人気ひやおろし 2025年最新情報|秋に飲みたい注目銘柄3選

朝晩の空気に涼しさが漂い始めると、日本酒の世界では「ひやおろし」の季節が訪れます。春に搾った新酒をひと夏蔵で寝かせ、秋口に出荷されるこのお酒は、古くから秋の味覚を引き立てる存在として親しまれてきました。江戸時代には、蔵の中で春に火入れした酒を夏の間静かに貯蔵し、外気温と酒の温度が近づく秋に追加の火入れをせずに「冷や」のまま「卸す」ことから「ひやおろし」と呼ばれるようになったといわれています。

その味わいは、春先の新酒の荒々しさが和らぎ、程よい熟成によって旨味とまろやかさが増すのが特徴です。爽やかな酸と落ち着いた香りが同居し、秋刀魚やきのこ、栗など季節の食材と合わせることで、一層引き立ちます。冷酒からぬる燗まで幅広い温度帯で楽しめるのも「ひやおろし」ならではの魅力です。

今年も全国各地から個性豊かな「ひやおろし」が登場していますが、いま注目されているのが、栃木の「鳳凰美田 純米吟醸 ひやおろし」です。華やかな香りと果実味あふれるジューシーな味わいで知られる銘柄ですが、秋の装いをまとったひやおろしは、夏を越したことで甘みと旨味が一層落ち着き、バランスの良さが際立っています。季節ごとに姿を変える鳳凰美田の中でも、秋限定の一杯は愛飲家からの支持が厚い存在です。

山形の「楯野川 純米大吟醸 源流冷卸」もまた、ひやおろしの代表格として人気を集めています。精米歩合50%以下のきめ細かな造りによって、透明感のある口当たりと上品な旨味を両立。冷卸によって角が取れ、秋の食材と寄り添う穏やかな余韻を楽しめます。食中酒としての完成度が高く、全国的なランキングでも常に上位に挙がる一本です。

さらに佐賀の「七田 純米 ひやおろし」は、酒米の魅力を存分に引き出す蔵の姿勢が反映された一本です。「愛山」「雄町」という異なる酒米を用いたバリエーションも注目を浴びています。七田のひやおろしは、力強さと柔らかさが絶妙に調和し、秋の深まりとともにゆったりと味わいたい仕上がりです。飲み手に寄り添う奥行きのある味わいは、晩酌から秋の宴まで幅広いシーンに適しています。

ひやおろしのシーズンは、一般的に9月から始まり、11月頃まで続きます。冬を前に出荷が終了するため、味わえるのは実質的に秋の数か月間に限られます。しかし、9月の夏越し酒、10月の秋出し一番酒、11月の晩秋旨酒と熟成が進み、味わいが変化するのも特徴です。まさに「今しか飲めない旬の酒」として、季節の移ろいとともに楽しむのが醍醐味です。

秋の夜長に、鳳凰美田の華やかさを、楯野川の透明感を、七田の力強さを飲み比べれば、それぞれの蔵が歩んできた歴史や土地の風土まで感じられるでしょう。「ひやおろし」は、単なる秋限定の酒ではなく、日本酒文化の奥深さを象徴する存在です。この旬の一杯を手に取り、秋の夜長を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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石川県のひやおろし、9月5日に一斉発売 —— 伝統を守る意味を考える

毎年秋の訪れを告げる日本酒「ひやおろし」。本来は冬に仕込み、ひと夏を越して熟成させた酒を、秋口に再火入れをせずに出荷する季節限定酒です。各地で発売が年々早まる傾向が見られるなか、石川県では今年も9月5日に県内一斉発売が行われました。この一斉発売にはどのような意味が込められているのでしょうか。

石川県酒造組合の取り組みと視点

近年、ひやおろしは全国的に人気が高まり、夏の終わりから初秋にかけて次々と店頭に並ぶようになっています。需要の高まりを受け、蔵元が早めに出荷する傾向が強まり、8月下旬から販売を開始する地域も少なくありません。その一方で、石川県は酒造組合連合会の取り決めにより、毎年9月5日を「ひやおろしの日」と定め、一斉に発売する仕組みを堅持しています。

この背景には、いくつかの狙いが見て取れます。まず第一に、季節感を共有するという文化的な意義です。日本酒は気候や旬の食材と結びついて楽しむものです。各蔵元がバラバラに出荷すれば、消費者が「ひやおろしの季節が始まった」と実感する瞬間は曖昧になります。しかし、一斉発売とすることで、石川県全体が秋の到来を祝うように同じタイミングで楽しむことができ、季節行事としての鮮やかな印象を残すのです。

第二に、公平性と品質の担保です。ひやおろしは「夏を越すことで角が取れ、まろやかさを増した酒」が本来の姿とされます。発売時期を各蔵に委ねれば、熟成が十分でない段階で出荷される酒も出てくる恐れがあります。統一した日程を設けることで、消費者に「石川のひやおろしは一定の熟成期間を経ている」という安心感を提供することができます。また、県内の大小さまざまな蔵が一斉に注目を集めることで、ブランド力の底上げにもつながります。

