「灘の生一本」9月5日一斉発売:進化する日本酒の、米と品質へのこだわり

酒米への飽くなき探求:独自開発米と契約栽培の深化

来る9月5日(金)、日本酒ファン待望の「灘の生一本」が一斉発売されます。この伝統ある酒は、近年、酒米を巡る新たな潮流と、品質保証への並々ならぬ情熱を背景に、その進化を加速させています。

今年の「灘の生一本」のリリースで特筆すべきは、各蔵元が独自の取り組みで酒米と向き合っている点です。例えば、特定の酒造では、これまでの常識を覆す「独自開発米」の使用を前面に打ち出しています。これは、既存の酒米品種だけでは表現しきれない、蔵元の目指す酒質を実現するための飽くなき探求心の表れです。また、契約農家との連携を一層強化し、土壌の状態から栽培方法に至るまで、徹底した管理の下で酒米を育てている酒造も少なくありません。これらの動きは、酒米の品質が酒の味に決定的な影響を与えるという、日本酒造りの原点への回帰であり、さらに踏み込んだ進化と言えます。

時代背景とドメーヌ化:ワインに学ぶ品質保証の追求

こうした米へのこだわりは、現代における酒米確保の難しさという時代背景と密接に関係しています。近年の異常気象による収穫量の不安定さや、農業従事者の高齢化・減少は、安定した高品質な酒米の供給を脅かす深刻な問題です。かつては当然のように確保できた酒米が、今や希少価値のあるものとなりつつあります。そのため、各蔵元は、単に市場から米を仕入れるだけでなく、自ら米の生産に深く関与することで、安定した供給と品質の確保を図ろうとしているのです。

そして、この酒米へのこだわりは、日本酒業界全体に広がる「ドメーヌ化」の動きと無関係ではありません。ドメーヌとは、ワインの世界で用いられる言葉で、ブドウの栽培から醸造、瓶詰めまでを一貫して行う生産者のことを指します。この概念を日本酒に当てはめると、酒米の栽培から醸造までを自社または緊密な連携のもとで行うことで、酒質を徹底的に管理し、唯一無二の個性を追求する動きと言えます。これは、日本酒が単なる食中酒としてだけでなく、ワインのようにテロワール(土壌や気候が作物に与える特性)を表現し、明確なアイデンティティを持つ「作品」として世界に発信されていく中で、不可欠な要素となっています。ワインを強く意識したドメーヌ化の動きは、品質保証という観点からも非常に重要です。酒米の生産段階から関わることで、農薬の使用状況、肥料の種類、栽培方法などを全て把握し、トレーサビリティを確保できます。これにより、消費者は安心して「灘の生一本」を味わうことができるだけでなく、酒造側も自信を持って自らの酒を世に送り出すことが可能になります。

酒造と農業の新たな共創関係

こうした一連の動きは、結果として「酒造と農業の距離が近くなっている」ことを明確に示しています。かつては分業体制が当たり前だった酒造りと農業が、今や互いに深く連携し、時には蔵元が自ら農業法人を立ち上げたり、農家と密接なパートナーシップを結んだりするケースも増えています。これは、単に原料を仕入れるという関係を超え、酒米の特性を最大限に引き出し、蔵元の目指す酒質を実現するための、新たな共創関係が築かれつつあることを意味します。

今年の「灘の生一本」は、単なる新酒のリリースに留まらず、日本酒業界が直面する課題と、それに対する革新的な取り組みを体現するものです。独自開発米の使用、酒米確保の難しさへの対応、そしてドメーヌ化による品質保証の徹底。これらすべてが、酒造と農業の距離を縮め、日本酒の新たな可能性を切り開いています。9月5日(金)の発売日には、ぜひ、こうした背景に思いを馳せながら、「灘の生一本」が織りなす奥深い味わいを堪能してみたいと思います。

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▶ 今回の灘の生一本の特徴(灘酒研究会酒質審査委員会ホームページより)

灘酒プロジェクトによる統一ブランド商品「灘の生一本」(純米酒)720ml瓶詰は2011年度から発売を開始し、今年で15年目を迎えます。
今年度は灘五郷酒造組合員(25社)の内、参加7銘柄(沢の鶴・剣菱・白鶴・櫻正宗・浜福鶴・白鹿・大関)の蔵元で9月5日(金)に一斉発売いたします。
「灘の生一本」ブランドは、灘五郷の醸造技術者(灘酒研究会)が英知を結集し、兵庫県産米のみを使用して醸し上げた純米酒です。

