本の酒を造る過程で、蔵元自身が自らの個性を再発見するきっかけにもなります。
③ 日本酒産業の連携モデルとしての価値
人口減少や酒造りの担い手不足が進むなか、蔵同士が協力してプロダクトを開発する流れは、地域全体の文化を守るうえでも有効です。単独では生み出せない価値を共同で生み出し、販売も発信も共有する。これは、日本酒がこれから『地域文化をつくる産業』として進化するための一つの方向性といえるでしょう。
「混ぜる」ことから始まる新たな日本酒文化
アッサンブラージュは、これまで蔵単位で語られることの多かった日本酒の価値観を揺るがし、より開かれた文化へと変えていく可能性を秘めています。蔵の数が年々減り続ける現状において、世界市場を見据えながら、多様性と新規性を獲得するための鍵ともなるでしょう。
『KASUMI-柑澄-』は、単なる新商品の一つではありません。複数の蔵が手を携え、互いの個性を響き合わせることで、日本酒が持つ表現の幅をさらに広げる試みそのものです。酒造の垣根を越えたアッサンブラージュが、この先の日本酒文化にどのような新たな景色をもたらすのか、大きな注目が集まっています。
▶ IWA5「アッサンブラージュ6」と鳳凰美田の挑戦──日本酒に広がるアッサンブラージュの可能性
▶ ブレンド日本酒 Assemblage Club 05 CODENAME : KASUMI 販売サイト
