『古酒』ANA国際線ファーストクラスに初採用~2026年、飛躍の年となるか熟成日本酒

長期熟成させた日本酒、いわゆる「古酒」が、新たなステージへと踏み出しました。2025年12月1日から、熟成酒専門ブランド「古昔の美酒(いにしえのびしゅ)」によるブレンド古酒「INISHIE 匠 No.1 -Doux-」が、ANA国際線ファーストクラスで機内提供されることになったのです。日本酒の古酒が同クラスの正式採用となるのは初めてで、国際的な場で古酒が本格的に評価され始めた象徴的な出来事といえます。

採用された古酒は、1990年代から2010年代初頭にかけて醸造された異なる酒蔵の熟成酒をブレンドした一本で、長い時間が生み出す蜜のような甘みや、穏やかな酸、余韻の深さが特徴とされています。新酒にはない「時が造る味わい」を、世界中の富裕層やビジネストラベラーが体験することになる点は、古酒の価値が国際的に広がるきっかけとなりそうです。

ただし、日本酒の古酒は決して新しい存在ではありません。歴史を遡れば、平安時代にはすでに熟成させた酒が珍重され、江戸時代になると「三年物」「五年物」といった長期熟成酒が上層階級に好まれていました。むしろ、現在一般的な「しぼりたて」や「フレッシュさ」を重視する酒文化のほうが近代的であり、古酒はかつての主流のひとつだったともいえます。

ところが、戦後の大量生産や嗜好の画一化、冷蔵技術の発達により、日本酒は「新しいほうが良い」とされる傾向が強まりました。結果として、古酒は一部愛好家の世界に留まり、一般市場では長らくマイナーな位置付けに甘んじてきました。

その状況を変え始めたのが、ここ10年で急速に進んだ多様化の波です。ワインやウイスキーなど、熟成を価値とする酒の人気が世界的に再び高まり、消費者の受容度が高まったこと、さらに日本酒の海外展開が進み、「複雑さ」や「深化」を持つ味わいが求められるようになったことが追い風になりました。古酒を扱う蔵元やブランドも増え、熟成専用倉庫の整備、ブレンド技術の向上など、産業としての基盤も整いつつあります。

今回、ANAファーストクラスに採用されたことは、この流れが一段階進んだことを示す出来事だといえるでしょう。国際線のファーストクラスは、世界中の高級酒が並ぶ舞台であり、各国のエアラインソムリエが厳格に選定を行います。その席に日本の古酒が選ばれたことは、味わいの個性はもちろん、熟成酒としての完成度が世界基準で認められたことを意味します。

さらに、国際線という「発信力の強い場」で提供されることで、興味をもった海外客が日本で古酒を探す、あるいは輸出商社が新たな商材として扱うなど、実需の拡大にもつながる可能性があります。これまで古酒は「日本酒の中の小ジャンル」とされてきましたが、この出来事は市場の位置付けを変える転機になるかもしれません。

2026年、日本酒の古酒はさらに注目が高まると見られます。熟成技術の進化、蔵元による新シリーズの展開、外食産業でのペアリング提案など、古酒が活躍する場は拡大しつつあります。今回のANA採用は、その流れを加速させるひとつの象徴です。

『時を味わう日本酒』 が、来年はいよいよ本格的に飛躍する一年となるかもしれません。

▶ INISHIE 匠 No.1 -Doux-|国際線ファーストクラスに搭乗する初の日本酒古酒

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【海の日に乾杯】深海の神秘が育む至高の一滴 ~海底熟成酒の歴史と進化~

今日、7月の第3月曜日は「海の日」です。海の恩恵に感謝し、海洋国家日本の繁栄を願う日ですね。近年、この広大な海の神秘的な力を借りて、日本酒を熟成させるという、ロマンあふれる取り組みが注目を集めています。それが「海底熟成酒」です。静寂な深海でゆっくりと時を重ねることで、通常の熟成酒とは一線を画す、まろやかで奥深い味わいへと昇華する海底熟成酒の魅力に迫ります。