沢の鶴

生酛造りによって醸された純米原酒です。後口のキレが良く原酒ならではの旨みとふくらみがある豊かな味わいで、飲みごたえのあるお酒であります。

剣菱

じっくりと丁寧に熟成させた香りと黄金色の2018年醸造酒です。口に含むと広がる濃醇な旨みとコクが調和されたお酒であります。

白鶴

白鶴独自開発米である「白鶴錦」を100%使用した芳醇な香りの純米酒で、押し味とキレの良さを併せ持ち、きれいですっきりした特長があります。

櫻正宗

兵庫県産山田錦を100%使用した純米酒です。淡麗やや辛口で、キレ味の良さと米のふくらみを感じるお酒です。

浜福鶴

兵庫県産米『HYOGO SAKE85』を100%使用した純米原酒です。生酛造り特有の旨味と適度な酸味で、キレが良いお酒です。

黒松白鹿

兵庫県産米山田錦を100%使用した、なめらかで旨味がある純米酒です。甘味と酸味が調和した、きれいな味わいのお酒です。

大関

大関独自開発米「いにしえの舞」と名水「宮水」で仕込んだ特別純米酒です。芳醇な香り、米の旨味と軽快な味が調和したキレの良いお酒です。

「創る楽しみ」が日本酒を変える──大阪タカシマヤ日本酒祭で広がるMy Sake Worldの可能性

2025年9月3日、秋の気配が漂い始めた大阪・難波にて、「第8回 大阪タカシマヤ日本酒祭」が華やかに幕を開けました。高島屋大阪店の7階催会場には、全国の酒蔵が一堂に会し、伝統と革新が交差する日本酒の祭典が繰り広げられています。香り・色・味わいをテーマにした9つのBARでは、来場者が五感を使って酒を楽しむ体験型企画が展開され、会場は平日にもかかわらず多くの人々で賑わっています。

その中でも注目したいのが、「My Sake World」のブースです。来場者が自ら日本酒をブレンドし、世界に一つだけの“マイサケ”を創るという体験ができるブースで、従来の「飲む」から「創る」へと酒の楽しみ方を大きく転換させる試みです。吟醸酒、純米酒、熟成酒など、個性豊かな酒を組み合わせる工程は、まるで調香師が香水を調合するような繊細さと創造性を要します。スタッフの丁寧なサポートのもと、来場者は自分の味覚と向き合いながら、理想の一杯を探し出していきます。

この取り組みは、単なるイベントの一企画にとどまりません。「My Sake World」は、京都の出版社『Leaf』を母体とする株式会社リーフ・パブリケーションズが展開するプロジェクトであり、日本酒の新たな価値創造を目指す挑戦でもあります。現在、全国55蔵との連携を実現し、ブレンド許可を得た酒を活用した商品開発を進めるほか、NFT技術を活用した「Sake World NFT」マーケットプレイスも展開。ユーザーが自らのレシピを保存・再販売できる仕組みは、酒の個人化と流通の可能性を大きく広げています。

このような動きは、日本酒文化の未来に対して重要な示唆を与えています。かつて日本酒は、酒蔵が造り、消費者が選び、飲むという一方向的な関係性の中にありました。しかし「My Sake World」は、消費者自身が酒の創造者となることで、酒との関係性を能動的かつ個人的なものへと変えていきます。これは、クラフトビールやナチュラルワインの潮流とも共鳴する動きであり、若年層や海外の酒ファンにとっても魅力的なアプローチとなるでしょう。

さらに、今後の展望としては、飲食店やホテルとのコラボレーションによるオリジナル酒の開発、酒蔵の買収によるブレンド工程の内製化、そして体験型観光との連携などが挙げられます。ユネスコ無形文化遺産に登録された日本酒造りの技術と精神を背景に、創造性とテクノロジーを融合させた新しい酒文化が、今まさに関西で芽吹いているのです。

「創る楽しみ」が酒をより深く、より個人的なものに変えていく──その可能性を体感できる場として、「大阪タカシマヤ日本酒祭」は今週いっぱい、来場者を迎え続けています。日本酒の未来は、飲むだけではなく、創ることでさらに豊かになるのかもしれません。

▶ 日本酒の新たな楽しみ方を提案!「My Sake World 京都河原町店」が待望のグランドオープン

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酩酊は旅になる──「日本酩酊計画2025」が描く日本酒の新しい地図

