「一本の評価」から酒蔵の本質へ――世界酒蔵ランキングが示す日本酒評価の現在地

年も押し迫った12月、2025年の「世界酒蔵ランキング」が発表され、株式会社新澤醸造店が、4年連続となる第1位を獲得しました。このランキングは、特定の銘柄や話題性を競うものではなく、一本一本の日本酒に対する専門家の評価を積み重ね、その集合体として酒蔵を評価するという、極めて特徴的な思想に基づいています。

世界酒蔵ランキングでは、国内外で開催される主要な日本酒コンテストや鑑評会における受賞・入賞実績をポイント化し、酒蔵単位で集計します。評価の起点はあくまで「一本の酒」であり、審査はブラインドテイスティングが基本です。そこには、知名度や規模、販売力といった要素が入り込む余地はほとんどありません。つまりこのランキングは、「どの酒蔵がうまい酒を継続的に造っているか」を、結果として浮かび上がらせる仕組みなのです。

世界酒蔵ランキングの歩みと評価軸の変化

世界酒蔵ランキングは2019年に始まりました。日本酒コンテストの国際化が進む一方で、「どの酒蔵が本当に評価されているのか」を横断的に示す指標が存在しなかったことが、その背景にあります。

従来の評価は、「この酒が金賞を取った」「あの銘柄が話題になった」といった点の評価に留まりがちでした。しかしランキングという形で実績を集積することで、「酒質の安定性」「カテゴリーの幅」「年ごとの再現性」といった、酒蔵としての総合力が可視化されるようになりました。

これは、単発的なヒットではなく、造り手の思想や技術が酒質にどう反映され続けているかを見る評価軸であり、日本酒の成熟を象徴する取り組みとも言えます。

新澤醸造店が示す「積み上げ型」の強さ

2025年のランキングで再び首位に立った新澤醸造店は、このランキングの思想を最も体現している酒蔵の一つです。「伯楽星」「愛宕の松」を中心に、食中酒としての完成度、繊細さ、再現性の高さが国内外で高く評価されてきました。

同社の強みは、突出した一本に依存しない点にあります。特定名称や価格帯を問わず、出品された複数の酒が安定して評価され、その結果としてポイントが積み上がる。この「平均値の高さ」こそが、新澤醸造店の真の競争力と言えるでしょう。

また、国際的なコンテストでの評価を強く意識しながらも、流行や過度な個性に依らず、料理とともに飲まれる酒の在り方を追求してきた姿勢は、一本一本の評価を尊重するランキングとの親和性が非常に高いものです。

ランキングが示す日本酒評価の次のフェーズ

世界酒蔵ランキングの意義は、順位そのものにあるのではありません。「一本の酒を真剣に評価することが、結果として酒蔵の哲学や姿勢を映し出す」という考え方を、業界と消費者の双方に提示している点にあります。

国内市場が縮小する中では、日本酒を『理解される酒』へと昇華させることが重要です。その際、こうした積み上げ型の評価指標は、海外市場においても信頼の拠り所となります。

新澤醸造店が示したスタンスは、ランキング1位という結果以上に、「評価され続ける酒を、淡々と造り続ける」という姿勢そのものです。世界酒蔵ランキングは、そうした酒蔵の在り方を静かに、しかし確かに照らし出しています。

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日本酒業界に広がる女性活躍の新潮流~新澤醸造店が「えるぼし認定」取得 

世界酒蔵ランキングで、2022年以降1位に君臨し続ける新澤醸造店。この度、「International Wine Challenge(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2025」のSAKE部門で、「Sake Brewer of the year」を4年連続受賞という快挙を成し遂げましたが、2025年8月19日付で厚生労働省が定める「えるぼし認定」を取得した酒造でもあります。

「えるぼし認定」とは、女性の活躍推進に積極的な企業に与えられる制度で、採用、継続就業、労働時間管理、管理職比率、多様なキャリア形成の5項目に基づき評価されます。酒造業界では取得例がまだ少なく、このニュースは業界関係者の間で注目を集めています。

新澤醸造店は、看板銘柄「伯楽星」などで知られ、挑戦的な商品開発や高品質な酒造りで全国的な評価を受けてきました。近年は杜氏や蔵人に女性の採用を積極的に進め、職場環境の改善や働き方の柔軟性を整えてきました。今回の「えるぼし認定」は、その取り組みが公的に評価された形といえます。

▶ 新澤醸造店とは

女人禁制の歴史を越えて、多様性を重視する蔵の挑戦

そもそも、酒造りと女性の関わりは古代に遡ります。太古の日本では、酒は神事や祭祀に不可欠な存在であり、米を噛んで唾液の酵素で糖化させる「口噛み酒」のように、女性が中心となって造られていました。

しかし、中世から近世にかけて酒造りが大規模化し、職業としての杜氏制度が確立されると状況は変化しました。蔵の内部が「女人禁制」とされたのは、酒造りにおける神聖性を守るという宗教的理由に加え、当時の性別役割観や労働環境の厳しさが影響しています。酒造りは冬の寒さの中での重労働であり、力仕事を前提とした職場に女性が入りづらかったという背景もありました。その結果、酒蔵は長らく男性中心の世界として続いてきたのです。

しかし現代においては、酒造りの工程に科学的な管理が導入され、重労働の負担も緩和されつつあります。さらに、多様な価値観や働き方を取り入れる必要性が高まり、女性杜氏や女性蔵人の活躍が全国的に広がり始めました。新澤醸造店のように制度面・文化面の両方から環境を整え、女性が安心して働ける体制を築くことは、業界全体の未来を支える大きな一歩といえるでしょう。

酒造業界は人口減少や消費者嗜好の変化に直面しており、人材確保と新しい発想の導入が欠かせません。その中で、女性の感性や生活者目線が酒の企画や販路開拓に大きく貢献する可能性があります。今回の「えるぼし認定」は、単なる人事制度の評価にとどまらず、酒造業の歴史的な流れを見直し、かつて女性が担っていた役割を現代的に再解釈する象徴的な出来事といえるのです。

今後、新澤醸造店の取り組みが業界内に広がり、酒蔵が男女を問わず多様な人材が活躍できる場となることで、日本酒の新たな魅力が生み出されることが期待されます。酒造りの原点に立ち返りつつ、次世代にふさわしい形へと進化していく――その転換点に、「えるぼし認定」は重要な意味を持つのではないでしょうか。

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