日本酒×ティーブランドの革新 ~「haccoba × SMITH TEAMAKER」コラボが示す新たな可能性

福島県南相馬市の酒造、haccobaが、米国ポートランド発のスペシャルティティーブランド、SMITH TEAMAKERとのコラボレーションを発表しました。両者が手がけるこのプロジェクトは、従来の「日本酒=米+麹+酵母」の枠を超えた“飲料素材の掛け合わせ”が、業界に新風を巻き起こす予兆とも言えます。

幅広い飲料コラボへ広がる日本酒マーケット

今回のコラボレーションでは、SMITH TEAMAKER が渋谷店限定で展開するブレンド「TOKYO TWILIGHT」の茶葉(煎茶・グリーンルイボス・レモンピール・ジュニパー・ラベンダー)を、お米とともに発酵させたプロトタイプ酒を開発したと報じられています。このように、茶葉という他飲料由来の素材を日本酒に取り入れる試みは、飲料業界の異ジャンルコラボが日本酒の世界にも浸透してきていることを示しています。例えば、クラフトビール由来のホップや清涼飲料・産地茶葉との掛け合わせを試みる酒造も増えており、日本酒の固定観念の刷新が進んでいます。

「haccoba」と「SMITH TEAMAKER」の異業種コラボから読み解く変化

haccobaは「酒づくりをもっと自由に」という理念を掲げ、日本酒の伝統製法を再解釈しつつ、新素材・新手法を積極的に採用してきたクラフトサケブルワリーです。一方、SMITH TEAMAKERは世界各地から厳選した茶葉を用い、卓越したブレンド技術を駆使してティー文化のリデザインに取り組んできたブランドです。両者が手を組む意義は、単に「お茶+日本酒」という組み合わせにとどまらず、香り・葉物素材・発酵プロセスの再解釈を通じて、新たな飲料体験を創出しようという点にあります。加えて、地域・海外展開・ブランド戦略という複数の軸が重なっており、単なる製品開発以上の意図が読み取れます。

日本酒業界に及ぼす影響と今後の展望

このようなコラボレーションが業界に与える影響は少なくありません。まず、香味・風味のバリエーションが飛躍的に広がる可能性があります。お茶やハーブ、スパイスなど異素材の導入により、これまでの日本酒ファンだけでなく、紅茶・ハーブティー・クラフト飲料好きの潜在顧客をも取り込む境界外マーケットの開拓が期待できます。

次に、ブランド価値・差別化の観点です。日本酒が海外発のティーブランドとコラボするという話題性は、国内外のメディア露出を通じて 日本酒のモダナイズを印象付ける効果をもたらします。これにより、若年層や海外のリカーコンシューマーにもアプローチ可能となります。

さらに、製造・流通・販促の面でも変化が見込まれます。茶葉との発酵実験や異素材の投入という製造プロセスの革新は、蔵元にとって新たなノウハウの蓄積機会となり、将来的には「コラボ日本酒」というカテゴリ自体の拡大を後押しするでしょう。販促面では、コラボレーションというストーリーがSNSやEC、インバウンド誘致のキラーコンテンツとなり、流通チャネルの拡張にもつながります。

ただし、課題もあります。異素材導入に伴う品質の安定確保、消費者の理解・受容、そして日本酒伝統の資産価値とのバランスです。業界全体としては、変革の方向と伝統維持のバランスを慎重に考える必要があります。

総じて、「haccoba × SMITH TEAMAKER」のコラボレーションは、日本酒業界における「異飲料コラボ時代」の幕開けを象徴する取り組みと言えるでしょう。香り・素材・体験という観点から日本酒の価値を再構築する動きが、今後さらに加速する可能性があります。飲料市場の多様化が進む中で、日本酒メーカーが他飲料との掛け合わせをどのように実践し、自社のブランディングに結びつけるか。今後の展開に注目が集まります。

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世界を席巻する「haccoba」クラフトサケが拓く日本酒の新たな地平

