酒造の垣根を越える新潮流──「Assemblage Club」が示す日本酒アッサンブラージュの未来

日本酒の世界に、ワイン文化で用いられてきた「アッサンブラージュ(ブレンド)」の概念が静かに浸透し始めています。2022年に京都の複数の酒蔵が協働して立ち上げた「Assemblage Club」は、その象徴的な存在といえるでしょう。この度、同クラブから第5弾となる新商品『KASUMI-柑澄-』が登場しました。増田德兵衞商店、北川本家、松井酒造といった歴史ある蔵元が手を組み、酒質設計からブレンドまで共同で行う取り組みは、日本酒の世界に新しい可能性を提示しています。

今回の『KASUMI-柑澄-』は、甘酸っぱさを特徴とし、軽やかでニュートラルな味わいを持つ一本です。ジャンルに囚われない食中酒として設計されており、京都の料飲シーンとも相性のよい仕上がりとされています。複数の蔵がそれぞれの持ち味を出し合い、一つの『作品』としてまとめ上げたこの酒は、単なるブレンド酒にとどまらず、「共同で日本酒を創る」という新たな文化の兆しともいえます。

アッサンブラージュが持つ意味

アッサンブラージュとは、異なるロット・異なる畑、時には異なる品種のワインを組み合わせ、より複雑で調和のとれた味わいをつくる技法です。これを日本酒に応用することで、単一蔵では実現しづらい幅広い表現を追求できるようになります。

酒造ごとに水質・酵母・麹菌・醸造哲学が異なるため、複数の蔵を横断したブレンドは、日本酒文化において非常に大胆な挑戦です。蔵元同士が互いの個性を理解し、その個性を尊重しつつ一本の酒にまとめる作業は、技術的にも文化的にも高度なコミュニケーションを必要とします。

「Assemblage Club」の取り組みは、日本酒の多様性を『蔵単位』ではなく『地域単位』『共同プロジェクト単位』で広げる試みであり、地域文化としての日本酒の新しい形を提示しています。

日本酒におけるアッサンブラージュの可能性

日本酒のアッサンブラージュは、次の三つの大きな可能性を持っています。

① 味わいの多様化と新ジャンルの創出

単一の蔵では再現できない味わいを創造できる点は大きな魅力です。『KASUMI-柑澄-』のように、甘酸味と軽やかさを軸にした『食べさせる酒』は、世界的なフードシーンにも対応しやすく、日本酒を国際的に普及させる上でも重要な役割を果たします。

② 蔵の個性の可視化と再解釈

ブレンドによって、各蔵の癖や特徴が相互に引き立ちます。たとえば、増田德兵衞商店の落ち着いた酒質に、松井酒造の柔らかな香味が重なり、北川本家のきれいな酸が全体をまとめる──こうした個性の交差点こそ、アッサンブラージュの醍醐味です。結果として、共同で一本の酒を造る過程で、蔵元自身が自らの個性を再発見するきっかけにもなります。

③ 日本酒産業の連携モデルとしての価値

人口減少や酒造りの担い手不足が進むなか、蔵同士が協力してプロダクトを開発する流れは、地域全体の文化を守るうえでも有効です。単独では生み出せない価値を共同で生み出し、販売も発信も共有する。これは、日本酒がこれから『地域文化をつくる産業』として進化するための一つの方向性といえるでしょう。

「混ぜる」ことから始まる新たな日本酒文化

アッサンブラージュは、これまで蔵単位で語られることの多かった日本酒の価値観を揺るがし、より開かれた文化へと変えていく可能性を秘めています。蔵の数が年々減り続ける現状において、世界市場を見据えながら、多様性と新規性を獲得するための鍵ともなるでしょう。

『KASUMI-柑澄-』は、単なる新商品の一つではありません。複数の蔵が手を携え、互いの個性を響き合わせることで、日本酒が持つ表現の幅をさらに広げる試みそのものです。酒造の垣根を越えたアッサンブラージュが、この先の日本酒文化にどのような新たな景色をもたらすのか、大きな注目が集まっています。