2025年9月、東京の街を舞台に、クラフトサケブランド「稲とアガベ」が主催するユニークなイベント「日本酩酊計画2025」が開催されます。これは、クラフトサケと食の融合を通じて、日本酒文化の新たな魅力を発信する試みであり、1ヶ月間にわたり日替わりで都内の飲食店を巡る“酩酊の旅”とも言える企画です。

イベントでは、チーズスタンドや立ち食い寿司、炉端焼き、クラフトビールバーなど、ジャンルの異なる飲食店が日替わりで登場。それぞれの店が「稲とアガベ」のクラフトサケと自慢の料理を組み合わせた特別メニューを提供し、来場者は一夜限りのペアリング体験を楽しむことができます。例えば、チーズとクラフトサケのマリアージュを味わう夜、サステナブルな食材と酒の関係を考える夜など、毎回異なるテーマが設定されており、参加者は“酔い”を通じて多様な文化に触れることができます。

店舗を変えながら開催する意義──都市を舞台にした文化の回遊

このイベントが1カ月にわたり、日替わりで店舗を変えて開催されることには、いくつかの重要な意味があります。

まず、酒を「場」と結びつけることで、飲む体験そのものに物語性が生まれます。同じクラフトサケでも、寿司屋で味わうのとチーズ専門店で味わうのとでは、感じ方がまったく異なります。酒は単なる液体ではなく、空間・人・食との関係性の中で意味を持つもの──そのことを体感できるのが、この形式の最大の魅力です。

また、都市の中を移動しながら参加することで、来場者は“酩酊の旅人”となります。これは、地方の酒蔵を巡る酒旅の都市版とも言えるもので、東京という多様性に富んだ街の魅力を再発見する機会にもなります。飲食店側にとっても、クラフトサケという新しい酒との出会いを通じて、自店の料理や空間の価値を再定義するきっかけとなるでしょう。

さらに、1カ月という時間軸を持たせることで、酒文化を一過性のイベントではなく、継続的な対話の場として育てることができます。参加者は複数回足を運ぶことで、造り手の哲学や酒の変化に触れ、より深い理解を得ることができます。これは、単なる試飲会では得られない“文化的な酩酊”を生む仕掛けです。

酩酊という肯定──酒と人をつなぐ「場」づくり

「日本酩酊計画2025」が掲げるテーマは、“酩酊=楽しく飲むこと”。酩酊という言葉には、一般的にネガティブな印象が伴いますが、主催者はそれをあえて肯定的に捉え直し、「酒に酔うことで人と人がつながり、文化が交差する場をつくる」ことを目指しています。

クラフトサケを起点にした街づくりを進める「稲とアガベ」の活動は、秋田県男鹿市という地方都市から始まりました。酒造りだけでなく、レストランや宿泊施設、スピリッツ蒸留所などを展開し、地域の魅力を酒とともに発信する取り組みは、地方創生の新たなモデルとしても注目されています。

このような背景を持つ「日本酩酊計画2025」は、都市と地方、日本酒と食、伝統と革新をつなぐ架け橋となるイベントです。来場者は、ただ酒を飲むだけでなく、造り手の想いや地域の物語に触れながら、五感で日本酒文化の奥深さを体験することができます。

酒に酔うことは、時に記憶を曖昧にし、感情を揺らすものですが、その揺らぎの中にこそ、人間らしい豊かさがあるのかもしれません。「日本酩酊計画2025」は、そんな“酔い”の価値を再発見する場として、今後の酒文化に新たな風を吹き込むことでしょう。

▶ 海と – 稲とアガベのWEBメディア(note)

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日本酒の未来はここから生まれる。「風の森WEEKS 2025」まもなく

奈良県御所市の油長酒造が醸す日本酒「風の森」の期間限定イベント「風の森WEEKS 2025」が、来る9月23日(火・祝)から10月10日(金)までの18日間、大阪・大丸心斎橋店および心斎橋PARCOにて開催されます。このイベントは、日本酒をより身近な存在として楽しんでもらうことを目的としており、風の森の新たな魅力を多角的に体験できる貴重な機会となるでしょう。

日本酒の新たな可能性を拓く「風の森」

「風の森」は、1998年の誕生以来、無濾過無加水生酒という独自のスタイルを貫き、日本酒業界に新風を巻き起こしてきた革新的な銘柄です。伝統的な製法に縛られず、地元の風土を映し出すお米を使い、常に新しい味わいを追求し続けています。特に、搾りたてのフレッシュな風味をそのまま瓶に閉じ込める「無濾過無加水生酒」は、まるで果物のような瑞々しさと微炭酸の心地よい刺激が特徴で、日本酒になじみのない若い世代や外国人にも支持されています。

