10月1日は「日本酒の日」 歴史と現在、そして未来への課題

10月1日は「日本酒の日」と定められています。酒造業界にとって、この日は単なる記念日以上の意味を持っています。そもそも「日本酒の日」が生まれたのは1978年、日本酒造組合中央会が制定したことに始まります。その背景には、酒造年度が10月に切り替わるという伝統的な習わしがあります。昔から新米の収穫が秋に始まり、それを原料とする酒造りが10月から翌年にかけて本格化することから、酒蔵にとっての「一年の始まり」は10月でした。また十二支の「酉」が「酒壺」を意味する文字であることも後押しし、10月1日が象徴的な日として選ばれたのです。

近年では、この日を機に日本酒の魅力を広める取り組みが各地で行われています。今年も全国の酒蔵や飲食店が趣向を凝らしたイベントを準備しています。東京や京都などの都市部では試飲会や蔵元との交流イベントが予定され、地方都市では地域色を活かした酒祭りや利き酒ラリーも開催されます。さらにオンラインでも蔵元とつなぐリモート試飲会や、日本酒と料理のペアリング体験企画が予定され、コロナ禍を経て定着した「デジタルでの日本酒体験」も健在です。今年は特に若い世代へのアプローチが重視され、SNS連動のキャンペーンや、音楽・アートと組み合わせたイベントが注目を集めています。

過去の「日本酒の日」にも、話題を呼んだ出来事が少なくありません。2015年には全国の酒蔵が同時刻に一斉乾杯を呼びかける「全国一斉日本酒で乾杯!」キャンペーンが行われ、大きな広がりを見せました。また、近年では「メガネの日」と同じ10月1日であることにちなみ、「メガネ専用」と名付けたユニークな日本酒が発売され、SNSを中心に話題になりました。これらは「日本酒の日」がまだ広く知られていない中で、人々に関心を持たせる工夫の一例といえるでしょう。

しかし、フランスワインの「ボージョレ・ヌーヴォー解禁日」と比べると、その知名度は依然として高いとはいえません。ボージョレが国を挙げた輸出戦略やメディアの徹底した情報発信を背景に、季節の一大イベントとして根付いたのに対し、「日本酒の日」は広報のスケールも限られてきました。また、日本酒は種類や飲み方が多様であるため「統一的な楽しみ方」を打ち出しにくい点も普及の難しさにつながっています。

本来、「日本酒の日」は新米を使った仕込みが始まる「仕事始めの日」であり、新酒を並べる解禁イベントではありません。けれども、秋の訪れを告げるこの時期は、ちょうど「ひやおろし」が旬を迎え、さらに旧暦9月9日の「重陽の節句」にも近いことから、熟成を経て味わいが深まり、燗にすると一層映える酒の魅力を伝える絶好のタイミングです。新たに仕込み始める期待感と、前年に仕込まれた酒の円熟を楽しむ喜びが重なる時期こそ、まさに日本酒文化の奥行きを示すものといえるでしょう。市場にとっても、秋から冬にかけての熟成酒を戦略的に打ち出し、食文化と結びつけて広めていく大きなチャンスを秘めています。

しかし現状を見ると、「日本酒の日」の知名度は全国でわずか5%にとどまるとされ、制定から40年以上を経た今も、愛好家や関係者のあいだでの小さな祭りにとどまっているのが実情です。残念ながら、その間に国内市場は縮小を続け、若い世代や海外市場への訴求も十分とはいえません。つまり業界の枠を超えて、一般消費者を巻き込む「共通体験」としての魅力を打ち出せなければ、市場の尻すぼみを食い止める力を発揮できないのです。

そのためには、「立春朝搾り」のように全国規模で統一された分かりやすい仕掛けをつくり出すことが求められます。例えば、10月1日に合わせて「全国一斉ふるまい酒」を実施し、参加者には、インターネット上で投票や交流ができる「日本酒SNS」に招待するなどというシステムを作ってみてはどうでしょうか。デジタル時代にふさわしい双方向型の企画を取り入れることで、単なる飲酒の記念日から「みんなで参加し、語り合い、日本酒を再発見する日」へと進化させることもできるのではないでしょうか。

