食卓に寄り添う魚沼の新風:津南醸造「郷(GO)TERRACE」始動

2025年8月4日、新潟の酒蔵・津南醸造株式会社は、日本酒「郷(GO)TERRACE」の発売を開始しました。贈答向けの「郷(GO)GRANDCLASS 魚沼コシヒカリEdition」で培った酒造技術をもとに、より身近なシーンで楽しめる「日常酒」として開発されたのが本商品です。

シリーズ名には、『郷(GO)=地域』と『TERRACE=くつろぎの場』という2つの要素が込められており、「郷土と人々をつなぐ場所としての酒」「風土と対話する暮らしの中の酒」として位置づけられています。華やかな香りとふくよかな口当たり、さらりとした旨味を備え、気軽に楽しめる純米大吟醸として、日々の生活にやさしく寄り添う一本となっています。

コシヒカリの酒造利用がもたらす意義

今回使用された魚沼産コシヒカリは、御存じのとおり、日本有数のブランド米として長年親しまれてきました。その高い食味と安定した品質は、食卓での評価を不動のものとしています。一方、酒米としての活用はこれまで限定的であり、酒造業界では専用の酒米が多く使われてきました。

津南醸造はあえてこの高級食用米を原料とすることで、酒米不足という課題への一つのアプローチを提示しています。気候変動や農業従事者の減少が影響し、近年では酒米の栽培量も不安定になっています。そんな中で、品質の高い食用米を酒造に活用することは、酒造業界全体の米需給バランスを整える動きとしても意義があります。

食糧問題への一助としての可能性

「郷(GO)TERRACE」は、こうした酒造の革新を通じて、日本の食糧問題へのアプローチも視野に入れています。全国的に米の消費が減少する中、特に食用米の過剰在庫や価格低迷が課題となっており、農業の持続性に影を落としています。

そこで、食用米であるコシヒカリを酒造に活用する「郷(GO)TERRACE」のような取り組みは、米の新たな需要を創出する試みといえます。農家が品質の高い食用米を安定して供給できる環境を整えることで、収入確保や栽培意欲の維持につながるはずです。それは、昨今のようなコメ不足問題を緩和するでしょうし、地域経済の活性化にも寄与するでしょう。

さらに、消費者にとっても「米を飲む」という選択肢が加わることで、米文化への関心を呼び起こす一助となるかもしれません。「郷(GO)TERRACE」は、“飲む”という行為を通じて、食糧資源の新しい活用法を体験できるプロダクトとして、新たな価値を提示しています。

地域と未来をつなぐ一杯として

「郷(GO)TERRACE」は、魚沼という風土の力を借りながら、食卓と地域、消費者と生産者、そして課題と可能性とを静かにつなぎます。コシヒカリの持つ魅力を酒造の技術で引き出し、日常のひとときに寄り添うことで、米文化の再発見と再生を促します。

津南醸造の挑戦は、酒造という枠を越えた、地域と未来をつなぐものです。「郷(GO)TERRACE」のその一杯が、これからの米文化と食のあり方に、ささやかな光を灯していくかもしれません。

▶ 横ベイの提言「令和の米騒動の中で、日本酒に注目してみた。」

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【海の日に乾杯】深海の神秘が育む至高の一滴 ~海底熟成酒の歴史と進化~

今日、7月の第3月曜日は「海の日」です。海の恩恵に感謝し、海洋国家日本の繁栄を願う日ですね。近年、この広大な海の神秘的な力を借りて、日本酒を熟成させるという、ロマンあふれる取り組みが注目を集めています。それが「海底熟成酒」です。静寂な深海でゆっくりと時を重ねることで、通常の熟成酒とは一線を画す、まろやかで奥深い味わいへと昇華する海底熟成酒の魅力に迫ります。

海底熟成酒、そのロマンの始まり

海底熟成の概念自体は、決して新しいものではありません。古くは沈没船から引き揚げられたワインが、陸上保管のものよりも格段に美味しいと評判になったエピソードが、その効果を裏付けるかのように語り継がれてきました。特に、2010年にバルト海の海底で発見された1840年代のシャンパンは、170年以上の時を超えてもなお、その品質を保ち、専門家を驚かせたのです。この「沈没船ワイン」の発見が、意識的な海底熟成への関心を高めるきっかけの一つとなったと言えるでしょう。

日本酒における海底熟成の歴史は、比較的近年になって本格化しました。その先駆けとなったのは、古酒を深く探求する長期熟成日本酒Bar「酒茶論」が、2013年に立ち上げた「海中熟成酒プロジェクト」のような取り組みが挙げられます。現在では全国へと波及し、太平洋・日本海・瀬戸内海など、様々な海域での海底熟成酒が誕生しています。

なぜ海底なのか? 深海の恵みがもたらす変化

では、なぜ深海が日本酒の熟成に適しているのでしょうか。その理由は、陸上では再現が難しい独特の環境にあるのです。

第一に挙げられるのが「安定した水温」です。水深が深くなるほど、年間を通して水温の変化が少なく、一定の温度を保つことができます。日本酒の熟成において、温度変化は品質に悪影響を及ぼす要因の一つとされており、安定した環境は均一な熟成を促します。

次に、「適度な水圧」も重要な要素です。水深数十メートルにも及ぶ海底では、想像以上の水圧がかかります。この高圧環境が、酒質にどのような影響を与えるのかはまだ完全に解明されていない部分も多いのですが、分子レベルでの変化を促し、よりまろやかで複雑な酒質を形成すると考えられています。

そして、「完全な暗闇」も欠かせません。光は日本酒の劣化を早める天敵です。特に紫外線は酒中の成分と反応し、不快な「日光臭」を発生させる原因となります。光が一切届かない深海は、酒の品質を健全に保ち、熟成を促進するための理想的な環境と言えるでしょう。