今回の「風の森WEEKS 2025」では、そんな風の森の魅力が凝縮された限定酒「山田錦 507」と「愛山 607」がリリースされます。特に山田錦507は、軽快でドライな味わいを追求し、アルコール度数を例年より1度下げるなど、さらなる進化を遂げています。

「風の森WEEKS」が持つ意義

このイベントの最大の意義は、「日本酒は自由で、美味しい」というメッセージを伝えることにあります。単に酒を販売するだけでなく、多様なフードとのペアリングや蔵人との交流、特別セミナーなどを通じて、日本酒の楽しみ方を広げることに重点を置いているのです。

日本酒の新たな消費シーンを創出

「日本酒は和食に合わせるもの」という固定観念を打ち破り、多国籍な料理との相性を提案することで、日本酒の消費シーンを拡大しようとしています。例えば、蔵人によるペアリング提案や会場内に設けられる「Kaze no Mori Bar」での試飲は、参加者がこれまでの日本酒観を覆すような発見をするきっかけとなるでしょう。

【風の森の哲学とストーリーを伝える】

イベントは、単なる販売会ではなく、油長酒造が長年培ってきた酒造りの哲学や、風の森が目指す方向性を直接伝える場でもあります。蔵人との対話やセミナーを通じて、酒米の選定から製造工程、そして味わいに込めた想いを知ることができます。これにより、消費者は単に商品を手に取るだけでなく、その背景にある物語に共感し、ブランドへの愛着を深めることができるのです。

【地域経済の活性化への貢献】

今回のイベントは、大阪という大都市で開催されることで、奈良県御所市という地域の魅力を広く発信する機会にもなります。風の森をきっかけに奈良に興味を持つ人が増え、地域の観光や特産品の需要にもつながる可能性があります。また、大丸心斎橋店や心斎橋PARCOといった商業施設との連携は、地域を超えた産業の連携モデルとしても注目されます。

さいごに

「風の森WEEKS 2025」は、日本酒の伝統を大切にしながらも、常に新しい挑戦を続けてきた油長酒造の方向性を示してくれるものです。日本酒の多様な魅力を伝え、新たなファンを創造するこの取り組みは、日本の食文化を未来へとつないでいくための重要な基盤となるでしょう。日本酒の未来を考えるために、ぜひとも訪れたいイベントです。

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2025年秋注目の純米大吟醸「理 KOTOWARI」~哲学とコラボで探る日本酒の存在理由

2025年10月1日(水)に発売予定の純米大吟醸酒「理 KOTOWARI」が、現在先行抽選販売の申し込みを受け付けています。申し込み期限は2025年8月31日(日)までとされ、すでに多くの日本酒ファンから注目を集めています。特別な記念日である「日本酒の日」に合わせた発売という点も話題性を高めており、その背景には日本酒業界におけるコラボレーション企画の盛り上がりがあります。

日本酒コラボの広がり

近年、日本酒業界では異業種や異文化とのコラボレーションが目立つようになってきました。音楽やアートとの融合、食文化との相乗効果、さらには地域資源やSDGsと結びついた企画まで、幅広い広がりを見せています。こうした流れの中で「理 KOTOWARI」は、現役最高位の刀匠と手を結び、「自然と対話し、技を磨き、理に従う」という、哲学的な問いかけに踏み込んでいる点が特徴的です。名称である「理」は、日本の思想や美意識に根ざした「物事の道理」や「存在の根源」を意味する言葉であり、日本酒という存在そのものを見つめ直す試みといえるでしょう。

そもそもコラボレーションとは、単に新しい組み合わせを生み出すことではなく、「存在理由を探る営み」であるとも考えられます。日本酒がなぜ今この時代に飲まれるのか、人々にどのような意味をもたらしているのか。それを多角的に照らし出すために、異なる分野や文化と手を取り合うのです。音楽とのコラボは感性の拡張を、アートとの融合は美の探究を、そして哲学との接続は存在意義の問い直しを促します。「理 KOTOWARI」の登場はまさにその象徴といえるでしょう。

今後の日本酒とコラボの展望

このような取り組みは、日本酒がこれまで築いてきた伝統を尊重しつつ、新しい視点を持ち込む試みでもあります。酒は単なる嗜好品ではなく、文化や精神性を映す鏡のような存在です。そこに哲学的な思索を重ねることは、日本酒の深層にある「なぜ酒を醸すのか」という原点に立ち返ることでもあります。「理 KOTOWARI」が示すのは、まさにその原初的な問いへのアプローチなのです。