酒蔵の仕事始めの日としての原点を大切にしつつ、旬の「ひやおろし」や燗酒文化を前面に打ち出し、さらに全国の消費者がオンライン・オフラインを問わず一斉に参加できる仕掛けを組み合わせること。そうした工夫が積み重なって初めて、「日本酒の日」は伝統の継承だけにとどまらず、新しい市場を切り開く力を持つ一大行事へと成長していくのではないでしょうか。

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静岡の地酒『からっ風会』オリジナル酒が今年も登場|花の舞酒造と地域酒販店が日本酒の日に届ける伝統の味

静岡県内の酒販店で組織する「からっ風会」が、1989年から継続して取り組んでいるオリジナル日本酒の販売が、今年も10月1日の「日本酒の日」に合わせて始まります。この日本酒は、県内を代表する蔵元である花の舞酒造に醸造を依頼し、地域酒販店が自らの発意と責任を持って企画するもので、すでに三十年以上の歴史を刻んでいます。

「からっ風会」は、静岡県西部を中心とした酒販店の有志が集まり、日本酒の魅力を広めるとともに、地域の消費者と地元酒をつなぐことを目的として発足しました。会の名称は、冬に吹き荒れる遠州のからっ風に由来し、厳しい風土を逆に力強さへと転じる象徴として掲げられています。その精神は、日本酒の販売を単なる商取引にとどめず、文化的・地域的なつながりとして育んでいこうという思いに根ざしています。

花の舞酒造は、静岡県浜松市に本拠を構える老舗の酒蔵で、地元産米と天竜川水系の伏流水を生かした酒造りで知られています。全国的にも「地酒」ブームが起こる以前から、地域性を重んじた醸造姿勢を守り続けてきた蔵であり、からっ風会との協働はまさに「地元と共に歩む酒造り」の象徴といえます。

この取り組みの大きな意義は、酒販店が主導するという点にあります。一般的に新商品の企画や販売戦略は蔵元が中心となりますが、からっ風会では「売り手」である酒販店自らが発案し、顧客の声を直接反映させています。地域の消費者と最も近い距離にいる小売店だからこそ、求められる味わいやスタイルを的確に把握できるのです。そのため、この日本酒は毎年「消費者目線」を強く意識した味わいに仕上げられ、購入者からの支持も長年にわたって安定しています。

また、酒販店が主体となることは、販売意欲の向上にも直結します。自らが関わった商品であれば、ただの仕入れ品ではなく、自店の看板商品として積極的に紹介したいという思いが自然と芽生えます。こうした主体性が、酒販店と消費者の関係性をより強固にし、地域市場に根ざした日本酒文化を支えてきました。

さらに、こうした取り組みは、酒蔵と酒販店が対等な立場で協力する新しい関係性のモデルともいえます。日本酒業界では、かつて酒販店が蔵元に完全に依存する構造が主流でした。しかし流通の自由化や消費者嗜好の多様化が進む中で、売り手が自ら動き、商品づくりに参画する姿勢は、時代の変化に即した形といえるでしょう。

三十年以上続いていること自体が、この試みの成功を証明しています。単なる限定酒としての一過性に終わらず、毎年恒例の行事として地域の人々に浸透しているのです。消費者にとっては、秋の訪れとともに待ち望む「風物詩」のような存在となり、地元の誇りを象徴する酒として愛されています。

近年、日本酒市場は縮小傾向にある一方で、クラフト的な小ロット醸造や、地域の物語を背負った商品が注目を集めています。その意味でも、からっ風会の取り組みは先駆的であり、全国的に見ても独自の価値を放っています。地域に根差した販売網と、伝統ある蔵元の技術力が結びついたこのプロジェクトは、日本酒の未来を考える上でも重要な示唆を与えてくれるでしょう。

10月1日から店頭に並ぶ今年の「からっ風会」オリジナル酒も、きっと地域の食卓を彩り、人々の交流を温める存在になるはずです。酒販店が主導することで生まれる地域性と親しみやすさこそが、この酒の最大の魅力といえるのではないでしょうか。

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