【衝撃】水はもう「汲む」時代じゃない? 空気を水に変える技術が日本酒造りの常識を覆す

伝統と革新が交差する日本酒の世界に、また一つ、常識を覆す技術が誕生しました。この度、東京港醸造株式会社(東京都港区)から、”空気からつくった水”で仕込んだ世界初の日本酒「江戸開城 空気⽔仕込」が発表されました。これは、日本酒造りの生命線である「水」を、地下水や河川といった既存の水源に頼らず、大気中の水分を凝縮して生成するという、まさに革命的な試みです。

日本酒造りの常識を覆す「空気水」とは?

日本酒造りにおいて、水が占める割合は全体の約80%。それゆえに、蔵元は古くから良質な水を求めて、名水の湧く土地に酒蔵を構えてきました。仕込み水として使われるのは、ミネラル分が適度に含まれた地下水が主流で、その水の質が酒の味わいを大きく左右すると言われています。例えば、灘の「宮水」は硬水で、力強い男酒を生み出し、伏見の「御香水」は軟水で、きめ細やかな女酒を生み出す、というのは有名な話です。

しかし、「江戸開城 空気⽔仕込」は、そうした既存の概念を根本から覆します。使用されているのは、株式会社アクアムの「空気水生成技術」。これは、空気中の水分を高い効率で凝縮し、浄化することで、飲用に適した水を生成するシステムです。この技術を用いることで、水資源が乏しい地域でも、安定して良質な水を確保することが可能になります。

なぜ「空気水」で日本酒を造るのか?

なぜ、東京港醸造はこの技術に着目したのでしょうか。そこには、都市部での酒造りという、現代的な課題が背景にあります。都心部では、良質な地下水の確保が難しく、また、都市の発展とともに水質が変化するリスクも無視できません。こうした環境下で、常に安定した品質の仕込み水を確保することは、酒造りの根幹を揺るがしかねない大きな課題でした。

この「空気水」は、従来の仕込み水とは異なり、不純物が極めて少なく、非常にクリアな軟水となります。このクリーンな水で仕込むことで、雑味がなく、米本来の旨味や香りを純粋に引き出した、これまでにない繊細な味わいの日本酒が生まれることが期待されます。

「水」を空気から生成する意味の考察:未来を見据えた持続可能な酒造り

日本酒の生命線である「水」を空気から生成する、この試みは、単なる技術的な革新に留まりません。そこには、未来を見据えた、持続可能な酒造りへの深い考察が込められています。

現在、地球規模で水資源の枯渇や水質汚染が深刻な問題となっています。従来の酒造りは、特定の地域の水資源に依存してきました。しかし、気候変動や都市化が進む現代において、その依存はリスクになり得ます。空気中の水分を水に変える技術は、地理的な制約を乗り越え、場所を問わずに高品質な水を安定して確保できる可能性を秘めています。これは、水資源が限られる地域での酒造り、さらには災害時や緊急時の生産体制の確保にも繋がり、日本酒業界全体のレジリエンス(強靭さ)を高めることに貢献するでしょう。

また、この技術は、新たな日本酒の表現を可能にします。仕込み水によって酒の個性が決まるというこれまでの常識に対して、空気水は、水を「ニュートラル」な存在に変え、米や酵母の個性をより一層際立たせる役割を担うかもしれません。まるでキャンバスが真っ白になるように、酒造りの新たな可能性を拓く、そんな期待が膨らみます。

「江戸開城 空気仕込水」は、日本酒の未来を占う、画期的な一本となるかもしれません。伝統の技術を継承しつつも、最先端のテクノロジーを柔軟に取り入れる姿勢は、日本の食文化の新たな地平を切り拓く、大きな一歩と言えるでしょう。この斬新な日本酒が、私たちの舌に、そして心に、どのような驚きをもたらしてくれるのか、今から楽しみでなりません。

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サステナブル日本酒「環」、日本酒として初のSalmon-Safe認証を取得――SDGsを牽引する存在へ

神戸新聞社が推進する「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから誕生した日本酒「環(めぐる)」が、この度、米国発の環境認証「Salmon-Safe」を、日本の酒として初めて取得しました。これは、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った日本酒造りの新たな一歩であり、日本酒がSDGs推進の先導者になりうることを示す大きな成果となりました。