これからも日本酒業界では、多様なコラボレーション企画が続々と登場することでしょう。その一つひとつが、日本酒という存在の新しい側面を切り取って見せてくれるはずです。そして、その積み重ねの中で「日本酒とは何か」という問いが、より明確な輪郭を帯びていくに違いありません。今回の「理 KOTOWARI」は、その大きな流れの中にあって、日本酒の存在理由を哲学的に探る先駆的な試みとして位置づけられるのです。

日本酒の日に世に送り出される「理 KOTOWARI」が、多くの人々にとって日本酒の新しい意味を考えるきっかけとなり、同時にその奥深さを再認識させてくれることを期待したいと思います。

▶ 日本酒 「理KOTOWARI」 抽選応募のページへ

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【衝撃】水はもう「汲む」時代じゃない? 空気を水に変える技術が日本酒造りの常識を覆す

伝統と革新が交差する日本酒の世界に、また一つ、常識を覆す技術が誕生しました。この度、東京港醸造株式会社(東京都港区)から、”空気からつくった水”で仕込んだ世界初の日本酒「江戸開城 空気⽔仕込」が発表されました。これは、日本酒造りの生命線である「水」を、地下水や河川といった既存の水源に頼らず、大気中の水分を凝縮して生成するという、まさに革命的な試みです。

日本酒造りの常識を覆す「空気水」とは?

日本酒造りにおいて、水が占める割合は全体の約80%。それゆえに、蔵元は古くから良質な水を求めて、名水の湧く土地に酒蔵を構えてきました。仕込み水として使われるのは、ミネラル分が適度に含まれた地下水が主流で、その水の質が酒の味わいを大きく左右すると言われています。例えば、灘の「宮水」は硬水で、力強い男酒を生み出し、伏見の「御香水」は軟水で、きめ細やかな女酒を生み出す、というのは有名な話です。

しかし、「江戸開城 空気⽔仕込」は、そうした既存の概念を根本から覆します。使用されているのは、株式会社アクアムの「空気水生成技術」。これは、空気中の水分を高い効率で凝縮し、浄化することで、飲用に適した水を生成するシステムです。この技術を用いることで、水資源が乏しい地域でも、安定して良質な水を確保することが可能になります。

なぜ「空気水」で日本酒を造るのか?

なぜ、東京港醸造はこの技術に着目したのでしょうか。そこには、都市部での酒造りという、現代的な課題が背景にあります。都心部では、良質な地下水の確保が難しく、また、都市の発展とともに水質が変化するリスクも無視できません。こうした環境下で、常に安定した品質の仕込み水を確保することは、酒造りの根幹を揺るがしかねない大きな課題でした。

この「空気水」は、従来の仕込み水とは異なり、不純物が極めて少なく、非常にクリアな軟水となります。このクリーンな水で仕込むことで、雑味がなく、米本来の旨味や香りを純粋に引き出した、これまでにない繊細な味わいの日本酒が生まれることが期待されます。

「水」を空気から生成する意味の考察:未来を見据えた持続可能な酒造り

日本酒の生命線である「水」を空気から生成する、この試みは、単なる技術的な革新に留まりません。そこには、未来を見据えた、持続可能な酒造りへの深い考察が込められています。

現在、地球規模で水資源の枯渇や水質汚染が深刻な問題となっています。従来の酒造りは、特定の地域の水資源に依存してきました。しかし、気候変動や都市化が進む現代において、その依存はリスクになり得ます。空気中の水分を水に変える技術は、地理的な制約を乗り越え、場所を問わずに高品質な水を安定して確保できる可能性を秘めています。これは、水資源が限られる地域での酒造り、さらには災害時や緊急時の生産体制の確保にも繋がり、日本酒業界全体のレジリエンス(強靭さ)を高めることに貢献するでしょう。

また、この技術は、新たな日本酒の表現を可能にします。仕込み水によって酒の個性が決まるというこれまでの常識に対して、空気水は、水を「ニュートラル」な存在に変え、米や酵母の個性をより一層際立たせる役割を担うかもしれません。まるでキャンバスが真っ白になるように、酒造りの新たな可能性を拓く、そんな期待が膨らみます。