さらに、「微細な揺れ」も熟成に良い影響を与えている可能性が指摘されています。海底では、潮の流れや波浪によるごく僅かな揺れが常に存在するのです。この微細な振動が、酒中の分子の結合や分解を促進し、より滑らかな口当たりや、複雑な香りを引き出すという見方もあります。

これらの複合的な要因が、海底熟成酒に特有のまろやかさ、深み、そして熟成香をもたらすと考えられています。

海底熟成酒の現状と未来

現在、海底熟成酒に取り組む蔵元は全国に広がりを見せています。古酒で有名な岐阜県の「達磨正宗」(白木恒助商店)など、各地の銘酒が深海での眠りを経て新たな個性を獲得しているのです。

熟成期間も様々で、数か月から数年、中には10年以上の長期熟成を目指すプロジェクトも進行中です。引き上げられた海底熟成酒は、その希少性とユニークなストーリー性から、贈答品や記念品としても高い人気を博しています。

一方で、海底熟成には課題も存在します。海底環境への影響、容器の耐久性、引き上げ作業のコストなど、克服すべき点は少なくありません。しかし、これらの課題をクリアし、より持続可能な形で海底熟成に取り組むための研究開発も進められているのです。また、海底熟成されたお酒の品質評価や、熟成メカニズムの科学的な解明も今後の重要なテーマとなるでしょう。

海の日を迎え、改めて海の恵みに思いを馳せる時、深海で静かに熟成の時を待つ日本酒に、私たちは無限のロマンと可能性を感じます。海底熟成酒は、単なるお酒という枠を超え、海洋国家日本の新たな文化、そして未来への希望を象徴する存在となりつつあります。深海の神秘が育む至高の一滴は、これからも私たちに驚きと感動を与え続けてくれることでしょう。

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日本酒が拓く未来:米不足時代の「食料バッファー」としての可能性

近年、地球規模で食料問題が深刻化の一途を辿っています。気候変動による異常気象、紛争、人口増加、そして土地利用の変化などが複雑に絡み合い、食料生産の不安定性が増しています。特に、アジア圏の主食である米は、その安定供給が喫緊の課題であり、将来的な不足も懸念されています。このような状況下で、一見すると嗜好品に過ぎない日本酒が、実は米不足問題に対する重要な「食料バッファー」としての可能性を秘めている、という大胆な視点が注目されています。

この視点の根幹にあるのは、「米」という共通の資源です。日本酒は、米を原料とする醸造酒であり、その製造過程で精米され、残った米糠が利用されるなど、米の多様な活用を可能にしています。食料危機に直面した際、日本酒の生産量を調整することで、余剰となった米を食料として転用する、あるいは日本酒製造に不向きな米を加工利用するといった柔軟な対応が期待できるのです。

具体的に、どのようなメカニズムで日本酒がバッファーとなり得るのでしょうか。まず挙げられるのは、「緊急時の米の転用可能性」です。現在、日本酒の製造には「山田錦」や「五百万石」といった酒造好適米と呼ばれる特定の品種が主に用いられています。これらの酒造好適米は、食用米とは異なる特性を持ち、日本酒の品質を追求するために最適化されています。しかし、食料危機に際しては、酒造好適米を緊急に食用に回すという発想よりも、コシヒカリやあきたこまちといった、普段から私たちが食している食用米を、将来的に酒造用にも転用可能な形で計画的に生産しておくというアプローチが現実的かつ持続的です。

実は、現在でも「コシヒカリ」や「あきたこまち」などの食用米を用いて造られた日本酒は数多く存在し、その多様な味わいや地域ごとの特色が評価され、国内外の品評会で高い評価を得る銘柄も少なくありません。食用米は、酒造好適米に比べてタンパク質含有量が高く、日本酒造りにおいては雑味につながるとされる傾向にありますが、精米歩合の調整や、近年進化する醸造技術によって、食用米でも十分に高品質な日本酒を醸すことが可能になっています。この現状は、緊急時に食用米を日本酒原料として転用する際の技術的なハードルが、決して越えられないものではないことを示唆しています。

しかし、足元の状況は深刻さを増しています。今年の米不足問題は、すでに酒米の作付面積にも影響を及ぼし始めており、多くの酒蔵が原料米の確保に大きな問題を抱えています酒造好適米には、食用米の価格高騰や需要増によって、相対的に作付が減少したり、確保が難しくなったりする可能性が存在するのです。これは、今年の酒造りに大きな制約を課すだけでなく、将来的な日本酒の生産体制にも影を落としかねません。こうした状況だからこそ、前述したような「食料バッファー」としての役割が、より切実に求められるのです。

日本酒のヴィンテージ市場がもたらす多角的メリット

この食料バッファーとしての役割をさらに強化し、日本酒産業全体の持続可能性を高める上で極めて有用なのが、ワインのようなヴィンテージ市場の創出です。現在の日本酒は、基本的に「新酒」としてフレッシュな状態で消費されることが多く、長期熟成を前提とした市場は限定的です。しかし、一部の酒蔵では長期熟成酒(古酒)の可能性を探り、熟成による複雑な味わいや香りの変化を追求しています。

ワインのヴィンテージ市場は、年代物の希少性や品質の向上によって、高い付加価値を生み出しています。日本酒も同様に、特定の年に生産された「ヴィンテージ酒」として価値が認められれば、以下のような多角的なメリットが生まれます。

1.米の備蓄機能の強化: ヴィンテージ市場が確立されれば、酒蔵は「将来のヴィンテージ酒」として日本酒を熟成させるため、平時に余剰となった米を積極的に活用し、日本酒としてストックできます。これは、単なる「飲む」ためだけでなく、「価値を貯蔵する」ための日本酒生産を可能にし、結果的に米の利用方法に柔軟性を生み出します。もし米が不足する事態になれば、日本酒に回す予定だった米を食料に転用しても、後年挽回することも可能となるでしょう。