▶ IWA5「アッサンブラージュ6」と鳳凰美田の挑戦──日本酒に広がるアッサンブラージュの可能性

▶ ブレンド日本酒 Assemblage Club 05 CODENAME : KASUMI 販売サイト

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海を越える日本酒:台湾の信仰と日本の技術が拓く「異文化融合」の新時代

2025年11月17日、茨城県の明利酒類株式会社が、台湾の歴史的な宗教施設である鎮瀾宮と共同開発した新ブランド「五十瀾純米大吟醸」の予約を開始しました。これは単なる新商品の発表に留まらず、日本酒が「和食の傍ら」から離れ、海外の文化・信仰の文脈に深く融合し始めたことを象徴する出来事として、酒類業界内外から注目を集めています。

台湾の魂との出会い:「五十瀾」が示す新たな融合の形

「五十瀾 純米大吟醸」の最大の特筆すべき点は、鎮瀾宮が史上初めて正式に日本酒の共同開発に参画したという点にあります。

鎮瀾宮は、航海の守護神「媽祖」を祀り、台湾全土で絶大な信仰を集める場所です。毎年行われる「大甲媽祖遶境」は100万人以上が参加する世界的な宗教行事であり、台湾文化そのものの象徴と言えます。

明利酒類が誇る「明利小川酵母」などの高い醸造技術と、台湾文化の核となる「信仰と伝統」が結びついた「五十瀾」は、単なる輸出商品ではありません。台湾で縁起の良い色とされる「赤と金」を基調としたデザインや、「人々の力を結集し、海のうねりを起こす」というコンセプトは、日台両国の文化的な背景を共有し、現地の文脈の中に日本酒を深く根付かせようとする強い意志を示しています。

これは、日本酒の国際化が、初期の「和食ブームに乗った輸出」から、「現地文化の精神性を取り込んだ融合」という、より深いステージへと移行したことを示唆しています。

グローバルな食卓で「Sake」として定着する

日本酒の海外進出は、ここ十数年で目覚ましい進展を遂げています。その第一段階は、グローバルな食文化の中での地位確立でした。

特にワイン文化が根付く欧米では、日本酒をワイングラスで提供するスタイルが定着しました。これは、吟醸香や複雑な味わいをより楽しむための提案でしたが、結果として、日本酒を「日本の特殊なアルコール」から、「Sakeという独自のカテゴリーを持つ世界の酒」へと認識させるきっかけとなりました。

フランスやイタリアの高級レストランでは、現地のシェフが日本酒をチーズやフォアグラ、肉料理といった伝統的な欧州料理に積極的にマリアージュさせる試みが増えています。例えば、熟成した純米酒が、タンニンが少なく旨味が豊富なことから、重厚な赤ワインではなく、特定の熟成肉の繊細な風味を引き立てるとして採用される事例も一般化しました。これは、日本酒が現地の食のプロフェッショナルに認められ、食文化の一部として組み込まれたことを示しています。

クラフトとカクテル:ライフスタイルへの浸透

さらに深く融合を進める事例として、「クラフトサケ」のムーブメントと「カクテルベース」としての活用が挙げられます。

アメリカやヨーロッパでは、現地の米や水を使用し、現地の味覚やテロワールを反映させた日本酒、いわゆるクラフトサケを製造する酒蔵が続々と誕生しています。彼らの製品は、日本の伝統製法を基にしながらも、現地のビールやクラフトジンなどと並ぶ地域の酒」として認識され、現地のコミュニティに根付いています。

また、ニューヨークやロンドンなどの主要都市のバーでは、日本酒がカクテルのベースとして活用される事例が増加しています。吟醸酒特有の華やかな香りを活かした「サケ・マティーニ」や、純米酒の旨味と酸味を活かした独創的なオリジナルカクテルなどが定番化し、日本酒は現地のバー文化というライフスタイルの一部に組み込まれつつあります。

文化的な「共有財産」としての未来

「五十瀾」の誕生は、これらの流れの最先端を示しています。単に美味しく飲んでもらうだけでなく、台湾の人々にとって精神的な価値を持つ酒としてデザインされたからです。

日本酒は今後、各国・各地域の食や信仰、そしてライフスタイルに合わせて「ローカライズ」され、それぞれの文化に深く根付いた「共有財産」へと進化していく可能性を秘めています。日本の伝統技術を土台としながら、国境を越え、現地の文化に真摯に向き合うことで、日本酒は、世界で独自の地位を確立することになりそうです。