「環」が誕生した背景と2021年の発売

「環」は、神戸新聞社が2019年に立ち上げた「地エネと環境の地域デザイン協議会」を母体とする「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから、生まれた日本酒です。2020年度に農家、蔵元、新聞社が連携して取り組みを開始し、2021年9月22日に初めて「地エネの酒 環」として販売が開始されました。

このプロジェクトの特徴は、食品残さや家畜のふん尿を原料とする「バイオガス」をエネルギー源に変え、副産物である「消化液」を有機肥料として酒米「山田錦」の栽培に活用した点にあります。化学肥料や除草剤の使用を抑えた脱炭素農法によって、地域資源を循環させる持続可能な酒造りを実現しました。さらに、環境に配慮したエコロジーボトルなどを導入した上で販売されております。

「Salmon-Safe」認証取得、その意義

このような背景の延長線上で、2025年8月26日、Super Normal社の支援を受けながら「環」がSalmon-Safe認証を取得しました。米国オレゴン州発祥のSalmon-Safeは、水質保全や生物多様性、水源流域の環境保護を重視する厳格な第三者認証です。

日本では日本酒として初の取得となり、Salmon-Safeが求める「川岸の復元」「水資源の保全」「生態系保護」「有害な投入物の段階的廃止」といった基準をクリアした点が高く評価されました。

日本酒とSDGsの親和性

日本酒は、その成り立ちからしてSDGsと親和性が高い存在です。第一に、原料となる米は地域の農業と直結しており、生産者との協働が不可欠です。環境に配慮した米作りを推進することは、食の安全や地域農業の持続に直結します。第二に、水の質が酒質を左右するため、水環境の保全は日本酒造りの根幹であり、自然資源の保護に必然的に取り組むことになります。さらに、酒蔵は地域文化や伝統を継承する役割を担っており、持続可能な社会の中で地域の誇りを守る文化的側面をも担っています。

「環」が示したように、日本酒は国際的な基準を満たすサステナブルな酒造りを牽引できる存在です。地域資源の循環利用、環境保全、文化の継承を同時に体現できる日本酒は、SDGsの理念を実際の形に落とし込む力を持っています。今回の「Salmon-Safe」認証は、世界市場に向けても日本酒が環境先進的な飲料として発信できる契機となるでしょう。

「環」の誕生は、日本酒が単なる嗜好品を超え、社会課題の解決に貢献できることを強く印象づけました。これからも地域と自然を結び、未来世代に受け継がれる酒造りが広がっていくことが期待されます。

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「日本酒&温泉ナビゲーター」認定宿の誕生に寄せて

千葉県君津市の亀山湖畔に佇む「亀山温泉ホテル」が、2025年8月、「日本酒&温泉ナビゲーター」認定の宿第一号として登録されました。この認定は、日本酒と温泉の魅力を観光資源として発信できる人材を育成する資格講座を修了したスタッフが在籍する宿に与えられるもので、観光業界における新たな価値創出の一歩として注目されています。

▶ 大自然の静寂と天然自噴温泉を愉しむ湯宿 亀山温泉ホテル

日本酒と温泉が織りなす文化

日本酒と温泉は、どちらも「癒し」と「地域性」を軸にした文化資源です。温泉はその土地の地質や水脈によって泉質が異なり、訪れる人々に身体的な安らぎを提供します。一方、日本酒もまた、米・水・気候・技術といった地域の要素が味わいに反映されるため、土地ごとの個性が際立ちます。温泉地でその土地の日本酒を味わうことは、地域の自然と文化を五感で体験することにほかなりません。

また、温泉で身体を温めた後にいただく日本酒は、心身ともにリラックスした状態で味覚が研ぎ澄まされ、より深い味わいを感じることができます。特に、ぬる燗や常温で提供される日本酒は、温泉上がりの体温と調和しやすく、心地よい余韻をもたらします。亀山温泉ホテルのように、泉質にこだわりを持ち、料理にも定評のある宿では、日本酒とのペアリングが旅の満足度をさらに高めてくれるでしょう。

