アウトドアブランド・Patagonia(パタゴニア)が、福島県郡山市の酒造・仁井田本家とタッグを組み、12月11日より日本で初めてとなる「リジェネラティブ・オーガニック認証(RO認証)」を取得した日本酒「やまもり 2025」を発売します。
この取り組みは、目新しい新商品の発売というだけでなく、農業・醸造・流通・消費という「食のサイクル」の中で、環境・社会・経済を統合的に変えていこうという意図が込められています。
認証の背景と意義
「リジェネラティブ・オーガニック認証」とは、従来の有機農業からさらに一歩進み、 ①健全な土壌づくり ②動植物の福祉 ③社会的公平性 の3つの柱を掲げる農法・認証枠組みです。この認証は世界46カ国で約340ブランドが取得するに至っており、2025年11月時点では米の水田を対象としたガイドラインも制定。「やまもり 2025」は、日本酒として国内初のRO認証取得製品となりました。
この「やまもり 2025」を醸造した自然酒造りで有名な仁井田本家では、自社田で栽培した酒米「雄町」を100%使用し、農薬・化学肥料を使わない水田稲作を実践。また、自社山のスギで作った木桶仕込みという伝統技法も併用。こうした「生態系を守りつつ、地域資源を活用した酒造り」が、RO認証取得の鍵となったのです。
RO認証取得でどうなる
このプロジェクトが持つ意味合いは多岐にわたりますが、下記のような影響が考えられます。
環境インパクトの拡大
水田やその周辺の生態系は、単に米を作る場というだけでなく、野鳥・昆虫・魚介類など多くの生物を育む場です。RO農法を水田に適用することで、そのような生態系の回復・維持につながる可能性があります。また、土壌が健全になることで炭素を貯留し、温室効果ガスの削減にも寄与するとされます。RO認証そのものが「食を通じて気候変動・自然危機と向き合う手段」として位置付けられています。
地域・伝統産業との融合
仁井田本家のような300年以上の歴史を持つ酒造が、最新の持続可能性を取り入れた酒造りに挑む姿勢は、地域産業の新たな方向性を示すものです。老舗であっても環境・社会視点を取り入れることで、伝統×革新の融合モデルを提示していると言えます。
消費者・ブランドの責任意識の高まり
Patagoniaはもともとアパレル・アウトドア分野で環境・社会的責任を重視してきたブランドです。その延長線上で「酒」に環境的ストーリーを持ち込んだ点が注目されます。消費者も「何を・どうやって・誰が作ったか」を問う時代にあり、こうした背景を持つ日本酒への関心は高まる可能性があります。
農業・酒造産業への波及効果
今回のRO認証取得がモデルケースとなることで、他の酒蔵・農家にも「水田や酒米栽培において持続可能な手法を取り入れる」という動きが加速する可能性があります。また、流通・小売・消費のサプライチェーン全体で、より高い環境・社会基準を求める潮流が強まるでしょう。
もちろん、RO農法に対する疑問が存在したり、認証取得にはコストや手間がかかるなど、この種の取り組みは慎重に見ておくべき点もあります。ただ、「やまもり 2025」の発売は、 環境・社会・地域の循環を前提とした食の未来像 を提示するものです。Patagoniaと仁井田本家の協働は、酒造りを通じて「土・人・生き物・地域」がつながる物語を紡ぎ出しています。これがうまく実を結べば、日本酒業界だけでなく、農業・食品産業・消費文化全体に新しい基準やムーブメントを生む契機となるかもしれません。
今後は、実際の味わいや消費者の反応、他業界・他地域での波及効果などにも注目したいところです。