2.価格の安定化と付加価値向上: ヴィンテージ市場は、希少性や熟成による品質向上を評価するため、日本酒の価格を安定させ、さらには高める効果が期待できます。これにより、酒蔵の経営はより安定し、米農家への安定した支払いも可能になります。

この考え方をさらに進めると、平時から食用米の一部を「酒造用予備米」として位置づけ、生産計画に組み込むことが有効です。例えば、豊作で米が余剰となる年には、その一部を日本酒の原料として積極的に活用し、酒蔵に安定供給することで、米の供給過剰による価格下落を防ぎ、農業者の経営を安定させます。そして、もし不作や有事によって米が不足した場合には、この「酒造用予備米」として生産された食用米を、速やかに食料供給に回すことで、食料不足の緩和に貢献できるのです。

制度整備と世界的な人気が後押し

このような柔軟な転用を可能にするためには、現行の法制度や流通システムの見直しが必要です。具体的には、非常時における米の用途転換をスムーズに行うための制度設計や、食用米を日本酒原料として流通させる際の品質基準・価格設定に関する指針などが求められます。これにより、平時においては多様な米の活用を促しつつ、有事には迅速かつ効率的に食料供給へとシフトできる体制を構築できます。これは、緊急時に備えた備蓄米の役割を、日本酒という形で間接的に担うことができることを意味します。

そして、この食料バッファーとしての役割やヴィンテージ市場の確立を後押しする可能性があるのが、世界的な日本酒人気の拡大です。近年、日本酒は海外で「SAKE」として認知度を高め、輸出額も増加の一途を辿っています(一時的な変動はあるものの、長期的なトレンドは上昇傾向)。海外での需要が安定していれば、たとえ国内で米の供給に問題が生じたとしても、酒造用として生産された食用米の需要が一定程度確保されることになります。これにより、米農家は安定した生産を続けることができ、ひいては食料安全保障の観点からもメリットが生まれるでしょう。

まとめ

日本酒は単なる嗜好品ではなく、米という基幹食料を巡る将来の課題に対して、多様な解決策を提供する潜在能力を秘めていると言えます。食料安全保障という観点から見れば、日本酒は、平時には農業の維持と米の消費拡大に貢献し、有事には米の供給量を柔軟に調整できる「食料バッファー」として機能する可能性を秘めています。このユニークな役割を認識し、適切な政策と技術開発、食用米を酒造用予備米として位置づけ、その転用を可能にする柔軟な制度の整備を進め、さらにはワインのようなヴィンテージ市場を確立することで、日本酒は、未来の食料問題解決に貢献する新たな道を切り拓くことができるでしょう。それは、私たちの食卓と、地球の未来を守るための、重要な一歩となるはずです。

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「石鎚 純米 土用酒」が誘う、深まる日本酒ペアリングの愉しみ

夏の訪れを告げる「土用」の時期、日本酒ファンにとって心躍る一本が登場しました。愛媛県西条市の石鎚酒造からリリースされた「石鎚 純米 土用酒」。食中酒として定評のある「石鎚」が、夏バテで食欲が落ちやすいこの時期に、疲れた体に染み渡るような優しい旨みと、穏やかな酸で、夏の食卓に寄り添います。冷やしてもちろん、少し温度を上げることでよりその真価を発揮し、懐の深さを見せてくれる一本です。

この「石鎚 純米 土用酒」の登場は、単なる季節限定酒のリリース以上の意味を持つように感じられます。なぜなら、ここ数年、日本酒と料理のペアリングに対する熱が、かつてないほど高まっているからです。もはや日本酒は、和食に合わせるものという固定観念は過去のものとなりつつあります。フレンチ・イタリアン・中華・エスニック…あらゆるジャンルの料理と日本酒を組み合わせることで、互いの魅力を引き出し、新たな発見と感動を生み出すという意識が、プロの料理人のみならず、一般の愛好家の間でも急速に広まっているのです。

このペアリング熱の高まりには、いくつかの背景が考えられます。一つは、日本酒の多様化です。吟醸酒や純米酒といった特定名称酒だけでなく、生酛・山廃・熟成酒・低アルコール酒など、造りのバリエーションが飛躍的に増え、それに伴って味わいの幅も格段に広がりました。これにより、料理のタイプに合わせて多種多様な日本酒の中から最適な一本を選びやすくなったのです。

細分化されるペアリングの世界

近年、ペアリングの考え方は、より細かな区分が行われるようになってきています。かつては「日本酒には和食」という大まかな括りでしたが、現在は「食材の持つ要素(旨み・脂・苦味など)」と「日本酒の持つ要素(酸・甘み・苦味・香りのタイプなど)」をきめ細かく分析し、組み合わせることで、より精度の高いペアリングが模索されています。

例えば、とろみのある料理にはとろみのある酒を、あるいは軽やかな料理には軽やかな酒を合わせることで、口の中での一体感を高めます。また、「温度のペアリング」も重要で、温かい料理には燗酒を、冷たい料理には冷酒を合わせることで、料理と酒が一体となり、より豊かな味覚体験を生み出します。

「石鎚 純米 土用酒」は、まさにこの細分化されたペアリングの世界において、その真価を発揮する酒と言えるでしょう。夏バテで食欲が落ちやすい時期に、今年は7月19日(土)と7月31日(木)の二回ある土用の丑の日に、鰻と合わせてみてはいかがでしょうか。冷やした土用酒は、鰻の脂を軽やかに切り裂き、米の旨みがタレの甘辛さを包み込むように調和します。また、少し温度を上げれば、酒の旨みが料理の奥深さをさらに引き立て、互いに高め合う相乗効果が生まれるでしょう。