さらに、日本酒と温泉には「非日常性」という共通点もあります。どちらも日常から離れた空間で楽しむことが多く、旅の特別感を演出する要素として機能します。例えば、地元の酒蔵が造る限定酒を温泉宿で味わう体験は、その土地ならではの贅沢であり、記憶に残る旅の一幕となります。

地域文化を体感する旅の新しいスタイル

これまで、温泉旅館と日本酒は「自然な取り合わせ」として受け止められてきました。夕食時に地酒が並ぶことは珍しくなく、旅の風情として定着しています。しかし、今後はその関係性をより深く掘り下げ、銘柄の背景や味わいの特徴、さらには健康面での効能などにも注目が集まるべきではないでしょうか。たとえば、アミノ酸が豊富な純米酒は疲労回復に役立つとされ、温泉との相乗効果が期待できます。また、発酵由来の香りや味わいが、温泉地の食材とのマリアージュを生み出す可能性もあります。

今回の認定を受けた亀山温泉ホテルでは、6名のスタッフが「日本酒&温泉ナビゲーター」資格を取得し、宿泊者に対して日本酒と温泉の魅力をわかりやすく伝える取り組みを始めています。このような人材がいることで、単なる宿泊体験ではなく、文化的な学びや発見を伴う旅へと昇華する可能性が広がります。

今後、こうした認定宿が全国に広がることで、地域の酒蔵や温泉地との連携が進み、観光の質が高まることが期待されます。日本酒と温泉の融合は、単なる嗜好品と癒しの組み合わせではなく、地域文化を体感する旅の新しいスタイルとして、ますます注目されていくことでしょう。

日本酒を旅する

まだまだ誤解だらけ~海外の日本酒事情

2025年8月23日付で米国のライフスタイル誌「The Manual」に掲載された記事「3 saké myths busted — surprising truths from a saké pro(日本酒に関する3つの誤解を専門家が解説)」では、アメリカの日本酒専門家ポール・イングラート氏(SakeOne社長)が、日本酒にまつわる誤解とその真実を語りました。この記事は、輸出先2位であるアメリカでさえ、いまだに日本酒が正しく理解されていない現状と、逆にそれが大きな可能性につながることを示しています。

誤解その1「日本酒は熱燗で飲むもの」

海外では、多くの人が「日本酒=熱燗」というイメージを持っています。イングラート氏は、吟醸酒や大吟醸のように香り豊かなタイプは冷やして飲むことで繊細な味わいを楽しむことができ、一方で純米酒などはぬる燗で旨みが引き立つことを指摘。つまり、日本酒は温度によって多彩な表情を見せる飲み物であり、固定観念にとらわれない楽しみ方が推奨されることを語っています。

誤解その2「日本酒はライスワイン」

欧米では日本酒を「ライスワイン」と呼ぶことがありますが、イングラート氏はそれを正しくないと指摘します。ワインは単発酵で造られるのに対し、日本酒はデンプンを糖に変えながら並行してアルコール発酵が進む「並行複発酵」という独自の技法によって造られます。世界的に見ても稀なこの製法こそが日本酒の本質であり、ワインやビールと同列に置くことはできません。日本酒は、「日本酒」という唯一無二のカテゴリーだと語るのです。

誤解その3「日本酒は日本でしか造られない」

日本酒は日本固有の酒と考えられがちですが、現代ではアメリカをはじめ各国で本格的に造られています。特に米国では、ワイン造りやクラフトビール文化の影響も受け、技術力の高いクラフト日本酒が生まれています。日本から学んだ伝統的な技法を生かしつつ、地域の特色を加えた酒造りは、世界における日本酒の普及に大きな役割を果たしつつあります。

誤解があるからこその可能性

イングラート氏の解説から見えてくるのは、日本酒がまだ海外で誤解されているという事実です。「熱燗の酒」「ライスワイン」「日本でしか造れない」といったイメージは、日本酒の多様な魅力を伝えきれていません。しかしその反面、正しい知識を広める余地が大きく存在しています。誤解を一つずつ解消することによって、日本酒はさらなる市場拡大の可能性を秘めているのです。