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【ブルーチーズに合う日本酒】官能評価を越えた『相性の再現性』が日本酒ペアリングを変える

岡部合名会社(茨城県常陸太田市)が、茨城県産業技術イノベーションセンターと共同で「ブルーチーズに合う日本酒」を開発しました。これまでペアリングといえば、ソムリエや利酒師の経験による官能評価に大きく依存してきましたが、今回の取り組みは、科学的データを基盤に日本酒と食品の相性を導き出した点で、新しい価値を示しています。日本酒の味わいを科学的に設計するというアプローチは、業界に大きな波紋を広げる可能性があります。

ミスマッチから生まれた開発スタート

きっかけは「日本酒はチーズに合う」という一般的認識と、実際にブルーチーズを合わせた際に起こる生臭さの不調和でした。多くの蔵元や飲食店が経験則で「相性が良い」と語る一方、ブルーチーズでは思うように合わず、むしろ不快な香りが出るケースも少なくありません。岡部合名会社は、この『なぜ合わないのか』を科学的に解明するため、茨城県産業技術イノベーションセンターの協力を得て、香気成分の分析に着手しました。

分析の結果、ブルーチーズ特有の青かび由来成分と、日本酒に含まれる特定の酸やエステルが反応すると、魚介系のような生臭さを強調する可能性があることが分かりました。そこで蔵では、香りの相互作用を抑え、逆にチーズのコクを引き立てるように、酒質設計を一から再構築。香味成分を緻密にコントロールすることで、ブルーチーズの強烈な風味と調和する新たな酒を作り上げたのです。

官能評価だけでは到達できない再現性

今回の開発の大きな意義は、「美味しい」と感じる理由をデータで説明できるところにあります。

従来のペアリングは、優れた利き手による官能評価を基盤とするため、経験値の差が大きく、再現性に乏しい側面がありました。しかし科学的分析を用いれば、香り成分の相性、味覚のバランス、口中での変化まで、数値として可視化できます。これにより、どの酒質がどの食品と合うのかをロジカルに説明でき、商品開発のスピードと精度が高まります。

日本酒は近年、国際市場でワインと比較される機会が増えていますが、世界の酒類市場では科学的根拠に基づく味づくりが主流です。今回の取り組みは、日本酒が世界基準のペアリング研究に一歩踏み出した象徴的事例といえます。

今回の成功は、他の食品とのペアリング研究を加速させる可能性を持ちます。例えば、熟成肉・発酵食品・スパイス料理・ヴィーガンフードなど、従来の日本酒とは距離があるとされてきたジャンルにも科学的アプローチで挑戦できるようになります。

さらに、香気成分のデータベース化が進めば、レストランや小売店向けに「科学的マッチング表」を提供することも現実味を帯びてきます。これは、日本酒の新しいマーケティングツールとなり、ペアリングを軸にした商品開発やメニュー設計が格段に進むでしょう。

日本酒は『感性の世界』から『設計できる味』へ

岡部合名会社と茨城県産業技術イノベーションセンターの共同開発は、ただの新商品づくりにとどまらず、日本酒と食の関係性を科学的に捉えるという新たな時代の到来を示しています。官能評価に科学的エビデンスが加わることで、日本酒の可能性は大きく広がり、これまで届かなかった食品ジャンルにも手が伸びていくはずです。

感性の酒である日本酒が、科学と手を組むことでどこへ向かうのか。今回のブルーチーズ専用酒の誕生は、その未来を照らす試金石となっています。

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新品種「越のリゾット」で醸す日本酒『リゾッシュ』──地域住民が動かす革新的酒造プロジェクトの現在地

福井県で進行中の「越のリゾット」を使った日本酒づくりは、地域住民が主体となって立ち上げた、約3年にわたる地域活性化プロジェクトです。地元農家が育てる新品種「越のリゾット」を、単なる農産物にとどめず新たな地域ブランドとして育てるべく、試験醸造やストーリーづくりが進められてきました。