日本酒ペアリングがもたらす豊かな食体験

情報伝達の多様化と加速も、このペアリング熱を後押ししています。SNSの普及により、日本酒愛好家が日々のペアリング体験を気軽に発信できるようになりました。プロのソムリエや日本酒コーディネーターが提案するペアリングの妙技だけでなく、一般の消費者が自宅で試した「意外な組み合わせ」が話題となり、新たなペアリングの可能性を広げています。これにより、日本酒と料理のペアリングは、一部の専門家だけのものではなく、誰もが気軽に楽しめる「知的な遊び」へと変化しました。

日本酒と料理のペアリングは、単に「合う・合わない」の二元論ではありません。互いの個性を尊重し、時にぶつかり合いながらも新たなハーモニーを生み出す創造的な営みです。それはまるで、異なる楽器が奏でる音色が重なり合い、美しい音楽を紡ぎ出すオーケストラのようです。

「石鎚 純米 土用酒」のような、明確なコンセプトを持った日本酒の登場は、私たちに改めてペアリングの奥深さを問いかけます。この一本を手に取ることで、私たちは夏の食卓における日本酒の新たな可能性を知り、より豊かな食体験へと誘われることでしょう。日本酒と料理が織りなす無限のハーモニーは、私たちの食生活に彩りを与え、日常をより特別なものへと昇華させてくれるはずです。

▶ 石鎚 純米 土用酒

2025年の夏、日本酒界の新たな波──awa酒が描く「乾杯の未来」

2025年7月12日、東京は池袋サンシャインシティで「令和6酒造年度全国新酒鑑評会 公開きき酒会」が盛況のうちに開催されています。横浜赤レンガ倉庫では「YOKOHAMA SAKE SQUARE 2025」が、そして大阪では「和酒フェス」などのイベントが日本酒の魅力を発信しています。全国津々浦々で日本酒が盛り上がりを見せる中、ひときわ注目を集めるのが、透明で美しい泡が立ち上るスパークリング日本酒、「awa酒」です。

一般社団法人awa酒協会が2016年に設立されて以来、わずか数年でその存在感を飛躍的に高めてきたawa酒。当初9蔵でスタートした協会は、今や32蔵が加盟し、認定銘柄は35を超えるまでに増加しました。ここには、米・米こうじ・水のみを使用し、瓶内二次発酵による自然な炭酸ガス、そして20℃で3.5バール以上のガス圧を必須とする、シャンパンにも比肩する厳格な認定基準があります。国際的な乾杯酒を目指して定められたこの基準こそが、単なる「発泡日本酒」ではなく、信頼性の高い「awa酒」としての地位を確立しているのです。

ところで、近頃のawa酒を取り巻くニュースは、まさにホットな話題に事欠きません。昨年10月に開催された第7回awa酒認定お披露目会では、新たに2銘柄が加わり、そのラインナップはますます充実。そして何よりも注目すべきは、国内外での積極的なプロモーション活動です。日本大使館でのイベントや、国際的なVIPを招いたレセプションでの乾杯酒としての採用が相次ぎ、awa酒がすでに外交の舞台でその輝きを放っていることを示しています。G7閣僚会合では、永井酒造の「MIZUBASHO PURE」が乾杯酒として選ばれてもいます。

さらに特筆すべきは、「awa酒振興議員連盟」の発足です。これは、awa酒が単なる酒類の一つとしてではなく、日本の文化と経済を牽引する重要な存在として認識されていることの表れでしょう。政治の舞台でawa酒が積極的に推進されることは、国内外での認知度向上に不可欠な要素であり、今後の展開に大いに期待が寄せられます。

さて、今年の夏、そして秋にかけて、私たちは様々な「乾杯」の機会に恵まれます。特に注目されるのは、間近に迫る参議院議員選挙です。もちろん、選挙活動において、候補者や政党がどのような酒で乾杯するかは、繊細あるいは些細なことかもしれません。しかし、日本の誇る「awa酒」が、今後、政治の舞台や国際的なレセプションの場で、当たり前のように乾杯の主役となる未来は、決して夢物語ではありません。

2025年、日本の乾杯シーンは、新たな転換期を迎えています。awa酒協会が掲げる「awa酒を世界の乾杯酒に」という目標は、着実に現実のものとなりつつあるのです。今度の選挙、そしてその先の未来。私たちの乾杯は、もしかしたら、透明な泡が美しく立ち上るawa酒で彩られることになるのかもしれません。

▶ 水芭蕉|シャンパンに挑む酒

▶ 楽天市場で購入できる「awa酒」

日本酒の常識を覆す革新「凍眠生酒」:TOMIN SAKE COMPANYが拓く新たな可能性

【東京、2025年7月11日】日本酒の世界に、新たな地平を切り拓く革新的な技術が注目を集めています。富山県高岡市に本社を構える株式会社TOMIN SAKE COMPANYが展開する「凍眠生酒」です。急速液体冷凍機「凍眠」を用いたこの画期的な製法は、これまで酒蔵でしか味わえなかった搾りたてのフレッシュな生酒を、全国はもとより世界中の愛飲家へ届けることを可能にし、日本酒の流通と楽しみ方に大きな変革をもたらしています。

究極の鮮度を閉じ込める「凍眠」技術

「凍眠生酒」の核となるのは、関連会社株式会社テクニカンが開発した急速液体冷凍機「凍眠」です。従来の冷凍技術が空気を使って凍らせるのに対し、「凍眠」はマイナス30℃以下の液体(アルコール溶液)に浸すことで、食品が凍る最大氷結晶生成帯を極めて短時間で通過させます。これにより、細胞組織へのダメージを最小限に抑え、解凍後の品質劣化を防ぐことができるのです。この技術を日本酒に応用することで、搾りたての風味や香りを損なうことなく、瓶ごと瞬間冷凍し、まさに「時を止めた」かのような状態で保存・流通を実現しています。

