新幹線で「朝詰め」を直送する価値~「はこビュン」活用で日本酒流通

11月7日から13日にかけて開催されている「新潟産直市」で、白瀧酒造が当日朝に詰めた生酒を新幹線で首都圏へ直送し、駅ナカで数量限定販売するという取り組みが話題になっています。即日輸送に「はこビュン」を使うことで、『朝詰め→当日販売』という鮮度訴求が可能になり、来場者の注目を集める効果が確認されています。

「はこビュン」の強みと課題

そもそも「はこビュン」は新幹線や特急を活用する列車荷物輸送サービスで、高速・定時性・低振動という特性を活かし、鮮度が重要な食品や緊急性のある貨物の輸送に向くとされています。駅間の輸送が短時間で済むため、搾りたてや開栓後まもない生酒の当日到着を実現しやすく、消費者にとっては市場に出回らない体験価値が生まれます。

一方で実務面ではクリティカルな課題も顕在化します。まず温度管理。生酒は冷温での取扱いが必須であり、新幹線輸送の車内保管や駅での一時保管に冷蔵インフラが要ります。また「はこビュン」は荷物単位での小口輸送に対応する反面、積載量や発着時間は列車ダイヤに依存するため、大量出荷や高頻度運用には別途の調整・コストが伴います。輸送料金や保険、アルコール類特有の取り扱い(届け出やラベル表示)も事前にクリアしておく必要があります。

それでも、はこビュン活用のメリットは明確です。その主なものとして下記が挙がります。

①鮮度を前面に出した高単価商材の販売が可能になること
②地域の話題性を東京圏の駅ナカという接点で即時に試せること
③鉄道輸送の低振動・定時性が品質保持に寄与すること

過去の事例でも、同様の「当日しぼり」を新幹線で輸送して短時間で完売したケースが報告されており、限定性と体験価値が消費を促進する傾向が見られます。ただ、持続可能なモデルにするためには、下記のようなことも必要になってくるでしょう。

①冷蔵対応の輸送ボックスや駅側の一時冷蔵設備の標準化
➁定期便や季節便の導入でスケールをつくること
③ECや予約販売と連携して当日現地で受け取る形式を併用し需要を平滑化すること
④物流コストを下げるための共同梱包・自治体支援の活用

これらを進めれば、はこビュンは単なる話題作りを超え、地方酒蔵の首都圏販路拡大と地域ブランド強化に貢献し得るサービスとなり得るはずです。


「はこビュン」を用いた新幹線直送は、日本酒の鮮度という無形の価値を具体的な売上につなげる有効な手段です。しかし、その価値を拡大させるには、冷温管理・輸送容量・コストの三点にわたる設計改善と、販路・観光誘客を絡めた総合的なプランニングが不可欠です。今後、継続的な実績蓄積とインフラ投資が進めば、新幹線荷物輸送は地方酒の新しい流通標準の一つになり得るかもしれません。

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新時代の日本酒参入──クラフトサケメーカー編

酒造業界に参入するには免許が必要で、従来は新規蔵の取得が極めて厳格でした。よって、明治維新前に創業した酒造が大半を占め、創業100年であっても“新参者”と呼ばれる状況が続いています。

そんな中、2020年度の税制改正で「輸出用清酒製造免許制度」が創設され、輸出向けに限り、清酒製造免許の新規取得が可能になりました。また、日本酒特区では、地域振興・観光目的で、条件付きで新規蔵が免許を取得できることとなりました。クラフトサケメーカーでは、「その他の醸造酒」として参入を果たしたところもあるようです。

近年の日本酒ブームの広がりとともに、3Kとも見なされていた酒造に対する見方は大きく変わり、現在では、参入希望が若手の間にも広がっているといいます。ここ数年は、こころざしある酒造の起業もあり、固着した業界に少しづつ変化が生まれているようです。

ここでは、クラフトサケ作りなどを目的として、近年「その他の醸造酒免許」を取得した酒造をいくつかピックアップしてみます。

【その他の醸造酒免許で参入した酒造】

カヤマ醸造所

2015年に千葉県茂原市で、自分達が飲みたいお酒を造りたいとの思いから、どぶろく製造をはじめました。「純米発泡濁酒かやま」などを製造しています。

WAKAZE

2018年に東京三軒茶屋で創業。世界でSAKEが造られ飲まれる世界の実現を目指し、フランスとアメリカを含めた3拠点で展開しています。今夏、スパークリングSAKE「SummerFall」は、アメリカから日本へと人気が広がりました。

木花之醸造所

2020年に東京浅草でどぶろく製造を始めました。「ハナグモリ」という商品があります。

LIBROM Craft Sake Brewery

2020年、福岡市に設立されました。「自由な醸造スタイルで酒造りにロマンを」をコンセプトにして、全国で「LIBROM」ブランドを展開しています。

haccoba

2020年に、福島県南相馬市で創業。酒造りを通じて、原発事故で被災した地域を再生する目的を掲げています。どぶろく文化を現代的に再解釈し、花酛製法などを活用しているところに特徴があります。「はなうたホップス」などの商品が出ています。

稲とアガベ

2021年に、秋田県男鹿市で「男鹿の風土を醸す」を掲げて創業。日本酒の可能性を広げるために「交酒」に取り組んでいます。

LAGOON BREWERY

2021年に「感激できる、多様なおいしさ」をモットーにして、新潟市の福島潟湖畔に設立。国内ではクラフトサケ「翔空」を展開。輸出用に本格的な日本酒も手掛けています。

ハッピー太郎醸造所

2022年に、滋賀県長浜市でどぶろく製造を開始。もとは麹屋で、完熟糀を使用した「ハッピーどぶろく」などを商品化しています。

足立農醸

2023年に、大阪府高槻市に団地内マイクロ酒蔵が完成。八戸酒造で修業の後、2021年に足立農醸を設立し、農業から手掛けています。「世界へ日本酒文化を伝える」という目的を掲げ、クラフトサケ「MIYOI」が生み出されました。

でじま芳扇堂

2023年、長崎市出島に「風土の景色を表現する」を掲げてどぶろく醸造を開始。「芳扇」などを商品化しています。

平六醸造

2024年、岩手県紫波郡紫波町にかつてあった酒蔵を、クラフトサケ醸造所として復活させました。代表は、菊の司酒造の経営に関わっていた人物で、大きな実績を積んでいます。「平六醸造」の銘が入った商品が出ています。

Sake Underground

2024年、兵庫県南あわじ市で、長慶寺農園の農園主が、生酛造りでのどぶろく醸造を開始。「菩提泉 長慶寺」などを醸す。

ぷくぷく醸造

2022年にファントムブルワリーとして設立されたぷくぷく醸造は、2024年に福島県南相馬市でクラフトサケづくりを始めました。「ぷくぷくホップ」などが商品化されています。