全国47都道府県の米を使って仕込む日本酒「絆舞(きずなまい)」の仕込みが、2025年10月11日、福島県会津坂下町の曙酒造で始まりました。このプロジェクトは、東日本大震災の被災地復興を支援し、日本各地の絆を酒という形で結び直そうという思いから2017年に誕生したものです。酒の名に込められた「絆」と「舞」という言葉は、支え合いの象徴と、喜びを分かち合う姿を重ね合わせています。
今回の仕込みには、全国各地の信用金庫関係者をはじめ、地域活性化に携わる人々が参加しました。全国179地域から集められた米が用いられ、曙酒造が中心となって醸造を担当します。同蔵は「天明」や「一生青春」で知られる実力派で、繊細なブレンド技術と高い発酵管理能力を活かし、多様な産地の米を調和させる難題に挑みます。精米歩合は47%と、都道府県の数にちなみ、大吟醸酒としての品質を追求しています。
出来上がった「絆舞」は、大吟醸、純米大吟醸、生酒、貴醸酒の4種類が予定されており、500ml瓶で約8,000本の出荷を見込んでいます。発売は11月26日~27日に東京で開催される「よい仕事おこしフェア」でのお披露目を経て、全国の酒販店などで順次販売される予定です。売上の一部は被災地支援や地域復興のために寄付される仕組みで、飲むことで支援の輪が広がる一本として注目を集めています。
「絆舞」の最大の特徴は、単なる地域コラボレーションにとどまらず、全国を結ぶ象徴的な取り組みである点です。各都道府県から集められる米は、それぞれ気候や風土、育て方が異なります。粒の大きさや水分量もさまざまで、ひとつの仕込みタンクにまとめるには高度な調整が求められます。それでもあえて“混ぜる”ことに挑むのは、地域の個性を一つにまとめ、支え合う日本全体の姿を映し出したいという想いからです。
このプロジェクトは、震災から十数年が経過した今でも「忘れない」というメッセージを発信し続けています。仕込みの際には、各地の生産者の思いが書かれた札が持ち寄られ、酒米とともにタンクへと投入されるという演出も行われました。人と人、地域と地域の絆を象徴する儀式として、多くの参加者の心を打ちました。
「絆舞」は、単なる日本酒ではなく、全国の支援と希望を一つに醸した“祈りの酒”ともいえます。被災地支援から始まったこの試みは、今や日本全体を結ぶ文化プロジェクトへと成長しました。地域の力を束ね、未来へと舞い上がるその姿は、日本酒がいまなお「人をつなぐ文化」であることを雄弁に語っています。