日本酒の生酒は、火入れ(加熱殺菌)を一切行わないため、デリケートで品質管理が難しいという特徴があります。通常、生酒は冷蔵保存が必須であり、賞味期限も短いため、遠隔地への輸送や長期保存は困難でした。しかし、「凍眠生酒」は、製造から直ちに冷凍することで、酒質変化の要因となる酸素との接触や温度変化を極限まで抑え込み、解凍後も、まるで搾りたてのようなフレッシュな味わいを実現したのです。これにより消費者は、自宅で、または飲食店で、まるで酒蔵訪問したかのような体験を得られるようになりました。

2023年5月19日発売開始

「凍眠生酒」は、2023年5月19日に初めて市場に登場しました。テクニカンが手掛ける冷凍食品セレクトショップ「TOMIN FROZEN」のECサイトにて先行販売が開始され、翌日からは横浜の実店舗でも販売・試飲イベントが開催されました。

最初のリリースでは、日本酒「獺祭」で知られる旭酒造の「獺祭 純米吟醸磨き三割九分寒造早槽」をはじめ、南部美人(岩手県)、天吹酒造(佐賀県)など、全国26の蔵元とコラボレーションした36銘柄が同時に販売開始されました。これにより消費者は、一度に多様な蔵元の「凍眠生酒」を体験できる機会を得ることとなりました。

さらに今年3月、公式オンラインストアをリニューアルオープンし、凍眠生酒を含む取り扱い商品をさらに拡充。加えて今月、帝国ホテルのオンラインモール「ANoTHER IMPERIAL HOTEL」でも取り扱いが始まり、より幅広い層の消費者にその魅力が届くようになりました。

地域と日本酒の新たな架け橋

TOMIN SAKE COMPANYは、サッポロビールや月桂冠といった大手メーカーの特約店であると同時に、富山・石川・福井の地酒に精通する老舗です。同社が「凍眠生酒」事業に注力する背景には、単なるビジネスチャンスだけでなく、地域文化としての日本酒への深い愛情と、その魅力をより多くの人に伝えたいという強い想いがあります。

同社ではこれを、日本酒のテロワールを未来へつなぐ技術だと考えています。酒蔵の想いや、その土地ならではの米、水、気候が育んだ唯一無二の味わいを、劣化させることなく消費者に届ける―――これは、日本酒の新たな可能性を切り拓く上で、非常に重要な技術になるはずです。

特に、知名度は高くなくとも品質の高い地酒は、これまで流通の壁に阻まれ、その魅力を十分に伝えきれていなかったケースも少なくありません。「凍眠生酒」は、そうした隠れた名酒に光を当て、全国そして世界へと販路を拡大する強力なツールとなります。

日本酒文化の未来を創造する挑戦

「凍眠生酒」は、単なる冷凍日本酒ではありません。それは、日本酒の品質管理、流通、そして楽しみ方そのものに革新をもたらす、未来志向の挑戦です。TOMIN SAKE COMPANYは、この技術を通じて、これまで以上に多様な日本酒を世界に紹介し、その奥深さや魅力を広く伝える役割を担っています。

日本酒業界は、伝統を守りながらも常に進化を続けています。その中で、「凍眠生酒」が描く未来は、まさに無限の可能性を秘めていると言えるでしょう。TOMIN SAKE COMPANYの挑戦が、日本の誇るべき酒文化を、これからも世界へと発信し続けることを期待しています。

伝統製法「生酛造り」回帰の潮流 日本酒の奥深さを再発見する蔵元の挑戦

近年、日本酒業界で静かながらも確実なムーブメントが起きています。「生酛造り(きもとづくり)」という伝統的な醸造法に回帰し、その魅力を再発掘しようとする酒蔵が増えているのです。手作業による手間暇のかかる製法でありながら、なぜ今、多くの蔵元が生酛造りを選ぶのでしょうか。その歴史的背景、復活のきっかけ、そして生酛造りならではの奥深い特徴に迫ります。

日本酒の原点に立ち返る「生酛」の歴史

生酛造りは、日本酒の醸造法の中でも最も伝統的かつ古典的な手法の一つです。江戸時代には主流であったとされ、その歴史は300年以上に及びます。日本酒造りにおいて、酵母が健全に活動できる環境を整える「酒母(しゅぼ)」を育成する工程は極めて重要です。現代の主流である「速醸酛(そくじょうもと)」が、乳酸を添加することで雑菌の繁殖を抑え、効率的に酒母を造るのに対し、生酛造りでは、蔵に住み着く天然の乳酸菌の働きを利用して乳酸を生成させます。

この天然の乳酸菌を待つ間、麹(こうじ)と蒸米、水が混ざった桶の中で、蔵人たちが櫂(かい)と呼ばれる棒を使って、米粒をすり潰しながらよく混ぜ合わせる「山卸し(やまおろし)」という重労働が行われます。この山卸しによって、麹の酵素が米を糖化しやすくなり、酵母が活動しやすい環境が整えられていきます。しかし、明治時代末期に速醸酛が開発されると、手間と時間を要する生酛造りは次第に廃れていきました。速醸酛は、安定した酒質と効率的な生産を可能にし、日本酒の大量生産時代を支える屋台骨となったのです。

