新品種「越のリゾット」で醸す日本酒『リゾッシュ』──地域住民が動かす革新的酒造プロジェクトの現在地

福井県で進行中の「越のリゾット」を使った日本酒づくりは、地域住民が主体となって立ち上げた、約3年にわたる地域活性化プロジェクトです。地元農家が育てる新品種「越のリゾット」を、単なる農産物にとどめず新たな地域ブランドとして育てるべく、試験醸造やストーリーづくりが進められてきました。

その中で醸造パートナーとして参加したのが福井市の舟木酒造です。住民が原料を育み、酒蔵が技術で応える形で開発された日本酒は『リゾッシュ』と名付けられ、地域の想いを象徴する一本として注目されています。

越のリゾットを酒にする意味──食用米の個性と新たな食文化

「越のリゾット」は、リゾット調理向けに開発された福井生まれの新品種で、高アミロースによる粒立ちの良さが特徴です。この性質は酒米とは異なるデンプン構造を持ち、麹の食い込み方、溶け方、香味の出方に独自の変化を生みます。そのため『リゾッシュ』は、華やかな吟醸香よりも米の旨味と軽い粘性が心地よく残るタイプになりやすく、リゾットや魚介、クリーム系の料理など、洋食とのペアリングに自然な接点が生まれます。

つまり、越のリゾットで酒を醸すことは、単なる原料転用ではなく、米の品種特性と料理との文脈をセットにした新しい日本酒を提案する試みでもあります。日本酒を「食に寄り添う飲料」として再構築する可能性に満ちている点が、今回のプロジェクトの最大の魅力です。

このプロジェクトの本質は、酒造りそのものより、地域が共に価値を創るプロセスにあります。越のリゾットの栽培、収穫イベント、醸造の公開、試飲会、販売までを住民が関わることで、商品が『地域の物語』として育っていきます。

舟木酒造はその中心で技術的な裏付けを提供し、地域の想いを酒に変換する役割を担っています。こうした分業を通じて生まれる『リゾッシュ』は、産地の顔が見える地酒であり、地域の食材とのコラボや観光資源としても機能していくものと考えられます。

今後の展開──持続可能な仕組みへ

プロジェクトの継続には、越のリゾットの安定生産、醸造データの蓄積、ブランド力の強化が欠かせません。特に、食用米での酒造りは毎年の米質変動が味わいに反映されやすく、地域全体で品質を支える仕組みづくりが重要になります。

今後は、洋食レストランとの連携や、福井の食文化をテーマにしたイベント、さらには海外展開など、『越のリゾット×日本酒』という独自性を活かした広がりも期待できます。


『リゾッシュ』は、地域住民が中心となり、地元の新品種を活かすために生まれる挑戦的な日本酒です。越のリゾットの個性を活かした味わいは、これまでの酒米中心の日本酒文化とは異なる、新たな食の提案を可能にします。

地域と酒蔵が共につくり上げるこのプロジェクトは、日本酒の未来に『土地の物語を飲む』という新しい楽しみ方を提示しており、今後の発展が期待されます。

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