「江戸開城 空気仕込水」は、日本酒の未来を占う、画期的な一本となるかもしれません。伝統の技術を継承しつつも、最先端のテクノロジーを柔軟に取り入れる姿勢は、日本の食文化の新たな地平を切り拓く、大きな一歩と言えるでしょう。この斬新な日本酒が、私たちの舌に、そして心に、どのような驚きをもたらしてくれるのか、今から楽しみでなりません。

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会津の宮泉銘醸、新ブランド純米吟醸「暁霞」を発表|海外市場を意識した香り高い日本酒

福島県会津若松市の老舗酒蔵・宮泉銘醸は、2025年8月26日、新たな純米吟醸酒「暁霞(あきがすみ)」を発表しました。本銘柄は、香りの老舗企業である日本香堂グループとの共同開発によって誕生したもので、約2年にわたる構想と試作を経て完成した注目の新商品です。宮泉銘醸は「寫樂」など全国的に評価の高い銘柄を手掛ける蔵元として知られていますが、今回の「暁霞」には、国内市場のみならず海外市場を強く意識した設計が盛り込まれている点が特徴です。

海外市場を見据えた開発背景

「暁霞」開発の契機は、世界的に高まる日本酒需要に応えるためでした。とりわけ北米や欧州では、ワインやクラフトビールに並ぶ「食中酒」としての日本酒の可能性が広く認識されつつあります。宮泉銘醸は、海外消費者が日本酒に求める要素として、香りの華やかさと飲みやすさ、そして料理との相性を重視している点に注目しました。そこで、日本香堂グループの香りに関するノウハウを取り入れ、香りの印象がより繊細かつ持続的に感じられる酒質を追求しました。

また、使用米には福島県が開発した酒造好適米「福乃香」と、安定した醸造適性を持つ「五百万石」を採用しています。これにより、米由来のしっかりとした旨味を持ちつつも、後味がすっきりとしたバランスの良い味わいに仕上がっています。特に「福乃香」は、県を挙げてブランド化を推進している酒米であり、地元の農業振興とも結びつく点が評価できます。

ブランド名に込められた意味

新ブランド「暁霞」は、夜明けに立ち込める霞をイメージし、未来へと広がる希望や新しい日本酒文化の幕開けを象徴しています。ネーミング自体も海外市場を意識し、発音が比較的容易で、ビジュアルとしても美しい印象を与えるよう配慮されています。ラベルデザインには淡い色調を用い、モダンで洗練された印象を重視。ワインやクラフトジンのボトルと並んでも違和感がないよう、国際的な消費シーンを想定した造りになっています。

今後の展開と期待

「暁霞」は、まず国内での数量限定販売を経て、順次海外市場への展開が見込まれています。とくに北米では、寿司や和食レストランだけでなく、現地料理と組み合わせる提案型のプロモーションが計画されています。香り豊かで軽快な飲み口は、魚介料理や野菜を中心とした地中海料理にも合わせやすく、食文化の垣根を超えたペアリングが期待されます。

一方、欧州市場では、ワイン愛好家を意識したアプローチが検討されています。ワイングラスで提供することを前提としたテイスティングイベントや、現地ソムリエとの協業によるペアリング提案など、これまでの日本酒の枠を超える販売戦略が展開される見通しです。さらに、香りの魅力を訴求する点では、香水やアロマ製品といった異業種とのコラボレーションも視野に入れられています。

日本酒の新たな挑戦として

宮泉銘醸はこれまで、国内市場を中心に着実に評価を築いてきましたが、「暁霞」の発表は、同蔵にとっても新しい挑戦です。日本香堂という異分野の専門企業との連携により、これまでにない切り口で日本酒の可能性を広げ、海外市場への足がかりを築こうとしています。

世界中で多様な食文化が交わる中、日本酒はその繊細さと奥行きによって注目を集めています。「暁霞」は、伝統的な技術と革新的な発想を掛け合わせることで、日本酒の国際的な存在感をさらに高める役割を担うことでしょう。今後の展開は、日本酒業界全体にとっても新たな可能性を示す一歩となりそうです。

出典:TBS NEWS DIG(2025年8月26日)

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サステナブル日本酒「環」、日本酒として初のSalmon-Safe認証を取得――SDGsを牽引する存在へ

神戸新聞社が推進する「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから誕生した日本酒「環(めぐる)」が、この度、米国発の環境認証「Salmon-Safe」を、日本の酒として初めて取得しました。これは、SDGs(持続可能な開発目標)に沿った日本酒造りの新たな一歩であり、日本酒がSDGs推進の先導者になりうることを示す大きな成果となりました。