「速醸」から「生酛」へ、回帰のきっかけ

生酛造りが再び注目され始めたきっかけは、1980年代後半から90年代にかけての日本酒の「個性化」への意識の高まりにあると言われています。画一的な味わいになりがちな速醸酛に対し、より複雑で深みのある味わいを求める声が消費者からも上がるようになりました。そして、そうした消費者のニーズに応えるべく、一部の志ある蔵元が、消えかかっていた生酛造りの技術を復活させ、その可能性を追求し始めたのです。

また、近年の「テロワール」や「自然」を重視する世界的潮流も、生酛造りへの再評価を後押ししています。人工的な乳酸添加ではなく、蔵に宿る自然の力を最大限に活かす生酛造りの哲学は、環境意識の高まりと共鳴し、より魅力的に映るようになりました。

生酛造りが生み出す唯一無二の味わい

生酛造りの最大の特徴は、その酒が持つ独特の味わいと複雑性にあります。天然の乳酸菌がゆっくりと時間をかけて生成する乳酸は、多種多様な酸を生成し、日本酒に複雑な酸味と奥深さをもたらします。これにより、単調ではない、多層的な味わいが生まれるのです。

また、生酛造りの酒は、酸味と旨味のバランスが非常に良く、熟成させるとさらにその真価を発揮すると言われています。骨格がしっかりしているため、長期熟成にも耐えうる力強さがあり、熟成とともにアミノ酸系の旨味が増し、丸みを帯びた芳醇な味わいへと変化していきます。香りは穏やかながらも深みがあり、燗(かん)にすることでその旨味がより一層引き立つことも、多くの日本酒ファンを惹きつける理由です。

手作業による「山卸し」の重労働は、蔵人の情熱と技術の象徴でもあります。機械化が進む現代において、あえて手間暇を惜しまず、自然の摂理に身を委ねる生酛造りは、単なる酒造りの手法を超え、日本酒の持つ文化的な奥深さ、そして未来への可能性を示していると言えるでしょう。生酛造りの日本酒は、まさに「温故知新」を体現する、日本酒業界の新たな潮流なのです。

▶▶▶ 生酛造りにこだわる酒造

【大七酒造(福島県)】

生酛造りの日本酒を語る上で、まず名前が挙がるのが大七酒造です。創業以来、一貫して生酛造りを取り組んでおり、「純米生酛」など、生酛造りの真髄を味わえる銘柄を多数生み出しています。その力強くも繊細な味わいは、国内外で高く評価されています。

▶ 大七|生酛造り一筋

【新政酒造(秋田県)】

「全量生酛純米造り」を謳っており、秋田県産米のみを使用し、酒母には天然の乳酸菌を活用する伝統製法「生酛」のみを採用しています。ラベル記載義務のない添加物も使用しないなど、非常にこだわり抜いた酒造りを行っています。

▶ 新政|最先端を走るナンバー6

【せんきん(栃木県)】

現代の日本酒造りの原点ともいえる江戸時代の技法を尊重し、それを現代の技術でモダナイズしていくことを「江戸返り」と呼んでいます。その核となるのが「生酛造り」であり、現在ではすべての日本酒を生酛造りで醸造しています。

▶ 仙禽|ドメーヌ化のパイオニア

【寺田本家(千葉県)】

平成12酒造年度から全量生酛造りに転換した酒蔵です。自然の力を最大限に活かした酒造りを目指しており、乳酸菌や酵母の無添加、さらに22BY(平成22酒造年度)からはすべての酒で無農薬米を使用するなど、徹底した自然派の酒造りを実践しています。

▶ 寺田本家|自然のままに時を醸す

【土田酒造(群馬県)】

近年、全量純米山廃造り、そして2019年には全量純米生酛蔵へと転換したことで注目を集めています。江戸時代の製法である生酛造りを現代の設備の中で貫き、菌や微生物の力を信じ、米、水、麹、そして菌のみで酒を造るという哲学を持っています。

【香住鶴(兵庫県)】

全量生酛・山廃蔵として知られています。但馬杜氏の伝統的な酒造りを継承しながら、平成11酒造年度より生酛造りを復活させ、現在ではすべての酒が生酛系(生酛、山廃)で造られています。

【菊正宗酒造(兵庫県)】

灘五郷を代表する大手酒蔵の一つですが、生酛造りにも力を入れています。特に辛口の日本酒を得意としており、生酛造りによるキレの良さとコクを両立させた酒を造っています。一部の上撰本醸造酒も生酛造りに転換するなど、伝統的な製法へのこだわりを見せています。

【出羽桜酒造(山形県)】

吟醸酒ブームの火付け役としても知られる出羽桜酒造も、近年生酛造りの日本酒を手掛けています。「伝統製法シリーズ 生酛仕込み」など、生酛造りの力強さに、出羽桜らしい華やかさを加えたモダンな生酛酒を造っています。

【久保本家酒造(奈良県)】

300年以上の歴史を持つ老舗酒蔵で、生酛造りにこだわった酒造りを行っています。自然豊かな大宇陀の地で、昔ながらの製法を守りながら、個性豊かな「生酛のどぶ」などの日本酒を生み出しています。

【武重本家酒造(長野県)】

「御園竹」「牧水」などの銘柄で知られる武重本家酒造も、生酛造りに力を入れています。特に、生酛造りに欠かせない木製の半切桶や暖気樽を欠かさぬよう、専属の桶職人がいるなど、伝統的な道具や技術を大切にしています。

【大岩酒造本店(鳥取県)】

「岩泉」などの銘柄で知られ、生酛造りによる純米原酒などを製造しています。すっきりとした味わいの中に、米の旨味を引き出した生酛造りの酒を醸しています。

【白牡丹酒造(広島県)】

半世紀の時を越え、2023年に伝統的な生酛造りを復活させた酒蔵です。蓋麹法や木の半切桶、櫂棒による酛摺りなど、徹底して伝統技法にこだわった生酛酒造りに挑戦しています。