特に、冷やしてワイングラスで味わうスタイルや、和食以外の料理との相性を紹介することで、日本酒はより幅広い層に受け入れられるでしょう。日本酒はまだ「未知の酒」として捉えられている部分が大きいため、その分だけ、成長の余地も大きいのです。

「The Manual」の記事は、海外における日本酒の理解が不十分であることを浮き彫りにしました。ですが、その誤解を正しく伝え直すことによって、日本酒は「日本限定の酒」から「世界に広がる伝統酒」へと飛躍できます。海外市場における教育や啓蒙は、日本酒文化の未来を豊かにし、さらに多様な飲み手へと広げるための重要な取り組みとなるでしょう。

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日本酒がキャンプシーンを変える|注目の商品群と今後の可能性

近年、日本酒の楽しみ方に新しい潮流が生まれています。それは「屋外に持ち出す日本酒」という試みです。これまで日本酒といえば、自宅や居酒屋、料亭などでゆっくりと味わうのが一般的でした。しかし近年、アウトドア文化の広がりとともに、日本酒をキャンプや登山など屋外のシーンに持ち出して楽しもうという動きが注目されています。

その火付け役となったのが、2017年に朝日酒造とアウトドアブランド・スノーピークがコラボレーションして発売した「久保田 雪峰」です。瓶のデザインはシックでアウトドアの景観に溶け込み、キャンプサイトで焚き火を囲みながら飲むシーンを想定して作られました。この取り組みは「山に入って家飲みと同じ瓶を傾ける」という新しいライフスタイルを提示し、多くの日本酒ファンに衝撃を与えました。

新しい挑戦とパッケージの革新

この動きは全国へと広がり、今年も新たな展開が話題を呼んでいます。先日も、酔鯨酒造株式会社(高知県高知市)が、北海道の地酒専門店「髙野酒店」、そしてアウトドアブランド「NANGA」と手を組み、日本酒をベースにしたアウトドア専用リキュールを発売しました。これもまた「自然の中で味わう日本酒」の新しい表現であり、雪峰以来の流れを受け継ぐ挑戦だといえるでしょう。

一方で、パッケージデザインに新たな意匠を凝らした商品も登場しています。代表的な例が、アウトドア用日本酒「GO POCKET」です。小型で軽量なパウチタイプの容器に詰められており、キャンプや登山に持ち運びやすい形態が特徴です。また、今春話題になった「NARUTOTAI CAMPING SAMURAIセット」も、従来の瓶や缶にない工夫を取り入れ、キャンプ飯との相性を重視した日本酒体験を提案しています。

雪峰や今回の酔鯨の取り組みのように、瓶のまま屋外へ持ち出すスタイルがある一方、GO POCKETやNARUTOTAIのように、利便性や環境対応を考慮したパッケージ革新も進んでいます。これは日本酒が「家で飲むもの」という従来の枠を超え、ライフスタイルの一部として変化してきていることを示しています。

広がる可能性とこれからの課題

屋外で日本酒を楽しむスタイルは、今後さらにクローズアップされていくべきでしょう。ブームを呼び込み、新たなジャンルを創出するためには、キャンプで食べる肉料理や燻製、あるいは山菜や川魚など、自然の恵みと合わせて楽しめる酒質の開発が大きなテーマとなります。また、デザイン面でもアウトドアの雰囲気に調和し、さらに持ち運びやすく環境にも優しい容器の開発が期待されます。例えば、飲み終えた後にゴミとして持ち帰るだけでなく、ゴミなどを入れる密閉容器や軽量容器として再利用できるパッケージが普及すれば、日本酒はアウトドア文化により強く根付くことでしょう。

日本酒が外の世界に踏み出すことは、単なる飲み方の変化にとどまりません。それは自然との関わり方を深め、伝統的な酒文化を現代的なライフスタイルと結びつける新たな試みです。今後も「外で飲む日本酒」の可能性は広がり、キャンプや登山の楽しみを豊かにする存在になっていくに違いありません。

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【日本酒の未来は米にある】「令和の米騒動」が加速させていく酒蔵の変革