「環」が誕生した背景と2021年の発売

「環」は、神戸新聞社が2019年に立ち上げた「地エネと環境の地域デザイン協議会」を母体とする「地エネの酒 for SDGs」プロジェクトから、生まれた日本酒です。2020年度に農家、蔵元、新聞社が連携して取り組みを開始し、2021年9月22日に初めて「地エネの酒 環」として販売が開始されました。

このプロジェクトの特徴は、食品残さや家畜のふん尿を原料とする「バイオガス」をエネルギー源に変え、副産物である「消化液」を有機肥料として酒米「山田錦」の栽培に活用した点にあります。化学肥料や除草剤の使用を抑えた脱炭素農法によって、地域資源を循環させる持続可能な酒造りを実現しました。さらに、環境に配慮したエコロジーボトルなどを導入した上で販売されております。

「Salmon-Safe」認証取得、その意義

このような背景の延長線上で、2025年8月26日、Super Normal社の支援を受けながら「環」がSalmon-Safe認証を取得しました。米国オレゴン州発祥のSalmon-Safeは、水質保全や生物多様性、水源流域の環境保護を重視する厳格な第三者認証です。

日本では日本酒として初の取得となり、Salmon-Safeが求める「川岸の復元」「水資源の保全」「生態系保護」「有害な投入物の段階的廃止」といった基準をクリアした点が高く評価されました。

日本酒とSDGsの親和性

日本酒は、その成り立ちからしてSDGsと親和性が高い存在です。第一に、原料となる米は地域の農業と直結しており、生産者との協働が不可欠です。環境に配慮した米作りを推進することは、食の安全や地域農業の持続に直結します。第二に、水の質が酒質を左右するため、水環境の保全は日本酒造りの根幹であり、自然資源の保護に必然的に取り組むことになります。さらに、酒蔵は地域文化や伝統を継承する役割を担っており、持続可能な社会の中で地域の誇りを守る文化的側面をも担っています。

「環」が示したように、日本酒は国際的な基準を満たすサステナブルな酒造りを牽引できる存在です。地域資源の循環利用、環境保全、文化の継承を同時に体現できる日本酒は、SDGsの理念を実際の形に落とし込む力を持っています。今回の「Salmon-Safe」認証は、世界市場に向けても日本酒が環境先進的な飲料として発信できる契機となるでしょう。

「環」の誕生は、日本酒が単なる嗜好品を超え、社会課題の解決に貢献できることを強く印象づけました。これからも地域と自然を結び、未来世代に受け継がれる酒造りが広がっていくことが期待されます。

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「日本酒&温泉ナビゲーター」認定宿の誕生に寄せて

千葉県君津市の亀山湖畔に佇む「亀山温泉ホテル」が、2025年8月、「日本酒&温泉ナビゲーター」認定の宿第一号として登録されました。この認定は、日本酒と温泉の魅力を観光資源として発信できる人材を育成する資格講座を修了したスタッフが在籍する宿に与えられるもので、観光業界における新たな価値創出の一歩として注目されています。

▶ 大自然の静寂と天然自噴温泉を愉しむ湯宿 亀山温泉ホテル

日本酒と温泉が織りなす文化

日本酒と温泉は、どちらも「癒し」と「地域性」を軸にした文化資源です。温泉はその土地の地質や水脈によって泉質が異なり、訪れる人々に身体的な安らぎを提供します。一方、日本酒もまた、米・水・気候・技術といった地域の要素が味わいに反映されるため、土地ごとの個性が際立ちます。温泉地でその土地の日本酒を味わうことは、地域の自然と文化を五感で体験することにほかなりません。

また、温泉で身体を温めた後にいただく日本酒は、心身ともにリラックスした状態で味覚が研ぎ澄まされ、より深い味わいを感じることができます。特に、ぬる燗や常温で提供される日本酒は、温泉上がりの体温と調和しやすく、心地よい余韻をもたらします。亀山温泉ホテルのように、泉質にこだわりを持ち、料理にも定評のある宿では、日本酒とのペアリングが旅の満足度をさらに高めてくれるでしょう。

さらに、日本酒と温泉には「非日常性」という共通点もあります。どちらも日常から離れた空間で楽しむことが多く、旅の特別感を演出する要素として機能します。例えば、地元の酒蔵が造る限定酒を温泉宿で味わう体験は、その土地ならではの贅沢であり、記憶に残る旅の一幕となります。