【白菊酒造(岡山県)】

小規模ながらも生酛造りに積極的に取り組んでいる酒蔵として知られています。毎年、生酛造りの作業を公開するなど、伝統技術の継承にも力を入れています。

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伝統と革新が交差する「クラフトサケ」の最前線:日本酒市場に新風を吹き込む多様な魅力と未来

かつて「清酒」という厳格な枠の中で発展してきた日本の酒造りに、近年、大胆な革新をもたらす新たな潮流が生まれています。それが「クラフトサケ」です。酒税法の「清酒」の定義にとらわれず、自由な発想と技術で造られるこれらの『日本酒的なお酒』は、伝統を重んじつつも新しい価値を創造し、国内外の市場に大きなインパクトを与えています。2025年6月現在、クラフトサケはどのような状況にあるのでしょうか。その最前線を追います。

クラフトサケの誕生と広がる解釈

クラフトサケという言葉は、まだ法的な定義があるわけではありませんが、その概念は近年急速に浸透してきました。2000年代以降のクラフトビールやクラフトジンブームと同様に、酒類全般で「多様性」「個性」「少量生産」「作り手の顔が見える」といった価値観が重視されるようになったことが背景にあります。

伝統的な日本酒は酒税法で厳しく規定されており、原料は米、米麹、水に限定され、醸造アルコールの添加割合も細かく定められています。この厳格なルールがあるため、既存の日本酒蔵は新たな挑戦をしにくい状況にありました。しかし、日本酒の消費量が減少する中で、新しい顧客層を開拓し、日本酒の魅力を再構築する動きが求められていたのです。

そこで登場したのが、酒税法の「清酒」の枠にとらわれない新しいお酒造りです。例えば、米や米麹、水以外の副原料(果物・ハーブ・スパイスなど)を使用したり、清酒では認められないような製法(ワイン酵母の使用・木樽での熟成など)を取り入れたりするケースが多く見られます。これにより、法律上は「清酒」ではなく「その他の醸造酒」や「リキュール」などに分類されることになりますが、作り手のこだわりや創造性が詰まった「日本酒的なお酒」として、独自の存在感を放っています。この多様なアプローチこそが、クラフトサケの最大の魅力と言えるでしょう。

今現在のクラフトサケを形作る主要な潮流

現在、クラフトサケの市場を形成している主要な潮流は、以下の要素で構成されています。

1.多様な副原料の積極的な活用

クラフトサケの象徴ともいえるのが、副原料の積極的な使用です。伝統的な日本酒では使わない果物(柑橘類・リンゴ・ベリーなど)、ハーブ(ミント・パクチー・レモングラスなど)、スパイス(胡椒・カルダモン・シナモンなど)、さらにはコーヒー豆やチョコレート、お茶などを副原料として加えることで、これまでにない風味や香りを生み出しています。これにより、日本酒の苦手な人や、新しい味覚体験を求める消費者に強くアピールし、食の多様化が進む現代のニーズに応えています。例えば、柑橘系の爽やかな酸味を持つクラフトサケは食前酒としても人気を集め、ハーブやスパイスを使ったものは、特定の料理とのペアリングを楽しむ新たな提案を生み出しています。

2.製法の多様化と実験的な試み

製法においても、そのアプローチは多岐にわたります。ワイン酵母やビール酵母の使用は、日本酒では見られない酸味や複雑な香りを引き出し、味わいのバリエーションを格段に広げています。また、ウイスキーやワインの熟成に使われる木樽での熟成は、バニラのような甘い香りを加えたり、深みのある色合いをもたらしたりと、伝統的な日本酒にはないキャラクターを与えます。

さらに、低温で長期間発酵させることで繊細なアロマを引き出したり、逆に高温で短期間発酵させることで力強い個性を生み出したりするなど、発酵プロセスの革新も進んでいます。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵を取り入れたスパークリングサケは、きめ細やかな泡立ちと爽快な口当たりで人気を博し、日本酒の飲用シーンを広げています。こうした実験的な試みは、時に「日本酒らしさ」とは異なる風味を生み出しますが、それがかえって新しい価値として評価されています。

3.小規模生産と地域性への強いこだわり

多くのクラフトサケは、大手メーカーのような大量生産ではなく、小規模な醸造所で手作業に近い形で造られます。これにより、作り手の個性が色濃く反映され、各醸造所の哲学や想いが製品に宿ります。また、地域ごとの風土や素材を活かした「テロワール」を表現する動きも盛んです。地元の米や水はもちろんのこと、その土地でしか手に入らない特別な副原料を用いることで、唯一無二のクラフトサケが生まれています。クラウドファンディングを活用して設備投資を行い、小規模ながらも意欲的な醸造を開始する新しい担い手も増加しており、地域活性化の一助としても期待されています。

4.共感を呼ぶブランディングと直接的なコミュニケーション

従来の日本酒が「銘柄」や「産地」で語られることが多かったのに対し、クラフトサケは「作り手の哲学」「製品に込められたストーリー」「デザイン性の高いボトルやラベル」といった要素が重視されます。現代の消費者は、単に製品を消費するだけでなく、その背景にある物語や作り手の情熱に共感することを求めます。SNSなどを積極的に活用し、作り手自らが消費者に直接語りかけ、製品の背景にある物語を伝えることで、強い共感を生み出しています。おしゃれで目を引くパッケージデザインは、特に若い世代や女性層への訴求力を高め、ギフトとしても選ばれる機会が増えています。

5.新たな飲用シーンの提案と海外市場への挑戦

クラフトサケは、その多様な味わいとデザイン性の高さから、これまでの日本酒にはなかった新たな飲用シーンを提案しています。食中酒としてはもちろん、食前酒やデザート酒として楽しんだり、カクテルのベースとして使用されたりするなど、その可能性は無限大です。