8月18日は「米の日」。日本人の食生活に欠かせない米ですが、近年、日本酒の世界でも米をめぐる大きな変化が起きています。海外での日本酒人気が高まる中、酒蔵は単に酒米を調達するだけでなく、米作りそのものに深く関わり、さらには品種開発まで手掛ける動きが加速しているのです。今回は、昨今の米騒動を振り返りつつ、日本酒の未来を担う米作りの新たな潮流についてご紹介します。

令和の米騒動が炙り出した酒米の課題

昨年から続く「令和の米騒動」は、日本酒造りの根幹を支える酒米の脆弱な供給体制を明らかにしました。発端は、国内で深刻化した食用米不足です。食卓を守るため、酒米から食用米への転作が進み、酒米の作付け面積が縮小しました。そこへ天候不順や高温障害、世界的な日本酒需要の高まりが重なり、酒米の収量減と価格高騰が加速。人気品種の山田錦や雄町は特に入手困難となり、一部の蔵では仕込み量の削減や酒質設計の変更を迫られています。
今回の騒動は、酒米生産が特定品種や特定地域に依存していること、そして食用米との需給バランスが崩れたなら、供給が一気に不安定になるという構造的な課題を浮き彫りにしました。

日本酒と「テロワール」~米作りから取り組む蔵の増加

この「米騒動」を機に、酒造りのあり方を見直す動きは加速しています。その中で、テロワールの重要性が再認識されているようです。
世界中のワイン愛好家たちは、その土地の土壌が、ワインの味に与える影響を重んじる「テロワール」という考え方を持っています。日本酒もまた、その土地の米、水、そして造り手の技術が一体となって生まれるものです。海外の日本酒ファンは、日本酒をワインと同じように、その土地ならではの個性や物語を持つものとして捉え始めているのです。

近年、このテロワールの思想が、日本の酒造りにも移入されるようになりました。単に酒米を市場や農家から買い付けるだけでなく、米作りを本格的に手掛けるようになった酒造も増加しているのです。
これにより、酒蔵は安定した酒米の確保だけでなく、その土地ならではの個性を持った「唯一無二の日本酒」を生み出すことができるようになります。米作りから酒造りまで一貫して手掛けることで、より深いテロワールを表現した日本酒が生まれるというわけです。

既存の酒米を超えて~品種開発に挑戦する酒蔵

さらに一部の酒造は、既存の酒米栽培にとどまらず、自社で酒米の品種開発を行うという、より踏み込んだ挑戦を始めてもいます。
これは、理想とする日本酒の味わいを実現するために、既存の酒米では満足できないという強い思いから生まれるものです。

青森県の八戸酒造では、創業250周年を記念して、自社で開発した酒米を用いて、「陸奥八仙 創業250周年記念ボトル」を発売しました。この酒米は、山田錦を超える酒米を目指して12年もの歳月をかけて開発したといいます。
このような品種開発は、多大な労力を要する挑戦です。しかし、その土地の風土に合った、唯一無二の酒米を生み出すことで、酒造は単なる製造業者から、その土地の風土を育む「地域の担い手」へと進化します。

おわりに

今秋、酒造業界は大きな試練を迎えることになります。酒米の安定供給と品質確保は、酒造にとって喫緊の課題です。この状況にどう対応するかで、今後、日本酒を取り巻く環境は大きく変わっていくことになるでしょう。

今日のこの「米の日」、米問題を逆手にとって業界が発展していくことを、日本酒を傾けながら祈らずにはおれません。明日の日本酒が、米作りを中心とする日本の農業を活性化するものとなりますように!

▶ 陸奥八仙 250周年記念ボトル|オリジナル米を使ったはじめての味わい

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【2025年版】ひやおろし解禁間近!秋を映す日本酒の楽しみ方とおすすめ銘柄

立秋を迎え、暦の上では秋となりました。日中の暑さはまだ続いているものの、朝夕の空気にわずかながら秋の気配が感じられるようになると、日本酒の世界でも“秋の便り”が届き始めます。その代表的な存在が「ひやおろし」です。

この時期、蔵元や酒販店、飲食店などから「ひやおろし」や「秋上がり」といった言葉が聞こえてくるようになると、いよいよ秋酒のシーズンが幕を開けたことを実感します。夏の間に熟成されたまろやかで深みのある日本酒が、満を持して登場する季節です。

「ひやおろし」とは何か?

