2025年8月23日付で米国のライフスタイル誌「The Manual」に掲載された記事「3 saké myths busted — surprising truths from a saké pro(日本酒に関する3つの誤解を専門家が解説)」では、アメリカの日本酒専門家ポール・イングラート氏(SakeOne社長)が、日本酒にまつわる誤解とその真実を語りました。この記事は、輸出先2位であるアメリカでさえ、いまだに日本酒が正しく理解されていない現状と、逆にそれが大きな可能性につながることを示しています。
誤解その1「日本酒は熱燗で飲むもの」
海外では、多くの人が「日本酒=熱燗」というイメージを持っています。イングラート氏は、吟醸酒や大吟醸のように香り豊かなタイプは冷やして飲むことで繊細な味わいを楽しむことができ、一方で純米酒などはぬる燗で旨みが引き立つことを指摘。つまり、日本酒は温度によって多彩な表情を見せる飲み物であり、固定観念にとらわれない楽しみ方が推奨されることを語っています。
誤解その2「日本酒はライスワイン」
欧米では日本酒を「ライスワイン」と呼ぶことがありますが、イングラート氏はそれを正しくないと指摘します。ワインは単発酵で造られるのに対し、日本酒はデンプンを糖に変えながら並行してアルコール発酵が進む「並行複発酵」という独自の技法によって造られます。世界的に見ても稀なこの製法こそが日本酒の本質であり、ワインやビールと同列に置くことはできません。日本酒は、「日本酒」という唯一無二のカテゴリーだと語るのです。
誤解その3「日本酒は日本でしか造られない」
日本酒は日本固有の酒と考えられがちですが、現代ではアメリカをはじめ各国で本格的に造られています。特に米国では、ワイン造りやクラフトビール文化の影響も受け、技術力の高いクラフト日本酒が生まれています。日本から学んだ伝統的な技法を生かしつつ、地域の特色を加えた酒造りは、世界における日本酒の普及に大きな役割を果たしつつあります。
誤解があるからこその可能性
イングラート氏の解説から見えてくるのは、日本酒がまだ海外で誤解されているという事実です。「熱燗の酒」「ライスワイン」「日本でしか造れない」といったイメージは、日本酒の多様な魅力を伝えきれていません。しかしその反面、正しい知識を広める余地が大きく存在しています。誤解を一つずつ解消することによって、日本酒はさらなる市場拡大の可能性を秘めているのです。
特に、冷やしてワイングラスで味わうスタイルや、和食以外の料理との相性を紹介することで、日本酒はより幅広い層に受け入れられるでしょう。日本酒はまだ「未知の酒」として捉えられている部分が大きいため、その分だけ、成長の余地も大きいのです。
「The Manual」の記事は、海外における日本酒の理解が不十分であることを浮き彫りにしました。ですが、その誤解を正しく伝え直すことによって、日本酒は「日本限定の酒」から「世界に広がる伝統酒」へと飛躍できます。海外市場における教育や啓蒙は、日本酒文化の未来を豊かにし、さらに多様な飲み手へと広げるための重要な取り組みとなるでしょう。