その中で醸造パートナーとして参加したのが福井市の舟木酒造です。住民が原料を育み、酒蔵が技術で応える形で開発された日本酒は『リゾッシュ』と名付けられ、地域の想いを象徴する一本として注目されています。

越のリゾットを酒にする意味──食用米の個性と新たな食文化

「越のリゾット」は、リゾット調理向けに開発された福井生まれの新品種で、高アミロースによる粒立ちの良さが特徴です。この性質は酒米とは異なるデンプン構造を持ち、麹の食い込み方、溶け方、香味の出方に独自の変化を生みます。そのため『リゾッシュ』は、華やかな吟醸香よりも米の旨味と軽い粘性が心地よく残るタイプになりやすく、リゾットや魚介、クリーム系の料理など、洋食とのペアリングに自然な接点が生まれます。

つまり、越のリゾットで酒を醸すことは、単なる原料転用ではなく、米の品種特性と料理との文脈をセットにした新しい日本酒を提案する試みでもあります。日本酒を「食に寄り添う飲料」として再構築する可能性に満ちている点が、今回のプロジェクトの最大の魅力です。

このプロジェクトの本質は、酒造りそのものより、地域が共に価値を創るプロセスにあります。越のリゾットの栽培、収穫イベント、醸造の公開、試飲会、販売までを住民が関わることで、商品が『地域の物語』として育っていきます。

舟木酒造はその中心で技術的な裏付けを提供し、地域の想いを酒に変換する役割を担っています。こうした分業を通じて生まれる『リゾッシュ』は、産地の顔が見える地酒であり、地域の食材とのコラボや観光資源としても機能していくものと考えられます。

今後の展開──持続可能な仕組みへ

プロジェクトの継続には、越のリゾットの安定生産、醸造データの蓄積、ブランド力の強化が欠かせません。特に、食用米での酒造りは毎年の米質変動が味わいに反映されやすく、地域全体で品質を支える仕組みづくりが重要になります。

今後は、洋食レストランとの連携や、福井の食文化をテーマにしたイベント、さらには海外展開など、『越のリゾット×日本酒』という独自性を活かした広がりも期待できます。


『リゾッシュ』は、地域住民が中心となり、地元の新品種を活かすために生まれる挑戦的な日本酒です。越のリゾットの個性を活かした味わいは、これまでの酒米中心の日本酒文化とは異なる、新たな食の提案を可能にします。

地域と酒蔵が共につくり上げるこのプロジェクトは、日本酒の未来に『土地の物語を飲む』という新しい楽しみ方を提示しており、今後の発展が期待されます。

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第44回全国きき酒選手権大会が示す『競技としての日本酒』の新潮流|YouTube配信で広がる味覚競技の魅力

11月15日、東京・大手町プレイスで「第44回全国きき酒選手権大会」が開催されました。長い歴史を誇る本大会は、日本酒の知識と味覚を競う国内最高峰の味覚競技として知られ、今年もYouTubeによるライブ配信が行われました。オンライン視聴を通じて、会場に足を運べなかった層にも競技の緊張感や、日本酒の奥深さが中継され、ファン拡大に向けた大きな一歩となりました。


大会は、筆記試験に加え、日本酒を銘柄ごとにマッチングする「きき酒競技」で構成されます。個人戦・団体戦に加え、大学対抗の部、社会人日本酒愛好会の部など多彩なカテゴリーが設けられ、世代や立場を超えて味覚を競う場として進化しています。オンライン配信された映像には、挑戦者が香りをとり、一滴の変化を見逃すまいと集中する姿が映し出され、日本酒が見る競技として成立し得ることも示されました。

この大会が業界に与えてきた影響は小さくありません。きき酒技術は、蔵元の品質管理や製品開発における基礎ともいえるスキルであり、競技を通じて磨かれた味覚は各地の蔵に持ち帰られ、結果として日本酒全体の品質向上につながっています。また、地方予選に参加した人々が自地域の蔵の魅力を再認識し、SNSやイベントを通じて情報を発信することで、地域ブランドの強化にもつながっています。