地域文化を体感する旅の新しいスタイル

これまで、温泉旅館と日本酒は「自然な取り合わせ」として受け止められてきました。夕食時に地酒が並ぶことは珍しくなく、旅の風情として定着しています。しかし、今後はその関係性をより深く掘り下げ、銘柄の背景や味わいの特徴、さらには健康面での効能などにも注目が集まるべきではないでしょうか。たとえば、アミノ酸が豊富な純米酒は疲労回復に役立つとされ、温泉との相乗効果が期待できます。また、発酵由来の香りや味わいが、温泉地の食材とのマリアージュを生み出す可能性もあります。

今回の認定を受けた亀山温泉ホテルでは、6名のスタッフが「日本酒&温泉ナビゲーター」資格を取得し、宿泊者に対して日本酒と温泉の魅力をわかりやすく伝える取り組みを始めています。このような人材がいることで、単なる宿泊体験ではなく、文化的な学びや発見を伴う旅へと昇華する可能性が広がります。

今後、こうした認定宿が全国に広がることで、地域の酒蔵や温泉地との連携が進み、観光の質が高まることが期待されます。日本酒と温泉の融合は、単なる嗜好品と癒しの組み合わせではなく、地域文化を体感する旅の新しいスタイルとして、ますます注目されていくことでしょう。

日本酒を旅する

まだまだ誤解だらけ~海外の日本酒事情

2025年8月23日付で米国のライフスタイル誌「The Manual」に掲載された記事「3 saké myths busted — surprising truths from a saké pro(日本酒に関する3つの誤解を専門家が解説)」では、アメリカの日本酒専門家ポール・イングラート氏(SakeOne社長)が、日本酒にまつわる誤解とその真実を語りました。この記事は、輸出先2位であるアメリカでさえ、いまだに日本酒が正しく理解されていない現状と、逆にそれが大きな可能性につながることを示しています。

誤解その1「日本酒は熱燗で飲むもの」

海外では、多くの人が「日本酒=熱燗」というイメージを持っています。イングラート氏は、吟醸酒や大吟醸のように香り豊かなタイプは冷やして飲むことで繊細な味わいを楽しむことができ、一方で純米酒などはぬる燗で旨みが引き立つことを指摘。つまり、日本酒は温度によって多彩な表情を見せる飲み物であり、固定観念にとらわれない楽しみ方が推奨されることを語っています。

誤解その2「日本酒はライスワイン」

欧米では日本酒を「ライスワイン」と呼ぶことがありますが、イングラート氏はそれを正しくないと指摘します。ワインは単発酵で造られるのに対し、日本酒はデンプンを糖に変えながら並行してアルコール発酵が進む「並行複発酵」という独自の技法によって造られます。世界的に見ても稀なこの製法こそが日本酒の本質であり、ワインやビールと同列に置くことはできません。日本酒は、「日本酒」という唯一無二のカテゴリーだと語るのです。

誤解その3「日本酒は日本でしか造られない」

日本酒は日本固有の酒と考えられがちですが、現代ではアメリカをはじめ各国で本格的に造られています。特に米国では、ワイン造りやクラフトビール文化の影響も受け、技術力の高いクラフト日本酒が生まれています。日本から学んだ伝統的な技法を生かしつつ、地域の特色を加えた酒造りは、世界における日本酒の普及に大きな役割を果たしつつあります。

誤解があるからこその可能性

イングラート氏の解説から見えてくるのは、日本酒がまだ海外で誤解されているという事実です。「熱燗の酒」「ライスワイン」「日本でしか造れない」といったイメージは、日本酒の多様な魅力を伝えきれていません。しかしその反面、正しい知識を広める余地が大きく存在しています。誤解を一つずつ解消することによって、日本酒はさらなる市場拡大の可能性を秘めているのです。

特に、冷やしてワイングラスで味わうスタイルや、和食以外の料理との相性を紹介することで、日本酒はより幅広い層に受け入れられるでしょう。日本酒はまだ「未知の酒」として捉えられている部分が大きいため、その分だけ、成長の余地も大きいのです。

「The Manual」の記事は、海外における日本酒の理解が不十分であることを浮き彫りにしました。ですが、その誤解を正しく伝え直すことによって、日本酒は「日本限定の酒」から「世界に広がる伝統酒」へと飛躍できます。海外市場における教育や啓蒙は、日本酒文化の未来を豊かにし、さらに多様な飲み手へと広げるための重要な取り組みとなるでしょう。

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