日本酒を『食べる』という発想 ~ SAKEICEの現在地と日本酒ブランドとの共創

2020年、日本酒業界の中で少し異色の存在として登場したのが、日本酒アイスクリーム専門店 SAKEICE でした。東京・浅草に1号店をオープンし、日本酒を練り込んだ『ほんのり酔えるアイス』という新しい体験を提案したこのブランドは、日本酒の楽しみ方を大きく広げる試みとして話題を集めました。

SAKEICEの特徴は、日本酒を単なる香り付けではなく、しっかりと原料として使う点にあります。アルコール度数は約4%で、一般的な酒粕アイスとは異なり、日本酒そのものの香りや味わいを感じられる『大人向けスイーツ』として設計されています。

コロナ禍で注目されたEC展開

SAKEICEが注目を集めた背景には、ECの活用もありました。2020年は新型コロナの影響で外出が制限され、浅草の実店舗も一時休業を余儀なくされました。しかし同年、クラウドファンディングを活用した通販を開始し、「家で楽しめる日本酒スイーツ」として全国へ販売を広げていきました。

これは単なる代替手段ではなく、結果的にSAKEICEの知名度を大きく押し上げることになります。日本酒ファンだけでなく、スイーツ好きやギフト需要にも広がり、SNSでも「酔えるアイス」という話題性が拡散しました。

日本酒は本来、飲食店での体験が中心の酒ですが、SAKEICEはそれを「デザート」として家庭にも届けた点で、従来の酒文化とは違う市場を開拓したといえるでしょう。

店舗と海外への広がり

店舗展開も着実に進みました。浅草に続き、2020年には渋谷にも店舗を出店し、観光客や若い層を取り込む拠点を形成しました。

さらに近年は海外にも目を向けています。特に台湾市場への進出が進められており、日本酒人気の高まりとインバウンド需要を背景に、SAKEICEを通じて日本酒文化を伝える試みが続いています。

また2025年には東京駅前で日本酒バー「SAKEICE BAR!」の展開も始まり、アイスだけでなく、日本酒そのものを楽しめる場としてブランドを広げています。

つまりSAKEICEは、単なるスイーツブランドではなく、日本酒体験を広げるプラットフォームへと進化しつつあるのです。

酒蔵コラボが生む相乗効果

SAKEICEの成長を支えているもう一つの要素が、日本酒ブランドとのコラボレーションです。例えば北海道の酒蔵の酒を使った「男山アイス」など、具体的な銘柄を使ったフレーバーが登場しています。また、日本酒ベンチャーや酒蔵と共同開発した限定アイスなど、酒の個性をそのままデザートに転換する試みも行われています。

この仕組みは、酒蔵側にとってもメリットがあります。日本酒は瓶で販売されると、味の違いを理解するには一定の知識や経験が必要です。しかしアイスであれば、香りや甘味といった要素が直感的に伝わります。つまりSAKEICEは、酒蔵にとっての新しいプロモーション媒体として機能しているのです。

実際、複数の酒蔵とコラボしたフレーバーを展開することで、日本酒の個性を「食べ比べる」体験として提供することも可能になっています。

日本酒の未来を映すブランド

SAKEICEの取り組みは、日本酒の未来を考える上でも興味深い事例です。日本酒は長い歴史を持つ酒ですが、その楽しみ方は必ずしも固定されたものではありません。飲むだけでなく、料理やデザートの形で表現することで、まったく新しい市場が生まれる可能性があります。

SAKEICEは、日本酒を「飲料」から「体験」へと拡張したブランドともいえるでしょう。そして、酒蔵とのコラボレーションが続く限り、このアイスは単なるスイーツではなく、日本酒の多様性を伝える小さなショーケースであり続けるのかもしれません。

日本酒を飲むのではなく、食べる。その発想は、日本酒文化の裾野を静かに広げているようにも見えます。

おいしい日本酒が見つかる最新トレンドと飲み方ガイド