クラフトサケの波に乗って「サケグリア」がやってくる~新たな日本酒の楽しみ方

近年、日本酒業界に「クラフトサケ」という新たな潮流が生まれ、多様な味わいや自由な発想のお酒が次々と登場し、愛飲家を魅了しています。このクラフトサケの台頭は、既存の日本酒の枠にとらわれない柔軟な発想を促し、その影響は、にわかに「サケグリア」への関心をも高めているようです。伝統的な「清酒」のイメージを刷新し、日本酒の裾野を広げる二つの動きは、それぞれ異なるアプローチながらも、新たな飲酒文化の創造に貢献しています。

クラフトサケとは何か? 革新的な醸造の世界

まず、昨今の日本酒市場を語る上で欠かせないのが「クラフトサケ」です。これは、簡単に言えば「日本酒の製造技術をベースとしながらも、酒税法上の『清酒』の定義に縛られずに、多様な原料や製法を取り入れて造られたお酒」を指します。一般社団法人クラフトサケブリュワリー協会が提唱する概念であり、その最大の特徴は、以下の点に集約されます。

【多様な副原料の使用】
通常の清酒が米、米麹、水、そして少量の醸造アルコールのみを原料とするのに対し、クラフトサケは仕込みの段階でフルーツ(柑橘類、リンゴ、ベリーなど)、ハーブ(ミント、レモングラスなど)、スパイス(シナモン、カルダモンなど)、さらにはコーヒーや茶葉、野菜などを加えることが許容されます。これにより、これまでの日本酒にはなかった、斬新で個性豊かな風味や香りが生まれます。

【製法の多様性】
「搾り」の工程を経ないどぶろくのような形態や、発酵方法に工夫を凝らすなど、酒税法で定められた清酒の製法以外の方法を用いることで、テクスチャーや口当たりにも多様性が生まれます。

【法的分類の変化】
これらの製法上の特徴から、クラフトサケの多くは酒税法上「その他の醸造酒」や「雑酒」に分類されます。つまり、厳密には「日本酒(清酒)」ではないものの、その根底には日本酒造りの精神と技術が息づいています。

【小規模醸造と個性】
「クラフト」の名の通り、多くは小規模な醸造所(クラフトサケブリュワリー)で、醸造家の自由な発想と探求心に基づいて造られます。これにより、大量生産品にはない、それぞれの蔵元の個性や地域性が強く反映されたお酒が生まれます。

クラフトサケは、日本酒の伝統的なイメージを打ち破り、新たなファン層を獲得することに成功しています。特に若い世代や海外の消費者からは、その多様な味わいや、食事とのペアリングの面白さが高く評価されています。

にわかに注目を集める「サケグリア」とは?

一方、「サケグリア」は、クラフトサケとは異なるアプローチで、日本酒の新たな可能性を切り開いています。サケグリアとは、完成した日本酒をベースに、フルーツ、ハーブ、スパイスなどを漬け込んで作られる、いわば「日本酒カクテル」です。ワインをベースにするサングリアの日本酒版と考えると、イメージしやすいでしょう。

サケグリアが注目を集める背景には、クラフトサケによって「日本酒は自由な発想で楽しめる」という認識が広がったことが大きく影響していると考えられます。クラフトサケが醸造段階で多様な素材を取り込むことで、日本酒の味の可能性を広げたのに対し、サケグリアは飲用段階でのアレンジによって、その魅力を引き出すことを目指します。

手軽なアレンジ性
クラフトサケが専門的な醸造設備と知識を必要とするのに対し、サケグリアは飲食店はもちろん、家庭でも簡単に作ることができます。好きな日本酒に、旬のフルーツや手軽なスパイスを漬け込むだけで、手軽にオリジナルのサケグリアが完成します。

飲みやすさと華やかさ
日本酒特有の風味をフルーツの爽やかさや甘みで和らげることで、日本酒初心者や、これまであまり日本酒を飲まなかった層でも親しみやすく、カクテル感覚で楽しめます。見た目の彩りも豊かで、SNS映えすることから、パーティーシーンや女子会などでの需要も高まっています。

日本酒の新たな消費提案
サケグリアは、既存の日本酒に新たな価値を付加し、消費の機会を創出します。低価格帯の日本酒でも、フルーツとの組み合わせで新たな魅力を引き出すことができ、家庭での日常的な飲酒シーンにも日本酒を広めるきっかけとなります。

クラフトサケとサケグリア:異なるアプローチが生む相乗効果

クラフトサケとサケグリアは、どちらも日本酒の多様化を促し、市場を活性化させる点で共通しています。しかし、その違いは明確です。

【クラフトサケ】
「醸造段階」で伝統の枠を超え、新しいお酒を「生み出す」こと。

【サケグリア】
「飲用段階」で既存の日本酒に手を加え、新たな「楽しみ方」を提案すること。

クラフトサケが醸造家による創造性と技術革新の象徴であるならば、サケグリアは消費者自身が日本酒をアレンジし、自分好みの味わいを創り出す「DIY的な楽しみ」を創出します。

クラフトサケの登場が、消費者の「日本酒に対する固定観念」を打ち破り、「日本酒はもっと自由で多様なもの」という認識を広げたことで、サケグリアのような既存の日本酒のアレンジも、より受け入れられやすくなったと言えるでしょう。

この二つの動きは、それぞれが独立しつつも、日本酒が「伝統的な飲み物」から「多様なライフスタイルに寄り添う飲み物」へと進化していく過程において、互いに相乗効果を生み出していると考えられます。クラフトサケによって生み出される個性豊かな日本酒が、さらにサケグリアのベースとして活用され、無限の組み合わせが生まれる可能性も秘めています。

日本酒の未来は、伝統を守りつつも、こうした自由な発想と新しい試みが交差する中で、ますます豊かに、そして魅力的に広がっていくことでしょう。

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