近年特に注目されるのは、若い世代の参加が増えていることです。大学対抗の部が盛り上がりを見せ、学生たちが知識と味覚を磨きながら日本酒を競技として楽しむ姿は、業界の未来を象徴するものといえます。彼らが持ち込む感性は、日本酒の飲み方に限らず、ペアリング提案やイベント企画など、文化としての日本酒の発展にも寄与しています。

YouTube配信は、今後さらに「競技としての日本酒」の裾野を広げるでしょう。将来的には、オンライン予選の導入や、味覚トレーニングを支援するデジタル教材の普及、さらには海外向けに英語解説付きの国際版配信を行う可能性もあります。日本酒ファンの増加に伴い、「見る・学ぶ・競う」という新しい楽しみ方が一般化すれば、きき酒競技は将来的にeスポーツ的な文化へ発展することも考えられます。

第44回大会は、日本酒が味わうだけの存在ではなく、技術・知識・経験を競う知的スポーツとして成立し始めていることを強く印象づけました。競技化は、日本酒の裾野を広げ、品質を押し上げ、そして参加者の情熱を社会へ還元する仕組みでもあります。日本酒を『見る競技』として楽しむ時代は、すでに始まっているといえるでしょう。

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天郷醸造所がFusicと戦略的提携 日本酒×テクノロジーが導く「次世代クラフト酒造」の未来

福岡県福智町のクラフト醸造所「天郷醸造所」が、クラウド・AI・IoT 技術を有するFusic株式会社と戦略的パートナーシップを締結したと発表しました。同醸造所は2023年に設立された新興ブランドですが、地域の米や果物を活かした酒造りで注目を集めており、今回の提携により酒造工程のデジタル化とブランド体験の高度化を進める構えです。

テクノロジー活用で酒造を革新

今回の提携では、発酵データのクラウド管理や品質の可視化など、IoTを軸とした醸造工程の改善が見込まれています。また、NFCタグによるトレーサビリティの強化や、消費者が原料農家の情報を簡単に確認できる仕組みの導入など、体験型の酒造ブランド構築にも取り組むと見られます。これにより、小規模ながら高度な品質管理を実現できるスマート醸造所として新たなモデルケースとなる可能性があります。

ところで、日本酒業界ではすでに複数の先進事例が生まれています。新潟の津南醸造はAIを使った「スマート発酵」を実践し、酵母の動きをリアルタイムで分析して品質を安定化させています。また、阿部酒造はNFCやブロックチェーンを活用し、酒瓶ごとの流通履歴を記録するなど、デジタル技術で透明性とブランド価値を高めています。

さらに、酒蔵のデジタルツイン化やメタバースでの蔵見学など、バーチャル空間での新しい発信も行われています。こうした事例は、伝統とテクノロジーが矛盾ではなく相互補完的に作用することを示しており、今回の『天郷醸造所×Fusic』の提携も、その流れに連なる重要な動きといえます。

日本酒市場の未来を象徴する提携

天郷醸造所は福智町の産業振興施策により誕生したクラフト醸造所であり、地元米や特産品を使った商品開発による地域活性化にも力を入れています。デジタル化が進めば、地元農家のストーリーを世界に発信できるだけでなく、越境ECなどによる海外展開も可能になり、酒造業を核とした地域経済循環を生み出すことが期待されます。

ところで、クラフト酒の台頭とともに、消費者は「味」だけでなく、「背景」「つくり手」「土地」などストーリー全体に価値を求める傾向が強まっています。デジタル技術はこのストーリーの可視化に極めて相性がよく、今回の提携はまさにその潮流を後押しするものとなるでしょう。

天郷醸造所とFusicの取り組みは、技術を活かした酒造の未来像を提示するだけでなく、地域と世界を繋ぐ新たな日本酒の姿を浮かび上がらせています。今後の動向は日本酒業界に大きな示唆を与えることになりそうです。

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日本酒×ティーブランドの革新 ~「haccoba × SMITH TEAMAKER」コラボが示す新たな可能性

福島県南相馬市の酒造、haccobaが、米国ポートランド発のスペシャルティティーブランド、SMITH TEAMAKERとのコラボレーションを発表しました。両者が手がけるこのプロジェクトは、従来の「日本酒=米+麹+酵母」の枠を超えた“飲料素材の掛け合わせ”が、業界に新風を巻き起こす予兆とも言えます。

