10月6日は仲秋の名月~酒と月のおはなし

月見の風習は、中国・唐の中秋節(陰暦8月15日)に由来します。奈良時代(8世紀)に遣唐使がもたらしたとされ、宮中行事として定着しました。最初は貴族たちが詩歌を詠み、音楽を奏でる雅な宴でした。そこでは酒も欠かせぬものであり、池に浮かぶ月を眺めながら、盃を交わしたと考えられています。

平安貴族の「観月の宴」

平安時代になると、この風習は宮廷文化の象徴となります。特に有名なのは、池のほとりで舟を浮かべて行う「舟遊び」。
盃を水面に浮かべ、流れ着くまでに詩を詠む「曲水の宴」と同じ発想で、杯に映る月を飲むように見立てる「飲月」の美意識が生まれました。

紫式部や清少納言の随筆にも月見の情景が登場します。単なる宴ではなく、自然と一体化する精神行為として、月と酒は密接に結びついていたのです。

民間へと広がる江戸時代

江戸時代になると、月見は庶民にも広まりました。稲の収穫期にあたることから、収穫祭・豊穣祈願の意味が強くなります。
農村では「芋名月」と呼ばれ、里芋・団子・栗・豆・すすきを供えて月を拝みました。月見団子は、稲穂に見立てたすすきとともに供えられ、実りへの感謝を象徴します。このときに飲まれるのが「月見酒」。

現代ではその伝統を受け継ぎ、前年の酒を秋まで熟成させた「秋あがり」や「ひやおろし」を楽しむのが定番となっています。

月見酒のしきたり・作法

月見酒は、月を眺めながらゆっくり酒を味わう行為です。
盃に酒を注ぎ、その表面に月を映して飲むという作法がありました。これを「盃中の月」と呼び、古来から詩歌や茶の湯の題材にもなっています。
飲むことで「月を体に取り込む」「月の気を受ける」とされ、吉兆の象徴でもありました。

なお、伝統的な月見の供え物には次のような意味があります。

【月見団子】満ちた月を象徴。通常15個を三方に盛る(十五夜にちなむ)。

【すすき】稲穂の代わり、神を招く依代(よりしろ)。

【里芋・栗・豆】秋の収穫への感謝。「芋名月」の名の由来。

【清酒】神々へのお供え。豊作祈願と感謝の象徴。

これらを縁側や窓辺、月の見える場所に供え、家族で月を眺めながら酒を酌み交わすのが伝統的な形です。

現代に生きる月見酒

近年は、酒蔵や観光地で「観月会」や「月見の宴」が復活しています。京都では、ライトアップされた夜空の下で日本酒を味わう催しが人気を集めています。
また、酒造も「満月仕込み」や「月光」など、月をテーマにした限定酒を販売し、古の風習を現代の感性で再解釈しています。

デジタル時代になっても、月を眺めながら静かに盃を傾ける時間には、どこか懐かしい安らぎがあります。
月見酒は、自然と人、神と生活をつなぐ文化的な儀礼として、今も日本人の心の中に息づいているのです。

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