「ひやおろし」とは、冬から春にかけて搾った新酒を一度だけ火入れ(加熱殺菌)し、冷暗所で夏を越して熟成させ、秋口に再火入れせずそのまま瓶詰めして出荷される日本酒のことです。外気と蔵の温度が近くなる「冷や(常温)」の状態で出荷することから、「ひやおろし」と呼ばれています。

火入れの回数が1回だけであるため、酒の持つ繊細な香味や熟成による丸みがバランスよく楽しめるのが特徴です。夏の暑さの中でじっくりと寝かせられたお酒は、角が取れて柔らかく、旨味がしっかりとのった状態で登場します。

冷酒でもぬる燗でもおいしく楽しめ、秋刀魚やきのこ、栗など、秋の味覚と絶妙に寄り添うのが魅力です。

今年の「ひやおろし」もまもなく登場

例年、「ひやおろし」は8月下旬から9月初旬にかけて蔵出しが始まります。今年もすでにSNSや酒販店の情報発信では、ひやおろしに関する話題がちらほら見られるようになってきました。

毎年この時期になると、どの蔵の「ひやおろし」を楽しもうかと気持ちが高まりますが、なかでも個人的に楽しみにしているのが、長崎県壱岐の重家酒造が手がける「よこやま 純米吟醸 SILVER ひやおろし」です。

壱岐発「よこやま」の魅力

「よこやま」は、長崎県壱岐島で造られる日本酒ブランドで、焼酎文化が根付く地域にあって、あえて日本酒の復活に挑んだことで知られています。重家酒造は元々焼酎蔵でしたが、2018年に「よこやま」シリーズで日本酒造りを本格始動させました。

壱岐のきれいな水と、南国の気候を逆手に取った低温発酵技術により、華やかな香りとクリアな味わいを両立させた酒質が高く評価されています。

そのなかでも「よこやま SILVER」は、純米吟醸らしいフレッシュさと上品な香りが特長で、しっかりとした味の輪郭を持ちつつも、透明感のある仕上がりが印象的です。

昨年いただいた「SILVER ひやおろし」は、熟成によってまろやかさが加わり、果実のような香りとふくらみのある旨味が見事に調和していました。秋の夜長に、静かに楽しむのにぴったりの一本だったことをよく覚えています。

今年の仕上がりにも期待

今年は猛暑が続いた影響もあり、ひやおろしにとっては熟成の難しい年かもしれません。しかし、それをどのように乗り越え、仕上げてくるのか。蔵ごとの技術と哲学が問われる年でもあります。

昨日、「よこやま SILVER ひやおろし」の予約が始まったことを知りました。蔵の中でじっくりと旨みを蓄えている酒と、同じ時間を過ごしているのだと思えば、この暑さもなんとか乗り越えていけそうです。今年の仕上がりに期待です!

▶ 重家酒造株式会社(長崎県)|壱岐に復活した日本酒づくり

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終戦の日の日本酒

終戦記念日、8月15日。多くの人々にとって、この日は戦争の記憶を辿り、平和への祈りを捧げる特別な日です。テレビでは記録映画が放映され、全国各地で追悼式典が執り行われます。そんな厳粛な一日を、どのように過ごされているでしょうか。


最近の日本酒ブームは、その多様な味わいやスタイリッシュなボトルデザインで、これまで日本酒に馴染みがなかった若い世代や女性にも広がりを見せています。フレンチやイタリアンといった洋食とのペアリングも楽しまれ、日本酒は単なる「和食のお供」から、より自由で洗練された存在へと進化を遂げました。まさに日本酒の楽しみ方は、大きな広がりを見せていると言えるでしょう。

しかし、終戦の日に日本酒を嗜むという行為は、こうした現代的な楽しみ方とは一線を画しています。それは、日本酒が持つ本来の姿、つまり神事や儀式に欠かせないアイテムとしての役割を静かに見つめ直す機会を与えてくれます。