幅広い飲料コラボへ広がる日本酒マーケット

今回のコラボレーションでは、SMITH TEAMAKER が渋谷店限定で展開するブレンド「TOKYO TWILIGHT」の茶葉(煎茶・グリーンルイボス・レモンピール・ジュニパー・ラベンダー)を、お米とともに発酵させたプロトタイプ酒を開発したと報じられています。このように、茶葉という他飲料由来の素材を日本酒に取り入れる試みは、飲料業界の異ジャンルコラボが日本酒の世界にも浸透してきていることを示しています。例えば、クラフトビール由来のホップや清涼飲料・産地茶葉との掛け合わせを試みる酒造も増えており、日本酒の固定観念の刷新が進んでいます。

「haccoba」と「SMITH TEAMAKER」の異業種コラボから読み解く変化

haccobaは「酒づくりをもっと自由に」という理念を掲げ、日本酒の伝統製法を再解釈しつつ、新素材・新手法を積極的に採用してきたクラフトサケブルワリーです。一方、SMITH TEAMAKERは世界各地から厳選した茶葉を用い、卓越したブレンド技術を駆使してティー文化のリデザインに取り組んできたブランドです。両者が手を組む意義は、単に「お茶+日本酒」という組み合わせにとどまらず、香り・葉物素材・発酵プロセスの再解釈を通じて、新たな飲料体験を創出しようという点にあります。加えて、地域・海外展開・ブランド戦略という複数の軸が重なっており、単なる製品開発以上の意図が読み取れます。

日本酒業界に及ぼす影響と今後の展望

このようなコラボレーションが業界に与える影響は少なくありません。まず、香味・風味のバリエーションが飛躍的に広がる可能性があります。お茶やハーブ、スパイスなど異素材の導入により、これまでの日本酒ファンだけでなく、紅茶・ハーブティー・クラフト飲料好きの潜在顧客をも取り込む境界外マーケットの開拓が期待できます。

次に、ブランド価値・差別化の観点です。日本酒が海外発のティーブランドとコラボするという話題性は、国内外のメディア露出を通じて 日本酒のモダナイズを印象付ける効果をもたらします。これにより、若年層や海外のリカーコンシューマーにもアプローチ可能となります。

さらに、製造・流通・販促の面でも変化が見込まれます。茶葉との発酵実験や異素材の投入という製造プロセスの革新は、蔵元にとって新たなノウハウの蓄積機会となり、将来的には「コラボ日本酒」というカテゴリ自体の拡大を後押しするでしょう。販促面では、コラボレーションというストーリーがSNSやEC、インバウンド誘致のキラーコンテンツとなり、流通チャネルの拡張にもつながります。

ただし、課題もあります。異素材導入に伴う品質の安定確保、消費者の理解・受容、そして日本酒伝統の資産価値とのバランスです。業界全体としては、変革の方向と伝統維持のバランスを慎重に考える必要があります。

総じて、「haccoba × SMITH TEAMAKER」のコラボレーションは、日本酒業界における「異飲料コラボ時代」の幕開けを象徴する取り組みと言えるでしょう。香り・素材・体験という観点から日本酒の価値を再構築する動きが、今後さらに加速する可能性があります。飲料市場の多様化が進む中で、日本酒メーカーが他飲料との掛け合わせをどのように実践し、自社のブランディングに結びつけるか。今後の展開に注目が集まります。

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大手酒造に「マイクロブリュワリー」設置の波~新しい時代に向けて変わりゆく日本酒業界

日本酒業界に新たな波が押し寄せています。伝統的な大量生産を主軸としてきた大手酒造メーカー、白鶴酒造と大関が相次いで、極めて小規模な醸造施設である「マイクロブリュワリー」を新設しました。

白鶴酒造は2024年9月に「HAKUTSURU SAKE CRAFT」を、大関は2025年10月に「魁蔵(さきがけくら)」を開設。この動きは、業界が直面する構造的な課題に対する、大手ならではの戦略的な回答と見られています。