また、クラフトサケは海外市場でも大きな注目を集めています。そのユニークな風味や自由な発想は、海外の食文化やカクテルシーンにも柔軟に対応できる可能性を秘めています。輸出に力を入れる醸造所も増え、日本酒の新しい顔として、世界中でファンを獲得し始めています。ニューヨークやロンドンなどの国際都市では、クラフトサケを取り扱うバーやレストランが増加しており、今後のさらなる市場拡大が期待されます。

今後の展望

クラフトサケは、日本酒業界全体に活気と多様性をもたらし、伝統的な清酒が持つ奥深さと、クラフトサケが持つ革新性が互いに刺激し合い、日本酒というカテゴリーそのものを進化させています。

もちろん、酒税法の定義との兼ね合いや、新規参入の難しさ、小規模生産ゆえの安定供給の課題なども存在します。それでも、消費者の「個性的なもの」「ストーリーのあるもの」を求める声が強まる中、クラフトサケの存在感は今後ますます高まっていくと予想されます。既存の酒蔵がクラフトサケの要素を取り入れた新商品を開発したり、クラフトサケ専門の醸造所がさらに増加したりするなど、その動きは加速していくでしょう。

クラフトサケは、単なる「ブーム」ではなく、日本酒の未来を形作る重要な潮流として、その進化から目が離せません。私たちは、この新しいお酒がもたらす驚きと発見を、これからも楽しみにしています。


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家飲みの日本酒、温度管理が美味しさの鍵!専用クーラーと通販活用で広がる楽しみ方

日本酒は繊細な飲み物であり、その魅力を最大限に引き出すためには温度管理が非常に重要であることは、日本酒愛好家の間では広く知られています。しかし、自宅で日本酒を楽しむ「家飲み」の機会が増えるにつれ、この温度管理の重要性が改めて注目されています。近年では、専用の日本酒クーラーを導入する家庭が増えるなど、美味しさを追求する動きが活発化しています。

日本酒と温度の奥深い関係

日本酒は、その種類によって最適な飲用温度が大きく異なります。例えば、吟醸酒や大吟醸酒のような華やかな香りの酒は、冷蔵庫で冷やした「雪冷え」(5℃前後)や「花冷え」(10℃前後)で飲むことで、そのデリケートな香りが際立ちます。一方、純米酒や本醸造酒の中には、常温の「ひや」(15℃前後)や、温めて飲む「ぬる燗」(40℃前後)、「熱燗」(50℃前後)で飲むことで、米の旨味やコクがより一層引き立つものも少なくありません。

この温度帯による味わいの変化は、日本酒の大きな魅力の一つですが、同時に家庭での管理を難しくする要因でもありました。一般家庭の冷蔵庫は、他の食品との兼ね合いで頻繁に開閉され、設定温度も一定ではありません。また、冷やしすぎると香りが閉じてしまったり、常温放置では酒質が劣化したりするリスクもあります。特に、一度開栓した日本酒は酸化が進みやすいため、適切な温度で保存することが、最後まで美味しく味わうための必須条件となるのです。

進化する家飲み環境:日本酒クーラーの普及

こうした背景から、最近では「家飲み」環境を充実させるアイテムとして、日本酒専用のクーラーを導入する家庭が増えています。 ワインセラーのように温度や湿度を一定に保てるタイプのものが人気を集めており、複数の温度帯に設定できる機能を持つ製品も登場しています。これにより、同じ日本酒でも温度を変えて飲み比べを楽しんだり、開栓後の日本酒を最適な状態で保管したりすることが可能になりました。

「以前は冷蔵庫の野菜室に入れていましたが、場所を取るし、他の食品の匂いが移るのが気になっていました。専用クーラーを導入してからは、いつでも最適な温度で日本酒が楽しめるようになり、家飲みが格段に豊かになりました」と話す日本酒愛好家もいます。日本酒クーラーの普及は、単なる収納手段に留まらず、日本酒の楽しみ方を深めるための投資として捉えられています。

通販を活用した賢い温度管理と購入戦略

さらに、日本酒の温度管理を徹底する上で、通販の活用も非常に有効な手段となっています。多くの酒販店や酒蔵がオンラインストアを展開しており、購入した日本酒を自宅までクール便で配送してくれるサービスが一般的です。これにより、購入から自宅に届くまでの間に日本酒が温度変化に晒されるリスクを最小限に抑え、酒質の劣化を防ぐことができます。特に、デリケートな吟醸酒や生酒など、低温での管理が必須な日本酒を購入する際には、クール便での配送は不可欠と言えるでしょう。

また、通販は自宅にいながら全国各地の珍しい日本酒や、酒蔵直送の限定品などを手軽に購入できる利点もあります。地方の酒蔵が小ロットで生産するクラフトサケなども、通販を通じて消費者のもとに届けられる機会が増えています。これにより、消費者は選択肢が広がり、自身の好みやその日の気分に合わせて、最適な日本酒を最適な状態で手に入れることが可能になりました。

日本酒の新たな楽しみ方を創造

日本酒の温度管理に対する意識の高まりと、それに伴う日本酒クーラーの普及、そして通販の活用は、家での日本酒の楽しみ方を大きく変えつつあります。適切な温度で日本酒を味わうことで、それぞれの酒が持つ個性や魅力がより明確になり、新たな発見や感動が生まれます。

かつては「難しい」と思われがちだった日本酒の楽しみ方も、こうした新しいツールやサービスの登場により、より身近で豊かなものへと進化しています。消費者一人ひとりが、自分の好みに合わせた温度帯で日本酒を味わうことができるようになったことで、日本酒文化はさらに多様化し、奥深い世界を広げていくことでしょう。

▶ 市販されている日本酒クーラー

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