福島県南相馬市小高に拠点を構える革新的な酒蔵「haccoba(ハッコウバ)」が、そのユニークな「クラフトサケ」で世界市場での存在感を急速に高めています。アジア圏での確かな足場を築きつつ、今年2025年春からは欧米への本格的な輸出も開始。その勢いは、直近の海外イベントでの目覚ましい成果によってさらに加速しています。

haccobaは、2021年2月に原発事故で一時人口がゼロになった小高の地で、「酒づくりをもっと自由に」という理念のもと創業しました。伝統的な日本酒の枠にとらわれず、かつての「どぶろく」文化を現代的に再解釈し、副原料の使用や独自の醸造方法を取り入れることで、これまでにない味わいと体験を提供する「クラフトサケ」という新ジャンルを確立しています。2023年7月には隣町の浪江にも醸造所を設け、生産規模を拡大しています。

「クラフトサケ」とは? 日本酒の新たな可能性

haccobaが提唱し、その海外戦略の核となっている「クラフトサケ」とは一体何でしょうか。これは、一般的な日本酒の定義(米、米麹、水のみを原料とし、清酒酵母で発酵させ、ろ過したものであることなど)にとらわれず、果物、ハーブ、スパイスなどの副原料を使用したり、異なる発酵方法や酵母を取り入れたりすることで、多様なアプローチから新しい味わいを追求する、自由な発想の酒を指します。

伝統的な日本酒が守り継いできた規範を尊重しつつも、より広範な食文化やライフスタイルに寄り添い、新たな飲用シーンを創出することを目指しています。例えば、haccobaでは「ホップ酒」「スモークモルトを使ったSake」「梅酒粕を発酵させたSake」など、多様なクラフトサケを世に送り出し、日本酒の持つ可能性を大きく広げています。こうした固定観念にとらわれない柔軟な姿勢が、国内外の多様な消費者の心をつかむ要因となっています。

香港での目覚ましい成功と国際的な評価

そのグローバル展開の成功を象徴する出来事が、2025年6月上旬に香港で開催された日本酒イベント「若手の夜明け 香港 2025(SAKEJUMP HONG KONG 2025)」でした。このイベントは、日本の若手醸造家たちが自慢の酒を披露する国際的な舞台であり、haccobaはここで見事「売上1位」という輝かしい実績を記録しました。香港の日本酒愛好家や現地の飲食店関係者たちが、haccobaの革新的な酒造りとその魅力に強く惹きつけられた証と言えるでしょう。

さらに、haccobaの快進撃はこれに留まりません。権威ある「ICC SAKE AWARD」の予選ラウンドでは、並み居る強豪蔵を抑え、堂々の「1位通過」を果たしました。これは、単なる人気だけでなく、その品質と技術、そして未来への可能性が専門家からも高く評価されていることを示しています。革新的な酒造りでありながらも、日本酒としての高い品質基準を満たしていることが、国際的な舞台で証明された形です。

アジアから欧米へ、世界を見据えるhaccoba

これまでタイ、香港、シンガポール、台湾といったアジア圏で着実に販路を拡大してきたhaccobaは、特に台湾では輸出開始からわずか3ヶ月でミシュラン掲載店を含む20店以上に納入するなど、その品質と独自性が高く評価されてきました。アジア市場での成功が、欧米市場への進出に大きな自信を与えています。

そして、2025年春からは、満を持してアメリカ、オランダ、ドイツといった欧米市場への輸出も本格的にスタートしました。各国のパートナーと連携し、現地の飲食シーンや流通構造に合わせた商品展開を積極的に進めています。アメリカ市場への挑戦においては、2024年に経済産業省の起業家育成・海外派遣プログラム「J-StarX Food Frontiers USA」の第1期にhaccobaが採択され、国からもその事業モデルとグローバルな成長可能性が高く評価されています。

福島という地の歴史と向き合いながら、固定観念にとらわれない自由な発想で酒造りの新たな可能性を追求するhaccoba。「日本酒が、世界各地で土着の“Sake”になる未来を描けたら嬉しい」という彼らの思いは、日本の伝統的な酒造りの概念を超え、グローバルな飲食文化に貢献しようとする強い意志の表れです。香港での成功を足がかりに、haccobaの「クラフトサケ」が世界のSakeシーンに新たな風を巻き起こす日も近いでしょう。

▶ haccoba のサケ

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