伝統技術の「継承」と人材育成の重要性

大手酒造は、高い品質を維持するために機械化と大量生産のシステムを確立してきました。しかし、この効率化の裏側で、酒造りの全工程を杜氏や蔵人が手作業で経験する機会が減少し、「技術のブラックボックス化」と「若手育成の難しさ」という課題が顕在化していました。

大関が「丹波杜氏の技術継承」を主要な目的に掲げた「魁蔵」は、この課題を解決するための場です。小仕込み施設では、洗米から瓶詰めまで、すべての工程を少人数で手作業によって一貫して行います。これは、伝統的な酒造りの技術を若手社員が「肌で学ぶ」ための、逆説的ながら最も効果的な研修システムとして機能します。そしてそれは、機械と対峙する酒造りから脱却し、感覚を研ぎ澄ませて、生きた商品をつくり上げることにつながると考えられています。

また、大規模な生産ラインでは、リスクの大きさから、新しい酵母や米の導入、異業種とのコラボレーションなど、革新的な酒造りを試すことは困難でした。マイクロブリュワリーなら、このリスクを最小限に抑えた「実験工場」としての役割を担わせることができます。白鶴酒造の「HAKUTSURU SAKE CRAFT」は、まさにその代表例です。ここでは、ワイン酵母の使用、ぶどうとのハイブリッド酒、特定の酸味成分の強化など、従来の日本酒の枠を超えたユニークな酒造りに挑戦しています。

この実験的な取り組みから生まれた限定酒は、高付加価値な商品として市場に投入され、従来の日本酒ファンだけでなく、ワインやクラフトビールの消費者など、新たな顧客層の開拓にも繋がっているのです。

「見える醸造」による各方面との関係構築

両社のマイクロブリュワリーは、工場の一部がガラス張りであったり、資料館内に設置されたりするなど、「見える醸造」となっていることも特徴です。

消費者との接点を強化し、製造工程の透明性を高めることは、日本酒に対する信頼感と興味を深め、熱狂的なロイヤルティを持つファンを生み出す効果があります。これは、酒蔵が直販やECを強化する現代において、極めて重要なマーケティング戦略です。

さらには、確立された新しい技術や知見がオープンになることで、特に伝統的な技術の継承に悩む小規模蔵にとっても、革新的な技術の恩恵を受ける道が開かれ、業界全体の技術水準の底上げに繋がる可能性をも秘めているのです。


大手酒造によるマイクロブリュワリーの設置は、伝統の継承と未来へのイノベーションという、相反するテーマを見事に両立させるための戦略的な一手であり、日本酒業界の再活性化に向けた大きな魁(さきがけ)となるはずです。

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チリ発・南米最大の酒の祭典Catad’Or World Wine Awards 2025に見る日本酒の未来

【サンティアゴ・2025年11月6日】中南米最大の国際的な酒類コンペティション「Catad’Or World Wine Awards(カタドール・ワールド・ワイン・アワーズ)2025」の結果が11月6日に発表されました。ワイン・スピリッツが中心の同アワードにおいて、2023年から正式に審査カテゴリーに加わった日本酒(SAKE)が今年も多数の賞を獲得し、世界的な評価を不動のものとしつつあります。

Catad’Or World Wine Awards:南米の酒類文化を牽引する歴史と位置づけ

Catad’Or World Wine Awardsは、チリの首都サンティアゴで毎年開催される、中南米で最も権威ある国際的な酒類コンペティションです。1995年の設立以来、当初はチリ国内のワイン評価を主目的としていましたが、現在はその対象を中南米全域、さらには世界各国のワイン・スピリッツ・そして日本酒などへと広げ、名実ともに南米最大の酒類品評会へと成長しました。

このアワードの大きな特徴は、審査に国際ブドウ・ワイン機構(OIV)の厳格な規定を採用している点です。OIVの「30%受賞ルール」に従い、出品総数の30%までしかメダルを授与しないという厳しい基準は、受賞の価値を非常に高いものにしています。ヨーロッパ圏の権威あるコンテストが数多く存在する中、中南米という巨大な新興市場における「羅針盤」としての地位を確立しており、特に南米諸国への販路拡大を目指す酒類メーカーにとって、その受賞歴は極めて重要な意味を持ちます 。

