宝酒造は9月23日、料理酒ブランド「料理のための清酒」から期間限定商品<旨にごり>を発売しました。にごりならではの旨味を取り入れ、煮物や炒め物にコクを加えることを狙った一品です。これまで「万能調味料」としての側面が強かった料理酒に、日本酒的なバリエーションを持ち込む試みといえます。
料理酒市場の現状と位置づけ
全国の料理酒市場は年間およそ150億円規模と推定されます。これは日本酒全体のおよそ5%にとどまり、本みりん市場(約350〜400億円)の40%程度の大きさです。醤油の国内市場が約3,000億円、さらに世界市場では10兆円規模に拡大していることを踏まえると、料理酒はまだ小さな市場といえます。しかし、その小ささは裏返せば成長余地の大きさでもあります。
日本酒の多様性を料理に活かす挑戦
料理酒はアルコールによって臭みを消し、米由来の旨味で料理に深みを加えるという特性を持ちます。飲用の日本酒が停滞感を抱える中でも、料理シーンに寄り添うことで新たな需要を開拓できる可能性があります。今回の<旨にごり>は「にごり酒」という日本酒のカテゴリーを調味料に応用するもので、料理酒の幅を広げる試みです。吟醸やスパークリングなど、日本酒の多様なスタイルが将来的に料理酒に展開される道筋を示しているとも言えるでしょう。
近年は減塩や健康志向の高まりを背景に、無塩タイプや低塩タイプの料理酒が広がっています。調味料としての役割に加えて、健康的で繊細な味わいを提供できる点は、消費者のニーズに合致します。宝酒造の新商品もまた、単なる風味補助にとどまらず、こうした流れを後押しする存在になることが期待されます。
しょうゆが世界市場で存在感を放つように、料理酒もまた「発酵による旨味」という普遍的な価値を軸に、海外市場への展開余地を持っています。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界中で親しまれている今こそ、料理酒が「日本酒のもう一つの可能性」として注目される機会が訪れるかもしれません。
宝酒造の「料理のための清酒」<旨にごり>は、にごりの旨味を活かした新しい提案です。規模はまだ小さいものの、料理酒は日本酒文化の多様性を家庭の台所から広げていく存在として期待されます。今回の新商品は、その未来に向けた重要な布石といえるでしょう。