海底熟成酒、そのロマンの始まり

海底熟成の概念自体は、決して新しいものではありません。古くは沈没船から引き揚げられたワインが、陸上保管のものよりも格段に美味しいと評判になったエピソードが、その効果を裏付けるかのように語り継がれてきました。特に、2010年にバルト海の海底で発見された1840年代のシャンパンは、170年以上の時を超えてもなお、その品質を保ち、専門家を驚かせたのです。この「沈没船ワイン」の発見が、意識的な海底熟成への関心を高めるきっかけの一つとなったと言えるでしょう。

日本酒における海底熟成の歴史は、比較的近年になって本格化しました。その先駆けとなったのは、古酒を深く探求する長期熟成日本酒Bar「酒茶論」が、2013年に立ち上げた「海中熟成酒プロジェクト」のような取り組みが挙げられます。現在では全国へと波及し、太平洋・日本海・瀬戸内海など、様々な海域での海底熟成酒が誕生しています。

なぜ海底なのか? 深海の恵みがもたらす変化

では、なぜ深海が日本酒の熟成に適しているのでしょうか。その理由は、陸上では再現が難しい独特の環境にあるのです。

第一に挙げられるのが「安定した水温」です。水深が深くなるほど、年間を通して水温の変化が少なく、一定の温度を保つことができます。日本酒の熟成において、温度変化は品質に悪影響を及ぼす要因の一つとされており、安定した環境は均一な熟成を促します。

次に、「適度な水圧」も重要な要素です。水深数十メートルにも及ぶ海底では、想像以上の水圧がかかります。この高圧環境が、酒質にどのような影響を与えるのかはまだ完全に解明されていない部分も多いのですが、分子レベルでの変化を促し、よりまろやかで複雑な酒質を形成すると考えられています。

そして、「完全な暗闇」も欠かせません。光は日本酒の劣化を早める天敵です。特に紫外線は酒中の成分と反応し、不快な「日光臭」を発生させる原因となります。光が一切届かない深海は、酒の品質を健全に保ち、熟成を促進するための理想的な環境と言えるでしょう。

さらに、「微細な揺れ」も熟成に良い影響を与えている可能性が指摘されています。海底では、潮の流れや波浪によるごく僅かな揺れが常に存在するのです。この微細な振動が、酒中の分子の結合や分解を促進し、より滑らかな口当たりや、複雑な香りを引き出すという見方もあります。

これらの複合的な要因が、海底熟成酒に特有のまろやかさ、深み、そして熟成香をもたらすと考えられています。

海底熟成酒の現状と未来

現在、海底熟成酒に取り組む蔵元は全国に広がりを見せています。古酒で有名な岐阜県の「達磨正宗」(白木恒助商店)など、各地の銘酒が深海での眠りを経て新たな個性を獲得しているのです。

熟成期間も様々で、数か月から数年、中には10年以上の長期熟成を目指すプロジェクトも進行中です。引き上げられた海底熟成酒は、その希少性とユニークなストーリー性から、贈答品や記念品としても高い人気を博しています。

一方で、海底熟成には課題も存在します。海底環境への影響、容器の耐久性、引き上げ作業のコストなど、克服すべき点は少なくありません。しかし、これらの課題をクリアし、より持続可能な形で海底熟成に取り組むための研究開発も進められているのです。また、海底熟成されたお酒の品質評価や、熟成メカニズムの科学的な解明も今後の重要なテーマとなるでしょう。

海の日を迎え、改めて海の恵みに思いを馳せる時、深海で静かに熟成の時を待つ日本酒に、私たちは無限のロマンと可能性を感じます。海底熟成酒は、単なるお酒という枠を超え、海洋国家日本の新たな文化、そして未来への希望を象徴する存在となりつつあります。深海の神秘が育む至高の一滴は、これからも私たちに驚きと感動を与え続けてくれることでしょう。

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