日本酒に広がる「アッサンブラージュ」の可能性〜ブレンドがもたらす新しい酒造りのかたち〜

近年、日本酒の世界で「アッサンブラージュ(Assemblage)」という言葉が注目を集めています。これは、複数の異なる原酒をブレンドしてひとつの酒に仕上げる手法で、ワインやウイスキーの分野では古くから一般的に用いられてきました。

しかし日本酒では、これまで単一の仕込みやタンクごとの個性を重視する傾向が強く、ブレンドはやや裏方の技法として捉えられてきました。特に純米大吟醸など高級酒では、「単一タンク=純粋」「手間をかけた酒」といったイメージが定着していたため、アッサンブラージュという概念が前面に出ることはあまりありませんでした。

そんな中、この伝統的な価値観に新しい風を吹き込んだのが、富山県の酒蔵白岩で醸す「IWA 5」です。これは、ドンペリニヨンの5代目醸造最高責任者であったリシャール・ジョフロワ氏が手掛ける日本酒で、アッサンブラージュが核となり、バランスとハーモニーを追求したものとなっています。

ブレンドが広げる日本酒の表現力

アッサンブラージュには、酒質を安定させるだけでなく、日本酒の多様な魅力を引き出す力があります。

たとえば、異なる酵母や精米歩合、発酵温度で仕込んだ原酒を組み合わせることで、単一仕込みでは実現できない香りの重層感や、酸味と旨味の複雑なバランスが生まれます。新政酒造の「亜麻猫VIA」では、別々に販売される「亜麻猫」「陽乃鳥」「涅槃龜」をブレンドすることで、甘さと酸の絶妙な調和を実現しています。

同様に、栃木県の「仙禽」なども、味わいのバランスを追求する中で、意図的なブレンドを採用しはじめています。これにより、ロットごとのばらつきを抑えつつ、表現力豊かな酒造りが可能になってきているのです。

さらに今後は、異なる産地の米や水を使用した酒をブレンドする「越境的アッサンブラージュ」や、複数ヴィンテージの酒を合わせる「熟成ブレンド」など、新たな表現の道も広がっていくと考えられます。

今後の展望と新しい市場の可能性

今後、アッサンブラージュは日本酒業界において以下のような広がりを見せると期待されています。

まず、味の「安定化」です。特に輸出や定番ブランドにおいては、毎年安定した品質が求められます。複数の原酒をブレンドすることで、気候や原料の変動にも柔軟に対応することができます。

次に、「熟成酒の活用」です。異なる熟成期間の酒を組み合わせることで、長期熟成の深みと若酒のフレッシュさを同時に表現でき、これまでにない飲み心地が生まれます。

また、今後は「カスタマイズ型のブレンド」や「ブレンド専門ブランド」の登場も期待されます。たとえば、複数の原酒から自分好みにブレンドする体験型の販売や、各地の蔵から原酒を仕入れて独自にブレンドするネゴシアン的なビジネスも考えられます。既に、新潟の「千代の光酒造」や、パーソナルブレンド体験施設「My Sake World」などは、このような取り組みをスタートさせています。

ブレンドは「妥協」ではなく、むしろ「設計」や「創造」として捉えられる時代へと移りつつあります。アッサンブラージュは、酒造りにおける職人の感性や技術を試される芸術的な営みであり、日本酒の未来に多彩な可能性をもたらしてくれることでしょう。

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