日本酒は、古来より神事や儀式、そして人々が集う宴席に欠かせない存在でした。米から造られる日本酒には、収穫への感謝、命への敬意、そして人と人との絆を深めるという役割が込められています。私たちの祖先は、豊かな実りをもたらす米に感謝し、その米を酒に変えることで、神々と繋がろうとしました。そして、その酒を皆で分かち合うことで、共同体の結束を強めてきたのです。

ですから、終戦記念日に日本酒を酌み交わすという行為には、特別な意味が宿ります。それは、この日本酒に込められた深い意味を、改めて心に刻む行為―――米という命の恵みを大切に受け継いできた日本の歴史を想い、戦争で亡くなった方々への「鎮魂」と明日を担う者たちへの「乾杯」を通して、平和を願う静かな誓いでこそあるのです。

戦争の時代には、「水盃」を交わし、再び会うことのない別れを惜しむ儀式がありました。終戦記念日に日本酒を酌み交わすことは、もはや二度と水盃を交わすことがない、平和な時代の訪れを静かに願い、誓う行為です。だからこそこの特別な日には、一杯の日本酒に込められた深い意味を、静かに噛みしめてみたいものです。

今日は久しぶりに、故郷の純米酒を開けてみようと思います。

新潟・麒麟山酒造発「麒麟山サワー」:夏の日本酒トレンドと酒サワーの可能性

日本の夏を彩るお酒と言えば、かつては、ビール一択という状況だったのではないでしょうか。しかし近年、その常識を覆す新たなムーブメントが巻き起こっています。その一つに、新潟県の老舗酒造・麒麟山酒造が提案する「麒麟山サワー」があります。

この日本酒サワーは、2019年の夏に登場しました。そのレシピは、日本酒の伝統的なイメージを軽やかに刷新するもので、誰でも簡単に楽しめるのが特徴です。

まず、タンブラーに氷をたっぷりと入れ、「麒麟山 伝統辛口」を注ぎ入れます。この時、マドラーで5回ほど軽く混ぜ、日本酒を冷やしながら氷と馴染ませます。次に、冷やした炭酸水を静かに注ぎ入れます。炭酸が抜けないように静かに注ぐのが美味しさの秘訣です。そして、レモンを軽く絞り、そのままグラスに投入します。最後にマドラーで1回だけ優しく混ぜれば完成です。

このシンプルなレシピから生まれるのは、「麒麟山 伝統辛口」が持つキレのある辛口な味わいと、炭酸の爽快感、そしてレモンの爽やかな酸味が絶妙に調和した一杯です。冷えた状態でもキレの良さが際立ち、口の中に広がる爽快感は、まさに夏の暑さを吹き飛ばすのに最適な味わいです。食事との相性も抜群で、特に和食との組み合わせは、料理の味を引き立てながら、お酒も進むと評判を呼んでいます。

じわりと広がる「KIRINZAN SOUR 夏祭り」、新たな夏の風物詩へ

「麒麟山サワー」の誕生からわずか1年後の2020年からは、居酒屋や飲食店で「KIRINZAN SOUR 夏祭り」と題したキャンペーンが開催されるようになりました。このキャンペーンを通じて、その評判が口コミで広がり、新たな日本酒の飲み方として注目されるようになりました。

特に、日本酒に馴染みの薄かった若年層や女性層に「飲みやすい」「美味しい」と好評を博し、ファンの輪が拡大しました。そして麒麟山サワーを提供する店舗は増え続け、今では、地元新潟に留まらず、全国的に注目されるようになっています。

「酒サワー」という新ジャンルへ、日本酒文化の刷新

現在注目を集めている「酒ハイ」ブームは、新しい「日本酒スタイル」を模索する中で生まれています。「麒麟山サワー」も、そのようなムーブメントの中から生まれてきた飲み方で、日本酒の季節性を解消する一助となっています。

このような新しい飲み方が定着し、さらに、「酒ハイ」の中から「酒サワー」の地位が確立されるというような流れになれば、ブランドが一層意味を持つようになるでしょう。それは、業界を活性化し、日本酒人気を後押しするものになるはずです。

