カルビーが発表した10月27日からの新商品「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」が、いまにわかに注目を浴びています。その理由は、単なる新フレーバーの登場ではなく、会津若松の老舗・末廣酒造の純米酒「あまいすえひろ」に合わせて開発された『日本酒専用スナック』だからです。これまでの「食に合わせて日本酒を選ぶ」発想から、「日本酒に合わせて食をデザインする」発想へ──日本酒文化が新たなフェーズに入ったことを象徴する一品と言えます。
『あまいすえひろ』のやさしい甘みに寄り添う味設計
末廣酒造は嘉永3年(1850年)創業の老舗蔵で、「伝統を守りながら新しさを創る」姿勢で知られています。その純米酒「あまいすえひろ」は、まろやかな米の甘味と軽やかな酸味が調和する、優しく包み込むような味わいが特徴です。アルコール度数はやや低めで、食中酒としてもデザート酒としても楽しめる柔軟さを持っています。
今回の「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」は、この「あまいすえひろ」の持つ米の甘味と繊細な香りを引き立てるように、あさりの旨みと酒蒸しの風味を重ね合わせたといいます。あさりのだし感が日本酒の甘みを引き立て、香ばしいポテトの余韻が酒の酸をやさしく包み込む。まさに、「酒をおいしくするための菓子」として設計された逸品です。
『食が日本酒に寄り添う』という新しい文化の兆し
これまでの日本酒ペアリングは、料理に合わせて酒を選ぶのが一般的でした。刺身には吟醸、煮物には純米、天ぷらには本醸造――というように、食材の特性を基準に酒が選ばれてきました。しかし、この商品はまったく逆。まず特定の日本酒があり、その味わいを最大限に引き出すために、スナックの味が組み立てられています。
この発想の転換は、まさに日本酒の楽しみ方を拡張するものです。スナックという軽やかなフォーマットに日本酒の魅力を組み合わせることで、これまで「日本酒は難しい」「食事の時だけ」と感じていた層にも、新しい入り口を提示しています。特に「あまいすえひろ」のようなやわらかな味わいの酒は、女性層や若年層にも人気があり、その層と親和性の高いスナックとのコラボは、非常に理にかなっていると言えるでしょう。
カルビーの「堅あげポテト」は、厚切りのじゃがいもをじっくり揚げることで生まれる独特の硬質食感と、素材の香りを引き出す低温仕上げが特徴です。今回の「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」では、その技術が活かされ、咀嚼のたびに広がる貝の旨味が、あまいすえひろのやさしい甘香と重なり合います。
日本酒が主役の時代へ──ペアリングの未来
今回のコラボは、食品メーカーと酒蔵の協業が進む中でも特に象徴的な事例です。ワインやウイスキーでは「ペアリングフード」の発想が定着していますが、日本酒でこれほど明確に『銘柄指定』で味を合わせたスナックは、ほとんど前例がありません。
この動きは、日本酒の「嗜好品としての再定義」にもつながります。すなわち、日本酒が料理を支える脇役ではなく、食体験の中心に立つ主役へと変わりつつあるということです。今後、他の酒造や地域限定銘柄とのタイアップも増えることでしょう。
『カルビー×末廣酒造』という異業種のタッグが生み出した「堅あげポテト あさりの酒蒸しバター仕立て」。それは、スナックの世界に日本酒文化を融合させた『味の交差点』であり、日本酒が日常の中に自然に溶け込む未来を予感させる試みです。
日本酒を主役に据えた一袋──その小さな革命が、家庭の晩酌をより豊かな時間へと変えていくに違いありません。