第三に、販売促進の観点も見逃せません。県内外の酒販店にとって、9月5日という明確な発売日は販促の好機になります。ポスターや特設コーナーを設け、一斉に売り出すことで話題性を生み出すのです。観光とも連動しやすく、「石川に秋が来た」とアピールできる点も大きな利点です。特に能登半島地震からの復興を目指す今年においては、県全体で一体感を示すイベント性の高い取り組みとしての側面もあるでしょう。

もっとも、全国的に早出しの流れが強まる中で、「9月5日」という日付が消費者ニーズに即しているのかという課題もあります。残暑が厳しい年には、より早い時期に冷酒として楽しみたいという声もある一方で、本来の「秋上がり」の趣を大切にしたいというファンも少なくありません。石川県の一斉発売は、そうした流れに対する一つの「抵抗」であり、「本来のひやおろしの姿」を守る象徴とも言えるでしょう。

石川県のひやおろしは、単なる販売戦略ではなく、文化や品質、そして地域の一体感を映す鏡でもあります。9月5日という日付を毎年守り続けることは、伝統と季節感を尊重する姿勢の表れであり、消費者にとっても「今年もまたこの時期が来た」と感じられる安心のサインとなっています。

ひやおろしの全国的な発売時期が多様化していくなか、石川県の「一斉発売」という取り組みは、改めて酒と季節の関係性を考えさせる存在となっています。秋の訪れを一斉に祝うその姿勢は、これからも石川の日本酒文化の個性として輝き続けるに違いありません。

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【2025年版】ひやおろし解禁間近!秋を映す日本酒の楽しみ方とおすすめ銘柄

立秋を迎え、暦の上では秋となりました。日中の暑さはまだ続いているものの、朝夕の空気にわずかながら秋の気配が感じられるようになると、日本酒の世界でも“秋の便り”が届き始めます。その代表的な存在が「ひやおろし」です。

この時期、蔵元や酒販店、飲食店などから「ひやおろし」や「秋上がり」といった言葉が聞こえてくるようになると、いよいよ秋酒のシーズンが幕を開けたことを実感します。夏の間に熟成されたまろやかで深みのある日本酒が、満を持して登場する季節です。

「ひやおろし」とは何か?

「ひやおろし」とは、冬から春にかけて搾った新酒を一度だけ火入れ(加熱殺菌)し、冷暗所で夏を越して熟成させ、秋口に再火入れせずそのまま瓶詰めして出荷される日本酒のことです。外気と蔵の温度が近くなる「冷や(常温)」の状態で出荷することから、「ひやおろし」と呼ばれています。

火入れの回数が1回だけであるため、酒の持つ繊細な香味や熟成による丸みがバランスよく楽しめるのが特徴です。夏の暑さの中でじっくりと寝かせられたお酒は、角が取れて柔らかく、旨味がしっかりとのった状態で登場します。

冷酒でもぬる燗でもおいしく楽しめ、秋刀魚やきのこ、栗など、秋の味覚と絶妙に寄り添うのが魅力です。

今年の「ひやおろし」もまもなく登場

例年、「ひやおろし」は8月下旬から9月初旬にかけて蔵出しが始まります。今年もすでにSNSや酒販店の情報発信では、ひやおろしに関する話題がちらほら見られるようになってきました。

毎年この時期になると、どの蔵の「ひやおろし」を楽しもうかと気持ちが高まりますが、なかでも個人的に楽しみにしているのが、長崎県壱岐の重家酒造が手がける「よこやま 純米吟醸 SILVER ひやおろし」です。

壱岐発「よこやま」の魅力

「よこやま」は、長崎県壱岐島で造られる日本酒ブランドで、焼酎文化が根付く地域にあって、あえて日本酒の復活に挑んだことで知られています。重家酒造は元々焼酎蔵でしたが、2018年に「よこやま」シリーズで日本酒造りを本格始動させました。

壱岐のきれいな水と、南国の気候を逆手に取った低温発酵技術により、華やかな香りとクリアな味わいを両立させた酒質が高く評価されています。

そのなかでも「よこやま SILVER」は、純米吟醸らしいフレッシュさと上品な香りが特長で、しっかりとした味の輪郭を持ちつつも、透明感のある仕上がりが印象的です。

昨年いただいた「SILVER ひやおろし」は、熟成によってまろやかさが加わり、果実のような香りとふくらみのある旨味が見事に調和していました。秋の夜長に、静かに楽しむのにぴったりの一本だったことをよく覚えています。

今年の仕上がりにも期待

今年は猛暑が続いた影響もあり、ひやおろしにとっては熟成の難しい年かもしれません。しかし、それをどのように乗り越え、仕上げてくるのか。蔵ごとの技術と哲学が問われる年でもあります。

昨日、「よこやま SILVER ひやおろし」の予約が始まったことを知りました。蔵の中でじっくりと旨みを蓄えている酒と、同じ時間を過ごしているのだと思えば、この暑さもなんとか乗り越えていけそうです。今年の仕上がりに期待です!

▶ 重家酒造株式会社(長崎県)|壱岐に復活した日本酒づくり

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