これからも各地の蔵元や飲食店が知恵を絞り、多彩な“夏仕様”の日本酒を提案していけば、夏の風物詩はビールだけでなく、日本酒も堂々とその主役に名を連ねる日が来るでしょう。こうして「麒麟山サワー」をはじめとする夏の日本酒は、単なる季節限定の楽しみ方にとどまらず、日本酒文化そのものを刷新しながら、世界に羽ばたくことになるのでしょう。

▶ 麒麟山 伝統辛口|通称「でんから」。ファンが多い淡麗辛口

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ユネスコ無形文化遺産登録記念式典に寄せて──日本酒文化の継承と革新、その両立をどう図るか

2025年7月18日、東京都内の九段会館にて「伝統的酒造り」ユネスコ無形文化遺産登録記念式典が文化庁主催で行われました。式では文化庁長官・都倉俊一氏より登録認定書のレプリカが、「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」および「日本酒造杜氏組合連合会(日杜連)」に手渡されました。この節目の式典には中央会や関係団体の代表者が出席し、日本酒産業関係者の喜びと決意が共有されました。

日本酒文化の「継承」という重責

ユネスコへの登録は、単なる名誉ではなく、日本酒文化の次世代への継承を国際的にも明確に求められる契機となります。醸造現場においては、杜氏や蔵人といった技術保持者が、こうじ菌を用いた複雑な発酵制御技術を現場で伝承する「徒弟制度」が主軸です。登録要請の背景には、熟練の職人が築いてきた高度な「匠の技」を保存し続けることが、未来のために必要だとの認識が働いています。ただし、人口減少や蔵の高齢化により、後継者不足の問題は依然として深刻であり、技術の継続には大きな困難を伴うことが痛感させられます。

世界からの需要拡大と日本酒の進化

一方で、近年、世界各地で日本酒への関心と需要が急速に高まっています。輸出額は2009年以降で約6倍となり、特にアジア、北米、欧州でのレストランや専門店を中心に、純米酒や吟醸酒をはじめとする高品質日本酒が評価されているのです。

加えて、現代的な製法や味づくりを取り入れた新たなタイプの日本酒も次々と登場し、海外市場向けに様々な戦略が打ち出されています。この多様化は、日本酒文化を国際市場に適応させ、新たな消費者層を獲得する手段となるはずです。

伝統と革新のバランスをどう取るか

このように現代の日本酒を取り巻く環境は、「日本酒文化の継承」という本質的責務と、「新たな世界需要に応える革新」の両者を両立させるという課題があり、以下のようなアプローチで試行錯誤しているような状況です。

1. 二層構造のブランド戦略

伝統製法を追求する「伝統系ライン」と、革新・現代風味を追求する「グローバル展開向けライン」を明確に分け、それぞれのターゲットを区分。

2. 地域文化と観光を結ぶ「体験型発信」

出雲(島根県)では、神話や祭りと結びついた酒造りの歴史を活かし、酒蔵見学・試飲・祭祀体験を通じて文化的価値を伝える取り組みが進んでいます。観光資源と結びつけて、日本酒を文化全体の一部として位置付。

3. クオリティ基準と認証制度による信頼確保

GI登録などで産地・製造方法に対する信頼を確立することでブランド価値を高め、同時に、伝統系には「認定マーク」などを設け、品質・技術の担保を明示。

今後の日本酒の在り方と展望

「伝統的酒造り」の無形文化遺産登録は、日本酒文化が世界的に認められた証とも言えます。その責務とは、先人が築いた技術と精神を後世へと紡ぐことであり、一方で、世界に開かれた挑戦を受け入れつつ、新たな日本酒像を模索することでもあります。

量から質への転換、地域ごとの個性・物語を重視した文化振興、技術革新と伝統の両立、持続可能な若手育成、今、これらを統合する総合戦略が求められています。未来の日本酒は、「匠の技を守る伝統酒」と「革新的なモダン日本酒」が並存し、国内外の多様な味覚や文化意識に応えることで、新しい文化的地平を切り開いていかなければなりません。

式典で語られた感謝と誇りの言葉を起点に、日本酒文化はこれからも技と革新を両輪とし、転がり続けて行かなければならないのです。

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