審査対象入り3年目:日本酒が獲得した確かな手応え

日本酒が正式な審査カテゴリーとして導入されたのは2023年。これは、南米における日本食ブームや、チリのワイン文化との親和性の高さなどから、日本酒の将来的な市場拡大への期待が高まったことを示しています。

2025年のコンペティションにおいては、多くの日本酒が出品され、最高賞にあたる「Mejor Sake」をはじめ、金賞(Gold Medal)、銀賞(Silver Medal)といったメダルが授与されています。このような受賞は、今後の日本酒業界に複合的な好影響をもたらすと考えられます。

最も直接的な効果は、南米市場への本格的な足がかりとなることです。チリやブラジルといった国々は、ワイン文化が根付いており、同じ醸造酒である日本酒を受け入れる土壌が既に存在します。このコンペティションでの高評価は、南米現地の消費者やソムリエに対し、日本酒の品質を保証する強力な「お墨付き」となります。これまでアメリカやヨーロッパが中心だった日本酒の輸出戦略において、「南米ルート」が重要な柱の一つとなる可能性を高めます。

Catad’Or World Wine Awardsでの継続的な受賞は、日本酒を「和食の傍ら」の存在から、世界のアルコール飲料市場における普遍的な嗜好品として位置づけるための、重要な一歩と言えるでしょう。

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新幹線で「朝詰め」を直送する価値~「はこビュン」活用で日本酒流通

11月7日から13日にかけて開催されている「新潟産直市」で、白瀧酒造が当日朝に詰めた生酒を新幹線で首都圏へ直送し、駅ナカで数量限定販売するという取り組みが話題になっています。即日輸送に「はこビュン」を使うことで、『朝詰め→当日販売』という鮮度訴求が可能になり、来場者の注目を集める効果が確認されています。

「はこビュン」の強みと課題

そもそも「はこビュン」は新幹線や特急を活用する列車荷物輸送サービスで、高速・定時性・低振動という特性を活かし、鮮度が重要な食品や緊急性のある貨物の輸送に向くとされています。駅間の輸送が短時間で済むため、搾りたてや開栓後まもない生酒の当日到着を実現しやすく、消費者にとっては市場に出回らない体験価値が生まれます。

一方で実務面ではクリティカルな課題も顕在化します。まず温度管理。生酒は冷温での取扱いが必須であり、新幹線輸送の車内保管や駅での一時保管に冷蔵インフラが要ります。また「はこビュン」は荷物単位での小口輸送に対応する反面、積載量や発着時間は列車ダイヤに依存するため、大量出荷や高頻度運用には別途の調整・コストが伴います。輸送料金や保険、アルコール類特有の取り扱い(届け出やラベル表示)も事前にクリアしておく必要があります。

それでも、はこビュン活用のメリットは明確です。その主なものとして下記が挙がります。

①鮮度を前面に出した高単価商材の販売が可能になること
②地域の話題性を東京圏の駅ナカという接点で即時に試せること
③鉄道輸送の低振動・定時性が品質保持に寄与すること

過去の事例でも、同様の「当日しぼり」を新幹線で輸送して短時間で完売したケースが報告されており、限定性と体験価値が消費を促進する傾向が見られます。ただ、持続可能なモデルにするためには、下記のようなことも必要になってくるでしょう。

①冷蔵対応の輸送ボックスや駅側の一時冷蔵設備の標準化
➁定期便や季節便の導入でスケールをつくること
③ECや予約販売と連携して当日現地で受け取る形式を併用し需要を平滑化すること
④物流コストを下げるための共同梱包・自治体支援の活用

これらを進めれば、はこビュンは単なる話題作りを超え、地方酒蔵の首都圏販路拡大と地域ブランド強化に貢献し得るサービスとなり得るはずです。


「はこビュン」を用いた新幹線直送は、日本酒の鮮度という無形の価値を具体的な売上につなげる有効な手段です。しかし、その価値を拡大させるには、冷温管理・輸送容量・コストの三点にわたる設計改善と、販路・観光誘客を絡めた総合的なプランニングが不可欠です。今後、継続的な実績蓄積とインフラ投資が進めば、新幹線荷物輸送は地方酒の新しい流通標準の一つになり得るかもしれません。

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